1-03-06 最上級ポーション
お腹もすいていたのですね。
一息ついたサリーは、この世界にやってきたあれこれを慎二君に話しはじめました。
「私達には、スレイトで得られたこの情報以外に手がかりはなく、話し合った結果、薬草を手に入れる為には向こう側へ行ってみるしかないという事になりました。
私たちはその情報に、一縷の望みを賭けることにしたのですが、それには莫大なお金が必要である事がわかったのです。
更に、お金が準備できたとしても、情報屋からは肝心のスレイトの送り先はわからず、また、どのようにすればそこに行けるのかもわかりませんでした」
ここでサリーは、ひと呼吸おいて続けた。
「新しいスレイトの交付まで時間がないので、父は家財や持っていた商品を売り払ったり、借りれる知人に頼み込んで、必死でお金をかき集めました。
そうしている間に、父がスレイトの検索をしている時、似たような境遇の仲間ができ、その方がある特別な方法を見つけたと連絡が入りました。
いくつかの方法を組み合わせ、届くかどうかは保証がないが、ある程度の確率で、新しいスレイトの交付先に、スレイトと一緒に何か小さなものを送ることができるようです」
「パラセルでは、生きた人間を送る方法は通常有りません。
しかし特例があり、奴隷売買が正式に認められている国に限り、生きた奴隷を販売できる裏技がありました。
その、奴隷の売買ですが、幸いなことに、私どもの国では奴隷であれば、家畜と同様に物としての販売ができます。
スレイトで査定を行ったところ、私どもの世界では奴隷を商品として受けてもらえることを確認しました」
「そして私を商品にしたのです。
しかし、売られる先がどこに送られるのかわかりません。
また、スレイトの中にいて、いつ届けられるのかわかりませんので、弱い仮死状態を作り出す薬を飲みました。
私を購入いただいた先の世界で、私が生きていけることの保証など何もありません。
食べることや飲むことすらできないかもしれない……
燃えるような世界や氷の世界かもしれない。
でも、父はそんなひどい条件でも、今私たちが抱えた問題よりましと思っていると思います。
多分このままでは私たちはすべて処刑されると思います。
たとえ奴隷となっても、私だけは生き残れる可能性があるのではと考えたようです。
ここは気候は問題なさそうですし、食べ物や飲み物も大丈夫そう。
いや、私の世界よりもずっとおいしいみたいですし、こうして言葉も通じました。
私たちは、大きな賭けに半分勝ちました」
おいおい、なんか話が重すぎない?
「私は自身を奴隷とすることで、こちらの世界へ来ることができました」
そう言うと、彼女は肩を少しはだけた。
「今回、正式な奴隷となるため、この焼印を入れてきました」
えっと思ったが、肩の首筋よりに皮膚に赤黒いやけどのような色がついている。
よく見ると、10センチくらいの丸い中に模様が入った焼き跡がある。
少し膿んだところがあり、白い肌だけに余計に痛々しい。
これが奴隷であることを示す、奴隷紋というやつらしい。
人間の焼き印というものを初めて目にし、「うわっ」と俺はのけぞり、目をそらした。
サリーは消せない焼印を肌に押されていた。
サリーの世界では、奴隷は法律的な取り決めであり、他の国に逃げ出しても奴隷としての身分はかわらない、各国王の宣言による契約上の奴隷である。
しかし、日本においては奴隷制度がないため、焼印があったとしても拘束や束縛を受けるものはでない。
焼き印はタトゥーのように、肌に入れられたやけどの模様である。
深いやけどではあるが、現代技術で治療すれば、手術で除去もしくは皮膚移植で再生可能と思われる。
しかし、施術したのが最近のようで、まだ痛みは強いようである。
人としてやってはいけない悪辣な行為だ。
すぐにスプレー式の殺菌薬とガーゼ、怪我用の軟膏と巻き絆創膏テープをだす。
これらは登山用の薬セットにそろっていた。
俺は手を洗い、消毒用のハンドジェルを手に取り揉む。
本当はすぐに病院に連れて行きたいのだが、このやけどは模様が入った明らかに人為的につけられた傷なので、戸籍すらないこの娘を病院には連れて行くのは躊躇われた。
「簡単な治療を俺がするから肩を出して」
と言ったら、
「慎二様は医術士様なのですか?」
「いや、できるのは簡単な処置だけだ。
跡は残るが、このままだと病気になってしまうことがある」
それを聞くと、彼女は服を脱ぎだした。
麻の伸縮性がない服なので、肩の焼印をそっと出すには、服を脱ぐしかないか。
