3-02-03 謁見と調印
西脇さんから語られた新たな計画。 慎二たちに吉と出るか凶と出るか?
外務省を後に、車は出発する。
今回の移動は小型のマイクロバスのようだ。
西脇さんは、さっき部屋を先に出て行ったが、その間になんと! ドレス姿に着替えてきている。
一同はざわざわとするが、普段から外交の席などでドレスを着慣れているのか、普通に着こなしている。
でも、この車内でその服はちょっと皴にならない? ドレス姿を見慣れていない俺は、変な心配をしてしまっている。
ここで、宮守さんも追いついてきたようで、彼女も同乗してくる。
なんと! 彼女もドレス姿であった。
俺達もフォーマル服なので、これから行くお昼ごはんは、ドレスコードが必要な、よほどの高級ホテルでのお食事なのかな?。
車が外務省を出発すると、すぐに皇居が見えてくる、
「ここが日本の王様みたいな方が住んでるところだよ」
って娘たちに説明していると、親切にそちらに車を寄せてくれた。
そして、車はそのまま裏手の門から中に入っていく。
「えっ、ここって中に入れるのですか?」
俺も初めて見る皇居の中に、キョロキョロ窓から見ていると、やがて車は小さな建物の前で止まった。
「こちらでお降りください」
と、運転手さんに言われた。
中が見学できるとはすごいなあ。
開いた車の扉の外に、モーニングコートを着た人が立ち、最後に乗ったドレスの2人を介添えしてくれている。
そういえば、自分も今日はフォーマルを着ているが... ん? この服は朝の写真撮影用に着たものではない事に、今更ながら気が付いた。
車から降りて建物の玄関口を見ると、ん? 見知った人が立って手を振ってくれている。
んー誰だっけ? うんっ?! 見知ったなどと言っては失礼か、テレビや新聞では見たことがある方だ。
あまりにもよくお顔は拝見させていただいているせいか、知り合いと錯覚した。
車を降りると、西脇さんと宮守さんに、
「いろいろと急な話で、あなたがたには苦労を掛けて、申し訳けありませんでしたね」
「いえ、滅相もございません。
本来このような場にお呼びいただくこと自体が我が一族大変名誉なことでございます。
我ら一族、この日のために何代にも渡り、準備を行ってまいりました」
二人は、深い礼をしたまま応える。
「お二人とも、頭を上げてください」
「「はっ!」」
スレイト通信で、皆にはこの方がこの国の君主であり、王様みたいな立場の方だと伝えた。
貴子は最初彼が誰だかわからなかったようだが、俺が 貴子さんが生きていた時皇太子だった方ですよ。 今は陛下です」 と伝えた。
そして、陛下はこちらに向き、
「こたびは、突然お呼びたていたしまして、申し訳ございませんでした。
本日は、いろいろと教えていただきたく思います。
また、これからご迷惑をお掛けすることとなり心苦しく思います。
しかし、我が国の繁栄のために、ぜひともお力をお貸しください」
俺は、何んのことやらさっぱり分からず、すっかり舞い上がってしまい、
「はぁ」
と、間抜けな返答しかできなかった。
そう言ってから、陛下は俺たちの手を順に、両手で握られてまわった。
そして、最後に貴子に対して、
「あなたが、今の白神様の... マスターと呼ばれているの方ですね。
本日はありがとうございます。
私どもも、幾代に渡り、いずれお会いできればと願ってきたのですが、私の代においてお会いできましたのは、誠に光栄です」
陛下から、
「今日は午餐をご一緒にと思い、準備させていただきました」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
舞い上がった内に食事が終わり、陛下とのお話はまだ続くようで、俺達は侍従さんの案内で別室に移動する。
そこには、小さな置台がいくつか置かれ、臙脂の布が掛けられた上には、何かが置かれている。
陛下から、
「どうぞ、空いている席におかけください。
