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3-02-07 地下の娘

 ここ、横浜にあるスーパー銭湯の部屋では密談が交わされていた。



 俺と、宮守さん、西脇さんとで温泉施設の特別室での打ち合わせが続いている。

 今日はこの部屋で宿泊予定である。


「先日、岐阜の分祀でお会いした時にも少しお話ししましたが、私ども宮守家やこちらの西脇家は、もともと地下(じげ)と呼ばれる、皇族を下で支える一族です。

 そう、地下は皇室に仕えるものであっても、昇殿が許されていない、陰なる廷臣(ていしん)の身分です。


 西の地に黒妖が現れた神代の時より、黒妖とそれを引き継ぐもの、それを祀る神社を守るような使命を担い、今の時代に至ります。


 私どもの一族は、表立っての行動を控えてきました。

 それは身分の関係もありますが、黒妖、そうスレイトを陰から守るという御役目をいただいているからです。

 そして、おそらくこれからも続くと思います。


 そして今回はっきりしましたのが、貴子様は従者などではなく、白神様の上に立たれるマスターと言う立場であること。

 私は、その貴子様とそれを継ぐものについて、お守りすることが新たな使命だと考えております。

 そして検査でも、慎二さんはその血を受け継ぐものであることが、はっきりしました」


 すると、今度は西脇、いや唯華さんだったな、が続けた。


「しかし、これまで唯一であった貴子さんのスレイトとは異なる、新たなスレイトがこの世界に現れました。 そう慎二さんのスレイトです。

 私はこれからの人生をすべてを、その新たなスレイトマスターである慎二さんに賭けようと思っています」


 そんな、つい最近知り合ったばかりなのに、この人は何を言っているのですか?


 宮守さんが、話を自分に引き戻す。


「黒妖については、これまで神社と我が一族が代々に渡り研究をしております。

 また、現在それを持つ貴子様についても、詳細な情報を入手しております。

 従って、そのお孫さんであられる慎二様についても、ご本人が知らないような情報をも存じております」


 なにそれ、ちょっと鳥肌が立つ。 どのような?


「私ども宮守の一族は、常に主に従うだけの家系として暮らしてきました。

 すでに黒妖は分祀にしか戻らず、本殿は神様を失った、ただのお飾り箱の神社でしかありません。

 それらがどれだけ辛いものかわかりますか?

 兄は安泰な暮らしだなどと、呑気なこと言ってますが、私はそれが一生続き、また自分の子や孫、子々孫々続くことには耐えられません」


 うん、言っていることは何となくわかる。


「私は、あの異次元の3人の方達と同様、マスターであられる貴子様や慎二様のお傍で仕えさせていただきたいのです。

 どのような立場でも構いません。 陽のあたる場所で生きたいのです。

 お会いできたのは偶然かもしれません。 ですが、これは私どもの一族にとって必然の運命であったのではないかと考えています」


 うっ、 俺にそんなことを言われてもなぁ?


「慎二様には、私達に新たな未来を創り出すだけの力を持っているものと存じます。 いや、確信をしております。

 女として勝負の時と思っております」


「私も、それは全く同じ思いです。

 西脇家も同じ地下として、思いも同じです。

 今回私は異次元の関係から慎二さんとの接触が行われました。


 しかし、慎二さんはそれだけでなく、宮内庁で聞いた事が有る、黒妖にも関係していたとの事で驚きました。

 わたしは、宮内庁に秘匿されていた黒妖の情報を確認してきました。


 そして、以前からおぼろげながら考えてきた構想に、慎二さんのスレイトを重ねることで、実現する可能性を見出しました」


 俺の頭の中では、あの西脇さんが作った計画書の最後の手書きの一文、


「基本的に本計画は加納さんにお願いする」


 って1行が、リフレインされていた。

 計画が実現する可能性は、俺なのですか? それ本音過ぎない?



「先ほど陛下には私の思いを直接打ち明け、ご了承いただきました。

 先日外務省でお会いいただいた私の上司には既に伝えてありますが、今回の真司様の件が全て終わりましたら正式に宮内庁を退職するつもりです。

 当然、出向先の外務省も同様となります。

 まあ、私の辞表の話が伝わるより先に、陛下から先に通達が各所に廻ると思います」


 君は嬉しそうに何を言っているのかわかっていますか?

