勇者パーティに追放されたので修行したら二年後、Sランク冒険者になりました。~奴隷オークションで勇者一行が売りに出されてたので買ってみた~
短編です。最後まで
俺は勇者パーティの弓師、ウルだ。遠距離から敵将を撃ち抜いたり、敵影の索敵をするなどの地味な仕事だが誇りを持っていた。
このパーティで魔王を討伐すると思っていた。
「ウル、貴方を追放するわ」
けれどある日、勇者のアテナから突然宣告された。
その日は魔王四天王“悪海”のオケアノスを討伐した、祝勝会をしていた。
「な、何でだよ!」
机を乗り出す勢いで反論した。
反応したのは聖女のフレイアだ。
「当たり前ですわ」
「フレイア……」
「私達は勇者パーティ。英雄として語られるべき存在なのです。それなのに弓師の貴方は勇者パーティとして地味なのです」
「じ、地味……? そんな理由で……!」
「勇者パーティは各国の援助によって成り立っています。それは知っていますよね?」
勇者パーティの活動資金は各国からの援助していただいている。世界を護るための活動資金だから、各国も出し惜しみはしないので多大な金額を貰えている。
そのおかげでこの旅でも高級な宿に泊まる事が出来ていた。
「つまり勇者パーティは人気商売なんですよ」
「それは、そうかもしれないが、どうして俺が!」
「だから、貴方が地味だからですよ」
「っ!」
「遠距離から敵を狙ってばかりで、目立った活躍は一切なし。それに私達にも見える活躍をした試しがありません」
フレイヤのいうことは確かだ。
俺は毎回、目立つ活躍をして来なかった。
今回の“悪海”との戦いでも、副官を倒したが他の人の目には映らなかった。
つまり、フレイヤ達は俺の活躍を知らないんだ。
ただ、それでも俺は知ってくれていると思っていた。
仲間だから……。
「分かりますか? 貴方は勇者パーティには相応しくないんですよ」
「他のみんなも、同じ答えなのか……?」
正直、かなりショックだった。
だからせめて、他のメンバーは違って欲しい。
そう願って、
「ん? オレか?」
女性ながら巨大な巨躯を持つ戦士トール。
パーティだと一番仲が良かったかもしれない。
だから期待していたんだ。
「ウルが弱いなら仕方ないだろ!」
だが、トールの口から出て来たのはそんな情の欠片もない冷たい言葉だった。
トールは元々、アマゾネスの出だ。
強くなるために、そして強い伴侶を見つけるために勇者パーティとして旅を続けていた。
そんな彼女にとっては俺も“弱者”扱いか。
次に最後のメンバー、魔術師のロキだ。
「下賤な身のくせに私と同じ身だった」
ただ、彼女にだけは最初から期待もしていなかった。
彼女は俺の事を嫌っているから。
ロキはパーティで唯一の貴族出身だ。
対して俺の母親は奴隷だった。
ロキにとって、奴隷の血が混ざっている俺が許せないのだろう。
いつも汚らわしいと言われてきた。
ただそれでも仲間だった。仲間だと思っていた。
それも幻想だったのか……?
心が痛い。吐きそうだ。
「アテナ……」
最後に縋る様にアテナの方を見た。
どうして俺が勇者パーティを追放されないといけないんだ。
頑張って来たじゃないか。
みんなでずっと――――!
