2-05-03 波動追跡
今回は途中から技術的な話が多いです。
俺が苦い汗を流し続けていた時、事務所の会議テーブルでは、皆が話に盛り上がっているようであった。
俺と西脇さんが会議テーブルに近づくと、宮森さんが、笑いながら西脇さんに
「ねぇねぇ西脇、聞いてよ! この子達、3人とも異次元人なんだって!」
なんですとー!!!! あんたら何話してくれてますか!?
そういや西脇さんの話に集中しすぎて、スレイト通信聞いていなかった!
俺の隣で、西脇さんが わなわな 震えている。
「嘘! ファ、ファーストコンタクトが、 私のファーストコンタクトが!」
西脇さんが、がっくりと崩れ落ちるのがわかった。
「今日はこのあと次に向かいますよ!」
そんな西脇さんを無視して、宮森さんはもう出かけると言う。
「あの、私まだ、コンタクトすら ちゃんとしていないのですが……」
涙目の西脇さん。
「今夜は加納さんは神社で宿泊らしいから、後でゆっくりセカンドコンタクトしてね!
私はだいたい話を聞けたから!」
この人おとなしそうな顔して、傷口に、思いっきり塩を塗りこんでいる。
「ねえ、宮守。 一生のお願いだから、後は私に任せてくれない?」
「あ、ごめーん。
それと彼女たち、 明日朝一番から特別検疫所に入ってもらう予約をもう入れちゃった。
検査の結果で陰性が確認されるまで、そこから出ることはできないよ。
多分明日1日は拘束が決定ね。
あと、あなたはワクチン打つ前に握手しちゃったから、直接接触者として一緒に検査の予約入れておいたわよ。
だから時間はたっぷりとあるし、そこでゆっくりと話しができるわよ。 よかったわね!
それから私たちの検疫が終わったら、あなたの部署の入国審査に回す事になるから、その依頼も検査課から出てると思うわ。」
千載一遇のチャンスだったのに、また厚労省に先を行かれてしまった外務省であった。
西脇さんは、ちょっときつい感じがして、切れ者で何かとっつきにくそうな感じがしていたが、どうやらその表の皮が一枚剥けたようであった。
あと、検疫なんて俺も聞いていないよ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
そんな出張所の会議テーブルが騒がしい中、同じ場にいながらも俺はスレイト通信でアーと緊急の会話をしている。
当然アーは、メンバー以外には姿を消した状態での会話だ。
『慎二、慎二! 私が慎二に提案をするように、急いで命じてもらえませんか?』
「何それ? どういうこと?」
『ヘルパーは、本来自分からマスターに提案することはありません。
でも、私はどうしても、今すぐ慎二に提案したいことがあります。
なので慎二が私に何か提案する事がないかと聞き、そして慎二から私に提案をするように命じてください。
それによって、私からも提案ができます』
「ん、いいよ。 何か提案あるの? あれば言ってごらん?」
『はい!!
先ほど、西脇さんがお話しされた外務省では、次元の揺らぎを観測されていると話されました。
今回の揺らぎをとらえた際の、そのデータを大至急入手する交渉を、西脇さんにしていただけませんか?』
「どういうこと?」
『パラセルは安定したシステムですので、商品発送や慎二がスレイトやストレージを使っても、次元の揺らぎは発生しません。
西脇さんが言われた揺れは、おおよそ異次元配送で最初にスレイトが慎二に届けられた時と、マリアとイザベラの転移と考えられます。
サリーの奴隷購入は関係ないと思われます』
「どうしてそうなるの?」
『サリーは奴隷商品としてパラセルが正規に販売しましたので、次元空間に歪などできていないはずです。
しかしマリアとイザベラは、転移石を用いて次元に穴をあけて転移してきています。
この穴はホールと呼ばれており、転移元と転移先の次元空間にホールを作り、転送後にホールを閉じます。
これは空間を無理やり広げて穴を開ける為、その歪により、双方の次元に空間波動、揺らぎが発生します』
「うん、うん、 それで?」
『先ほどの話を聞いていて、私も気になったので、今パラセルの電話相談室に相談しました。
もし、その外務省と言うところに観測記録が残されていたならば、ホール接続時の絶対空間座標が判ります。
さらに空間座標の変位がわかれば、転移元の現在の座標が推測できます』
「場所がわかってら何かできるのか?」
『空間マーカは、絶対空間座標を指定し、どこの座標の空間であっても設置ができます。
転移元の現在の絶対座標が分かった場合、こちら側から転移元に空間マーカを設置することができます。
そして転送石を用いることで、その空間マーカの場所と一時的に空間を接続することができます。
但し、計算が誤っていると、誰もいない宇宙空間に物体を放り出すことになりますが。
