2-05-04 東の分祠
お知らせ:
2020/05/23 06:00頃に本編一部を外伝に移動しています。
そのために本編ブックマーク位置が5話分減っていますので、新作が5話分戻っていますのでご注意ください。
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西脇さんの話から、日本政府が次元空間の観測を行っていることを知り、マリアとイザベラの世界をマーキングすることに成功しました。
あとは、エリクサーを作る方法がわかれば、イザベラの友人を救うことが出来そうですが、間に合うといいですね。
俺たちは真希さんが運転する車で神社へ向かう。
助手席にはサリーが乗りたいと立候補する。
俺たちの後ろには、出張所の課長さんの車が続く。
今日は、課長さんは出張所の軽トラに乗っているため、俺たちを乗せられないのだ。
車の中で、俺はアーから聞いた指示をメールにして送信しておく。
程なくして、樹木に覆われた神社が見えてきた。
楠だろうか? その神社には大きな木が何本もそびえており、その太い幹には、最近どこかで見たような、しめ縄が掛けてあった。
大きさから記念物級の木だなと思っていたら、本当に木の脇に国の天然記念物の立札が立っていた。
俺達の車は社殿から少し離れた、奥にある駐車場に向かい、そこで車を停め、課長さんは軽トラの荷台に積まれた荷物を降ろしている。
いくつかの荷物があるようなので、こちらから声をかける。
「一緒に運びますよ」
「お客さんに手伝わせちゃって、申し訳けないな」
駐車場には既に何台か車は停まっており、俺たちの後からも、さらに1台入ってきた。
(今日は何かイベントでもあるのかな?)
俺は、祝と|熨斗≪のし≫がかけられた、一升瓶2本を縛ったお神酒を持った。
皆で課長の荷物を持って社殿に向かうと、中から神官服のオジサンと何人かの巫女さんが駆けてきた。
この人は白い服ではなく、色がついた重厚な服を着ている。
「色々と頼んで悪かったな」
巫女さんが俺たちが持つ荷物を受け取ると、先に社殿に戻っていく。
「こちらが?」
課長はうなずき、
「先日役場で聞いた予定より、早く下山されたようだ。
こちらが、貴子さんのお孫さんの...」
課長さんが俺を紹介してくれる。
「加納慎二と申します」
「私はこちらの神社で宮司をしております、八神と申します」
神社の宮司職ってことは、会社でいうと社長さんか。
「それと、あとは俺の……」
そういえばこの娘達は俺のなんだろう? 奴隷なんて言えないし…… 言葉に詰まっていると
「お友達ですか? ははは、若い方はいいですね ウッ」
って宮司の後方から脇腹にパンチが。
「親父、セクハラ!」
高校の制服を着た娘が、駐車場から現れた。
宮司は、脇を押さえつつ、
「これ! お客様の前だぞ」
そして、うちの娘ですと、軽く紹介してくれた。
制服姿であったのですぐにわからなかったが、よく見ると先日山に行った時の巫女さんだ。
「先日の結界ですが、あの後もう一度行ったのですが、その時はもうあの石の間を先に進む事はできませんでした……」
「お祖父様がお待ちですよ」
と、話の途中で後から来た女性から声がかかり、話の途中であったが娘はペコリとお辞儀すると、くるっと身をひるがえし、社殿に小走りに走っていった。
あ、わざわざもう一度見に行ってくれたんだ。
あの後と言うと、土曜日は雨だったから日曜日かな? すると、薬草が見つかったころだな……
「いやぁ、私もこちらに婿入し20年超えましたが、女房と娘にはかないませんな」
そんな話をしていると、さっき巫女に声をかけた、赤い紅をさした年配の巫女さんが近づいてきた。
「初めまして。 私はここの|禰宜≪ねぎ≫をしております、八神と申します。 そこの...宮司の妻でございます」
と言って深くお辞儀された。
