3-02-06 温泉の時間
初めての遊園地の観覧車は、慎二たちにとって心に残る物でした。
まだ遊園地で興奮冷めやらぬ状態の皆さんであるが、ここもお風呂以外にもいろいろな施設が併設されているので、楽しめるように晩飯は早めにお願いする事にした。
夜中お腹が空いても、ここでは夜中まで飲んだり食べたり出来るそうなので安心だ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
わたくしはマリア。
この世界に来てからは驚きの連続でしたが、わたくしは本日、至高の快楽というものを知りました。
この世界では、あらゆるものが、たどり着くべき先を求め、極められています。
あぁ、このような恥ずかしい姿を他人にさらし、手や指先で触れられ、体中で感じる甘美な世界。
あ、そこを触られると...
わたくし、声を抑えるのもそろそろ限界ですわ。
私の世界では、魔法という高度な技術がありながら、これまで長き歴史の中で、なぜ快感の魔法が作られなかったのでしょうか。
今更ながらですが、私はそれがとても残念でなりません。
この世界の恐ろしさに改めて気がつきました。
もし王国にこれほどの魔法があったのであれば... きっと王室で秘匿し、王室は他の国や貴族に対して、圧倒的な優位性を保つことができます。
素晴らしいテクニックを独占したいのは、世界をおさめる王族の摂理。
ああ、これが我が国に魔法がありながらも、更なる発展が止まってしまった原因なのね。 今気が付きました。
しかし、この世界では、知識や技術がもたらす多くの文明が、民のために使われています。
しかも、王宮では下女でも使えるような簡単な魔法ですら使えない世界だというのに、これほどの文明を作り上げています。
決して皇族や富を持つ者だけが富や文化を独占していません。
これは、一人、二人の天才的な魔術師だけがいても、これほどの多岐にわたる文明を作り上げることは決して考えられません。
あっ、はぁはぁ...
民が自由に文明を使うことが許されることで、多くの者がそれらの文明にふれ、またそこから更なる需要が生まれ、それに見合う供給、そして発展が次々と繰り返されていく。
進化とはこういう事なのですね。
私は私の世界で、これまで何も感じず、目を閉ざしてきた事を、今はっきりと悟りました。
それは恥ずかしい事で、これまで無駄に時間を過ごしてしまったことを考えると、今更ながら無念に思います。
うぅぅん。
私は、自分の病気を治せるのはエリクサーだけで、それを手に入れようとする私の望みなど、あまりにも小さい悩みであったことに気が付かされました。
そして、私が生まれて、成すべきことが、ようやく見えてきた気がします。
やはり、異次元世界の中にはとんでもない世界があり、その世界に流れ着けたことを、王にお告げ頂いたどなたかに感謝いたします。
あぁぁぁ...
このような未だに聞きおよびさえしない事に触れる喜びを与えられ、それがいつまで繰り返されるのでしょうか。
叫び出したくなる喜びに、心の底の震えすら抑えきれません。
ああ、私は… 私は……
あーあ、とても気持ちよかったですわ!
次はどのようなエステを試しましょうか……
いろいろあって、わたくし困ってしまいますわ!
最低にまで絞っているはずなの共感覚なのに、マリアから流れ込んでくる強い感覚に、慎二は一人悶々と悩まされているのでした。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
食事が終わると、テレビで館内案内を見ていたようだが、そこで紹介されていたエステというものを体験すると言って、娘達は皆ででかけていった。
皆さん、いろいろな施設を楽しんでいるようで良かった。
貴子もいっしょに行くという。
生まれたてのちびっ子ボディなのに、エステが必要?
