2-05-01 出張所へ
なんと発見されたのは、お宝以外に、人間の幼女でした。
幼女保護から一夜明けた。
夜が明け、周辺が明るり始めると、下山のために急いで撤収準備を始める。
ここは山の影となるため、平地より日の出は遅い。
そして、残念ながら、この朝も畑に変化はなかった。
とりあえず、昨日から幼女には一番小さいサイズである、サリーのTシャツや下着を着せてある。
起きているのか寝ているのかわからないが、呼びかけても反応は無く、焦点が定まらないぼんやりした感じで、早く医者に見せないとと思っている。
本能なのか、食べ物を前にすると、それらは食べられるようだ。
俺たちの朝食は時間を節約するために、焼きたて菓子パンにした。
おかずは無しで、いくつものパンをテーブルに並べて、自分で選んで手で食べる方式にした。
別のメニューの方が良かったのかな?
幼女は、まだ食べられそうにないかと思って、椅子に座らせていたら、「アレ」と指さし、しっかりと食べたいパンを指定された。
まあ、食べれるときは、量を見ながら食べさせることにした。
食後は、ペグを外したテントやトイレなどを一気にストレージに収納する。
急いで山を下りる事しか頭にない俺は、真希の事も頭から消えていた。
昨日、真希が運んできた、リュックに荷物を止めるための、幅の太い荷締めベルトを利用して、即席の抱っこベルトにする。
残念ながら、今回は背負子までは買っていない。
それこそストレージがあるので、そんなものは本来必要がない。
しかし、前抱きのお姫様抱っこでは、山道歩きは危険と思われる。
バスタオルなどをベルトにあて、女の子をベルトに座らせて、さらに体をきつく締めつけないように、紐で俺に縛り付ける。
幼女を伴った俺たち一行は、朝6時前には全員で下山を開始した。
全員の荷物はストレージに収納しているが、やはり子供を一人抱えるだけで、とても大変だ。
麓まで、俺が抱いて行くと言ったが、途中で一度真希が代わってくれた。
しかし、真希は昨日、背中に大きな荷物を背負ったまま、この子をベースにまで一人で連れ戻ってきた。
しかもその時この子は意識もはっきりとせずに、脱力していたと思われ、今日はかなり疲れているはずで、頭が下がる思いだ。
貴子の里を出て、山をしばらく降りると、神社の結界のある場所まで降りてきた。
ここまで来ると、携帯電話の電波が届いている事は以前確認している。
さすがに神社の結界では、電波に対しては無防備のようだ。
ここまで来ると、ここから麓まではそれほど時間はかからないと思うが、少しでも早く連絡を入れておきたい。
今は月曜の8時を過ぎているので、そろそろ課長は出張所に向かう時間であろう。
真希は課長に幼女の発見について一報を入れ、予定を変更してこれから幼女を連れて下山することを伝える。
そしてすぐに医者に見てもらいたい事を伝えた。
課長はすでに出張所にいたようだ。
さすが、元地方公務員。 ほう・れん・そうは大事だね
そして、課長からは、山をおりたら、そのまま皆で出張所まで来てほしいと言われた。
まだ幼さない子供であったが、それでも決して軽いとは言えなかった。
でも、荷物をスレイトにいれていたおかげで、山道もなんとかなった。
山を下りだした途中から、幼女は少し意識が戻りだしたようで、少し周りを見るようになってきた。
驚いたことに、俺に抱かれた状態で幼女は、
「こっちー」、「あっちー」と指さして言う。
やはり日本語が話せるらしい。
ああ! ベルトに乗っかっているだけなので、あまりそこで動かないでね。
でも、その指さす指示が合っているのだ。
見知った風景でもあるのか、ひょっとすると記憶が戻り始めたのかもしれない。
それとも「サルに育てられた少女」なのかな?
