104話 【他視点】 助けて
同じスキル名、そして私の発動したスキルへの干渉……。
しかも今までのダミーと比べて人間味もあり、話すこともできる。
質の高さというところは覚悟してたがこれ程とは……。限りなく自分に近い存在のそれはいるだけで恐怖を感じ、そんなダミーによる笑みにはつい鳥肌が立ってしまった。
……幸村慎二を庇って潰れただけ、とは到底考えられない。
何かされる前に影をとった本人、朝香を解放してダミーを消さないと、だな。
「確実に、そして迅速に。そのために私は、お前を殺す」
通常人殺し行為は更正施設行き或いはそれ以上の罰は確定だが今回は例外。
ダンジョン街に被害を及ぼす可能性がある者であり、敵意を向けてくる相手、しかもこちらはランク10で相手は低ランク。
万が一街の一部人間たちから批難を浴びたとしても、高ランクの人間、つまりは権力を持った人間は私の肩を持つ。
リスクはない。躊躇いもない。
1度距離をとろうとする幸村慎二のもとまで思い切り踏み込む。
そしてその左胸に向かって剣を――
「な、に?」
「危機一髪。良くやってくれた、えーと……朝香ちゃん。で、いいんだよな?」
「……」
剣先に僅かな感触。
それは幸村慎二を刺して得たものではなく、拘束しているはずの朝香の手を貫いて得たものだった。
血がポトリポトリと滴るが、朝香は叫ぶことなくただ奥歯を噛み締めているだけ。
悲惨な光景。
だが、朝香は死んだわけじゃない。
痛みがあるのは分かっているが、あともう少しだけ剣を押し込めば幸村慎二にも刃は届く。
ここは朝香の身を案じるよりも腕に力を……力を込めなければならないと分かっているのに。
「なぜ、また動いてくれないんだ」
「……。浦壁、様。私、は……いい、から」
「朝香、お前まだ……」
最早幸村慎二の手中だと思われた朝香が自分の意思を伝えようと口を開いた。
痛みは強烈で、そんな状態の中意識を乗っ取られないようにするなんてことは当然辛いはずなのに。
「……私は私が思うよりも弱かったんだな。低ランクの朝香よりもずっと――」
「そうだ。お前は弱い。この俺よりも。『障壁:両端』」
自分の情けなさにぼやきが漏れると、何者かに後ろ髪を引っ張られた。
完全に不意を突かれたことで私はそのまま尻餅をつく。
そして自分の身に纏わせていた障壁がいつの間にか消えていたことに気づき障壁を展開しようとしたが、なぜかそれは展開されない。
その代わりに私の周りにはいつもとは違う、少し黒みが掛かった2枚の障壁が。
「これは、私の……」
「違う。もうこれは私のもの。私はお前よりも上位の存在。これより先スキルの使用権限は全て私にある」
床に腰を落とす私の目の前に私。
いや、背は少し高く筋肉で身体が大きくなっているダミーが立っていた。
「影はやられる度にその力を本人に似せ、強力になっていく。剣で斬られ、壁に潰され、元々の質が高かったこともあって本人の力はあっという間に越えたみたいだな。まぁまだ言語は微妙だが」
「壁が迫って……」
「偽物は死んでしまえ」
私が操作していたときよりも素早く壁は迫ってくる。
こっちの壁はもう出せない。
死ぬのか? この私が?
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない!
「た、助けて……。朝香、朝香っ!」
「従者にその態度。同じ顔で……。恥ずかしいこと極まり、ない!」
俺が助けを求めても朝香は無表情のまま。
完全に魅了されてしまったのだろう、当然助けてはくれない。
それどころか迫ってくる壁は俺の身体を押し始め、絶体絶命の状況。
「わ、悪かった! 私が、私が悪かった! 朝香に教えてもらった! 低ランクでも尊敬すべき存在はいる! 私より強い者もいる! 頼む! 命だけは、命だけは!」
「……死ね」
命乞いを無視して影は両手を合わせようとする。
あれは壁の操作を強める合図。
死ぬ、死ぬ――
――ピチャ、ピチャビチャチャ
「止めてやったが……。ふふふ、失禁したか。意識は……ありそうだな。おい影。もう少し深い層でこいつと一緒に追ってを迎え撃つ体制を整えろ。戦意を喪失しようがなんだろうが恐怖によって働かせろ。今からお前がこいつの主だ。有効に使うんだぞ」
「了解。こいつの身体に、みっちり主従関係を刻んでやります」
助かっ、たのか?
だがもう力が入らない。
こいつの、影の顔を見るだけで震えが……。
俺は……とことん弱者に成り下がった。
頼む、誰でもいい。贅沢は言わない。低ランク探索者でも、それが人間でなくてもいい。どうか私と朝香を……。
「たす、けて……」
「あははははははは! こいつ助けてしか言えなくなっちまったよ! いやぁ、もっともっと地獄を見させたらどうなるのか……楽しみでしょうがないな!影もそう思うだろ」
「お言葉ですが影ではなく浦壁でお願いします。私が本物なので」
「あははは! そうだな! こんな小便くせえやつの方が偽物に決まってるよなあっ!」
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