3-04-02 お金がない!
退職するが、出費がどんどん増える。
現実に直面し、慎二は少し焦っているようです。
昨日は朝から始まりの里に出かけており、帰ってきたのが夜遅くであり、話し合いが出来ないで終わってしまった。
なので、今朝は一昨日の話し合いの続きを行っている。
しかも、俺と唯華は、話し合いの途中の昼に俺の会社の上司に退職届を手渡してきた。
ご迷惑をおかけしますが、俺の迷惑に比べれば、それくらい大したことではないと思う。
これでいよいよ収入源が絶たれ、さらに引っ越しも明日に迫り、完全にお尻に火が付いた状態だ。
退職届の後、いつもの商店街に戻ってきた時、カジュアル衣料品店の前である事を思い出した。
先日食事をおごる話をしていて、そのままになってしまっていた事服部の件である。
明日引っ越しとなってしまうので、多分もう一緒に食事に行けなくなってしまうので、一言お詫びを入れておこうと思ったからだ。
「服部さん。 服部由布子さんは本日いらっしゃいますか?」
「えっと、彼女に何か御用でしょうか?」
「えぇ、先日こちらで購入した際、彼女に世話になりまして」
「あ、ひょっとして先日大量買いを頂いた方ですか?」
「ああ、そうだと思います」
「彼女なんですが... 実は先日急に店を辞めまして、今日はもう来てないんですよ」
「え! どうかされたのですか?」
「なにか個人的事情のようです。 急だったので、こちらも驚いています」
それ以上は個人的な話で教えてもらえなかったので、俺は店を後にした。
世話にだけなっちゃって、悪いことをしたなぁ。
数回しかあっていないが、もう会えないかと思うと、ちょっと寂しさが残る人であった。
唯華とマンションに戻ると、今朝も行っていたのだが、俺たちのこれからについての話し合いを皆で行っている。
そう、なぜこんなに時間を縫うようにまで話し合いをしているかと言うと、本日退職届を出したことで俺の収入源がストップし、ちょっと気分的に焦りが出てきたのだ。
これまで、自分の預金残高を見て、それなりに持っていたはずのお金が、日々ものすごい勢いで減っていくことを目の当たりにし、0となる日が予想され始めている。
なので、最優先で生活費を中心に考えていく必要がある。
どうやって永続的に生活費を稼ぐか? まずそこから解決する必要がある。
国の費用まで考えている余裕がない。 そんな妄想的な金額にたどり着けるのは、いつになるか不明。
この人数いるが、宮内庁職員以外は、基本的に全員無職。
頼りの宮内庁職員も、一人は退職届受理待ち。 もう一人もご寵愛となると怪しい。
おまけに養育対象の幼女までいる。
急がねば、最低限の生活すらマジヤバかもしれない。
焦ると、余計に良いアイデアが出ないが、どんどんタイムリミットは近づいてくる。 なんとか潰される前に答えを出そう。
1つは、皆で労働をして対価を得る。
まあ、アルバイトだな。 これは、最も簡単な方法であろう。
先日身分証は作ってもらえたが、これだとせいぜい日銭くらいしか稼げずに、食べる事が精一杯で必要とする金額からはどんどん遠くなる。
2つ目としてはギャンブルかな?
でもこれでは収入が不確定であり、いずれにしても一人年間50万円を超えると、やはりこれも課税対象となってしまう。
非課税と言うと宝くじってことになってしまうのかな?
日本戸籍を失った俺が大当たりした場合どうなるんだろうか?
でも、こういった日本のギャンブルって、一部の儲かった人の取り分を、残り多くの人が沢山の損をし、胴元は常に大儲けするシステムなんだよな。
一般のギャンブルを禁止することで大きな利益を上げるように、その胴元の利権は固く守られている。
幸運なサリーが買えば、少しは稼げるかもしれないけれど、これで国を運営する費用を稼ぐのは俺はちょっと嫌だな。 いや、そんなに簡単に当たらないから。
3つ目としてスレイト端末を使って異世界通販システム パラセルで取引をし、パラスを稼ぐ。
そう言うと、唯華と珠江と真希は、ポカンとした顔をしている。
あ、そうか。 これはまだ説明していなかったね。
そりゃ黒妖だとか、大きな収納バッグと思っていたものが、いきなり通販の端末だと言われてもそりゃ ポカン だよね。
「このスレイトは、本当はパラセルとの取引を行うための端末なんだ。
そう、これは異世界のショッピングシステムなんだ。
この前、陛下に火廣金をお渡した物は、これで買ったんだよ」
そういえば、あの時は陛下の前だったので、火廣金の値段も調べずに、いきなり火廣金10kgを買っちゃったが、パラス残高って残っているのかな?
アーに今の俺のパラス残高を聞く。
数字からするとゼロではなく、かなり大きな数字だ。
しかし俺も含め、そのパラスがどれほどの価値なのか、よく理解できていない。
どうやら、俺のパラス口座には、サリーの実家に貴薬草を売った時の代金が入金されたらしい。
いきなり、肩の力が抜けた気がした。 地獄から天国かな?