測定から時間がたつと、最初の軌道からは徐々に離れていきますので、計算が精度がどんどん下がっていきます。
そこで、お二人の転移時の観測記録データが残っているのであれば、至急解析をして、空間マーカを設置したいのです。
この機会を逃すと、転移石の送出ポイントは永久に探せないと思います。
その計算の為には、生の次元波動の観測データが必要です」
「なぜ、その加工されていない観測データが必要なんだ?」
『先ほどの西脇さんのお話では、この空間計測システムについて、信じられないことに単に観測方位が交差する点を探す事にしか利用されていないようです。
その次元波動の観測システムというのは、多分一般的に購入ができる程度の量産品だと思います。
入門用のシステムだと思いますが、それであっても、今回必要な最低限のデータであれば、自動的にキャプチャされているはずです。
そして、その最低限の生データでも、互いの座標空間が変位していく経過データが含まれています。
それがあれば、移動先が推測でき、そこから現在の絶対座標を割り出すことができます。
すごいでしょ! 実は私もつい先ほどパラセルから聞きました。 テヘ!』
「どうして、日本政府はその詳細なデータを使っていないんだ?」
『観測システムを購入した相手の異星人が悪かったのでしょうかね?
多分地球は未開地だと思われ、なめられており、使い方すらちゃんと説明されておらず、単に大金がぼったくられたのではないでしょうか?
本来この地球程度の大きさであれば、そもそも観測施設も1か所あれば十分であり、せいぜいバックアップでもう一か所ですかね。
それと、担当者は装置に付いていた取扱説明マニュアルを読まなかったのでしょうかね?
多分、分厚いのが付いていたはずですので、売った異星人も使い方の説明を省いたのでしょうかね?
あ、その取説に地球語の翻訳が付いていなかったりして……
しかい、複数の観測点から検知した方向を使って、その交点を求め、その周辺を人手で追跡するなど、とても考えられない原始的な方法です。
それって、パソコンの画面にソロバンの絵を表示して、マウスで玉を動かして計算しているみたいなものです。
いやそれよりも、もっとひどいですね』
「確かに、宝の持ち腐れだな……
そういえば、それってスレイトマスターが選ばれる最初の試練の時にも使われている行為に近いな。
文明の尺度を計るために、ひょっとして試されてる?」
『その大雑把な使い方から推測すると、観測課の人たちは次元座標が計算できることすら気が付いていないのではないかと思われます。
今回私が欲しいデータとしては、そうやってこの世界で求めた方位データではなく、そのような屑データでは何も意味を持たないのです。
だから、オリジナルデータが欲しいのです。
さらにこうしている間でも、時間経過とともに誤差が大きくなるため、計算と空間マーカの設定を急ぐ必要があります』
「理解した。 だったら急ごう! 俺たちは他に何をすればいいのか?」
『それには、計算終了と同時に設置ができるように、あらかじめ空間マーカをパラセルで購入しておく必要があります。
計算の誤差をマージンとして加味し、何個か同時に購入し、前後にも散らした空間座標に設置されることを強くお勧めします。
もし配置したマーカ位置の計算がずれていた場合、星の中や宇宙空間に送られることになります。
実際にマーカに向けた転移を行うためには、転移石をパラセルから購入する必要があります。
そして、最初は手紙のような紛失しても影響がないものをマーカに向けて送り出す必要があります。
もし元の送出地点から転送先がずれていた場合、全く関係ない人が手紙を拾ってしまいます。
たとえその場合であっても、本人まで確実に手紙を届けてもらえるように、その文面が重要となります』
「わかった、
マージンとしては、何個準備すればいいのか?」
『計算されたポイントを取り囲むように少なくとも3方向に置ければ、確率はかなり高くなります』
「アーは俺のパラスを使って、2か所分の空間マーカとして、8個買ってくれ。
サリーとマリアとイザベラは、手紙の文面を考えてくれ」
「あの、わたくしは特に送る必要はありませんが」
マリアは少し寂しそうな顔で言う。
「本当に、それで良いのか?」
『あ、その前に、波動解析で2つの次元のうち、どちらがイザベラさんの世界かはわかりません。
これが最後のチャンスとなりますので、両方に送られることを推奨します』
「では、やはり両方に送るしかないな」
『転移石を用いると、送り先に設定したマーカ付近に、送った物が届きます。
ですので、受け取った人が品物を着服せずに、目的の人にまで届くようにする必要があります』
「なんか受け取ったことが分る、返事みたいなことはできないのか?」
