107話 助ける条件
「間一髪……。はぁ、これだから範囲攻撃で爽快にってのが怖くて言えないんだよ」
「いや、まぁ今回はちょっとやり過ぎちゃっただけだから! 次からは気を付けるって! それに遥様だってあんな派手にスキル使うのはどうなのかしら? 過剰にスキルを使うと反動があるでしょ?」
「……。2人共、やりすぎよ。ここまでされると私の立場がないというかなんというか……。まったく、ランク詐欺もいいところだわ」
「「すみません」」
俺とハチが言い合っていると陽葵さんが呆れたように声を掛けてきた。
単純な攻撃力の順位を付けるなら確かに陽葵さんが1番それに欠けるけど、雰囲気とか落ち着きとか場を収める大人力は桁違い。
まぁダンジョン街でスマホを見られた、あの時みたいな場合は例外だけど……。
とにかく陽葵さんには今後司令塔的な役割をお願いしつつ、一緒に戦ってもらうのが良いかもしれない。
「ふ、陽葵さんの役割、か。我ながら偉そうな考えを持つようになったもんだよ、本当に」
「そうね。凄く頼もしいわ。探索者に向いてないなんて、もうそんなことない。むしろ……。ふぅ。私だって負けないんだから」
「もしかしてまた考えが共有されてたんですか!? というかまだ俺とハチのランクじゃ陽葵さんに不釣り合いなんですから、これ以上世間的評価差をつけられたら困りますって!」
「……。じゃあこうしましょうか。今後強さが、レベルが上がるようなイベントは私が、世間的評価が上がるようなイベントは遥君たちがいい思いをするように動くの。そうね、例えばだけど――」
「――お、おい! 私が悪かった! 今までの態度を改める! 何度でも謝る! だから、だから……私を、朝香を助けてくれ!」
窮地を脱して陽葵さんと話しているとそれを遮って本物の浦壁さんが情けない顔で助けを求めてきた。
自分と、朝香というのは女性の名前だろうか? やはり、この一件でこの人の心境にも大きな変化があったらしい。
「ちっ。うるさい。殺すぞ」
「ひっ!」
「それと女、スキルを使わないよう影に命令しろ」
「……はい」
壁を壊されただけでなく、モンスターたちを倒されたことで作戦が頓挫。
頭に血が上った浦壁さんのダミーは浦壁さんを蹴飛ばしながら悪態をつき、女性に命令した。
陽葵さんの言う世間的な評価の上がるイベントが今まさに俺の目の前に広がっているようだ。
ただここで浦壁さんのダミーを倒して浦壁さんから感謝されるってだけじゃ物足りない。
心改めるって言ってるんだから、少し助ける条件というのを付与してやろう。
「浦壁さん、本当に助けて欲しいですか?」
「あ、ああ! 勿論!」
「なら、浦壁さんには俺たちの仲間となってもらって……それと今後低ランク探索者を含む探索者の育成をお願いしてもいいですか?」
「なっ……」
神様の言う通り戦力を集めるというのは、なにもダンジョンのモンスターたちを仲間するということに限ったことじゃない。
ダンジョン街の探索者に恩を売って、いざという時十分な戦力を持って協力してもらう、これもそれに該当する。
浦壁さんのスキルは低ランク探索者の育成にはこれ以上ないもので、この条件を飲ませたのが俺と知られれば世間的評価の向上にも繋がるはず。
まさに一石二鳥というかそれ以上。
ついでに浦壁さんの動揺する様子が見られて、悪態をつかれた時のやり返しもできてしまった
「わ、わかった。その条件を飲もう」
「ありがとうございます」
「……。気に食わん。気に食わん気に食わん。既に私を倒し、偽物を解放できたような素振りを見せるなど。『高障壁:両端』」
「これは……」
「スキル名が違う? ま、まずい!」
機嫌を損ねている浦壁さんのダミーがスキルを発動。
俺の周りにはより厚い壁が2枚現れた。
さっきの壁よりも硬く、剣で斬りつけても跳ね返される。
「女のスキルと貴様のスキルの併用でさっきの壁はなんとか壊せたのだろうが、もう女のスキルはない。しかも今回の壁はさらに頑強。多大なリスクを払うことにはなるが……貴様のような不快なものはここで確実に死ね」
「そ、そんな! た、頼む、ここ一瞬でいい。私のスキルで、あの低ランクを……。私を助けに来てくれた英雄を守って――」
「『神測』……。その必要はないですよ、浦壁さん。あなたはただ今後の探索者育成のことだけ考えて、あ、あとあんまり動かないでくださいね。間違えて浦壁さん斬っちゃうかもしれませんから」
『神測……障壁の強度確認。補完開始。パッシブスキルとして機能していた貫通攻撃を強化しました』
俺は想像通りのアナウンスを聞くと、今度は驚かす意味も込めて視認できないような設定でスキルを発動。
またハチに反動がどうのこうのって馬鹿にされそうだな、この方法は。でも……。
――パリン。パリンパリンパリンパリンパリン。
「さっき壊した時も思ったんですよね、こうやって壁を割るの……爽快だなって」




