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111話 炎撃

「正々堂々真正面から相手を倒したい。強い相手であればあるほど燃え上がる。そんな少年漫画のセオリーなんて俺たちにあるわけがないんだよなぁ。外に出て今よりも自由に、なんて全体目標はもとより、俺は力を手に入れてとにかく生意気で偉そうな奴ら、それにお前らみたいに鼻につく奴らを殺してすっきりしたいがためにここにいる。たとえそれが卑怯な方法であったとしても、だ」


 立ち上る火の柱が俺の視界を支配するなか、橋田の饒舌な語りが聞こえてきた。


 だがそんなものは到底耳に入らない。


「陽葵さん! 陽葵さん! くそ! まずはあれを消す! 『高水圧――』」

「待って」


 ハチが俺の肩に手をおいて出たのは待ての一言。


 こんな状況だってのに何を考えているのかと、その手を振り払おうとしたが、同時にハチの陽葵さんの悲惨な状況なんてまるで想像していないような、むしろ嬉そうな、楽しそうな表情が目に映った。


 そんな顔をされると焦っていた俺が馬鹿に見えてくるじゃないか。


「案外呆気なかったな」

「スキルの強化に『火竜の力』。オロチ相手には通用するかどうか心配だったけど、一般の探索者なら一発で十分。それどころか影も残らないくらいに吹っ飛んで……オーバーキルの快感半端ないって!」

「そうか。俺は……ああは言ったが、流石にスキルの真骨頂を見せる前に死なれるとあれって感じだ」

「あー、それは悪いことしちゃったな。なら次は俺が橋田をフォローす――」



「『模倣:簡易ワープ』」



 炎が消え、煙も薄くなり始めた頃、陽葵さんの声と共に橋田たちの背後で黒い穴のようなものが現れた。


 急いで振り返る橋田ともう一人の脱獄者。


 しかしその穴から飛だしてきた陽葵さんの剣は既にそのもう一人の脱獄者の足元に。


「あ゛あああああああああああああああああああ!!」

(たくみ)!」


 ハチが思い描いていたであろう陽葵さんの奇襲。


 それは脱獄犯が俺たちにも使用したワープスキルの下位互換を用いたもの、とはいえ陽葵さんはワープの完了時間を選択出来たのだろう、見事2人の気が緩んだこの瞬間を突いて一人の脚、いや尻尾?を斬ってみせた。


 しかもその攻撃は1度だけに止まらず、そのまま両手や喉元まで。


 捕縛という名目はあるが、相手が相手。

 それに経験値の取得を考えると……犯罪として扱われることはないだろうし、殺すという選択が1番か。


「あ、がっ……」

「って死んでないなあいつ」


 巧と呼ばれる脱獄者はもうなにもすることができないのか、地面を這い、のたうち回っている。

 だが、死んでいない。死ぬ素振りもない。


「あいつの回復力、再生力は私以上。その力の一端を借しだしている……いや、あいつがそんな面倒なことをするとは思えない。ということは、貸し出させている?」

「火竜と人間の契約の証拠――」



「次はあんたよ!」

「……ふふ」



 俺たちが巧の様子からその可能性を考察していると、陽葵さんが橋田との距離を詰めようと一歩踏み出した。


 今度こそ攻撃が当たる。


 そう思った時、橋田の口元が緩んだ。


「自身や自身と密接な関係にある存在を媒介にした硬質化。それらが一定のダメージを受けた時、この鱗の鎧は反撃の狼煙を上げる。それが『硬質化:炎撃』の真骨頂。安全に2人とも生きて勝てたならそれでいい。だが……死んだら死んだで、それは構わないんだよなあっ!」


 橋田の全身から火が吹き出る。


 するとそれは橋田を飲み込み1体の竜の形を模していく。


 対して陽葵さんは圧倒的な威圧感からなのか、脚を止める。


「消し炭にしてやるよ!」

「『模倣:大劣化神測』」


 ぶつかり合おうとする2人。

 高まる緊張感につい口を開けてしまっていると、陽葵さんの口から意外なスキルの名前が飛び出たのだった。

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