集団いじめ(前編)
「もう、慣れるもんだよ。イジメなんて。そんなもんだよ、うん…。」
思ってもいなかったアドバイスに、少年は黙ってコクっと頷いた。
「こんなもんでいいかな…?はは、はは。」
そう、アドバイスは終わりであることを遠回しに伝えると、どうやらそれを察したようで、
「…はい、ありがとうございました。」
と言って丁寧にお辞儀をした後、席を立って行った。
児童カウンセラーの仕事を初めてからもうすぐ1年が経つ。
昔からイジメを受けていたという境遇があり、「当時の自分と同じ思いをして欲しくない」なんていう優等生気取りの動機で就職したこの仕事。
既にやり甲斐は風に吹かれて飛んでいってしまったようだ。
子供から寄せられる悩みの数々。
そんな、自らを変えようと努力をする子達を見ていたら、自分が情けなく見える。毎日こんなんであった。
中には「テストで99点だった、ショック」や、「休み時間、ボール使わせて貰えなかった、最悪」というような、最早愚痴の吐き場所として利用している子もいて、これもやり甲斐失踪事件の1つの証拠かなぁと思っていた。
そんなある日、いつもの様に1人の子供が相談室へと顔を覗かせた。
小学生…の低学年だろうか。メガネをかけている。が、何故か上下逆にかけている。天然なのだろうか、やんちゃには見えない、なんと言うか、少し同年代の子とは違うような…登下校の時間には、物の生い立ちについて考えているような…そんな雰囲気である。
そうであっても、こちらは何一つ変わらずにマニュアル通りの対応を始める。
「こんにちは、今日担当する中里だよ、よろしくね。」
そう言った直後に、彼は挨拶を返すと思いきや、すぐさまこちらの目を見て淡々と話し始めた。
「集団いじめって…どう思いますか。」
「……え?」
唐突すぎて思わず疑問を疑問で返してしまった。
「集団いじめです、複数の暴力で、個人を痛めつける事です。それって、どう思いますか。」
今、自分は説教をされているのか…?
そう思う程の畳み掛けに、とりあえず、ありきたりなアドバイスを送る。
「…まぁ、とても良い事じゃないね、5人や6人に1人が適うわけない、もんね。」
果たして納得するのか。
そんな不安を子供に対して抱える自分が、少し情けなかった。
案の定、これで終わりではなかった。
「いえ、5人なんかじゃないですよ。世間。世間単位です。」
「…は?」
やはり。予想的中。この子は何か違う。




