115話 【苺視点】声
「メロリンご飯ちゃんと食べたあ?」
「くきゅぅ」
「? なんかメロリン元気ない……」
「食料になるモンスターが湧くようになったからってそれで満足ってわけにはいかないってことだね。ちょっと前までは俺たちと同じものを食べたりしていたし」
「メロリンの好きなおやつあげたいけど、ごめんね。まだここは出られそうにないの」
「はぁ。もう3日。遥君たちも他の高ランク探索者も悪戦苦闘してるみたいだ。ランク10以外の探索者も追加で送り込んではいるもののナーガが厄介らしくて何組かの探索チームは撤退しているらしい」
「そのナーガをランク10はなんで倒さないの? 倒しちゃえば他の探索者も進めるのに」
「1匹だけなら全員で挑んで倒しきればいい。だけど、そうじゃない。それにナーガの強さはランク10の探索者相当、いやそれ以上。無理に全部倒そうとすれば最悪ランク10っていう大事な戦力を失いかねない。この際外に出ようとしてくれればこっちで罠を張って一網打尽にできたりもするんだけどなぁ」
「そう……」
「意外な反応だね。苺ならそっちに行きたいとか言い出しそうなのに」
「だってここの仕事、私たち以外はもう無理でしょ?」
「はは。それもそうだ、ねっ!!」
また私たちの目を盗んでダミーが影となってこの辺をウロウロ。
他の人やモンスターの陰に身を隠して逃げようとした。
だから宮平の攻撃でまた仕留められる。
最初は気づかない時もあって逃がしそうになったりもしたけど、慣れって怖い。もう何となくの気配とかで位置が分かる。
感覚が冴え渡る。野生の感ってこういうことをいうのかな?
「おーい! すまん! 一匹こっちに逃げて来なかったか?」
「はい。こいつですね」
「おお! 流石だな、もう仕留めてるなんて! やっぱりお前らを残して正解だった」
「錦さんもそろそろ慣れてくださいよ。そうじゃないと俺たちここを出る以前に寝ることだってまともに出来ないんですから」
「すまんすまん! いやぁ、でもこいつらちょっとずつだが逃げるのが上手くなってるからさ。それに戦闘力も上がって来てるっぽいんだよ」
「なんでちょっと嬉しそうな――」
「――うっ」
「苺?」
「大丈夫か?」
2人が話しているのを見てると頭痛が。
脱獄犯との戦いの後、度々私をこれが襲う。
頭にモヤモヤが掛かって、これが治まると不思議だけどもっと感が鋭くなる。
「うん。ちょっとすれば治る」
「ずっとこんなところにいればそうもなるよな。囚人と同じご飯、生活ってわけじゃないにしても」
「俺は別に苦じゃないが」
「そりゃあ錦さんはがさつで、風呂も2日に1回でも十分なタイプかもしれませんけど……。全員が全員一緒じゃない――」
「――主の、御心のままに」
「しゃべっ、た?」
「苺、少し離れて」
「こいつはまた面白くなってきたじゃねえか」
他愛もない会話。弱いダミーを倒す雑務。
今日もそんな日々を過ごしてただただダミーのスキル保有者が倒されるのを待つ。
そう思っていた矢先、ずっと相手にしてきたダミーが初めて声を発した。
「しかも、形が……」
「何がどうなってるのか分からないけど、ダミーの力を主が強化したんだろうね」
「ふ。そりゃああいつらがスキルの使い手を追いこんで、最後っ屁としてこいつらを強化、ちょっとでも俺たちを苦しめようとしてるからだろ。これはヤバい予兆じゃなくていい兆候。優勢優勢、おれたちは優勢――」
「それ、本当に言ってます?」
「……。ネガティブに考えてもしょうがねえだろ。とにかくこいつを倒して早く他の奴らの様子も確認しねえと。『身体強化』『身体強化』『身体強化』――」
「う゛っ」
また。大事な時に……。
「苺?」
「悪いが気にしてる暇はないかもだ。さっさとこいつをやるぜ」
2人が大きく、脚が蛇に尻尾みたいに変化したダミーを攻撃する。
でも私はそれを見えていることしか出来なくて、注意力も散漫で、だから……。
『やっと、ちょっと、介入できる。私の、私たちの……』
消えそうなほど小さなその声、でも頭の中で確かに流れた声をはっきりと聞き取ることはできなかった。