『誰が受け取るかわからない相手に空間位置情報を送ると、こちらの発信場所が特定されるため危険です。 最大強く推奨できません』
「わかった。 サリーみたいな訳にはうまくいかないか……
時間がないから今は何通か作る手紙をつくろう。
あとは外務省との交渉だな。
しかし、お役所が世間に公表すらしていない機密データを、俺みたいな人間に渡してくれるかな? 難しいな……」
『それには、一つ方法が考えられます。
生データから地球上の着地点について精密な割り出しができる専用の計算式を作り、それを提供します。
それぐらいの処理であれば、この地球の計算能力でも可能と考えます。
ちゃんとした座標が計算できれば、調査員が走り歩いているうちに到着を逃すくこともなく、速やかにコンタクトが可能となるでしょう』
真の目的を話すことは、交渉としてあまりうまくないと思われた。
アーが言うように、データから場所が求められる事にすら気が付いていないようなので、交渉条件としては小出しにしよう。
しかし、今回は何よりも急ぐので、これは交渉条件としてはかなり高いので、期限を切って条件にしよう。
出張所では、西脇さんと宮守さんの漫才なような会話に隠れて、そんな大変な話がされていたことを、誰も気が付いていなかった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
俺が出張所に3人を連れてやってきた連絡を受けてから宮内庁は大変であったらしい。
陛下から管理をお願いされている神社の黒妖と関係した人物が現れたからだ。
出張所から連絡を受けた神社から宮内庁へと連絡が行き、そこから連絡を受けた彼女たちが動き出したようだ。
西脇は連絡を受けた際にさほど興味を持っていなかったが、偶然なのか、それが彼女がマークしていたと同じ人物である加納であることを知った。
そして、宮内庁からの連絡で宮守が実家の関係で彼に会いに行くことを知った。
俺が知らないところで、多くの人が動いて、繋がっていったようだ。
俺は出張所で西脇さんを通じ、特別外交9課に、一つの計算式を教える代わりに、生データのコピーを要求した。
西脇さんは、最初俺が何を言っているのか解らなかったようである。
でも、その計算式が、ファーストコンタクト以上に、9課にとって、いや日本国にとって、重要な式であることを何とか理解してくれた。
落ち込んでいた西脇さんであったが、一転やる気を出して、出張所からテキパキと指示を出し始めた。
最終的に部のトップをも説得し、トップ裁量をもらい俺との交渉が成立した。
その時には俺たちは既に神社に出発していたので、途中で上司の許可が出た連絡が入った。
しかし、肝心の観測データを持つはずの観測課からは、つれない回答しか返ってこなかったようだ。
そんなデータは無いだとか、古いログは廃棄したなどと言ってきているとのこと。
トップの許可は出ているのに、どういう事だろう。
アーの推測を聞いていた俺は、彼らは本当にデータの事を知らないのかもしれないのでは?と推測した。
少しこちらの手の内を開示してしまうことになるが、時間が惜しいので、アーが推測した観測システムのデータエクスポートの操作方法をメールで送った。
ビンゴ! しばらく待つと生データを得られたと西脇さんから連絡が入った。
担当者も知らないような機能を指示されて、先方では大騒ぎになっているらしい。
システムには観測データは残っており、単に担当者が観測システムの使い方を知らなかったようであった。
そして、その出力データ仕様は、アーの期待通りの、共通フォーマットであった。
やはり取説は全く読んでいなかったようだな。
多くの情報を含んだデータがあるのに、これまで使いこなせなかった事がばれてしまったので、しばらく担当者は大変だろうな。
まあ、それも今回の計算式により、これからは大きく進歩できると思うけどね。
仮にデータが得られたとしても、まだマーカに送る手紙の文面に命運はかかってくる。
これは、サリーに考えてもらおう。
それにしても、アーはなんか変に成長していないかな?
すでにヘルパーの域を超えたサポートをしてくれているように思う。
あと、マリアとイザベラが転移してきた際のマーカは安いワンタイムの物であったが、今回の設置した転移石は普通の物なので、一度使ったからと言って消えはしない。
できる事であれば、サリーのコンタクト用にも、将来にわたり安定的に連絡ができる方法は必要だな。
俺としてもサリーのお父さんに、もう少しスレイトの裏技など教えてほしいことがあるしな。
あ、もちろんサリーの事も聞きたいですよ。
あーあ、完全にばれちゃいましたね。
日本の観測室は、もっと勉強の必要がありそうですね。




