102話 【他視点】戸惑い
並木遥等を対象としたサポート依頼の電話。
脱獄犯の捕縛という重大な依頼を低ランクの探索者が受ける、それだけでも不快だというのにこの私がサポート役など、ありえない。
前々からあの会長は一部の探索者や探索者協会職員を贔屓、また地上の人間に対して媚びへつらい大金をせしめているという噂まであり正直好きではなかったが……。
「本当に、気に食わない。あんな奴が会長など」
「……浦壁様。本音が漏れています」
「あ、ああ。すまん。私としたことが」
「いいえ。浦壁様の従者である私、必死でこのランク、8に達することのできた私も同じ気持ちであります」
「……。珍しいな、お前が私の前でそんな攻撃的な発言をするのは」
「申し訳ありません。私のようなものが出過ぎたことを……」
「構わない。構わないが……。思えば私も会長に対してこういった感情が溢れるようなことは不思議となかった……。それに……なぜ私はお前を拾ったの、か」
「それは……。私には分かり兼ねます。ですが、もし浦壁様が私をお嫌いになったというのであればその気が晴れるまで煮るなり焼くなりしていただいて構いません」
「今となってはお前は私は探索において必要不可欠な存在。そんなことはしないさ」
「有難きお言葉ありがとうございます」
移動速度を上昇させるだけでなく同じ行動をとる生き物を対象にのみ大幅強化付与ができるスキル、『同行』。
これは私が何年も前にダンジョン街で拾ったこの女、井上朝香のユニークスキル。
従者としての働きは申し分ない上にこのスキルは破格の性能。しかし戦闘力は著しく低いため、普段は障壁スキルの応用の1つ、隠蔽効果のある障壁によってその姿を隠し探索を共にしている。
現在その『同行』のお蔭もあり順調に階段を下り、早くも10階層。
今日になって不思議に思うことがなぜか増え、朝香を拾った理由も不透明なことに気づいたが、ともかく私にとって朝香は都合が良すぎる女であることは間違いなく、今になってそんな朝香にこれまた不思議と感謝を覚え始める。
「心境の変化、か。ま、だからといって朝香以外の、私よりもランクの低いもののサポートに回るなどしたくは――」
「その、えっと、浦壁様。急にそんなこと……。おっしゃっていただけるのは嬉しいのですが、少し照れてしまいます」
「あっと、口に出ていたか。ふ、まぁいい。朝香、お前が聞いた通り私はお前以外の低ランク探索者などのサポートに、縁の下の力持ちなどに回らされたくはない。会長の意に背くことになろうと、脱獄者は私たちだけで捕縛するぞ」
「了解しました」
探索者協会からの依頼を無視して動くなど初めてのこと。
そもそも私は探索が探索者の活動があまり好きではなく、ランク10に達した時点でそこまで活発に率先しtえ動くなんてことはなかったのだが……今は無性に探索を、そして強さを求めている。
これが探索者としての性という奴なのだろうか――
「『魅了』」
そんなことを考えながら朝香と共に足を早めていると、小さくだが声が聞こえた。
これはモンスターのものではない。
人間。脱獄犯たちで間違いない。
「大丈夫か、朝香」
「浦壁、様……。私のことは……」
「少し時間はかかる、か。だが……その代わりに成功率はぐっと上がる」
「お前……。そうか、噂の失禁探索者も脱獄犯の1人だった、と」
今話題の人物の1人である幸村慎二。
そのスキルは魅了という強力なものであることが分かっている。
とはいえ……。
「残念ながら私はそこまでお人好しではないんだ」
「浦壁、様……」
魅了効果によって敵対し始める前に私は朝香の意識をもぎ取ろうと攻撃を仕掛けた。
最初にスキル使用者である幸村慎二を攻撃しようとも思ったが、それには少しばかりが距離あるか――
「浦、壁様……」
「なっ――」
目を瞑り攻撃を受けようとする朝香。
それは私が朝香を拾った時の顔によく似て……振り上げた拳は思いがけず著しく鈍った。
「『影泥棒』」
すると朝香が聞いたことのないスキルを口にした。
一体どんな攻撃をされるかは分からないがとにかく防御をしなければ。
「『障壁:範囲大』――」
「残念。それはそんなものじゃ防げないんだ。でも凄かったよ、もし思いっきり攻撃されてたなら他の奴らの手を借りなきゃいけなかったからさ。それにしても、あれだけの数のダミーを作ったのにここまであっという間に到達するなんて……。あんたたちはとびきりいい探索者で、きっと影の質もいいんだろうな」
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