4-02-01 フードフェスティバル
慎二君たちは、せっかくの富山ですので、少し足を延ばすようです。
俺達は、漢方薬のお店の工場で、貴薬草から成分の抽出を行い、エリクサーに近づけないかの実験を行っている。
深夜まで作業となったため、研究スタッフを残し、俺たちは漢方薬店の母屋で先に休ませてもらった。
まだ早い時間に目覚めると、俺は着替えて、隣の部屋で寝ている人たちを起こさないように静かに研究室へ向かった。
すると、相変わらずサリー達は早起きで、貴子以外俺の仲間は既に研究室に来ていた。
一番乗りと思った俺が最後だったようだ。
朝までに出来上がった抽出サンプルを見ると、研究スタッフはどうやら徹夜で作業をしていたようである。
朝食としてパンが置かれており、早朝からやっているパン屋さんから買ってきてもらったそうだ。
中には見たことが無いパンがあり、昆布が入ったパンも置かれていた。
奥さんも一緒に作業されているので、申し訳けない。
とりあえず今朝までに大まかな成分の抽出は行えたので、俺たちはパラセルでの査定を行った。
俺が査定した結果を、真希がノートパソコンに記録していく。
査定の結果、貴薬草そのものから単純に抽出された成分は、残念ながらいずれもエリクサーであるような査定額は示されなかった。
と言うことは、単に貴薬草からの成分抽出だけではエリクサーとはならず、成分抽出した物質に対して、何らかの加工が必要となる。
この時点までに、既にサンプルが沢山できてしまったので、組み合わせるにも膨大な数になる。
そこで、しばらく、ここ富山に逗留することになった。
そのなかで、査定額が高い物を順に並べて、あとは査定上位を10種に絞り、それらを組み合わせたり、貴薬草以外の物質と組み合わせてみる事にする。
ここからはしばらく俺達では手の出しようがないので、専門の研究スタッフに渡して、実験してもらう。
なので、今外務省にいる唯華に連絡して、今日以降の研修所の予約はキャンセルしてもらう。
そして、富山で行動ができるように、足の確保と宿の確保を行うことにする。
宿は、由彦さんに聞いて、漢方薬店から車で20分くらいの場所を、来週火曜日までの1週間予約した。
そこは少し小高い場所にあり、基本的に素泊まり宿泊の戸建コテージになっており、夜中であっても寝に帰ることができる。
また、日中から夜までしか営業していないようだが、施設内に美肌の湯の天然温泉があるのも、よかった。
車は駅前のレンタカー屋さんに2台を予約して、今回は珠江と真希に運転をお願いする。
俺も久しぶりに運転の練習をしたいのだが、国籍喪失の問題で免許証の変更ができないから国が出来るまでダメと言われている...
いつになる事やら。
宿と足の確保ができ、せっかく時間もありので、俺たちは富山の観光に向かうことにした。
黒四ダムも面白そうであるが、現在新たなサンプルを作っている研究スタッフを置いて、そこまでの余裕は無い。
まあ、市内周辺を廻る事とする。
俺たちはレンタカーを受け取りに、まずは全員で富山駅まで電車で移動する。
富山駅に向かうローカル駅まではコミュニティバスを使うが、薬局周辺は古い町並みとなっており昔は栄えていたようで、沢山の商家が目に入ってきた。
空港からタクシーでここまで来て、そのあと深夜まで作業だったので、街並みすらよく見ていなかったが、この町は、昔、飛騨への街道の宿場町であったようだ。
富山駅に到着した俺たちは駅周辺を歩いて散策する。 ここは北陸新幹線が停車する新しく立派な駅だ。
富山の駅の向かい側の広場には、ちょっとした銅像がある。
新幹線が通り、新しい駅ができてからは、この銅像に会いに来る人は少なくなってしまった。
この銅像は、「富山のくすりやさん」の銅像で、今から300年も昔から富山で作られた漢方薬を入れた柳行李を背負った富山の商人が日本中を旅していたそうだ。
彼らは、越中富山の薬売りと呼ばれ、昭和の頃までは彼らが訪問先の子供に配る紙風船など無料グッズが人気で、彼らの訪問を心待ちにしていた子供も多かった。
置き薬を持って訪問する先が記された懸場帳には、各地の個人情報が集められ、今でいうビッグデータを基に商売が発展されたようだ。
今回お世話になっている薬屋さんも、こうした富山の歴史の中にあるお店だと思われる。
駅前を散策している時、散策地図をもらう為に入った観光案内所で一枚のポスターを見つけた。
市内の公園でフードフェスティバルのイベントをしているようだ。
当然のごとく、この罠に引っかかる人物が今2人になった。
「加納さんは何を食べますか?」
すでに、服部さんの中で、このイベントに行くことは決定しているようだ。
「サリーはね、このポスターの物全部食べたい!」
こりゃ行くしかないかな?
