3-02-04 新たなお宝
陛下との会食は粛々と行われているようですね。
国に伝わるお宝が偽物であったことがはっきりして、がっかりした陛下に対して、シーがまたとんでもないことを言い出した。
『ワレに新たな刀は作れぬが、同じ材料であればマスターに頼めば購入できるかもしれぬぞ』
「ええ! 白神様にそのようなお願いしてもよろしいのでしょうか?」
思わず貴子に視線が向かうが、シーは
『ワレのマスターは、今手持ちのパラスが全く無い。
そこにおる、孫の慎二に頼むのがよかろう』
おいおい、シーさん 勝手に俺に振るなよ。
そんな高そうなものが俺に買えるのか?
「アー、姿を見せなくても良い。
さっきシーが言った火廣金ってパラセルで買えるのか?」
俺は、スレイト通信でこっそりアーに聞いてみた。
『確かに、それは商品一覧にありますね。
どれくらい買いますか? 100トンくらい買いますか?』
「えっ? 今俺の手持ちでそんなにも買えるのか?
いやいや、そんなに沢山はいらないから。
刀1本なので、材料としてはせいぜい10キロもあればいいと思う」
『10キロ貫ですね』
「なんだそりゃ、10キログラムをお願いする」
古い物の為か? アーは日本の古い重量単位である貫と言ってきた。
貫や匁で言われても、今じゃ、どれだけなのか全くわからない。
ちなみに1貫は3.75Kgである。 なので10キロ貫は37.5トンである。 まあ、100トンよりは小さいけど、十分に大きい。
『それが必要でしたら、今の条件で購入を指示してください』
「購入してくれ」
ゴスン! 大きな音と共に10キロの板状の金属が床の絨毯の上に落ちた。
まあ、落ちたと言っても、高さはせいぜい数cmくらいであろう。
いくら分厚い絨毯があるとはいえ、重い金属なので床に傷がついてなければよいが……
アーと俺の話はスレイト通信で行っていたので、それを聞いていなかった陛下は、いきなりすぐ傍で大きな音がしたので、驚いている。
すると、シーが
『その金属は、この世界の物ではない。
ワレは乞われて以前何度か購入したことがあるが、この世界に残っている火廣金は、ワレが渡したモノがすべてと考える』
「これは、貴重な金属なのでしょうか?」 と、陛下が聞く。
『刃物を作るには適している金属ではあるが、それ自体が特殊な金属ではない。
まあ、この世界では貴重な金属ではあるがな』
俺は、陛下にそれを献上した。
「また、これで刀を打ち直してもらってください」
「誠にありがたく、それでは頂戴いたします」
すると、少し遅れてドンドンドンと扉が強く叩かれた。
「何か大きな音が聞こえましたが、大丈夫でしょうか?」
と扉の外から声がする。
貴子はすぐさまシーの姿を消して、陛下は扉の外の人に来た人に、部屋の中に入ってもらう。
そして、火廣金を見せて、
「これを賜りました。
これは我が国のお宝の材料となる、大変貴重な物です。
神宮の刀鍛冶に連絡を入れて、すぐに取りに来るように伝えてください。
すみませんが、これを外に運んでください」
しかし、お年寄りの侍従の方はそれを持ち上げられず、さらに若い人を呼んで持って行ってもらった。
再び扉が閉められて、部屋はプライベート空間に戻った。
今、シーは貴子のスレイトに帰っている。
陛下は、ドレス姿の宮守と西脇 両名を前に呼び、話をする。
「今回、白神様をこちらにお連れ戴き大変感謝しています。
永きにわたり、両家及びその祖先の方々に、ここに礼を申し上げます」
そう言われると、陛下は深々と頭を下げられた。
「陛下、もったいのうございます。
御頭をお上げください」
「このような現代社会となり、恥ずかしながら、白神様のお姿は、もう拝謁させていただけないものと勝手に考えておりました。
決して先祖からの言い伝えを信じていなかったわけではございませんが、最後の記録から既に数百年以上の時が過ぎ、私自身がちょっと揺らいでおりました。
しかし、貴方たちはそれを信じ続け、今回見出してもらえなければ、こうして再び白神様のお言葉を聞けることはできなかったと思います。
皆の常日頃のご活躍があってこそ、今回拝謁が出来たものと思っております。
宮守一族の者、本殿や分祀の神社で黒妖を守りし者にも、私からの感謝を伝えてください。
また、西脇一族の者にも、同じく私からの感謝を伝えてください」
「もったいない御言葉、我ら一族、今後も力の限り努力させていただきます」
頭を下げたままなのでよく見えないが、声から二人とも泣いているように聞こえる。
「さて、加納貴子様、加納慎二様。 ちょっとよろしいでしょうか?」
は! 陛下、このタイミングで 俺ですか?
