集団いじめ(後編)
自宅へと帰る電車の中、スマホを見てニュースを読み漁っていた。
「5人や6人なんかじゃ無いです。世間。世間単位の集団いじめです。」
結局、あの小学生は、そう言い捨て、あの場を去って行った。
あの雰囲気から感じ取れたもの。
その集団いじめの標的は、彼だけのものではないだろう。ということ。
だが、他人の悩みを相談しに来るような、人思いの子供にも見えなかった気がする。
しばらくして、車内のアナウンスが耳に飛び込んできた。
どうやら、間もなく最寄りの駅に到着するようだ。
(さぁ、降りるか...)
そう思い、足を進めた途端、大人数からの視線を感じた。
見られている。確実に。
気配の次に来たのは、音。
女子高生の笑い声、主婦のヒソヒソ話。サラリーマンの愚痴。
消えるようで、それでいてハッキリと、音は自分の耳に飛び込んでくる。
(何を言われているんだ…なにかまずいことしたか…?)
慌てていると、ドアが閉まるアナウンスも共に聞こえたため、
「あっ。やば…」
と独り言をつぶやき、すぐさま車両から出た。
…が、まだその感覚は消えていない。
次は駅のホームだ。
電車を待っている人、階段へと向かう人、自販機でジュースを買うもの…
その場にいる全ての人間から、見られている空気を感じる。
「やめろ、やめろ…!」
フラフラと、その場から逃れようと歩き出す。
だが、いつまでも"それ"は追ってくるようだ。
遂に耐えることの限界を迎えた。
「う、うわぁぁぁ!!」
目を瞑り、耳も塞ぎ、自分へと意識を向ける全ての情報を遮断し、ホームを暴れ狂った。
と、その時、電車到着と同時に、足を滑らせ、線路へとー。
目が覚めると、真っ白な病室に居た。
過去に来たことのある病院であることは、意識が戻ってから容易に分かった。
頭を掻き、何故ここに居るかを考える。
あぁ、そうか…自分は、人身事故で……。
状況の整理は、案外簡単にすることができ、理解もした。
だが、あの時の視線の正体がー。
その時、あの言葉が脳裏によぎる。
「5人なんかじゃない。世間単位の集団いじめ。」
まさか…そんな事が本当に…?
5分後、友人が見舞いに駆け付けてきた。
あの言葉の真理を突き止めることに必死になっていたため、友人が突然ドアを開けたことに「わっ。」と驚いた。
「来てやったぞ、お前、どうしちゃったんだよ…」
心配そうな顔。にも見えるが、何が起きたのか不思議な表情。という方が適切であろうか。
「あ、あぁ…大丈夫…。」
そう返して、彼の顔を見上げると、着けているメガネが逆さまであった。
「おっ、おい、メガネ。逆さまだぞ」
「あ、ほんとだわ、はは、はは。」
しばらく病室が笑いに包まれた。2人して大爆笑である。
「ほんっと変わらねぇな、そういうとこ。」
「お前だって、しょっちゅうシャツとか逆に着るだろ、人の事言えねぇぞ」
確かにな!と言うと、友人はまた笑い始めた。
だがその瞬間、自分は全てを悟った。
「…あの子供…メガネ逆だった…。」
「え?何?」
聞き返す友人の声など耳に入らず、ただ一点を呆然と見つめる。
集団いじめの正体。それは小さいが、標的にはとてつもなく巨大な恐怖であった。