案内所の方にポスターのイベント会場へのアクセス方法を聞くと、路面電車が便利なようだ。
近年ローカル鉄道は赤字で廃止されたりすることが多いが、ここ富山は電車やLRTが整備されており、今も積極的に発達している。
街の雰囲気も知りたいので、車は帰る前に借りるとして、そのLRTを利用してみた。
町はゆったりとした近代的な街で、先ほどまでいた薬屋のあった古き街とはかなり違う。
イベント会場近くの電停を降りると、会場で買ったと思われる食べ物を食べながら歩いている人がいる。
平日はそれほど人も混んでなさそうとのことで、富山の食材がいろいろ食べられることを期待してイベントの公園に来てみた。
公園近くまで来ると、道路にも屋台がちらほら出ている。
道端の1台の小さなキッチンカーから良い香りがしてくる。
近づいてみると、ホットドッグのようなコッペパンに、ソーセージでない何かの具材が乗った料理を売っていた。
「これ、どこの何ていう料理ですか?」
お店の女の子は、これは自己流で、彼女のお姉さんが考えた物で、特に名前は無いそうだ。
「エッ? そうなんだ!
これ、どうやって頼むの?」
「パンに入れる具を選んでください。
パンに具材は入れますが、挟むのではなく、パンの上を繰り抜いて舟のようにします。
だからサンドイッチでもなくて...」
「へー!」
「俺は食べてみるけど、食べない人いる?」
聞くまでもなく、基本全員分を注文する俺。
「これはパンを繰り抜いたあと、中に油脂を塗ります。
これでルーなど具材の汁がパンに染み込まずに、受け皿になります。
ホットドッグやサンドウィッチ、ハンバーガーって汁っぽい具材だとこぼれるので、外で歩きながら食べにくいですよね。
うちの姉ちゃんは料理の天才だよ。
こういった美味しい料理を毎日考えているの。
これは、このイベントに合わせて食べやすく美味しいものって考えたんだよー」
そう言われてキッチンカーの中を覗くと、お姉さんがこちらを振り向き、にこりと笑ってくれた。
出来立ての名称不明料理を食べてみると、その食べやすさに対するアイデアもさることながら、とても美味しいのだ。
これならば、もっと払ってでも食べたいと思う。
「美味しいねー」 と服部さん。
彼女の評価が高いということは、間違いない味なのだろう。
店を後にして、歩きながらサリーに商売人としての評価を聞く。
「そうですね。 味や値段は合格点です。 選んでいる食材も良いですね。
何よりも食べる人のことを考えています。
でも、これまでこの世界で食べてきたお店の価格と比べると、商売的には安すぎると思います。
ここは食べ物を販売するには、場所が悪いですね。
それと、あの車の店舗では何を売っているのか分からないので、美味しい物を売っている事が伝わっていません。
料理上手の商売ベタですね。 私だったらもっとたくさん売れます。 もったいないです」
おぉ、サリーらしからぬ、厳しい意見だ。 味よりも商売にダメだしされている。
「そうね、あの味であれば、私の国でも流行るわね」 と、イザベラ。
俺達は、程なく歩くと目的のイベント会場の公園に着いた。
昼が近いせいか、平日だと言うのにイベントは賑やかで、キッチンカーや仮設の販売店舗が並び、どの店も行列していた。
平日でこれ位集客があるということは、休日はどのくらい並ぶにだろうか。
