2-05-02 敵か味方か?
老医師の診察では健康なようでちょっと安心した慎二君でした。
彼一人での入山だったら、変な推測されるところでしたが、女性が多くて良かったですね。
とりあえず、老医師の診察も終わり、意識もはっきりしてきた幼女は特に健康上の問題がないといわれ、体全体を調べたが事件性のようなものは無いと言われた。
体つきも特に痩せたとか、顔色が悪いとかいうことはなく、こうして服を着ていると普通の女の子に見える。
意識もはっきりしてきたようで、簡単な会話ができるようになってきた。
ただ、質問としておなまえは?とか、いくつ?という質問は理解できないようで、首をかしげている。
「あっち」とか、「こっち」 のような簡単な単語は出始めているので、まだ予断は許さないが、大至急大きな病院へ連れて行かねばならないと言うことは無さそうだ。
先生が、俺を陰に呼び、そっと俺に聞く。
「あのお子さんが、さっき初めて口をきいたのじゃが、それが「先生、おひさしゅうございます」と言いよったが、どういう事じゃ?」
なんだそれ? ここは俺の地元じゃないので、そんなこと知りませんよ。
「ちょっとわかりませんが、先生のお知り合いですか?」
逆に、質問で返してしまった。
事件性も含め、体の痣や怪我も調べて記録していたため、診察にはすこし時間がかかったので、すでにお昼の時間がかなり遅くなってしまった。
だが、この周辺には食事ができるめし屋はなさそうである。
俺たちは、キャンプ用の食事を持ってきていると言って、先ほど水浴びをした事務所の裏の場所を貸してもらう事にした。
老医師にも声をかけたが、食事は家で奥さんがお待ちのようで、原田課長に挨拶すると、そのまま急いで帰って行った。
俺は一人で事務所の裏に回り、ストレージからテーブル、椅子を6人分出す。
真希と幼女の分も一緒だが、小さな女の子が食べる食事が判らない。
とりあえず、大人用にはハンバーガーを出し、幼児にはおにぎりを出すことにした。
高速バスのターミナルにあったコンビニで買った、梅干し、コンブ、辛子明太子、しょうゆ漬けいくら、ツナマヨ、海老マヨ、チキンマヨ、牛カルビ、オムライスがある。
紅しゃけは俺とマリアが食べてしまったので、既に売り切れである。
残っていたおにぎりと、サンドイッチを出してテーブルの中央に置く。
あと、ペットボトルも並べた。
事務所から、皆を連れてくる。
どれでも好きなものを召し上がれ! というとサリーは真っ先にハンバーガーを3個確保する。
しまった、最初に制限しておくのを忘れてた!
まあいいか。
皆さん適当に選んでいく。
幼女はと、ふと見ると、なんと梅干しおにぎりを食べていた。
しまった、酸っぱいのを出したままになっていた!
と思ったのだが、美味しそうに梅干しを食べている。
これは、あらかじめ種を取ったもののようで、誰にも聞かずに海苔を巻いたおにぎりを、美味しそうに食べていた。
あれ? 君は海苔ってうまく巻けるの?
よく見ると、俺と同じように半分海苔がずれて巻いていた。
それを見て、なんか親近感を覚えてしまった。
2食分くらい並べたつもりの食事だったが、全員山から下りてきたので、お腹が空いており、綺麗に全部食べ切ってしまっていた。
うーん、エンゲル係数はやはり高そうだな。
相変わらず、幼女は真希が面倒を見てくれている。
この後、どうなるかな。
さっき原田課長が警察は出張所から届けてくれるように言っていたので、たぶんこのままお願いしていくことになるが、何か申し訳ないな。
皆で、ワイワイと食事をし、そうこうしているうちに、出張所に新たな車が入ってきた。
大きな黒塗りのワゴン車で、品川ナンバーだ。
時計を見ると、すでに2時前くらいになっていた。
先に皆を事務所に戻し、俺は最後にテーブルをストレージに収納してから事務所へ向かった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
俺が遅れて事務所に入ると、中では二人の女性が立って待っていた。
一人は、パンツスタイルの黒のスーツに身を包んだ、ちょっと細目できつそうな女性。
もう一人も黒のパンツスタイルだが、上着は来ておらず、白のブラウス姿である。
二人とも胸にはIDタグをぶら下げている。
原田課長は、皆を会議テーブルがある場所への移動を促す。
きつめの女性が最初に名乗り、
「外務省 特別外交9課の 西脇唯華と申します」
そう言って、俺に名刺を出してきた。
あれ? 課長のところに来た人じゃないの?
「あ、すみません、俺はここの出張所の人間ではありません」
そういって、原田課長を目線で追うが、俺が名刺を受け取っていいらしい。
「俺は、加納慎二と申します。
今旅行中で、申し訳ありませんが名刺は持っておりません。
俺もここの場に出席した方が良いのでしょうか?」
俺と後ろにいた3人娘は、西脇さんと軽く握手をした。
「私は、厚労省 特別検疫9課 宮守珠江と言います」
「俺は、加納慎二と申します」
外務省と厚生省と聞いて、俺はちょっと嫌な予感がした。
3人娘は、スレイト通信で少し遠ざける。
西脇と名乗った女性が話を始めた。
「加納さん、宮森はこちらの神社を訪れるに参ったのですが、私は本日あなたにお会いするために宮森に同行させていただきました」
そういうと、俺は視線をサリー達の方へ泳がせてしまった。
「私どものセクションは、特別に日本に到着された方の対応を行っております。
何か、そういった事に何か心当たりがございませんか?」
さっき俺の視線が泳いだことを見逃さず、ど直球で質問をぶつけてきた。
「あ、原田課長さんでしたっけ、お電話では失礼をいたしました。
もしよろしければ、どこか個室をお借りできませんでしょうか?」
げっ、あ、こりゃ本当にヤバ印かな。
ごはんに盛り上がって、サリー達を隠すのが間に合わなかった。
「あ、慎二君、西脇さん、どうぞこちらへ」
あれ、サリー達は呼ばれないの?
