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4-02-03 高校生 今井壮太

 富山に来て、慎二たちに思いがけぬ発見があるようです。



 キッチンカーの松井姉妹と分かれ、富山駅前にレンタカーの引き取りに行く。


 念のためにレンタカーの店から漢方薬屋の由彦さんに連絡とると、抽出したサンプルが結構溜まってきたと言う。

 イベントとキッチンカーの美味しいごはんで十分満足したので、俺たちは観光を終了して車で漢方薬の工場に戻ることにした。


「すぐにお呼びすることになり、大変申し訳ございません。

 あれから、元工場の研究所にいた連中に、声を掛けましたら、多くの者が集まりまして、あれ以来ずっと作業や調べ物をしておりました。

 また薬が作れるようになるかもしれないと、中にはお父さんに連れられて、薬学部に通われている息子さんや娘さんなども何人か一緒に手伝ってもらっています。

 若い人にも加わってもらい、もう一度私たちが伝承してきた薬の製法を基本から振り返ってみようと思いました。


 何しろ加納様からお借りした貴重なサンプルが限られますので、無駄な実験で使うことはできません。

 まずは、確かとなる過去の証拠を探そうと、蔵の資料を出しまして皆で調べました」


「あれ? 蔵の資料って、こちらのご先祖様からの秘蔵の資料ではなかったのですか?」


「はい、そうです。

 今回店をたたむことになり、そこで初めて私もお爺様も気が付きました。

 どのような大切な資料であっても、店をたたんでしまえば、それは単なる古文書で、場合によっては紙くずです。

 いつの時代から秘蔵の書となったかはすでに判りませんが、これらを書いた人たちは、恐らく秘匿する事を望んでいるのでなく、薬を伝える事を望んでいたと思います。

 今日は、工場の研究所でお話ししたいと思いますので、まずは工場へ行きましょう」


「あ、それとですね、今晩は工場の皆さんとも一緒に食べたいので、出前の食事を頼んだのでどこか場所をお借りできますか?

 ゆっくり食べている時間もないと思いますので、立食みたいな形になると思いますが...」


「本来私どもで準備させていただかなければいけないのに、妻も一緒に研究に入ってしまっており、お気遣いいただいて、申し訳ございません」


「いえ、たまたま昼間に知り合った人がいたので、さっき頼んでおきました」


 歩きながら、今夜の事は由彦さんに伝えておいた。

 工場へ行くと、確かに人が増えていた。

 机の上にはいろいろな研究所が置かれ、中には例の秘密の古文書なども置かれていた。

 その周りには、大学生と思しき人のほか、高校生と思われる男の子たちもいる。

 高校生は、置かれたパソコンを操作している。


 どうやら古文書の整理を行っているようだ。


「実は大発見がありまして。

 彼が発見したのです」 と由彦さん。


 そう言って紹介されたのは、パソコンに向かっている高校生のようだ。


「この子は、うちの店の販売を手伝っていただいていた今井裕子(ひろこ)さんの息子さんで、壮太君。

 彼はパソコン少年で、パソコンが得意らしく、それで今回彼に検索してもらったのです。

 すると、この中にこの薬草に関していくつか関連した記載があることを見つけてくれました」


 ふーん、パソコン少年? でも、今や誰でもが普通にスマホを使う時代に、パソコン少年って呼び方まだ使うのかな?


「今日は火曜日なので、学校だったのじゃないのですか?」


「えぇ、彼は今朝、この人たちに古文書をデジカメで写す作業をお願いし、1時間ほど前に学校から戻って、その写真を検索して資料を見つけてくれました」


 この人たちと言われると、周りの何人かの大学生っぽい人達がお辞儀をする。


 それって、どういうこと?

 資料の写真を撮って、そこから目的の文書を見つけたと言うの?

 俺にはさっぱり読めない古文書だが、この高校生、壮太君はこれが読めるの?


「君は、この古文書の文字が読めるのかい?」


「いえ、さっぱり読めません」


 と、笑っているがどういうこと?


「いや、写真を撮ってもらった文献の写真をネットのサーバーにアップして処理してもらったのです。

 写してもらった文献の写真をDLに学習させて、古文書の現代語への翻訳させました。


 お兄さんはディープラーニング(深層学習)ってご存じですか?