俺達は陛下の前に歩み出る。
「ここからが、今日お越しいただきました要件です。
その卓の上にあるものは、これまで私どもで、白神様よりお預かりしております物でございます。
それをお返ししたく、お話をさせていただければと考えておりました」
えっ? 俺達は陛下に預けた物など無いけどな?
臙脂の布が掛けられた置台を見て話されるので、それの事だろう。
「以前より、何度も白神様にはお力を賜り、そのお礼として従者、 いえ、その時代のマスターの方に贈られたお礼が、そのまま私どもに残っております。
今でもそれについて我が一族で管理しております。 また、白神様からお借りいたしました物で、そのままお返ししていないものもございます。
それは、私どもの宝物蔵にて保管されている物であったり、土地であったりします」
あぁ、そういう事ね。
「我が祖先から受け継いでおります、それらお預かり品の目録を受け継ぐことが、一族の主を継承する為の、一子相伝の重要な儀式となっております。
これで、永きに渡り一族で受け継いできました大義に、ようやく終止符を打つことが出来ます。
終止符を打つことこそが、われら一族が代々に渡り願ってきた事でございます。
そして、本日それら目録の品々をお返ししたく考えております」
「婆さん、どうするよ」
「これ! 貴子とお呼び!
そのような話は、子供の私にはわからんので、お前に任せる」
ずるいぞ、こんな時ばかり幼女のふりをするなんて。
「貴子は俺に一任で良いのか?」
「良い」
「では、陛下。 それらはこれまでお預かりいただきましたお礼について、すべてそのまま陛下に寄贈させていただきます。
今後そのリストは引き継がなくって結構ですので、お好きなようにご使用ください」
「私どもでお預かりしています物をお売りして、お金でお支払いできれば加納様にもお受けいただけるかもしれません。
しかし、多くは国宝の指定を受けており、それらはいずれも値がつけられない品でございますので、売ることは難しい事であると思います。
それでしたら、物品につきましては、今しばらく私どもの宝物庫でお預かりさせていただきます。
あと、お預かりしています土地も多くございます。
必要な土地がございましたら、いつでもお申し付けください」
陛下は大きな地図を広げられて、印が付いている場所を示してくれた。
印は日本全国にいくつもあるようで、それら印は宮内庁の管理地と書かれている。
中には、俺も知っているような堺の大きな古墳も何個か含まれていて、前方後円墳や円墳の形をしていた。
世界遺産じゃん! それ。
いくらあげるよと言われても、そんなのって、今更個人名義の土地には絶対にできないよね!
やはり、それら古墳の土地については、ご先祖のお墓となっているであろうから丁重にお断りすることにした。
また、山の中にも同様に印が付いており、岐阜にあった貴子の里付近にも別の印が付いていた。
その印は欄外に白神様と書かれている。
あぁ、あの場所はもともと神社の管理地で、今婆さんの名義になっていると言っていた。
そうか、あの一帯は本当にシーの土地だったのか。
「陛下、今後の調査にもよりますが、その結果では山の中の土地を一部お返しいただく事になるかもしれません。
それは今後、貴子とシーが現地を調査しての判断となります」
「今私ども一族には、お預かりしている物の所有権の返却くらいしかできる事が有りません。
以前のように新たに大きな土地を差し上げたり、特別な財宝を与える力はございません。
すべては国の管理の中に置かれており、私どもができる事は限られています」
そう陛下は言いながら、宮守さんと西脇さんに目線を向ける。
「白神様の黒妖や、慎二様の新たな黒妖のお役に立てますよう、彼女たち2名を、貴子様、慎二様の元にお預けさせていただきます。
そして、白神様からご下命がございましたら、彼女たちを通じて私どもへご連絡いただけますと幸いです。
こちらの西脇は、慎二様とお仲間のお役に立てるようにと、新たな計画をも持っていると聞いております。
私が国の財政や政治を直接動かす事はできませんが、なにかとお力にはなれると思います」
なんだか大変な話をいただき、食事会は終了した。
その後、改めて宮守さんと西脇さんから挨拶があった。
すでに話は決まっていたようで、宮守さんは基本として貴子のサポートに着くようだ。
もともと貴子の黒妖ことスレイトが宮守さんの神社に関しているので、自然とそうなったようだ。
また、俺には西脇さんが付くが、これは彼女のトンデモ国造り計画のために、俺に押し付けられたようだ。
ますます退路が絶たれることになり、本当に俺に新しい国づくりなんてできると思っているのだろうか。
新たなミッションが積み上げられ、俺は少しうんざりとして、ブルーな気持ちになっているが、皆は新しい仲間が増えたとお気楽に騒いでいた。
火廣金って、レアメタルなんでしょうか?