 それで? 本当に大丈夫なのですか?



「実家にはこれからの連絡となりますが、たぶん一族は大騒ぎにはなると思います。

 だから陛下を利用させていただきました。

 そちらへも陛下から先に連絡が行くと思います」


 頼りなく見えても、やっぱこの娘も、戦略家だ。

 将を射んとする者はまず馬を射よとあるが、いきなり将を射ちゃってる。

 これじゃ、一族はすでに反対など絶対にできないな。


「そして、私にはもう後がございません。

 先程も申しましたが、私も、あの3人と同様、慎二様のおそばにおいてほしいのです。

 嫁にしてほしいなどとは申しません。


 西脇一族として、陰から支えるだけの人生はいやです。

 私も慎二様を支える杖の一本になりたいのです。

 そしてこれからのご活躍を一番そばで見守りたいのです」


「わかりました。 でもそれについては、今はお断りします」

 俺は即答した。


「えぇ! どうして?」


 まさか俺から断られることは予想していなかった西脇さんは、青い顔となってしまった。


「今の唯華さんが求めているのは、実際のところスレイトマスターであって、俺ではありません。

 スレイトマスターでありさえすれば、たとえ俺でなくとも同じことをお願いするでしょう。


 また、それを求めているのは唯華さん自身ではなく、唯華さんの肩に乗っかっている過去からの西脇一族の人たちです。


 唯華さんにお手伝い頂く事は、とても嬉しい事です。

 俺達と一緒に来られることを拒むつもりはありません。


 しかし、唯花さん自身が、加納慎二という俺を必要とする時が来れば、もう一度今のお話をください。

 そのとき、改めて考えさせていただきます」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



「私は、西脇さんのように個人で判断が出来ずに、先日から分祀に黒妖が戻っている件につきまして、宮守本家にも相談しています。

 一昨日の分祀での白神様の事と、黒妖と貴子様が戻られたお話は、昨夜父に伝えました」


 最初はこれまでの経緯を伝えたのですが、と言い、ここで西脇さんをちらリと見て顔を伏せ続ける。


「最後に、昨日検疫所で西脇様から聞いた計画のことも伝えました。


 私の家は以前から宮内庁に勤めており、そのため家は東京にあるのですが、私は連絡をして、ものすごく叱られました。

 そして、今朝まで本家や各地にあります分家と父とで、夜通しでビデオ会議をしていたようです。


 本家の御当主は、なぜ私も同じようにすぐに付いて行くと言わぬかと声を荒げたらしいのです。

 父は、私を庇うべく、ご当主の教えに従ったものと思います と答えたものですから、火にガソリンを注いだようです」


 うん、勝手に人の人生をあれこれと、なかなか無茶なことを言う長老様だな。


「残念なことに、我が本殿には、我が一族には、守るべき黒妖はございません。

 そのため、皇族を陰で補佐することで、我が一族を永らく安泰に過ごす、それは守りを第一とする教えが伝えられております。


 私も幼き頃より、この教えのもと育ちましたし、なにも今回その教えに背いたつもりはありません。

 一族を切り捨てて、我が道に走るほうが、教えに反すると思ったのです。

 父もそれを指摘しました。


 長老様は、私達の一族は本来黒妖を守ることが本筋であり、そして白神様と貴子様が去ろうとしている。

 一族の終焉の危機であるのに、何を馬鹿なことを行っているのだと。


 ご当主はご先祖からの教えが、いつの時代からか間違っていた、それに気が付かぬ私は、この命を持って償う!

