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3-05-02 カジュアル衣料店店員 服部由布子

 慎二たちの引っ越しが無事に終わり、いよいよこの街ともお別れのようです。



 今日は仕事が残っている唯華たちと午後に合流する予定で、お世話になった商店街で最後の買い物と昼飯を考えている。

 俺たち一行は、さきほど解約の退去確認にマンションにまで来ていただいた不動産屋さんと一緒に、駅前の商店街にある不動産屋の店舗前まで歩いて来た。


 すべての退去手続きが終わったので、最後の挨拶をしていると、店の中から「すみません。 すみません」と言いながら出てくる人が。


 ん、なんか知っている人だな。 誰だっけ?


「服のお店のお姉さんだよ」

 サリーが教えてくれた。


 ああ、そうだ! 先日会えなかった、カジュアル衣料品店の服部さんだった。

 声をかけるが、どうも元気がない。


「先日はありがとう。助かりました。

 昨日、お店行ったのですが、お店を辞められたって聞いて、驚いていたのですが」


「ええ」

 とだけ答えて、彼女は下を向いたままだ。

 どうしたんだろう。 いつも明るい感じなのに、かなり様子が変だ。


「もし良かったら、話聞きますよ」


 前回のお礼もまだで、かなり心配な様子であったので、俺達は近くにあった、小さな公園に場所を移した。


「私は、この春まで服飾関係の専門学校生だったのですが、卒業間近から付き合っていた人、同級生だったのですが、彼とは先日別れたのです。

 彼がいたので、卒業後もこちらに居るつもりだったんです。

 しかし、彼とは別れてしまったので、今更ですが故郷の実家に戻って就職しようかなと思って、先日アルバイトを辞め引っ越すことにしたのです。

 いよいよ引っ越しとなり、部屋の清算や支払いのためにお金をおろそうとして、財布のキャッシュカードが無くなっている事がわかりました。

 それが昨日の金曜日の事です。

 家中探そうにも既に荷物は梱包してあり、急いで通帳と印鑑持って銀行行ったのですが、記帳してもらった通帳を見ると口座からお金が全部なくなっていました。

 キャッシュカードは、どこかの荷物の中にあると思っていたのですが、どうやら盗まれていたようです」


「警察は行ったの?」


「いえ、まだです。 それより、引っ越しが……

 本当は今日引っ越す予定だったのですが、昨日お金がないことがわかったので、引越し屋さんには昨日キャンセルお願いしました。


 そして、昨日不動産屋さんにも解約の延期をお願いしたのですが、すでに次の人が決まっていて、すぐに入居されると言われ、延長は難しいと言われました。

 事情を話して、次に入られる方に引越し日の延期をお願いができないかと、不動産屋さん経由で確認をしてもらったのですが、昨日は連絡がつかなかったようなのです。


 そして、さっきもう一度連絡をとってもらう為に、ここに来たのです。

 今朝は連絡が取れたのですが、遠くの方だったそうで、すでに引越し荷物を送られた後で、明日にもこちらに引っ越してくることになっているようです」


「君はどこに引っ越す予定だったのですか?」


「実家に戻ろうかと思っていました。

 実家に近い町のアパートを借りたのですが、お金が全てなくなって引っ越すことができないので、こちらのアパートも昨日キャンセルしました」


「新しいアパートのお金は払ったの?」


「敷金礼金はない物件ですが、契約時に翌月分の家賃まで先払いしています。 直前解約となるので、すでに払った家賃分は返ってこないと言われました」


「わかった。 まず警察だね。

 一番の原因は盗難だよね」


「多分、犯人は別れた彼氏だと思います。

 以前も、それに近い事があったので、彼とは別れました」


「でも、別れたあとに勝手に部屋に入ってキャッシュカードを盗み、お金を引き出されたのであれば、絶対に警察に届けたほうがいいと思うよ。

 あと今日中に引っ越しするのであれば、早く行かないと現場が無くなってしまうし」


「今から一緒に警察へ行こう」


「でも、皆さんお時間が」


「乗りかかった船だよ。

 それに俺達も、実はいま引越中で、さっきマンションを引き払ってきたとこさ」


「えぇ、そんなお忙しい最中に! いけません」


「今日は大丈夫だから、急いで君の件を片付けよう」


 俺達は、ゾロゾロと警察に行き、彼女が今日引っ越す話をして、すぐに現場検証をお願いする。


 ほとんどは引っ越し荷物となっているが、部屋の扉などの指紋等を取るようだ。

 あと資料として、彼の写真と彼の持ち物、被害にあった銀行口座や通帳のコピーなどの証拠を渡す。

 俺達のことを聞かれたが、俺たちは店のお客さんだと答えていた。


 かなり時間を使ったが、現場検証は比較的早く済んだようだ。


 そんなことをしていたため、既に昼近くになっていたので、みんなでお昼に行こうと言ったら、申し訳無さそうに、


「私無一文なので、これ以上ご迷惑おかけできません」


 なんて事を言い出す。


「だったら、これからどうするの?」


「まだわかりません」


「まあ、よかったらしばらく一緒に来る?