しかしワンピースみたいなので、肩から背中を出すためには脱いでしまう必要があるが…… 脱ぐようだ。
どきどきしながら背中から見ていると、そっと服を脱ぐと、なんと上半身には下着をつけていなかった。
紳士なので、見ないよいうにして、席をはずし、洗面台の液体石鹸で手を洗ってくる。
背中しか見えないといっても、そこは若い娘である。
両手は下げているので、横からお饅頭はポロンと見えている。
「す、少し滲みるけど我慢して」
と狼狽つつ、美味しそうなお饅頭はなるべく見ないように、ティシュを傷口の下にあてを、傷口にスプレーをかける。
「つっ!」
やはり痛いようだ。
彼女にティッシュを渡し、身体の前の方はこれで拭くように指示をする。
首筋からたっぷり消毒薬をかけ、垂れる液をティッシュペーパーで拭う。
俺は、再度ジェルで手を拭いた後、指に軟膏を取り、そっと患部に塗る。
とにかく、雑菌による感染が一番怖い。
既にすこし化膿しかけているので、山で怪我したとき用の[やけどや切り傷に有効な抗生剤入り]軟膏を用いた。
以前キャンプの時に買った軟膏なので少し古いが、未使用の密封されたチューブ入りなので、これを使う。
焼印はかなり大きいな火傷なので、患部が空気に露出しないように何回か塗った。
俺は指の薬をティッシュで拭き取り、患部より一回り大きくガーゼを数回折りたたむ。
それを伸縮性のあるテープで固定する。
最近は聞いた話では、軽いやけどの場合は湿潤療法など自己免疫力を利用する方法もあるようだが、専門家ではないので、昔ながらの方法で治療した。
あー、申し訳ない。結局ほとんど見えてしまっている。
お医者さんと患者さんの関係のようだ。
俺の衣装入れの中から、柔らかそうな綿のTシャツを出す。
自分で買った物なのだが、着てみたらプリント柄がちょっと恥ずかしかったので、新品で着ないまま仕舞いこんでいた物だ。
俺のシャツだから、大きくゆったりとして、傷口を締め付けないと思うので、このシャツを選んだ。
彼女はそれを受け取り、そのまま着ようとしたが、前後逆だったので、首周りのタグを指さし、これがあるほうが背中側だと教えてあげる。
下はパンティではなく、紐で縛った白いステテコみたいなものと、厚い靴下を履いていた。
下は俺のジャージを渡す。
「これはとても着やすいですね。ありがとうございます」
さっきアンマガを食べさせてあり、空きっ腹ではないので、すぐに痛み止めを飲ませる。
簡単ではあるが、これで治療は一通り終了した。
しかし、口が硬そうな病院がどこかに無いかを調べる必要がありそうだ。
「で、君が奴隷ってどういうこと?」
「私がここにいるということは、送った白金貨も受け取っていただいたのですよね。
ご存知かもしれませんが、パラセルはマスターについての情報を一切開示しません。
しかし、今回どうしてもこちらのマスターに連絡を取る必要があったのです」
すこし笑顔だったサリーではあったが、また一転して悲しい顔になって下を向いてしまった。
「俺が君の問題を解決できるかはまだわからないが、まずは君の抱えている悩みを俺に話してみないか?」
サリーは、固い表情となり、つぶやくように語り出した。
「商会が取り潰しになります。
そして父の命も、多くの命も失われます。
だから、なにとぞお助けください」
そう言うと、泣き出した。
いや、だからそれだけじゃ何にもわからないなあ...
「じゃ質問を変えよう。君は、なぜ奴隷にまでなって知らない世界に命がけで来た理由は?」
サリーは、泣くのをやめるが、思い出すことがつらいように、再びポツリポツリと話し出す。
「エリクサー
最上級のポーション
その材料を 捜す
そして
商会に
送る」
「そのエリクサーっていうのは、何だい?」
「最上級のポーションですが…
ひょっとして、この世界には、エリクサーって、ないのでしょうか?」
「エリクサー? なんて、聞いたことがないなぁ」
それを聞くと、サリーは頭を抱えて俯いて叫びだした。
「ああああ 何てこと!!
私はどうして一体hgsyv」
混乱しているようで、翻訳がうまく行ってない。
これ以上パニックしないよう、慌ててフォローする。
「ポーションって液体の薬だよね?」
「えっ!? ポーションがあるのですか?」
「ポーションっていうか、薬は普通にあし、咳止めなんかの水薬もあるよ」
「それって、どのような病にも効くのでしょうか」
「薬は症状や病状にあわせれば、効くのもあると思うけど」
そこからサリーは普通に話しだした。
探し物はエリクサーという万能薬だったようですが、残念ながら家の近所のドラッグストアではそんな薬は売っていませんね...