3-01-01 さあ東京へ
今日から新編になります。
舞台は東京へと戻ってきます。
異次元人が、お役人である2人の娘に見つかってしまったため、東京へ連れていかれる事になった慎二たち御一行。
物語は、いよいよ慎二の運命を変えていきます。
ここまでのあらすじ
エンジニアである加納慎二の元に届けられた謎の黒い板スレイト。
それは次元を超えたショッピングサイト パラセルを操作する端末であった。
スレイトには、その端末の使い方を説明するヘルパーがそれぞれ存在し、慎二のスレイトのヘルパーは、アーと呼ばれることになる。
パラセルの奴隷として次元を超えてやってきたサリー。
慎二の部屋にあった貴薬草に呼び寄せられて来たようだ。
彼女は慎二の婆さんが残した貴薬草を無事に手に入れ、家族の元に送り、エリクサー生成により家族を無事に救うことが出来た。
さらに、マリアとイザベラが、それぞれ異なる次元を超えて慎二の元にやってくる。
マリアは自分の病気を治すため、イザベラは師匠の娘であり親友を救うための薬を求めやってきた。
マリアはこの世界に来て魔法が使えなくなり、イザベラは持ってきた大切な摩導具がすべて故障し動かない。
3人とも、新たな次元世界で生活していく手段をすべて失ってしまう。
異次元人であるサリー、マリア、イザベラは慎二を頼り、戸籍がないこの世界で生きていくことを決意する。
そして、新たな貴薬草を求めに旅した慎二の婆さんの里で、残された何株かの貴薬草を手に入れ、さらに幼女の姿となった婆さん貴子と出会うこととなる。
貴子は麓の神社で自分のスレイトと出会い、ヘルパーであるシーとも再開し、元の記憶を取り戻すことが出来た。
しかし、その里で厚労省の検疫課に見つかってしまい、強制的に施設に送られることになった。
そして物語は続きます。
俺達は、昨日出張所で見た品川ナンバーの黒いワゴン車に乗せられていた。
朝食も食べずに、急いでの出発となった。
説明がほとんどなく、慌てて連れ出されたので、解剖はされないと思うが不安である。
一行は、そのお役人2名と、俺と3人娘、貴子、真希だ。
8人乗るとかなり狭く感じ、シートが埋まってしまった。
昨日の相談で、貴子の事は、親父には連絡しないことになった。
まさか自分の母親が、自分の孫ほどの年齢の幼女として現れたら、どれだけ衝撃が大きいことか。
すでに死んだと思われた人間が、子供の姿でひょっこり出てきたら、世間的にまずいだろう。
貴子は既に社会的に死亡したことが確定しており、今の俺が異次元人を抱えて戸籍で悩んでいるように、世間にばれると同じ悩みもう一人増えてしまう。
貴子本人の意向もあり、無かったことにすることにした。
スレイトのことを知らない人たちには説明できないので、貴子が言う通り、知らせずにこのままそっと蓋しておくのが一番良いと思う。
そして、貴子は血を分けた孫である俺が、しばらく面倒を見る事になった。
見かけが自立できそうな年齢になるまでお願いすると言われた。
まあ、この年齢だといくら中身が老人だと言え、この世界では保護者が必要だしね。
すべての事情を知っている身内である俺達と行動するのが最善であろうと思う。
まあ、俺もこれからどうなるかわからないが、一蓮托生だ。
お役人たちも、あの場に同席して、内情を一緒に聞いていたので、何か良い知恵がもらえると良いのだが。
あ、ちなみに婆さんと言うとひどく怒るので、貴子と呼ぶことになった。
幾つになっても、女性は女性のようだ。
貴子は里の事が心配との事であったが、今回はお役人の都合で、強制的に一緒に連れてこられることになった。
里での薬草収穫が駄目でになっていると、シーから聞かせられており、すぐにでも確認したいようだ。
そういえば、おれはドローンで撮影した里の映像がある事を思い出し、それを貴子に見せてあげることにした。
スマホを見た貴子は、
「なんじゃこれは! スレイトか!」
そうか、貴子が亡くなる前は、パソコンはせいぜいノートパソコンの時代で、電話もようやくスマートフォンが広まり始めたころだな。
また、画面に映る動画にも驚いていた。
昔だったら、ヘリコプターから撮影したような里の映像が映っており、どうやって撮ったのかわからないようだ。
里にいた時ですら上空から里を見た事は無いはずなので、一望が見れて嬉しそうだ。
貴子の隣に座っている真希が、その映像を見ながら、自分で探索した時の状況を貴子に説明していた。
真希は、突然東京に行くことになってしまったが、それが外務省と厚労省のお役人から同行を求められたと課長から連絡してもらってある。
まあ、現在無職中とのことなので、良い息抜きにはなるだろうか?
