113話 お迎え
「ぐあっ! お、俺が、ここまで強くなったこの俺が一般の探索者程度に、またやられるなんて……」
「……。あのね、遥君とかハチさんとか施設長の錦さんとか、ちょっとイレギュラーな人たちとばかり戦闘していたとはいえ、感覚が鈍ってるわよ。私はランク10の探索者。話題にこそなってないけど最高ランクの探索者なんだから。あまり嘗めないでもらえるかしら」
大ダメージを負ったことでスキルの効果を維持することができなくなり地面に落ちた橋田。
死んでもおかしくないほどの攻撃だと思ったが、橋田のしぶとさと運の良さはかなりのものだ。
とはいえ肉体の再生、回復は火竜を模してた身体ほどではなくなかなかその場から動けそうにはないが。
脱獄者のもう一人、巧に関しては痛みでいつの間にか気絶しており、この勝負は陽葵さんの勝ちで完全に決まったようだ。
さて、取りあえず2人を1ヶ所に集めてなにか適当に拘束に使えそうな魔法を――
「お疲れ様!やるじゃない陽葵! いやぁ、私の力をほとんど借りずにこんなことができるようになるなんて……お母さん嬉しいわ」
「誰があなたの娘よ!まったく……。さっきはこれでもかってくらい緊張した顔してびくびく怯えていたのに……」
「そ、そんな怯えてなんかいないわよ! ちょおっと昔のこと思い出して鳥肌が立ってただけで!」
「……。そこまで怯えていたとは思っていなかったんだけど……」
「あ……」
「まぁ今元気ならそれでいいわ。この後は2人にも頑張ってもらいたいから」
陽葵さんは身体を少しよろめかせた。
あれだけ強力なスキル、使ったあとの反動は俺が思う以上に大きいのだろう。
それでも『2人にも』という言葉からして、戦闘を俺たちだけに委ねるつもりはないらしい。
なんというかそういうところも陽葵さんらしい。
「はぁはぁはぁはぁ……。もっと力を……。なんで、なんでだよ……。こんなにすがってるのに、なんでもっと力を貸してくれないんだよ!」
勝利の余韻に浸り明るい雰囲気で話す女子2人を眺めながら巧の身柄を確保していると、まだ口を動かす力程度は残っていた橋田が怒鳴り始めた。
すがってるのに力を貸してくれない、その言葉からしてあくまで脱獄犯より火竜の方が立場が上だということが分かる。
「流石に、ね。あいつが利用されるなんてやっぱりあり得ない。それどころか力を貸した相手に利用価値がないと判断できればもう力は貸さない、だけじゃなくて自分や『道具』の養分にしようとする」
「――『ワープ』」
唐突に男の声が聞こえ、俺たちは慌ててその声のする方を向いた。
「お前も脱獄犯、橋田たちの仲間だな」
「ああ。元々こいつらのリーダーをしていた。こいつらとは一緒に外に出るという目的で、案外仲良くやってたんだが、こうなったらもう終わりだ。橋田は餌として連れていく、それで巧に関しては……まだ借りた能力が損なわれていない、か。ちょっと面倒だが、起きてもらうぞ。『ワープ:痛覚』」
凄みのある男性の脱獄犯は気絶する巧の元に近づいてその身体に触れた。
すると巧は怪我が治るわけではないものの、目を開けて何食わぬ顔で辺りを見回した。
「リーダー、俺……」
「橋田は食わせることになった。だが巧、お前はまだ利用価値があるってことらしい。まぁそれもスキル、というか餌絡みだろうけどは……」
「リーダー……」
「なんだ?もしかしてまだ戦いたいとか言わないよな?勝てない。俺もお前も。橋田や、『あいつ』みたいなりたいのか?」
「それは嫌だ。でも、でも、やっぱりこのままは悔しい。だから怒られるかもだけど、この階層で目一杯スキルを使って……滅茶苦茶にしてやる。『モンスターハウス:フル』」