宮司のさっきのつぶやきを聞かれたようで、宮司は少し渋い顔をしている。
「私たちの自宅は市内にあり、娘は学校でしたので今日は早退させたのですが、少し遅くなり申し訳ございません。
この日に参加できたことを、ありがたく思います。
どうぞ、中にお入りください」
俺たちの後の車が彼女たちだったのだろう。
神社の拝殿の前には本坪錫が吊られ、賽銭箱が置かれて参拝ができるようになっているが、今日は参拝する人影はない。
本殿は、大きな広間になっていて、お祓いなどをここで行うようだ。
俺たちは本殿の脇を抜けて奥の広間に通されると、板間には分厚い座布団が敷かれており、すでに神主さんの服装のかなり年配の方が座られていた。
年配の方は白装束の神官服を着ている。
その神主さんは、立ち上がると課長に
「こたびは、どうも面倒をかけたな」
と言った後、俺たちを見る。
「ちょっと問題があったようで...」
課長はそう言うと、真希さんの後ろに隠れた小さな女の子をちらっと見るが、続けて
「こちらが貴子さんのお孫さんの慎二君です」
俺は紹介されると、その方はよいしょと立ち上がり、深々とお辞儀をすると、
「私はこの神社で名誉宮司を務めております、八神と申します。
本日はようこそお越しいただきました。
長らくこの日が来るのをお待ちしておりました」
「えっ、お待たせしてしまいましたか?」
「いえいえ、そういう意味ではございません。
私どもの神社にとりましては、本日は待ちわびた日でございます」
「俺は加納慎二といいます
それと、こちらにいるのは俺の仲間達です」
すると、背の高いイザベラをチラッと見た名誉宮司は、巫女さんに、
「若い方や、外国の方に|座布団≪おざぶ≫ではきつかろう。
今日は、|胡床≪こしょう≫を使うから、全員分をお持ちしなさい」
そういうと、巫女さんたちが、部屋の奥から折りたたんだ和式の椅子を持ってきた。
座面が布でできた、神社の式で見かける白木と白布のあれだ。
名誉宮司は気が利く人のようだな。
実際、俺も板間に座るのは苦手で、椅子の方が楽だ。
巫女さんたちは、座布団を片付けて、そこに胡床を広げていく。
すべて置き換えたところで、名誉宮司から俺たちに言葉がかけられた。
「本日は、我が神社に1000年の時を越える申し伝えにより、慎二君に伝えておくべきことがある。
これは、慎二君のお婆様である貴子さんに関することだ」
婆さんの事で1000年の時を超えって、何のことだろう?
俺達は訳も分からずに、座って待つことにした。
先ほどの女子高生も、再び巫女さんの衣装となって入ってきた。
これで、予定された全員が揃ったようで、名誉宮司は話を始めた。
宮司ではなく、名誉宮司が仕切るようだ。
「皆様、本日はお集まりいただき御苦労様です。
また、加納様には詳しい説明もできずに突然ご参加頂くこととなり、申し訳ございません。
これからその経緯についてもご説明をさせていただきます」
そう言うと、名誉宮司は俺たちの方に向き直り、話を続けた。
どうやら、他の人たちはすでに内容を知っている話のようだ。
「この後、西の本殿から宮内庁に出られております方が、この後東京からお見えになります。
予定ですと5時ころになるとお聞きしていますので、それまでに慎二君には、先にご説明を済ましておきたいと思います。
皆様よろしくお願いします」
開催の宣言が終わると、名誉宮司も胡床着席し、話を始めた。
「まずは、私どもの神社に語り継がれてきたお話をさせていただきます。
私ども当神社は1000年に渡る歴史がございます。
もともと我が|社≪おやしろ≫はこの地にはなく、西の地よりこちらへ遷宮してまいりました。
今でも、その西の地に本殿は残っており、この岐阜の地には分祠という形で移ってまいりました」
巫女に合図すると、1メートルくらいある古い大きな絵馬を持ってきて、俺達の目の前で見せてくれた。