これから数日間、俺達と行動をともにすることになった。
神社を早朝に発った俺たちの乗った車は、中央道を走り続ける。
ちょっと気が緩んできたのか、誰のかは判らないが、腹時計が『グウッ』と10時の時報をお届けしました。
その時報がきっかけではないが、深い山間部も終わりかけ間もなく都内へ入ろうかというところで高速を降りた。
東京に近いとはいえ、この界隈はまだ山林が多く、都心の雰囲気には程遠い。
車は湖の横を抜け、民家が途切れた細い道をしばらく走ると、やがて大きな施設の前に到着する。
施設周囲は金属網の柵でかこまれている。
中央にあるゲートに車が近づくと、車用のゲートが自動的に開かれた。
車はそのまま施設の敷地に入り、遠くから見えた建物へ到着する。
壁面には小さな窓しかなく、打ちっぱなしのコンクリートの研究所みたいな建物だ。
車は正面玄関には停まらずに、そのまま通り抜け、一番奥の何も表示がない入口に止められた。
全員車から降りて、入り口に向かう。
「心配しないでください。 ここは通過儀礼です」
後ろを歩く外務省の西脇さんからそう言われた。
俺、サリー、マリア、イザベラ、貴子、真希は、二人のお役人西脇さん、宮守さんに挟まれた形で歩いていく。
先頭を歩く厚労省の宮守さんから、ここに来て初めて説明される。
「この施設であれば、普通に話せますので説明します。
私は特殊な仕事についており、誰が聞いているかわからない場所では話せなかったので、あなた方には私たちの施設まで来てもらいました。
ここは私ども厚労省の施設でして、特殊外国人の検疫ができる施設で、あなた方異世界の人たちの検疫検査や処理を行います。
もともと感染症についての研究施設でしたが、異世界や異次元などから、ここ日本に訪れた方が未知の伝染病がないかを検査し、予防を行うための施設です。
まだ、この世界に対して、ここのような施設や私たちの業務を話すわけにはいきませんので、厚労省では極秘に作業を行っています。
ここからが本題です。
神社では、白神様の話でこの人たちについてはすっかりと忘れられていましたが、異次元からいらした異世界人の方は検疫が必要なのです。
それで、本日は異世界の方、そう彼女たちに直接接触された可能性が高い方におきまして、ここにお越しいただきました。
陰性であれば、それまでですが、もし陽性ですと、これから濃厚接触された多くの方の検疫を開始することになります。
西脇さんは、こちらにいらしたことはありました?」
「初めてよ!」
ちょっとムッとした感じで、答える。
彼女たち外務省がファーストコンタクトを行った後、厚労省に検疫をお願いする事を考えていたので、油揚げをさらわれた彼女としてはまだ怒っているようだ。
「あ、説明が遅れましたが、特殊外国人というのは異世界など検疫の免除の協定が無い世界、もしくは未知の世界からの来訪者の方をそう呼んでいます。
政府としましては、新たなる病原体が国内に持ち込まれる恐れがある地域の方々につきましては、とりあえず強制的に検疫が義務付けられています。
外宇宙からいらっしゃる異星人の方につきましては、文科省で宇宙観測体制が出来ているために、最初にここに誘導いただいています。
しかし、異次元からご来訪される方につきましては、外務省さんがまだうまく対応できておりませんので、お迎えが遅くなりましたことを、お詫び申し訳あげます」
そう宮守さんは言うと、むすっとした表情の外務省の西脇さんに視線を向けた。
「この後皆さんのここでの検査に入りますが、健康診断の人間ドッグと思って明日までのんびりお過ごしください。
あと、異世界の方の中には、検査の結果で病気が見つかる場合があります。
ご本人がご希望される場合、簡単な疾病でしたらこの施設の滞在中に処置をさせていただいております」
「あの、彼女たちは、既に人と接していますが、大丈夫でしょうか?」
「先ほども申しましたように、まず陰性である事の確認を最優先しています。
厚労省としましては、今回異次元の方と接触できたのは本当に偶然です。
今回はたまたま宮内庁ルートで白神様についての連絡が入りましたので、私は神社に向かったので、そこでお会いすることが出来ました。
本来もっと早く外務省がコンタクトを取ってさえいれば、他の方への接触もほとんど無かったと思われます。
彼女たちが陰性であれば、他の方についても問題はありませんので、急いでこちらにお越しいただいたわけです」
「もし陽性であればどうなるのですか?」
「ここのような施設は国内に3箇所あり、神社の方たちや、加納さんのお住まいの周辺の方には、今後検査をお願いすることになります。
外務省からの調査では、お買い物とお食事に行かれたお店以外での接触は無さそうですので、やはり本日のあなた方の検査結果待ちですね。
何もないことを願っております」
そうか、既にお店の調査まで行われていたのか……
接触直前に、俺たちが急に里に移動してしまったために、ターゲットが消失したと第9課では大騒ぎだったと聞いた。
街中に監視カメラがこれだけつけられた世界で、身を隠すことは至難の業である。
それが、俺たちがいきなり山の中に移動したことで、そのごく限られた監視網の盲点に入ってしまい、監視の目から外れてしまったようだ。
しかし、すでに多くがバレていたことがわかり、時間の問題であったみたいだな……
今更ながら背中に冷たい汗を感じた。
やっぱり、連行されちゃうのでしょうか?