 なんてこと言い出すものだから、真夜中なのに大騒動だったようです」


「そんなことがあったんですか」


「ご存じの通り、西脇さんの答えは私とは違っていました。

 彼女は、例え一族との縁を切ってでも、加納様に付いて行くと言いきりました。


 しかし、縁を切るだけであれば、陛下にお口添えをいただくことは必要ありません。

 彼女は一族との縁を断ったように見せていますが、陛下のお口添えを加える事により、何をしても元の一族は縁を切ることなど出来なくなり、さらに新たなスレイトに接する機会すら一族に認めさせたわけです。

 さすが謀略の一族と言われる西脇家の娘です。

 守りに構えるだけの私どもに対し、彼女は積極的に新たな道を作ることを選んだのです。


 私は結局今の私を大事に選びました。

 父に叱られ、そのことに気がついた私はうなだれました」


 素知らぬ顔で、西脇さんはその宮守さんの言葉を聞いていた。 謀略の一族なのね。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



「あの慎二さん、以前神社で慎二さんは貴子様の白神様を呼び出されていましたよね。

 それでお聞きしたいのですが、慎二さんはここで貴子さんの白神様を呼び出すことはできますか?」


 そういえば、神社で最初にそんなことになっていたな。


「え、あれは自然な流れであり、俺自身でやったことはないよ。 それならば、貴子に頼んだら?」


「その貴子様の事について、白神様にお聞きしたいことがございます」


「それは貴子に聞かせたくないことなの?」


「はい。 貴子さんがいないところでお聞きしたい事がありまして」


「俺は貴子のスレイトメンバーに登録されているので、多分出来るはずと思います。

 シー、限定ビジブルで姿を見せてくれ」


 ホワンと大きな白狼がその場に現れた。 こいつはデフォルトが大きいのか?


「ワレに何か用か?」


「この人が、お前のマスター、貴子について質問があるそうだ。

 申し訳ないが聞いてやってくれ」


「うむ。 申してみよ」


「あぁ、白神様。

 本日はお呼びたてなどいたしまして、大変申し訳ございません。

 私目は宮守一族の末裔、宮守珠江と申します。

 あの、白神様のマスターであられる貴子様につきまして、先日私どもの施設でお体の検査をさせていただきました。

 お聞きしたいことですが、彼女は本物の貴子さんで間違いが無いですか?」


「うむ。 まちがいなく、加納貴子だ」


「昨日、貴子様の体の検査を行い、結果がでました。

 彼女の遺伝情報なのですが、これにすこし問題が。


 彼女の遺伝子の塩基配列が通常の現代人の遺伝子と比べ、古い人類の遺伝子に近いのです」


「うむ。

 お前達でいう遺伝子だとか、DNAとか呼ばれるものだな。

 それは人の器の形を決めるものだ。


 しかし人として重要なものは、お前達の言葉で言う、魂という記憶情報だ。

 これが正しくないと、人として成り立たぬ。


 器は多少違っていても魂が正しければ本人である。


 さらにいうと、いまマスターの肉体は、とりあえず我が接してきた平均的な同年代の女性をモデルにして作られている。

 その細胞には、元のマスターの記録、お前らで言う遺伝子情報は入れてある。


 細胞はある時間で、遺伝子情報を元に 新たな細胞へと置き換えが発生し、その時、マスターの元の遺伝子情報が組み込まれていく。

 今、マスターの細胞は、通常の人間よりも短い時間で細胞は置き換わっている。

 しかし、すべての細胞が、元の貴子の遺伝情報を持った体に戻るまでには、あとしばらくの時間が必要だ。


 但し、以前の貴子の細胞は既に最終期を迎えて、大きく劣化し、遺伝情報も損傷しはじめていた。

 劣化した遺伝子情報のクリーニングはして新たな細胞に組み込んであるので、あと何度か細胞の分裂が進むはずだ。

 この後、肉体が交配可能が始まる位になるまでは、急速に成長する事になる」


「わかりました。

 では、あの子は本当に貴子様で間違いがないと考えてよろしいですね」


「うむ。

 それはワレが消えている間の出来事であり、パラセルの蘇生サービスが行った事だ。

 本来であれば遺伝子や記憶が安定するには、もう少しの時間マスターの成長を待つはずである。

 パラセルが誘導(・・)した探索者が、予定より早く到着してしまったので、その未成熟な状態で出現させたように見受けられる。

 そのタイミングを逃すと、新たなマスターの体を慎二の保護の下に受け渡すことが出来なかったのだと思う」


「ありがとうございました」


 そう言うとシーは、パッと消えていった。


 今の貴子は、中身は貴子らしいが、細胞そのものは貴子本人の物に急速に置き換わっている途中らしい。

 半分貴子? みたいなものなのかな。

 ん? 今ちょっと気になる事言ってたよな?