 この娘たちも似たようなものさ」


「どういうことですか?

 それもそうですが、加納さんっていったい何をなさっている方ですか?」


「昨日までは、普通にサラリーマンだったのだが。

 この子達がらみで、なにやら起きて、いまは無職になっちゃったけどね」


「ええ、じゃあお金は大丈夫でしょうか。

 お昼は結構ですから」


「本当に大丈夫だから。

 サラリーマンの時よりは、お金はあるから」


「それって、何か悪い事したお金ですか?

 それで会社を首になったとか! だったら私遠慮しておきます...」


「本当に大丈夫よ」

 と、サリーが言う。


「まあ、腹が減ってはという言葉もあるから服部さんも遠慮しないで!」


「みんな何食べたい?

 この街で最期のランチだ。 何でもいいぞ!

 この子たち、まだそれほど日本の食べ物詳しくないから、服部さんどこか美味しい店知らない?」


「わーい! 美味しいものー!」


「もし何でも良いということでしたら、行って見たいお店が何軒かあります。

 じゃあ、ガッツリお肉でよろしいですか?」


「お肉ー! サリーお肉がいい」


「だったら、あそこの焼肉屋さんがいいです! 絶対おすすめです!」


 と、食べ物の話をしたら、なんか吹っ切れた表情で、少し先に見える古い感じの焼肉屋を指差す。


 少し歩くと、店はお世辞にも綺麗とは言えない、外壁も換気扇からの油煙でコテコテのお店だ。


「なんと言っても、ここは無煙ロースターでなく、七輪なのです!

 タレも甘みがあり美味しくって最高です。

 ただ、煙がすごいのですが皆さん大丈夫ですか?」


 そこまで言われて、行かない理由がない。

 何かさっきまでと打って変わって、先日のキラキラモードの服部さんが戻ってきた。


「実は、昨日から財布に残っているお金しかなくって、ご飯を食べていなかったのです」


 スマホの連絡先から、西脇唯華と、宮守珠江を選び、メッセージを送っておく。

 彼女たちは、午後に仕事が片付き次第、この街に来ることになっている。


 すると、唯華はすでに駅に付いていたようで、すぐに店に来ると返信が入った。


 また珠江からは、店に入って少しして電話が入った。

「タクシーでそちらに向かっています。 あと10分位でそちらに着きますから先食べていて下さい」



 俺は店に入って人数を確認する。


 俺、サリー、マリア、イザベラ、貴子、真希の7名と 服部由布子さん

 あとから唯華、珠江の2人



「7人と、あと2人すぐに来ます」


 というと、並んだ6人掛けのテーブルに通された。

「服部さん、おすすめなものを9人分頼んでよ。

 あ、この人たち多分たくさん食べるから、たくさん頼んでいいよ」


「あのー? 御予算はどうしましょう。

 ここランチもやってますよ」


「いや、この娘たち、、お箸も少し使えるようになってきたのと、焼き肉は初めてだし、

 せっかくだから、色々食べて見よう!」


「わかりました。

 では、上カルビ、上ロース、上ハラミ、あとシロコロと牛レバ焼きをそれぞれ10人前、サンチュ、スープと白飯を今いる人数分ね」


 メニュー見ないで、一気に言いきった。 頼み慣れている!


 頼んだ量が多かったので、七輪は4個出てきた。


 そんなに食べられるかと思ったが、全くに杞憂であった。

 宮守さん到着時には、さらに七輪ももう1個追加となった。


 とりあえず、お腹もいっぱいになり、落ち着いたところで、話を始める。

 服部さんに、西脇さん、宮守さんを紹介する。


 また、服部さんの今朝の事情を説明する。

 服部さんにこれからどうするか聞いてみるが、昨日からパニックしていたようで、まだ何も決められないでいたらしい。

 今ご飯を食べて、落ち着いたら現実が戻ってきたようだ。


 皆にどう思うって聞いてみたら、珠江は慎二にお任せしますとの答えが。

 他の人達も頷いている。


「唯華、俺たちの新しい住まいは、まだ少し準備に時間がかかるのだろう?

 今日はどこに泊まる予定になっているんだ?」


「千葉県にある国の合同研修施設が今の時期は空いていますので、しばらくはそこを押さえています。

 宿泊可能な施設ですが、急な予約で閑散期ですので食堂は閉まっていますので、食事は外で行ってください。

 部屋は個室が沢山使えますので、多少人数が増えても大丈夫ですよ」


 さすが唯華、俺の意図をしっかりと理解している。


「服部さん、もしよかったら一緒に来ますか?

 俺達も家を引き払ったばかりですが、そちらに移動する予定です。

 部屋は沢山あるようですので、お金はいりませんから、ご遠慮なく」


 すると、俺の言葉が全く足りないと思ったらしく唯華が補足する。


「私達は、ある目的のために皆で活動を始めました。

 変な宗教とか、悪い事するわけじゃないから。

 あ、私外務省に勤めています西脇って言います。

 泊まるのは変なところじゃなくって国の施設です。

 ホテルじゃないけど、部屋だけは沢山あるから」


 彼女も退職予定であるが、ここは外務省の信用度を使わせてもらう。


「見ず知らずの私ですが、本当によろしいのですか?