広場中央にあるテーブルが空いていればと思ったのだが、この人数がそろって揃って座ることは難しいようだ。
公園を見渡し、会場から少し離れた場所に、木が生えた場所がある。
広場周辺の芝生では、シートを広げた人たちが食事を楽しんでいるが、この木の下は土がむき出しなので、ここで食べている人はほとんどいない。
木が目隠しになるので、俺はそこでストレージからキャンプ用の折りたたみテーブルと椅子をこっそりと出す。
俺はテーブル番をすることにして、皆に買いに行ってもらう事にした。
我々も人数がいるので、いろいろな店舗で、それぞれいくつかの種類を買ってきてもらう事にした。
3人娘も自分でお金を使って買ってみたかったようで、喜んで買いに行った。
皆で買い集めた料理をテーブルに並べる。
そして、いろんな料理を皆で少しずつ分け合ってわけ食べてみた。
それぞれ趣向を凝らした料理が多い。
麺類は、延びるとまずくなるので、先に食べるように娘たちに話す。
郷土かどうかは分からないが、黒いラーメンは富山の名物だ。
残念なことに、それ以外で郷土の味というものはこの会場には無いようだ。
イベント自体のターゲット層は地元の若い人が中心のようで、地元の名店よりも、流行り物の料理の店舗が軒を揃えている。
出店している地元の店は、各地の流行をまねた料理で、東京から来た俺にとってみると、物足りなさを感じさせるイベントであった。
どれもそこそこは美味しいのだが、さっきキッチンカーで食べたオリジナル料理と比べてしまうと、少し霞んでしまっていた。
3人娘はどれも初めて食べる味なので、特に味に対する偏見やこだわりは無いはずであるが、やはりさっき食べたのがいいと言っている。
お腹も膨れてきたので、そろそろここを撤収する事にした。
LRTの電停までの帰り道、「さっきのキッチンカーでもう一度食べる!」と意気込んでいる、サリーと服部さん。
実に仲良しになっている! でも、みんな同じ意見のようだ。
いろいろな種類を少しずつ食べているので、お腹はそこそこ一杯なのだが、今ひとつ満足感がない。
公園から少し歩き、さっきキッチンカーのあった場所に戻ったはずなのだが、そこにキッチンカーはいなかった。
みんなで「残念!」とか言いながら駐車場へ向かってさらに歩く。
「あともう少し食べておけば良かった!」 と、服部さんは真剣に落ち込んでいる。
LRTに乗り、1駅過ぎたあたりで、イザベラが突然、「アレ」といって横道を指さす。
目を凝らして見るが、既に通り過ぎたようで俺には見つからなかったが、サリーが、「さっきのおいしい車がいます!」っと
この娘達目がよいのか? 視力はいったいいくつだ?!
このまま過ぎ去るのはもったいない。 絶対に後悔する。
俺たちは次の電停で下車し、少し歩いて戻ってみる事にした。
先ほどの場所から走り去るといけないので、俺たちは急いでキッチンカーへ向かった。 貴子は真希が抱いて走っている。
LRTはバスと同様に1駅が短いのが幸いして、俺たちはすこし戻るだけでイザベラが見かけたキッチンカーを探すことが出来た。
息を切らせて、車のもとにたどり着いたが、車の中に人は誰も乗っていなかった。
確かにこのキッチンカーで間違いないが、この場所では店をやっていないようだった。
予期せぬ再開という物は、良い物ですね。