 以前は人工知能とか、AIだとかありましたが、今はディープラーニングを用いたDL翻訳などが主流となっています。

 ネットに上がっている古文の翻訳データを文字翻訳のベース資料とし、ここの古文書の写真を学習させました。

 そして今探している薬草や薬について、一致の可能性が高い個所を検索させました。

 あと、今回探す薬草があったので、その写真も検索に役立ちましたよ。

 そして、その結果がそれです」


 俺も一応コンピュータ系のエンジニアなんだけど。 よくわからん。 すでに知識が古いのか?

 この高校生何者?


「君はその検索作業を一人でしたのか?」


「写真は皆さんで撮っていただきました。

 僕は今日は学校だったので、授業の合間にスクリプトを作りました。

 過去の文字で書かれた文献を写したデータがネットでたくさん見つかりましたので助かりました。

 データは多い方が学習が進みますので」


「それだけの情報で、機械翻訳ってできるのか?」


「いえ、ネットに過去の文献が多く翻訳されていましたので、その文字のパターンとその翻訳結果を辞書として用いています。

 1文字ごとを認識するのではなく、文章のブロックを1つのパターンとして認識したうえで、各文字に狭めて行っています。、

 ただ、手書きの文字は解釈が分かれますので、さらに前後の文脈からも組み立てなおして判断している部分もたくさんありますが」


 この子、ちょっとパソコンに詳しいと言うレベルじゃないぞ。

 ここの人たちは気づいていないのかな?


 そんなことを考えている俺に、由彦さんは1冊の古文書を広げて見せてきた。


 由彦さんが開いた部分には付箋が貼り付けられている。

 そこには、ページの中心にイラスト? のような薬草図が描かれており、その各部位になにか文字が書かれている。

 欄外にも、それの注釈のように古文が各部位に細かく沢山書き込まれている。

 どの文字も俺にはさっぱり読めないが、どうもこの薬草の説明図らしい。


 由彦さんが、さらに1枚のプリント用紙を渡してくれる。

 すると、同じ絵が真ん中に描かれているが、その周りに書かれた文章がすべて現代語に翻訳されていた。


「これは?」


「あ、それは壮太君が現代語に自動翻訳して印刷してくれたものです」


 それを見ると、薬草の各部位についてコメントが書かれており、葉は太陽からの光線を受けて何かを発散させる、根は大地からの弱い光粒水(こうりゅうすい)を受けるなどと書かれている。


「今の言葉になると、確かにこれが貴薬草の記述のようにも思えますね。

 もしこれが貴薬草であれば、栽培について少し気になる事が書いてあります。

 この光粒水という文字と、その横に書かれている内容が気になりますね」


「そうでしょう。 私もそう思っていたら、光粒水での検索もしてくれてありました。

 これがそうです」


「えぇ!」


 俺は赤色の付箋がつけられた別の古文書を見せられるが、こちらは1枚の文章だけの紙なので全く読めない。

 すると同じように、現代文化された紙を渡される。

 この文章は光粒水について、見つけた場所や効能などが、調べた範囲で詳しく書かれているものであった。

 それにしても、この高校生はいったい何者なんだ?