ここからは、プライベートな部屋となりますので、私達以外の者はおりません」
席を勧められて各自座るが、椅子の横には小さな茶器を乗せるテーブルが置かれていた。
着席すると、陛下自らが各人へ、置かれていた茶器にポットからお茶を注いで回る。
西脇さんが、立ち上がってお茶のサーブを代わろうとするが、陛下はそれを手で制し、
「今日は私の大切なお客様ですので、ここは私にお任せください」
そういって、全員の茶器にお茶を注がれた。
「先日、白神様が東の社にお見えになったと連絡が入っております。
もし出来ましたら、私も一度白神様とお会いしたいのですが、お目通りいただけるものでしょうか?」
「ふむ」
貴子はそういうと、黒妖ことスレイトを出し、シーに限定ビジブルを指定して、大きな白狼姿のシーを陛下の前に出す。
今日はシーの尻尾がフサフサとゆっくり動いている。
「おぉ! 言い伝えの通りのお姿です!」
多分神社からの報告ですでに聞いていた陛下は、少し驚きこそしたが、取り乱すようなことは無かった。
そして、壁に立てかけてあった絵馬を持ってきた。
「これは、天皇家に代々引き継がれてきた絵馬であり、一般には公開されておりません。
この絵の通りのお姿で、驚きました」
「その絵はシーなのか?」
貴子は、シーにそう聞くと、シーは陛下にも聞こえるように
『うむ。 この次元空間で我が存在する5000年ほどの間で、この形態をとっているスレイトヘルパーは、知る限り我だけじゃ。
我も、何度か当代の天皇という者と接した事がある。
であるので、その絵はたぶん我と我がマスターの姿と思うぞ』
驚愕の事実が判明した。
『そして、その絵のマスターが手にしたものからすると、いまから900年ほど前に渡した物かもしれぬ。
マスターからその時の権力者に送った物のようだ』
「あの、恐れ多くも白神様にお聞きしたいことがございます。
もしお許しいただけるのであれば、質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」
『うむ。
ヌシの先祖には世話になった。 何でも聞くがよい』
「恐れ多くもありがとうございます。
その、その絵で従者、いやマスターが持たれている物が、この机の物と言われておりますが、それで正しいでしょうか?」
『いな。 それは違う。
まず、そこの銅板は見たことが無い。
その時渡した物は黒い板。 そうマスターが持つスレイトをもう少し大きくしたような通信装置だ。
マスターが必要な時、それに話しかけることで、離れていてもヌシの祖先と話が出来る為の物じゃ。
ヌシの祖先はどこかの洞穴に祠を建てて、その通信装置を祀っておったとようじゃ。
こちらから呼び出しを行うと、ヌシの祖先が洞穴に一人で入って来て話をしておった。
大きさや形が何となくそれに似ておるから、形を真似して後世に作られたものではないか?
それと、その刀はマスターが渡した物とは、材料が全く違っておる。
マスターはなんでも切れるような金物が欲しいと言われ、ヌシの祖先にパラセルで火廣金を買って渡した。
その後、それで刀を作ったと言い、マスターに見せに来た。
でも、そこの刀は形は似ていても、材料がそれとは全く違うようじゃ。
最後に、その緑の石は、われが渡した物ではないが、先ほどの通信装置を配した洞穴の祠に入る時のカギだと思われる。
それを持つものが洞穴の祠を開き、中に入ったようだ。
しばらく通信は行われたようだが、ある時に通信への応答が無くなった。
こちらも、その後に当時のマスターが死亡した為、その後の事はわからない』
「白神様、誠にありがとうございます。
確かに、これはわが国に伝わる宝ですが、長い歴史の中、紛失した事が有り、やはりこれらはそこですり替わったようですね」
陛下はひどく寂しそうに言った。
がっかりした陛下の呟きに対し、シーがまたとんでもないことを言い出した。
なんと、陛下との謁見。 やはり黒妖と白神様には歴史がありました。