だったらこの間にそっと逃がそう。
そう思ったが、宮森さんがにこやかに3人とお話をされている。
既に一歩で遅れてしまったようだ。
個室には、原田課長は入らずに、俺と西脇さんだけが入ることになった。
「お友達の外国の方がいらっしゃると、話しにくいこともあるでしょうから、個室にしました」
えっ、質問されるのは、俺なの?
なんか犯罪者みたいな扱いだな。 そうか、密入国者を隠匿してるか。
「俺に、何の用でしょうか?」
「先ほど申しましたように私たちのセクションは、異なる国の人が来日した際、対応するために作られた特別セクションです。
最近私たちが誇る優秀な検出システムが、不審な形跡を発見しました。
それは、あなたがお住いの地区でして、多くの捜査員がその痕跡などを調査していました。
先日、加納様はかなり特別な行動をされていらっしゃいましたね?」
えぇ? 何がばれたんだろう。 サリーの焼き印かな? えええええ!
「あ、そんなに緊張なさらなくとも、別にあなたを捕まえに来たわけではありません。
この写真をご覧いただけますか?」
彼女が机に置いた何枚かの写真には、俺が写っていた。
店から出てきて大きな荷物を持っている写真。
路地に入った写真。
荷物が無くなった写真と、周辺の背景から明らかに連続でとられた写真だった。
写真はいくつかの商店で買い物の写真の後、マンションに手ぶらで戻っている俺。
「一応お買物されたすべてのお店では、確認を取らせていただきましたが、ものすごい量のお買い物をされました様ですが、マンションにお戻りの時は手ぶらですね。
荷物はどうされたのでしょうか?」
あかん! 完全にばれている。
「それはですね。店を出たところで、全部食べてしまいました。 僕大食いチャンピョンなんです」
「あー、そうだったんですね。
それで、荷物はどうされたのでしょうか?」
「手品で消しました」
「あー、そうだったんですね。
それで、荷物はどうされたのでしょうか?」
これ、あかん奴だ。
「で、何が聞きたかったのですか?」
「本当に、荷物はどうされたのですか?」
逃げるにも人質が3人いるし、話すしかないかな?
「こうやって、手品をしたんです」
そういうと、残っていた店で買った大量の食品をドカンと机の上に出した。
「キャー」
西脇さんの悲鳴に、原田課長が部屋に飛び込んできた。
「これどうしたのですか?」
机の上の食べ物を見て原田課長が聞いてきた。
「あ、大丈夫ですから、入室しないでください」
そう言われ、後ろを振り返りつつ原田課長は応接室を出て行った。
「これ、冷めちゃうので、しまってもいいですか?」
「すみません、取り乱しました。 手品で消していただいて結構です」
「変な聞き方をして申し訳ありませんでした。
今のでわかりましたので、もう少し詳しい話にします。
私の課は異次元からの来訪者を探しています。
そして先日、私たちが次元配達員と呼ばれている、異次元から来訪した人物が登場し、慎二さんのエリアに出没したようです。
異次元から来訪と言っても、一般的なタコやイカの宇宙人とは異なり、私たちと同じような姿をしていると言われています」
タコやイカの宇宙人?
「その時、何か荷物を置いていったと思うのです。
それがどのような荷物かわかりませんが、この世界の物ではないと考えられています。
そのために、それを受け取ったのではないかと言う人物を探しておりました。
商店街での加納様の奇行を目撃した人間がたくさんおり、こちらの写真が撮影されております」
うーん。 ある部分バレているのはわかったが、なぜかサリーの話が出ないな?
俺はちょっとカマをかけてみることにした。
「あの、その異次元人とやらに会ってみたいのですが、今会えますか?」
「すみません、どこかに届け物をした後、帰ってしまったようですので、もう会えないと思います」
多分俺が怪しいと思っているが、やはりサリー達をうたがってはいなさそうだ。
「それで、俺に何を聞きたいのでしょうか?」
「えっ! それでは加納様が異次元人と接触されたので間違いないのですか⁉」
「多分そうですね」
「えっ! そうすると、あなたが我が9課が始まって以来、初めての異次元人の目撃証人となります!
異次元人とのファーストコンタクトまではあと一歩です!」
あちゃー、こりゃ ちょっと先走ったかな。
「一般の国民には知らせておりませんが、私どもの観測課は日本中に何か所かの観測施設をもち、常日頃から異次元からの来訪者を観測しています。
その観測システムは異世界から購入した特別製であり、観測されたデータから出現点の方向がわかります。
複数の観測施設から、次元の揺らぎを観測し、出現方向の交点を求め、出現位置が特定できる高度なシステムを使っています。
今回現れた異次元人が、加納様のお住いのエリアに出現しましたので、先日からその地区をくまなく調べていました。
そして、今回初めて異次元人と接触された方にお会いできたわけです」
地下深く、秘密裏に設置された施設でもあるのかな? 影みたいな。
「加納様にはいろいろお聞きしたいのですが、今日はこの後、宮森と神社へ行くことになっていますので、ご一緒に同行をお願いします」
そう言われると、一旦は応接室から解放された。
ついにばれてしまった慎二君。
慎二君が解剖ですかね?