いや、そんな事はどうでもいいんだ。
俺が怒ってるのは、悔しいのには別の理由があるんだ。
「一緒に魔王を倒そうって約束したじゃないか! どうしてだよ! 一緒に倒すって、言ったじゃないか!」
想いをぶちまけた。
俺が魔王討伐を目指すようになったのは、まだ幼い時に二人でベッドの中で勇者について語り合ったからだ。
勇者になりたいと。
勇者はかっこいいと。
二人で魔王を倒そうと。
約束した。約束したのに……。
「……魔王は私が倒すしかないのよ」
アテナから返って来たのは、そんな言葉だった。
ああ。そうか。アテナはもうとっくに……。
「……荷物をまとめて、出て行くよ」
「そう。お疲れ様」
最後に当てな冷淡な声を聞いて、部屋から出て行った。
誰も通りかからない路地裏で俺は一人、泣いていた。
「ウウゥ……! ごめん、ごめんな……!」
アテナは壊れてしまったんだ。
昔はもっと無邪気だった。
でも、勇者のプレッシャーと肩書の重さに負けてしまったんだ。
俺がもっと強かったら。俺がアテナの負担を軽くさせられたら……。
「ごめんな、アテナ……!」
自分の無力さを呪いながら、俺はずっと泣いていた。
二年が経った。
俺はあの後、勇者パーティの本拠地があるグラニュート共和国を出た。あの国にいたら、またアテナ達に遭遇する可能性があるからだ。
気まずいという理由もあったし、何より合わせる顔が無い。
そういうわけで、次に向かったのは隣にある大国、デュレーク王国だ。
世界で最も栄えていると言われ、中でもある職業が冒険者である。
冒険者は完全実力主義だ。
ただ強ささえあれば、金も名誉も自由も手に入る。
そして二年で俺はSランク冒険者にまで上り詰めた。
「ウルさん! 今日もお疲れ様でした!」
「ああ、ありがとう。コーリー」
今日も依頼を終えて、受付嬢のコーリーの笑顔で癒される。
コーリーは俺と同時期にギルドにやって来て、そこからずっと担当の受付嬢として支えてもらって来た。
「今日もこの後、一杯どうですか?」
そんなコーリーだが、一年半前から週三で飲む仲になった。
本当に良い友人なんだが……。
「すまないな。今日はドランの親父に誘われてるんだ」
「ありゃあ、それはタイミングが悪かったですねぇ……」
ドランは俺が冒険者になった時に色々と教えてくれた先輩でもある。
その事はコーリーも知っているので、優先すべきはドランだと分かってくれた。
「それじゃあ、また行きましょうね~!」
「ああ。またな」
コーリーと別れを告げて、ギルドの酒場で待っているドランの元へと向かった。
「おう。来たか」
「すみません。待ちましたか?」
「ガハハ! 相変わらずモテるな、お前は!」
「いや別にそういうワケじゃないと思うんですけど」
「……コーリーちゃんが可哀そうだ」
何やら小声で言っているが、難聴ではないので聞こえてしまった。
コーリーが可哀そうって、よく意味が分からなかったが独り言っぽかったので大丈夫そうだ。
「それで今日はどうしたんですか?」
「イシュタルオークションが開催されるんだよ。当然、知ってるよな?」
「ええ、まあ。招待状は来てましたね」
「行くぞ」
「え」
「行くぞ!」
結局、抵抗も虚しく言われるがままにイシュタルオークションの会場に連れて来られた。
イシュタルオークションとは世界で最も大規模なオークションだ。年に二回、前期と後期に別れて行われている。各国の王族貴族や有力商人、Sランク冒険者なども数多く集まってくる。
それはひとえに出品される商品が目立てのためだ。
商品の中には歴史的価値のある古い骨董品、古代魔道具、絶滅した魔物の標本、さらには“人”も含まれる。
ただ当日までどんな商品が出品されるか秘密となっている。
そのためここに来たお客さんも何が出品されるかは分からない人が多かった。
ウルとドランも席に着いた。
座席は中央くらいだが、舞台を見渡す事が出来る。
良い場所に座れたものだ。
オークションの開幕まで何をしていようかと考えていると隣のダンディなおじさんに話しかけられた。
「おや。まさかSランク冒険者のウルさんではありませんか?」
「ええ、そうですが、失礼ですが貴方は……?」
「初めまして。私はヴィラーズ商会の会長ヴィラトリスです。以後お見知りおきを」
「申し訳ありません。顔を知らなかったもので……」
ヴィラーズ商会と言えば、かなり広く事業展開している大規模な商会だ。
先日も新しく石鹸を開発して有名になっていたが、まさかこんなところで会えるとは……。
「いえいえ。それは仕方のないことですよ。ただ、この機会にヴィラーズ商会と私の名前を憶えていただければ
「勿論ですよ。いつかまた、御縁があった時に」
と、会場の証明が消え、舞台だけがライトアップされた。
いよいよオークションが始まる様だ。
『皆様、本日はお集り頂きありがとうございます! 今年もやってまいりました、イシュタルオークション! 長々とあいさつをしても煩わしいだけだと思いますので、さっそく始めましょう!』
ピエロのお面を付けた司会者が言うと奥の暗幕から一つ目の商品が出て来た。
『こちらはあの覇王龍帝ヴィリアスの牙で御座います』
おお!と会場が湧いた。
正直、俺も驚いた。
覇王龍帝ヴィリアスはこの世界の生態系の頂点に立つ一種だ。
この世界で一度もクリアされた事のない『七大クエスト』の一つでもある。
その覇王龍帝の牙を手に入れるなど、例え抜けた歯であっても手に入れるのは至難の業だ。
まさかそれがオークションで出品されるなんて……。
『一千万ヴィアスからのスタートです!』
「三千万!」
「五千万!」
「一億!」
どんどんと値段が跳ね上がって行く。
基本的に魔物や龍の牙や錬金術の素材、そして魔術の触媒としても利用される。
覇王龍帝の牙となれば、どんなに強力な魔術が使えるのか……。
勿論マニアには観賞用として買う輩もいるが。
最終的に覇王龍帝の牙は八億二千ヴィアスで落札された。
その後も古代文明の魔道具や蛮族の英雄ヤンキリーズの剣、絶滅したドラゴンの化石など様々な商品が出品されて行った。
ただ、あまり興味をそそられるものは無かった。
『さあ! いよいよ、最後の商品となります!』
気が付くと最後の商品になったらしい。
最後は人か……。しかも四人?