 そんな事を考えていると、床に置いてあった宮守さんのスマホが振動した。

 すると、宮守さんはスマホを床おき、


「すみませんが噂の長老が、どうしても加納様とお話がしたいと申しております。 お願いします」


 彼女はスマホはビデオ通話状態になっており、全体が写るように、こちら側に向けて彼女の少し後ろに立てかける。

 スマホ画面には長老の顔が写っている。


 すると宮守さんは座ったまま、俺に向き直り、両手の先を前に揃え、深くお辞儀をする。


 宮守さんはその姿勢のまま、スマホから長老が俺に話しかけてくる。


「こたびは、加納様にはすみやかにご連絡をさし上げることができず、大変失礼なことをいたしました。

 誠に申し訳けございません。


 慎二様のお力添えになれるよう、そちらにおります宮守珠江は、誠心誠意をもって、真司様のお側において、日夜お世話に努めさせていただきます。

 末永くご寵愛を賜りたく存じます。

 これは、陛下のお言葉だけにあらず、宮守珠江の本人の強い意志であり、我が一族の願いでもございます。

 どうか、どうかお聞き届け頂けますようお願い申し上げます」


 なんか昔っぽい難しいセリフによくわからず、言っている意味を考える俺。

 顔を上げた宮守さんが、


「いかがでしょうか?」と軽く聞くのでつい


「はい?」


 というと、


「ありがとうございます。

 これからお世話になります」


 と即座に返されてしまい、ビデオ通話先では大騒ぎとなっている。

 あれ? 何かまずった?


「珠江よ、これからしっかり努めに励まれるように。

 この後、宮内庁には私から連絡を入れておく」


 なんかこんな展開が以前なかったっけ?

 西脇さんが、すごい顔して、


「あなた、また勝手に話を進めているの!

 さっき誘惑などしていないなんて、言ってたばかりなのに!」


 周りから「どういうコト」という声が


 西脇さんが言う。


「この長老はね、この人(珠江)を慎二の愛人にするから、そばに置いてずっとかわいがってやってくださいね! って言ったの、それに対して慎二は はい って答えたの」


 えぇー  こいつもエェーである。 そんな意味だったの?


 宮守さんは、してやったりの笑顔であるが、またもや先を越された、西脇さんであった。


 そして、

「我が長老からお伝えすることが、もう一つございます」


 と素早く話題を切り替える。


「加納様は、貴子様の里に代わる、新たなる土地をお探しになられるとお聞きしております。


 御神は岐阜中部の地に移られる前は、私どもの神社が守りし土地にいらしたとの事。

 もう一度、元の地である我が地を見にいらしていただくことはできませんか?」


 それは、まだ考えていなかった。

 でも、ひょっとして、これは必要な話かもしれない。


 確かに西の地は初代マスターが薬草を求めて作った最初の地だ。

 早々に訪問することはあっても良いと思う。

 少し考えてみる。


「そうですね。 機会がありましたら、いつか拝見にお伺いします」


「ありがとうございますじゃ。 ではお会いできることを楽しみにお待ちします」


 そういうと、宮守さんから


「これ、明日の飛行機のチケットです。

 人数分あります。

 早朝発なので、日帰りできますので問題ないですよね?

 それとも、私といっしょにお泊りしますか?」


 にこっとして、宮守さんがチケットを手渡してきた。


 えー、ここまでの話はすべてあなたの既定路線ですか?

 俺はちょっとポンコツな西脇さんより、あなたの方が、よほど策略家だと思うよ。


 こうして、俺たちの明日の予定が突然のうちに決まってしまった。


 そういう話をしていたら、後ろからガヤガヤと女性陣がエステから戻ってきた。


 やっぱり西脇さんって、ポ〇コツなの? 実はちょっと感じていました。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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