「この神社の守り神は、この絵馬にある白い狼の姿をされた白神様でございます」
左側にシベリアンハスキーみたいな体格で、ゴツい白い犬?狼?が座っており、右側には小さな娘が描かれている。
立っている娘よりも座っている狼のほうが背が高いので、かなり大きい狼のようだ。
絵馬はかなり古く、すでに顔料も薄れてはいるが、大事に保管されてきたようで、なんとか見える。
絵の女の子は狼に片手を寄せ、傍らに寄り添って立っているようなので、親しい間柄のようだ。
「私どもには、これは物語りなどではなく、実際にあった話であると伝わっています。
西の本殿に残された記録では、あるとき白神様は本殿のあった西の地を去られたようです。
それからの時を経て、再びこの地で白神様がお住まいになられていることがわかり、1000年ほど前にこちらへ遷宮が行われたと古文書に記録が残っています」
しかし、単位が1000年とは気が遠くなる話だな。 その間はどうしていたのだろう。
「白神様は、過去の何度か、この国を治めし主の命を助けたとも伝わっております。
私どもでは詳しくはわかりませんが、各地に伝わる伝説の中にも白神様である狼の存在はあるようです」
あ、各地を転々としていたのかな?
「その言い伝えの一つとして、宮様にまつわる話もあるようです。
過去の宮様と白神様の繋がりは、私どもが詳しくお聞きする立場にはありませんが、1400年以上前から、いくつもの時代の宮家が、白神様には何度も助けていただいた事があったようで、代々白神様をお守りするようになったらしいです。
そして、その時に宮家から白神様を守ることを特別に託されたいくつかの家の者達がおり、今でも|地下≪じげ≫などとして、宮家にお仕えしております。
西の本殿を守る一族も同様に白神様を守るために建てられた社であり、いまでも血筋を継がれています。
現在も一族から宮内庁へお勤めに出されている方がおり、本日は夕方からこちらにいらして頂くことになっております。
私ども八神家は、西の本殿とは別の系譜を持ちまして、この地で白神様をお守りすることで、宮家にお仕えいたしてまいりました」
ここで、一度呼吸を整える。 ここからが本題なのかな?
「1000年ほど前、この地にやってきた白神様は、やはりお一人の従者を従えてこの山奥深くにお住まいになられたようです。
白神様が現れる時は、いずれの場所であっても、必ずお一人の従者を従えられてきたそうです。
ただ、その従者の方は普通の人間のお姿だったそうですので、残された各地の絵馬から推測するに、場所が変わるごとに男性や女性など、異なる従者の方が付いていたようです。
私どもの祖先も何度か山にいらっしゃる白神様の元を訪れようとしたらしいのですが、一度もお目通りができなかったようです。
時折、従者の方は山を降りてこられ、その時お願いを伝えると、白神様が現れて願いを聞いていただくことがあったそうです。
私どもは訪れることができるギリギリに結界を設け、そこに白神様に召し上がっていただけるように、白神様がいらっしゃる時は毎日お食事を献上していたそうです。
お届けしたお食事は、従者の方が白神様の元に持って行っていただいていたようです。
お届けしたお食事の内容などが詳細に書かれた古文書も、我が神社の宝として、保管されております。
ですので、実際にあった話と伝わっております」
ここで、一通り神社の歴史と絵馬の白神様のレクチャーが終わったが、それ以降の話はこれから来る宮内庁の人を交えてするようだ。
一度お茶休憩となった。
宮司の奥さん巫女が街で買ってきてくれた和菓子がふるまわれた。
「本当は秋にいらして頂ければ、もっと良い栗のお菓子をお出しできたのですが、この季節ですと甘露煮を使ったものが多いですね」
贅沢に栗を使ったお菓子で、少し濃いめに入れた煎茶とよく合い、十分においしかった。
白狼の伝説って、なんか古代っぽいですね。