俺に合わせてくれたおかげで、通常よりは大きく時間がかかってしまった。
ゆっくり歩いたおかげもあって、マリアも含め全員が無事に下山でき、婆さんちの脇に停めてあった真希の車に乗って、すぐに出張所に向かった。
女の子はサリーの膝に載せての車移動だが、さっきの俺のガイドに疲れたのか? お眠なのか? すこし静かになった。
ところが、今度は3人娘が狭い車内で、以前にも増してさわがしい
真希が車を運転しているが、それがすごく珍しいようで、3人はあれやこれや運転について遠慮なく真希に聞く。
真希ともすっかりと打ち解けたようではあるが、運転中にあまり話しかけると運転操作を誤るから! 危ないから! と注意することに。
貴薬草が見つかり、イザベラも少しは明るくなってきた。
あとはエリクサーを作る方法と送る方法か。 まだまだ困難な道は続くな。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
真希いわく安全運転?で出張所につくと、今日は事務所の中がざわついている。
真希とともに、課長へ山での事情を話すが、やはりいつものんびりした役所が全体にすこしあわただしい。
課長も時計を気にして、すこしうわの空だ
「何かあったんですか?」
「東京のちょっと偉いお役所から、もう少しでこちらに人が来るんだよ。
今朝一番でいきなりそんな連絡が来たもんだから、準備でこの状態だよ。
こんな出張所に東京からの官庁から訪問なんて、何十年もないからなぁ」
「じゃあ、僕らはこの子を町の病院と警察に連れて行きますから、これで失礼します」
警察と自分で言いながら、事情説明はどうしようかなと、ちょっと悩む。
「あっ、ちょっとまってくれ。 これは君に関連した話だから」
「えっどういうことですか?」
「その子は、今すぐ病院に行かなければいけないような、怪我とか、どこか悪いところがありそうなのか?」
「どこか、痛いところはない?」
真希は、幼女に聞いてみた。
彼女はひとこと「ない」との事である。
おぉ、言葉が通じた! かなり意識が戻ったようだ。
「とりあえず、さっきもらった電話で、近くの医者の往診を頼んであるから、ここですませてくれ。
いまは時間が無いので、市役所に事件性について確認してから、こちらから警察に連絡はするから」
あぁ、助かった。
今、警察や入管の人とは顔を合わせたくないしな。
「今夜、関係者は神社に集まることになっているから、君たちもこの後一緒にお願いしたい。
話はたぶん長くなるので、今夜は君たちは神社に泊まってもらうと、神社は言っておった」
「登る前にも話していましたが、神社の話は俺に関連した話なのですか?」
「宮司はとても重要な話とも言っとったので、たぶん君のお婆さん、貴子さんのことじゃないのかな?
そちらについては、私は連れてくるように頼まれているだけなので、詳しくは知らんが」
幼女保護で俺たちも混乱しており、下山を切り上げたので休暇中の日程的には余裕がある。
俺の婆さんの話だとすると、行かないわけにもいかないな。
「その前に、この子の服が無いので、どこか近くで買いに行きたいのですが」
「そうだなあ、この辺じゃ子供服は売っていないから、今から町まで買いに行くと時間がかかるからなあ...」
やはり、周辺には店自体がなさそうだ。
そう言うと、近くにいた職員の女性が、家が近いからお古だけど子供の服を探しに行ってくると言ってくれた。
サリーが、
「着替えるのであれば、先にこの子の身体を拭いてあげたいが、どこかで水が使えないかしら?」
「この事務所の中には風呂はないが、この気温であれば事務所の裏で水浴びくらいならできるぞ」
サリーの流暢な日本語に、課長はちょっとあれっとした顔をしていう。
ということで、タオルを出して、俺達と幼女は役場の裏に向かう。
途中で、俺には待ったがかかり、真希達だけで裏に行った。
そうですね。 おじさんは、いやお兄さんは邪魔ですね。
まあ、発見時にすでに全裸拝見しましたので今更だが…
屋外の水栓は、昔のまわす蛇口だったので、近くにかけてあった散水用のホースを蛇口に繋ぎ、サリーがこのタイプの蛇口は知らないと言うので、真希が使い方を説明する。
程なくすると、洋服を取りに行ってもらった職員と一緒に、幼女は服を着て戻ってきた。
彼女のお子さんが小さいときに着ていたもの、との事で、借りた洋服については、
「特に返さなくてよいからね。
田舎は物を捨てないから、古着はまだたくさん残っているしね」
と笑って言ってくれた。
都会だと、古いものを収納しておく場所もないので、今だとすぐにスマホで売ってしまうのだが。
体の泥を落とし、服を着ると、なかなか可愛い女の子であった。
「原田君はおるかね?」
白衣を着て、黒い大きなカバンを抱えた年配の男の人が役所に入ってきた。
「おーい先生! こちらです。
先ほどお伝えしたように、昨夜山中で見つかった子供なのですが、先生が見られる範囲で結構ですので、怪我や病気などが無いか診断いただけますか?」
どうやら、この集落にまで往診してもらえる医師のようだ。
誘拐や放置などが犯罪も疑われるので、外傷なども詳しく調べてもらうようだ。
先生は、出張所の仮眠室に入って、診察ができる準備をしている。
「だれか女の子を連れてきてくれるかな? 内診するので、女性が一人手伝ってもらえるかのぅ。」
そう言われると、真希が幼女を連れて仮眠室に入っていった。
幼女も一番慣れている真希と一緒なので、素直についていった。
幼女は無事なようですね。
でも、全裸で山の中にいたと言うことは、何かあったんでしょうか?