布で覆われていて、顔も見えない。
『かつて、皆さまは英雄記を読んだことがあるでしょうか! 一番有名なのは初代でしょう! あの光り輝く聖剣で、悪しき魔王を討ち破ったあの者を!』
司会者の場を盛り上げるためのその紹介文を聞いて、まさか?と身構える。
嘘だ。嘘だと言ってくれ……。
いや、だが、人数も……。
いくら心の中で葛藤していても、次の瞬間に事実を突きつけられる。
『かの有名な勇者パーティで御座います!』
司会者の声に合わせて、四人の布が取られた。
その瞬間、会場が今日一番の盛り上がりを見せた。
「嘘だろ……」
そこにいたのは、懐かしいかつての仲間達だった。
何も変わっていない。
少しやつれて、装備も剝ぎ取られて薄汚い布切れを纏っているくらいだ。
でも、どうして……。
『腕っぷしは確かなので戦闘要員にするも良し! 研究体として薬物漬けにするも良し! 見た目も良いため性奴隷にするも良し! 全ては皆さまの自由で御座います!』
どんどんと司会者の話は続いていた。
薬物漬け? 性奴隷に?
ふざけるな…………。
ふざけるな! 俺の仲間だぞ!
『さあ! 十億ヴィアスから―――――』
「百億だ」
気が付くとその場から立ち上がり、自然と口が動いていた。
『え? す、すみません、も、もう一度、』
「百億ヴィアスで買う」
『っ、出ました! 百億ヴァリスです! 他にはいませんか!?』
シン、と会場は静まり返った。
ここには大富豪も多く集まるが、百億という金額を自由に動かせるほどの者はいないらしい。
『それでは、イシュタルオークション過去最高落札価格の百億ヴァリスで勇者パーティはSランク冒険者ウル様が落札いたしました!』
そうして、イシュタルオークションは終了した。
とんでもない事をしてしまったと思いながら、何気なく舞台を見た。
「ウル……?」
信じられないものを見たという表情をしているアテナと目が合った。
正直、俺も信じられない。
アテナは気まずそうに目を逸らした。
イシュタルオークションが終わり、商品の受け渡しに移った。
一番最後に部屋に入った俺は司会者の男とソファで対面に座り、その横では四人が並んで立っていた。
「本日はありがとうございました、ウル様」
「無駄話はいいから、早く済ませてくれ。遅くなるとウチのメイド長に怒られるからな」
「ほっほっほ。それは失礼しました」
司会者の男は笑いながら、必要な事項を用意した。
俺は必要な書類と百億ヴィリスを支払って、正式に四人は俺の奴隷になった。
その手続きを行う間、四人はずっと無言だった。
手続きが終わり、俺は四人を連れて人気の少ない道を歩いていた。
別に四人を連れこんで何かしようと考えているわけではなく、俺の屋敷があるのがこの道だからだ。
その間も四人はずっと下を向いたまま沈黙していた。
きっとアテナだけじゃなくて、全員が俺の事に気付いているだろう。
ロキなんかはプライドが高いから、追放した俺に買われるのが我慢できないのかもしれない。
ともかく、四人は俺の前で一度も口を開いていなかった。
だがこのままじゃいけない、
長い沈黙を破ったのは俺からだった。
「久しぶりだな」
「「「「っ!」」」」
まさか、ウルから話しかけるとは思っていなかったらしい。
四人が緊張からか、息を飲む音が聞こえた。
「そう、ね……」
返答したのはアテナだった。
「今日の晩飯はキノコのシチューだからな」
「っそう」
「でもまずは風呂に入らないとダメだな」
「っそうね」
「あとは新しい服と、色々買わないとな」
「うんっ」
気が付くとアテナはポロポロと大粒の涙を流していた。
ただ少しだけ。ほんの少しだけ、ただの幼馴染だった頃のアテナに戻った気がした。
しばらく歩いてようやく俺の屋敷に到着した。
元々、この屋敷も土地も国王から娘を助けてくれたお礼にと譲ってもらったものなので、貴族街に建っている。
「凄い……」
アテナのそんな呟きが聞こえた。
まあ、この屋敷、元々は王族の保養所的な役割だったようで普通の貴族の屋敷とも格が違い過ぎるのだ。
そんな屋敷の前で四人は茫然としていたが、俺が進み出すと急いで跡を追って来た。
すると屋敷の扉が開き、白髪のメイドさんが出て来た。