「君は、この古い文字について詳しいのかな?」


「いえ、今回初めて見ました」


「だったら、どうしてこんなに翻訳が出来たのかな?」


「それはさっきも言いましたが、デープニューラルネットワークによる文字の分離と解読をしています。

 それとこれら沢山の古文書の写真から類似性を見つけて、既にサーバーにアップされている過去の古文書の翻訳との形状と文脈類似性から翻訳をしています。

 僕は写真を翻訳し、図を検索する指令を作っただけで、今回見つかったのは、たまたま運が良かったからですよ」


 おいおい、そんなレベルでは無いだろう。


 聞くところによると、小学生のころお母さんのパソコンに触れ始め、中学生になるとこちらの会社の廃棄パソコンをもらい、彼は自分でプログラムを作り始めたようだ。

 開発言語の多くがフリーで使用できるので、彼は自分でプログラムを作ってインターネットで売ってお小遣いを貯め、今は自分のパソコンを買ったらしい。

 マニアの域などはとうに超えており、天才か! と思ってしまった。


 俺が驚いていると、由彦さんから、


「壮太君が見つけたのはそれだけではありませんよ。

 さっきの資料を基に関連をどんどんと広げることで、関連が高い物としてだけでもこれだけ見つかりました」


 なんと10冊近い付箋が差し込まれた資料が置かれていた。


「なので、加納さんに急いで戻ってもらいました。

 特に気になるのが、この資料です」


 ちょっと興奮気味に由彦さんが開いた資料には、胡坐を組んで両手を広げた、布袋さんみたいな男の人の正面像が描かれている。

 ぽっちゃりしたお腹と股座(またぐら)の間に、壺を挟み込んで座った図だ。

 翻訳版を見ると、どうも、気功や丹田と言って文字も見える。


 そして、それは薬を作っている図と書かれている。

 細かな字で沢山書かれているが、書かれている内容を要約すると、


 小さな壺には処理をした薬草と両手で掬った清水を入れ蓋をする。

 広げた手から大気から気を集めて、体内を巡らせた気を、(へそ)のあたりで混じりあうようにする。

 すると、そこに押し当てられた壺の蓋から光る煙が漏れれてくる。

 その光る煙こそが、壺の中の薬草が薬に変わったことを示すと書いてある。

 薬に替わるのは人により時間が異なり、早いと2日ほどで効果が出て、気の制御が出来なかったり、制御が出来ても気力が弱い人間には作れないと書かれていた。


 欄外には、これは説によっては丹田と呼ばれる事もあるとの注釈まで入っている。 この注釈は、後の時代に書き加えられたもののようだ。

 俺はマリアにスレイト通信で話しかける。


『これって? ひょっとすると....』


『そうですわね。

 わたくしの魔法の理論とほとんど同じですわね。

 特に、この丹田と言うのですか? これは体を巡るエターナルの流れをマナ溜りに貯まる考え方と同じですわ』


『確かに、体内を巡る流れにより貴薬草を変化させるという考え方はこれまで考えてこなかったな。

 この間、お城で出来たのマリアの石の事もあるのに、そこに考えが至らなかった。

 マナ溜りがいっぱいになると、何かが体の中から溢れ出てくるのかも知れないな?

 ひょっとするとこれはエリクサーの製造方法として近いのかもしれないな』



「由彦さん、確かにこれは試してみる必要がありそうですね」


「慎二さんもそう思いますか?

 これは私達も初めて見る資料で、私たちの丸薬製法とも異なります。

 こんな漢方薬の製法は聞いた事がありません。 処理をしたって何でしょうか?

 そういえば、この貴薬草も下処理がされていますけど、それの事でしょうか?」


「分かりませんが、これは手掛かりかもしれません」


「私もそう思いまして...」


 そう言うと、由彦さんが服をめくりあげると、彼のズボンの臍あたりに、蓋をしたプラスチックの小さな試験管が差し込まれていた。


「混合した貴薬草に、水を加えたものを先ほどからこうやって試しています。

 試料が限られていますので、とりあえず3人分は準備しましたが、慎二さんもやってみますか?」


 さすがに、俺は断ったが、今回の件はかなり大きな発見だと思われる。

 それにしても、壮太君は高校生なのにすごいな。


「彼は、東京のどこか工学部に行くのですか?」


「いや、親孝行な子でね、今井さんは何年か前に旦那さんを病気で亡くされて、それからは女手一つで育てられてきたのですよ。

 兄弟もいないそうなので、母一人、子一人生活だそうです。


 私どもの店舗でパートされていたのですが、こんなこと(閉店)になってしまって...

 現在は別の会社に勤められるようになったんで、せめて息子だけでも協力したいと、こちらに寄越してくれたのです。

 彼は来春高校を卒業したら、進学ではなく、家計を助けるためにどこかに就職をすると聞いています。

 私達が店を続けていれば、今井さんを助けることもできたので、残念です」


 うーん、暗い話になってきた。

 でも、これくらい技術には明るいのに、すごくもったいないな。

 そんなことを思っていると、由彦さんの奥さんが俺を呼びに来た。

 何だろう?


 まだまだ伸び盛りの創斗君なので、彼の才能をもっと伸ばしてあげたいですね。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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