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101話 ダミーの雰囲気

 手をかざしながら浦壁さんがスキル名を呟くと、俺の周りにも半透明な板のようなものが数枚回り始めた。


 するとモンスターや人間のダミーは逃げまどう男性を追うことを一旦止めて俺を見た。


「これってもしかして……」

「私がスキルを施した対象に向けられている敵視を広範囲であなたが肩代わりするスキルです。というわけでデコイ役として活躍よろしくお願いします。あ、私は2階層、3階層、それ以降の階層においても逃げる探索者たちにはスキルを施しますので、その役はこの階層で終わりではないですから。決して今このダンジョンに潜っている探索者たちが逃げ終わるまでは死なないように。では」

「デコイ役って……そんなの勝手に――」


 淡々と説明を終わらせた浦壁さんは俺を見て少し口角を上げると颯爽と走って行ってしまった。


 ここはダンジョン街。ランクによってその人の価値が決まるような場所。

 苺、宮平さん、錦さん、それに陽葵さん。今思えば俺が出会った高ランク探索者たちの対応はあまりにも優しかったのかもしれない。


 ランク10ともなれば浦壁さんのように見下してくる場合の方が普通で……俺みたいなちょっと目立ってしまった低ランクの探索者はむしろこっそりいそいそと探索している低ランクの探索者よりも鼻につくのだろう。


 慎二のことや会長のこと、苺たちとのダンジョン探索、陽葵さんとの共闘、これだけで満足感を感じていては駄目。

 もっとランクを上げて、実力だけじゃなくて地位も早く陽葵さんと並ばないと。


 最悪俺と一緒にいる陽葵さんの評価を落としかねない。


 俺にはまだまだ世間的ざまぁ展開が必要で、とにかく今は浦壁さんに舐められっぱなしという状況を……打開する。



「――きぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあああぁっ!!」



 俺目掛けてまず飛び込んでくるのはキラーホークのダミー。その数は3匹。

 そしてその後ろからは脱獄犯をもしたダミーなのか、それとも逃げまどう探索者を模したダミーなのか人間の姿をしたそれが5人突っ込んできていて、コボルトやスライムのダミーは周りに生い茂る木々に隠れる。


 さっきまでなら逃げる探索者たちに被害が出てはいけないと思って大技は控えようと思っていたが……。


「浦壁さんのお蔭である程度の攻撃は当たっても問題なし。拘束も保護も必要ない。ということは俺たちは邪魔なこいつらを思いっきり薙ぎ払いつつ全力で次の階層を目指せばいいだけ」

「大分やることの難易度が下がったわね。だってそれ、暴れるだけでいいってことでしょ?」

「あの、あんまり派手にやると私が戦う敵がいなくなるのだけど……。ってもうやる気満々過ぎるわよ、2人共」

「「水流圧殺砲アクアポンプ」」


 俺とハチの展開する魔法陣を見た陽葵さんは慌てて後方に飛んだ。


 それを確認すると俺は上空のキラーホークのダミーを、ハチはより高い威力の水流圧殺砲アクアポンプを地上広範囲を薙ぎ払うようにして発射。


 キラーホークのダミーは水流に飲まれた挙句凄まじい速さで遥か彼方まで飛び、ハチの魔法を受けた他のダミーはそのあまりの威力に身体を抉られその場に倒れた。


「す、ご……」

「あら、ありがとう。でもこの程度で驚いて欲しくはないかしらね。私もっと強いから」

「そんな自慢してないで今のうちに先に進みましょう。ほら、今倒したダミー、もう動こうとしてるわ」

「……。これだけやっても問題なし、なのね。この様子だと他の効果がある可能性も……とにかくあなたは早く逃げなさい」

「は、はい! ありがとうございます!」


 身体を抉られたダミーはその場に倒れながらもひくひくと痙攣、ゆっくりではあるもののその身体を回復させていた。


 当然その回復力、回復時間は気になるのだがそれ以上に俺が気になっているのは、このダミーがどのように生まれてきているのか。

 ……。身体の抉れている部分の色……黒色だな。


 黒、ダミー、影武者、影……。


そういえば倒したモンスターのダミー、なんか雰囲気が――。


「どうしたの遥君? 考えてる暇なんて今はないわよ」

「陽葵に同意。あの嫌味な男にさっさと追いついて今度は私たちの強さを見せつけてやりましょう! って……もう来たの!?」

「ダミーじゃなくて普通のモンスターも混ざってるな……。これ俺が本当に弱かったらどうするつもりだったんだよ」

「多分だけど、私が居るから大丈夫って言う判断じゃないかしら? 深い階層ならまだしもこの辺で、しかもこいつらの攻撃をいなして進むだけなら……こうやって温存もできるわ」


 今度は自分が、というように陽葵さんは滑空してきたキラーホークのダミーの顔面を蹴り飛ばしてキックベースの要領で他のモンスターにぶつけた。

 それによって動きが乱れたコボルトの爪がスライムや人間に直撃。


 襲い来るダミーや通常のモンスターたちに混乱が広がると、陽葵さんはそれらに足を引っかけて転倒させる。


 敵が勝手に道を開けるようにすら見えるその光景は俺やハチとはまた違った圧巻の光景。

 同じランク10。でも浦壁さんと陽葵とでは戦闘面においても精神面においても尊敬できるかどうかといった点でまるで異なる。


 遠い。ランクも戦い方もまだまだ。

 それでいて……陽葵さんももっと評価されていい、されて欲しい。


 ランク10、それ以上の探索者に俺が陽葵さんを押し上げてあげられたなら……。


「2人とも今のうちに!」

「は、はい!」

「長めの探索になりそうだけど、これならしばらくは順々で負担を分散できそうね」


 道を作ってくれる陽葵さんの後を、そしてもはやどこにも姿が見えない浦壁さを追って俺たちはその足を急かす。


 ダミーに起こった雰囲気の変化など気にする余裕もないまま、ひたすらに。

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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