「お帰りなさいませ。御主人様」
綺麗な仕草でお辞儀をする。
彼女こそがこの屋敷のメイド長である、グレイシアだ。愛称はシア。
グレイシアはちらっとアテナ達を横目で見た。
「彼女達は……?」
「今日からウチに住む。色々とよろしく頼むよ」
「ああ、またですか」
「またってなんだよ。またって」
「いえ。別に。皆さんはまず、お風呂に入って頂きますね。失礼ですが、少々匂いますので」
ぶっ刺すなー。
まあ奴隷としての期間も長かった様なので、多少の匂いは仕方ないだろ。
ただ三人(トールを除く)はクンクンと自分の匂いを嗅いでいた。
女の子だなぁ、と思いながら三人の世話はグレイシアに任せて、自室に戻って着替えて来た。
それから四人が風呂を終えるまで待ち、みんなで夕食を食べた。
まともな飯に在り付くのも久しぶりだったようなので、四人とも泣きそうになりながら噛み締めて食べていた。
まあ、俺が自慢する事ではないが、グレイシアの料理は王宮の料理人にも劣らないからな。
そして少し四人と会話して、昔と変わらない事に安心してから、四人に部屋を与えて解散した。
俺は自室で趣味になっている、小説を読むことにした。
「あの、ウル……?」
「ん。アテナか」
部屋の扉がノックされたので、返事をするとネグリジェ姿のアテナが入って来た。
ただ首に付いた無骨な鉄の首輪が美しさを半減させていた。
「その、今日は、ありがとう……」
「ああ」
そんな事を言いに来たのか?と思ったら、扉を閉めてその前でモジモジし出した。
「こっち座りな」
俺が座っていたベッドの隣をポンポンと叩く。
緊張した表情とカクカクした動きで隣にやって来て座った。
ぽてんっ、とベッドに腰を下ろす。
「…………」
「…………」
「元気だったか?」
「うん」
「あの後の事は新聞とかで情報を集めてたんだけどな。まさかあんな場所で会う事になるなんて思わなかったよ」
「……うん」
「…………細かくは聞かないけどさ。ここは安全だから、ゆっくり傷を癒せばいいさ」
「…………うんっ」
またアテナがポロポロと大粒の涙を流した。
「どうして……? どうして、そんなに優しくしてくれるの? 私達は、私はウルに酷い事をしたのに……!」
酷い事っていうのは、きっと追放の事だろう。
そしてわざわざ、私達から私と個人に言い直したのは、ずっと罪悪感を覚えていたんだろう。
でも、俺から言える事は一つだけだ。
「仲間を助けるのに理由なんているか?」
アテナ達を助けたのに、他に理由なんて一つも必要ない。
「俺はアテナに背負わせ過ぎていたんだ。勇者の責任や重圧からも、何も考えていなかった」
「そんな事は……!」
「自分勝手に夢しか追っていなかったんだ。だから、アテナを潰してしまった。勇者の仮面を被るしかなかったんだ」
「~~っ!」
涙を流しながらアテナが言葉にならない悲鳴を上げる。
「だから、これからは俺が一緒に背負うよ。そのためにSランクになったんだ」
そう。俺がSランクを目指したのは、一緒に背負うためだ。
勇者の責任も重圧も、俺の想像よりもはるかに重たいものだ。
対して、Sランク冒険者はある意味、勇者の同じ立ち位置にある。
一般の冒険者ではどうにもならない事象に対応するために存在するのだ。それこそ、世界の存続にかかわる事など。
Sランク冒険者なら勇者と同じ景色を見られる。
勇者と対等でいられる。
勇者と一緒に背負う事が出来る。
「ありがとう、ウル君……!」
「いいんだよ、アテナちゃん」
それはまるで、ただの幼馴染だった頃の様に呼び合った。
今さら昔の呼び方に戻したのが妙に照れくさくて、二人で笑い合った。
あの日、二人で夢を語り合ってから、色々あった。
アテナに色々と背負わせ過ぎてしまった。
そのせいでアテナは潰れてしまって、俺も自分の無力さを恨んで、もう夢への道は閉ざされたと思っていた。
けれど、俺とアテナの夢への道はまた開かれた。
二人で進もう。
いや、グレイシアやコーリー、そしてトールやフレイヤ、ロキとも一緒に。
みんなで夢を叶えるんだ―――――。
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