貴薬草が隠された手紙を入札に出した時、他に競り落とされないように、サリーのお父さんはかなりの高額で入札をしてもらったようだ。
もっともいくらになるか分からないが、数字の大きさが物語っている。
特にアーからの入金報告もなかったし、毎日があまりにも目まぐるしく、あの後入金を確認する事を忘れていた。
「そういえば、父は商会をたたむと手紙にありましたので、商会の残された財産で買ってくれたのかもしれません」
せっかく、大金? と思われるパラスが残っている事を知ったのだが、サリーの話を聞くとちょっと静かになってしまった。
サリーの為にも、受け取ったパラスは大事に使う必要があるな。
とりあえず、今俺のパラス口座には、少なくともパラセルで何かを仕入れるだけのお金はあるらしい。
ということは、あとはパラセルでの取引を、この国のお金に換金する方法だな。
お金があれば、まずは新たな薬草の里を作ることもできるのか?
国を作る為には、いったいどれほどのお金がかかるんだろう。
例え、すぐに日本円には換金できなくとも、これでとりあえず一息がつけるだけの光明が見えたたことには間違いない。
以前聞いた、サリーのお父さんの話を考えると、パラセルとの売買は、簡単に世界の経済や資源に大きな影響を与えることがわかっている。
サリーの父の情報では、鉱物などその世界に限りある資源に手を付けると、星の資源をすべて売り払ってしまい、最終的に破綻した世界が少なからずあるらしい。
確かに、何も考えずに売買すると、その世界の経済システムが破綻する。
パラセルを利用した商売については熟考が必要だが、当面の資金は地球で使える必要があるので、それをどうやって換金しよう。
この世界に悪い影響を与えずに、どうすればパラスを換金できるのだろうか。
これを元手に、国を作り、維持するだけの金額を、永続的にどうやって稼いでいくのかが問題だな。
「そういえば、慎二さんが陛下に渡した火廣金っていうのは、私どもの長老が話していた、神社の秘宝で使ってたと言われる、伝説の金属ですよね。
かつて、それは私どもで取り扱っていたようですので、ひょっとすると長老が買い取ってくれるかもしれません。
あの地方は、古くから神社に奉納する秘具を作っている鍛冶師がいるのですが、もし本物の火廣金ならば、そこで加工もできるかもしれません」
「おう! もし買ってもらえるのであれば、それはいい話だな。
アー、もういちど緋緋色金って金属を買えるかい?」
「大丈夫です! 買いますか?」
おっ、今日はやけに元気がいいな!
「それって純金より高いのか?」
何パラスと言われても、どれくらいの価値になるかよく判らないので、この世界でも一般的な基準となる金をあげてみた。
「同じくらいの価格です」
「この間みたいに持てないくらい大きな物ではなくって、きちんと小さな四角い形にした、インゴットでも買えるのか?」
「大丈夫です」
「じゃあ、火廣金の100グラムインゴットを、5個買ってくれ。
すると、目の前に少し赤みがかった銅のような金属プレートの板が現れた。
5センチ角くらいで厚めのシート状の小さな塊だ。
これで5個あるってことだな。
「珠江、これ長老に送って、同じ金属なのか見てもらってくれ」
そういって、火廣金のインゴットを1個渡す。
「わかりました。 ありがとうございます。 早速分析に出してみます。
あと、すみませんが、先日いらして頂いた検疫所に、成分の分析してもらってもよろしいですか?
この間の検疫施設の隣にあったビルが研究所で、特殊外国人の方が持ち込まれた物を分析するための施設が併設されていますので、このような分析ができます。
私と同じく宮内庁からの出向者が、そちらにも何人かいますので、秘密裏に分析できます」
「えっ! それはいいね。
だったら、この間始まりの里で汲んできた、水についても分析できないかな?」
「分かりました。
では研究所へ送る分については一緒に分析に出します。
物がモノですので、今から職員に、近くまで取りに来るように連絡しますが、よろしいですか?」
「あ、宅配便で送るのじゃないか。
まあ、金と同程度の価値があるのであればその方が良いか?」
「慎二さん、それは違いますわ。
パラセルですか? そこで買う場合、確かに価格は同じくらいなのかもしれません。
ここからは研究所で分析してみないと分かりませんが、陛下の様子から、金などと比べると、とんでもなく高い価格になると思います。
金より高い物質という物は世の中にあります」
「え、だったら長老のところは大丈夫なのか?」
「まあ、何とも言えませんが、こちらが持っていくのは昨日の今日で、面倒ですし、先方に取りに来いと言うのとそれこそ大事になりそうなので、ここは送っちゃいましょう」
なんかこの辺りは適当な人だな。 まあ、確かにこちらに来るなどとなったら御一行様のお越しかな?
「残り3個は、そうだな、唯華に預けておくから、今後の我が国の国家予算にでも回してくれ。
自由に処分してよいから」
「ひぃ、あ、はい。 確かに承りました」
謎の火廣金を受け取った西脇の手がちょっと震えている。
火廣金が、少しでも家計を支えてくれる事になればいいですね。