 本当のことを言うと、これから泊まるところが無いのでとても助かります。

 でも私、引っ越しをしないと沢山の方に迷惑をおかけすることになります。

 そちらにご迷惑をおかけする事はできません」


「あ、そうだった。

 とりあえず、皆で服部さんの住まいに行ってもいいかな?」


 彼女は、他に良い方法が何も思い浮かばないようなので、「はい」 と、小さくつぶやいた。


 俺は、スレイト通信で3人に相談する。



「サリーは、この人は大丈夫だと思うよ。

 私、人を見る目は確かだから」


「わたくしも、この人からは悪いオーラは感じませんわ」とマリア。


「ウンウン」 と、ただ頷くだけのイザベラ。


 まあ、先日世話になっているわけではないが、俺としてもほおっておけない。


「俺達はちょっとお手伝いをしますので、服部さんもちょっとお手伝い頂けますか?

 今何か予定はありますか?」


「私に予定は今のところ何もありません。

 と言うか、今どうするかが一番問題です」


「皆で服部さんの住まいに行ってもいいかな?」


「引っ越しのお手伝いをいただけるのですか?

 でも、引っ越し先や引っ越し屋さんはキャンセルしちゃったので、まだ新しい引っ越し先も決まっていません」


「それを解決するために今から向かいます。

 でも、これからの事は秘密でね」


「えっ?」



 こうして、俺たちは頭の上に?マークを付けた服部さんと共に、彼女が住んでいるアパートへやってきた。


「買い集めたお洋服が沢山あって、引越し屋さんに頼んだあったので、まだ梱包もしてありません。

 やっぱり、今からだと今日中に間に合いそうもありません」


「これから俺は手品を使うけど、これからのことは、絶対に秘密だよ」


「はい?」


 女性の一人暮らしの部屋だが、こちらも俺以外は皆女性なので問題は無いだろう。

 下見をすると、彼女のアパートは2DKだったが、1部屋は服で完全に埋まっていた。

 高い服はないようだが、自分が着る服以外にも、デザインが気になるとコレクションしていたようで、分類されていた。


 これから、いろいろ秘密はバレるだろうから、どうせならば思いっきり行く。


「この服は全て仕舞って大丈夫?」


「ごめんなさい。 捨てるものはないの!」


 じゃあと言って、そのまま服をストレージに一気に収容した。

 目の前から、一気に洋服の山が消えパニックになる服部さん。


「これって、イリュージョンなの?! どこかに捨てちゃったの!!」


 悲鳴のような声を出す服部さん。


「いや、大丈夫だよ。 仕舞っただけなのですぐ出せるよ」


 と言いつつ、服以外に残った物もストレージに収納していく。

 マリア以外の人には、ストレージに収容しやすいように、生活部屋やキッチンのコンセントやアンテナ線などケーブル類を抜いてもらう。

 さっきやったばかりの作業なので、皆てきぱきと作業を進める。

 やっぱり、俺達引っ越し屋さんができるな。


 洋服部屋の収納があらかた終わったので、マリアにクリーン化してもらう。

 目の前で、次々消えていく荷物に、ただ呆然と立ち尽くす服部さん。


 次に生活部屋のものを順に収納していく。

 順と言ってもベッドや棚など中の物も、そのまま一気に収容するので、あっという間に部屋は空っぽになる。

 特に下着が入っていそうなチェストや化粧台なども、まるっと収納。


 カーペットを収納すると、畳がでてきた。

 畳をクリーン化してもらう。 すると、茶色であった畳に緑が少し戻った。

 よくわからないが、植物繊維の中の水分量が戻ったことで色が戻ったのかもしれない。


 しかし、畳の色が変わってしまい、マリアが少し困った顔をしている。

 でも、これが最初の状態に近いのだと説明したら安心していた。


 次はキッチンだ。

 冷蔵庫、食器棚などは、中身が入ったまま収納していく。

 炊飯器やオーブントースターなど収納したらキッチンはおしまい。

 マリアはキッチンをクリーン化。 流し台のステンレスがピカピカだ。


 風呂と洗面場、トイレのシャンプー、洗面具、洗剤などを収納。 洗面台下を収納するとだいたい片付いた。

 マリアが仕上げると、壁紙、水栓、鏡、ガラスなど、リフォームしたての部屋のようになった。


 今回は、急いで作業をしたので、わずか10分少々で終わった。

 こうなると、どれだけ早く出来るか試してみたくなる。


 服部さんは、まだ呆然としている。


「奇跡って本当にあるのね……」


 綺麗にしてくれたのはマリアの魔法だけれど、何度も言うけど、俺は魔法使えないし。


 荷物の収容は終わったので、全員で一度外に出る。


「取り敢えず、不動産屋さんも困っているだろうから、服部さんは残りの手続きしておいで。

 俺達はここで待ってるから。 くれぐれも、今の引越し作業については内緒だよ」


 サリーに次いで、食いしん坊さんがまた新たなメンバーが加わったようです。



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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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