103話 【他視点】影
「なんでだろうな、褒められているというのにまるで嬉しくない。あ、そうか。それはお前が脱獄犯で失禁を晒した低ランクでどうしようもない人間だからか」
「……。みっともない負け惜しみだな。ふふ、お前みたいなやつはいじめがいがありそうだ」
状況の把握のための時間稼ぎ、そして相手の態度を見るために煽ってみたが……こいつ、思っていた以上に余裕を見せているな。
……影泥棒、その名の通り私の影は朝香に盗まれていて、現状私は見る人によっては幽霊だのなんだの言われかねない状態。
とはいえダメージもなく、今のところ戦闘に支障はない。
問題なのは私の状態よりもその盗まれた影だ。
私の影は現在朝香に両手で掴まれており、見た目はただの黒い塊。
だが、先程の発言から察するにこれはやがて私たちがダミーと呼んでいたものになる。
しかもこれは私の影であり通常の探索者とは比べ物にならないと予想できる。
つまり幸村慎二の余裕な態度はそんな私の影を手に入れ圧倒的有利な3対1という状況までも手に入れた、と思っているから。
そう。思っているだけだ。
そもそも私のスキルは多数の敵との戦闘において強力。
それは防御面は勿論攻撃面においても。
「いじめられるのお前のほうだ。低ランク。『障壁:両端』」
「これは……防御スキル? はははは! 緊張でスキルが暴発でもしたか?涼しい顔を装ってはいるが、内心焦っているようだな!」
「……。そうだな、焦っているよ。お前がお前たちがこんなにも簡単に俺のスキルに引っ掛かってくれて」
「なに?……近づいてく、る。この壁……徐々に」
対象を選択して発動させる防御スキル『障壁』。
最初は攻撃を防ぐためのものだったが、レベルが上がる度に、その使用頻度が増える度に、数や形や範囲を変化させることができるようになり……ついにはそれを思うままに動かせるようになった。
となればやることはたった1つ。
壁を2枚出現させ、両端から挟むという単純な攻撃だ。
派手さはなく地味だが……これが実は最強。
なぜならこの壁は最上級魔法ですら防げる、逆をいえばそれ以上の威力がなければ壊せないものだから。
「くそ! この壁、壊れない!」
「すまない。残念ながらこの壁の動きの早さはこれが限界。だからこの永遠に挟まれる恐怖から解放されたいのなら……その抵抗を止めるか、魅了スキルを解け」
幸村慎二には殺意を持って強く圧力をかけ、朝香には緩めに圧力をかけ取りあえず拘束。
影は操作者である朝香が動けない状態になったからか、地面に落ちた。
幸村慎二の顔からはあっという間に余裕がなくなり、私は圧倒いうまに優位に立ったようだ。
やはり低ランク。
相手を見定める力や注意力が低すぎた。
魅力というスキル自体は強力だというのに……宝の持ち腐れだな。
「く、ああああえあああああ!」
「もう腕が持たないだろう? さっさと魅了を解け」
幸村慎二は必死に迫りくる2枚の壁を両腕で押し返そうとし、私の言うことを聞こうとしない。
諦めの悪さは1人前のようだな。
「……仕方ない。なら、普通の攻撃も加えるか」
戦闘は基本スキルによるものだけだが、私は決してそれしか脳のない探索者ではない。
そもそも壁の操作に自由がきかなかった時はこの剣で強敵と対峙し、ランク5まで駆け上がったんだから、な――
「――『障壁:対象変更』」
「な、んだと……」
「ふ、ふふふ」
私が剣を振り上げたとき、聞き覚えのある声と共に私の前に影が立ちはだかった。
影は私の剣に切り裂かれながらその姿に私の見た目を宿し、そして……。
「再構築! 私が、本当になる!」
――ぺしゃ。
不気味な言葉と共に幸村慎二を潰そうとしていた壁を肩代わりし、目の前で嬉しそうに潰れて見せたのだった。
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