114話 湧く
「――ぶおぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおおっ!!」
巧がスキルを発動させると階層の至る所からモンスターが溢れてきた。
またそれと合わせてダンジョン内の様子も変わり、少し暑い程度気温から猛暑日に近い気温に。
見れば窪み部分にマグマが湧き出ているようだ。
どういった理由か分からないが、先程までは通常のモンスターがいなくなったことで本来のダンジョンとは異なり人間の暮らしやすい仕様になっていたのだろう。
「はぁ、次の発動は腹具合によって決めるって言っていたのに……。それもこの様子だと主に上層で効果が及んだっぽいか。あまりに下層から離れたところは移動の必要が出るからよくないんだが。それに……」
「でもこれなら勝てるでしょ! はぁはぁ、こ、こんなに湧かすことができたら、いくらあいつらが強くても! しかも今の戦闘でオロチ以外は疲れてる。やれ! お前ら! あいつらを殺せ――」
――ぶち。
「え? あ、がで?」
「この階層のモンスターは良質な餌として育てられるから血気盛ん。そんで普通に強い。だからあの竜がいないときはできるだけ発動は避けた方がいい、ってもっと早く言っておくべきだったな。あー、俺この後絶対怒られるわ」
モンスターの湧きは止まることなく続き、当然巧の背後にも現れた。
『ハイミノ・タイタン』
モンスターの名前を看破によって確認。
でかい図体と角、甲冑、見た目通りの名前を持ったそのモンスターは巧の身体を持ち上げて首を引きちぎると、そこから溢れ出る血を絞りながら体に流し込み始めた。
一瞬の出来事過ぎて助けることは叶わなかったが、これは自業自得としか言いようがないな。
「まったく、ダミーの次はこいつらか」
「遥様、私たちが登ってきた階段からもモンスターの足音がするわ」
「上に効果がって言っていたが……。多分上の階層に入りきらなかったモンスターが例外的に下に向かわせられてるんだろうな」
「この勢いで生まれ続けたらここもそのうちパンパンね……。早く下に向かいましょう。遥君、ハチさん」
「その前に、あの男だけは仕留めおいた方が良くない? 『ワープ』、あれかなり厄介よ」
湧いたモンスターたちが俺たちや『リーダー』と呼ばれる男に視線を向け、いつ襲いかかってきてもおかしくない状況。
無駄に体力を削られる前にさっさとこんなところおさらばしたいところだが、ハチの言うように『ワープ』スキルの処理だけはしたい。
あれがあればあいつらは比較的簡単に逃げられる上、街に進軍することだって可能なはずだ。
「人殺しに抵抗がないわけじゃない。だけど、ハチの言うようにお前のそれは危険で厄介過ぎる。悪く思わないでくれよ。多重――」
「『ワープ』」
ハチの助言通り攻撃しようと発動させたスキル。だがそのスキルによって出現させた腕がどこかに消えた。
『ワープ』の対象はスキルにも影響を及ぼすってわけか。
「残念だけど俺は戦闘タイプじゃあないんだ。ということでここにいるわけにもいかない。あっとそうだ。安心してくれ、進軍するにはまだ時間が掛かりそうだし、君たちに関してはある男が殺したがってるから下層に辿り着けさえすれば逃げるなんてしないと思うからさ」
「時間が掛かる? ずっと気になっていたんだが、お前たちはなんで俺たちの足止めなんかを?」
「強い力を手に入れるためには時間が掛かるから。あとそうだな……。多分だけど、君たちみたいな強い奴らを足止めできれば……ダンジョン街に進軍しやすい状況になるかもしれない。まぁこれは可能性の話でしかないんだけどな。と、そろそろまずそうだな。はぁ、怒られたくねえや。……『ワープ』」
リーダーと呼ばれていた男は気になる言葉を残して消えていった。
そしてそれを合図にモンスターはさっき『ハイミノ・タイタン』を除いて襲いかかって来たのだった。