娘たちが連れ立っていったので、おれは、久しぶりに一人でゆっくり過ごそうかと思った。
そんな中、宮守さんが俺に声をかけてきた。
そして俺は、宮守さんと西脇さんとで打ち合わせの真っ最中だ。
「ところで、さっき遊園地で沢山の護衛の方がいらしてましたけど、どうしてですか?」
「陛下の元から出てきたあなたたちは、ちょっと目立つのです。
多くの外国の諜報機関があの場所をマークしていることは周知の事実です。
もし何か、陛下周辺で何か変わった動きが察知されると他国の諜報が追跡してくる可能性があります。
私達外務省として一番怖いのは、それらによって誘拐されることです。
ところで、慎二様が日本国籍を喪失された理由はおわかりですか?」
「異次元人を匿っていたので、それを丸ごと隠すため日本から切り離すってお聞きしましたが?」
「それは表の理由です。 それ以外に裏の事情もあるのです」
「ちょっと西脇、そこからは言っちゃいけない」
と、慌てた宮守さんが制する。
「それは、加納様を日本の法律にから解き放つためなのです」
ちょっとアチャーって感じの宮守さんを無視して、話を続ける西脇さん。 どういう事だろう。
「異次元との繋がりも、スレイトも、どちらもこの世界のバランスを崩すのです。
外務省的にはそれが一番大きいですが、このまま加納さんがここに日本の法律で縛られるていると今後厳しいことになりますよ。
例えば税金。 日本でスレイトの取引を行うと、それは課税対象となります。
そうなると、莫大な税金が必要となります。
そして、税務調査をされるとスレイトの秘密が国税庁に晒されてしまいます。
さらにもっと重要なことは、加納様個人の状況です。
日本の法律で、生殺与奪、すなわち他人の生命や自由、財産を支配する奴隷制度は認められていません」
ここまでは西脇さんは語気強く一気に話したが、ここで一口ドリンクを飲み、声を落として話しだす。
「日本では一夫一婦制が基本です。
慎二様は、すでに3人の女性と今後婚姻、もしくはそれに近い関係を続けられるようですね。
異次元世界の方の身元引受人とは言っても、事実上婚姻以上に深い関係となる事は自明の理です。
ここまでは、この世界に籍を置く人達ではなかったので、適用される法律自体がありませんでした。
しかし、いま彼女たちも日本政府が保護する、この日本に籍を置く者となっています。
そのため、彼女たちも日本の法律の適用されてしまいます」
エッ、そなの!?
「庁舎で資料をお渡ししましたように、私は、このまま異次元の方を隠し通すのではなく、普通にこの世界に溶け込めることが必要と考えています。
そのために、日本と決別をいただき、この世界の人間や異次元人を同じに扱う法律を持った国が必要と考えています。
なにも、すごい国を作ろうと言っているのではなく、今の日本や世界の法律とは異なる、独立した国であれば、どのような地にあってもよいと考えています」
はぁ。 例の資料の話ね。
しばらく聞きに回っていた宮守さんから、
「慎二さん、今あなたがたの価値という物を、自覚されたことはありますか?」
「えっ! 価値ですか? いや、特に考えたことはありませんが……」
「まず、異次元の方を確保した国は、他国に対してアドバンテージを持つことになります。
今、各国は裏で異星人との貿易や文化を取り込むために異星人との外交ルートを必死で作ろうとしています。
しかし、こちらはそれほど急速に進むものではありません。
なぜならば、まず交流は先方からのみ可能であり、まだこの世界ではせいぜい月に行くことが精一杯です。
そして、彼らの住む世界は遠くにあるため、彼らの技術を使ってもこの辺境な場所にある地球に来るためには多大な時間を要します。
そう、1回コンタクトできても、早くとも次は年単位での時間を要し、そんなに簡単に物事は進まないのです。
ところがですね。
同じ地球の異次元の場合、どうですか?
こちらも私達からコンタクトはできずとも、異次元配達人などは瞬間的に次元を超えてやって来ています。
これを知ると、どちらの方が重要性が高いかはすぐにわかると思います。
ですので、日本政府は異次元人の事を最高機密として他の国に秘密にしているのです。
その異次元人と直接接しておられる慎二さんも、同様の扱いになってしまうことは想像頂けると思います」
「み、宮守! あんた慎二さんなんて、いつかから名前で呼んだりしてるの?」
「だって、私たち、すでに慎ちゃん、珠ちゃんって呼び合うことになっているのよね?!」
「あ、珠江さん、珠ちゃんなんては、さすがに呼べないですよ」
「ええぇ! だったら私もこれからは唯華って呼びなさい。 いいわね!」
「え、いきなりですか? だって、まだそんな関係じゃ...」
「なぜ宮守だけなの? 検疫所で誘惑でもされたの?」
「いや、誘惑も誘拐もされていませんから。 分かりました。 じゃあ、唯華さんって呼ばせてもらいます」
「もう、西脇ったら強引ね。 そういうのは男女の仲と同じでしょ。
すみません。 つまらないことで話が、飛んでしまいました。
それで、そのような事から慎二さんたちを守る意味もあって、陛下は私たちを慎二さんたちの側に付けるとおっしゃられたのです。
いや、単に側仕えと言うよりは、もっと親密な関係にと言う意味ですが」
「はぁ? 親密ってどういうことですか」
「慎二さんのご想像の通り、すべてのお世話を申し付けられた者です。
私は、たいへん光栄だと思っております」
3人娘は温泉施設を堪能しているようです。




