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2-03-07 原田 真希の憂鬱

 今日は、元出張所職員 真希さんのお話です。



 私は原田 真希。


 私は今 山の中を一人でさまよっている。


 一昨日、親戚であり、以前の職場の上司である原田課長から電話をもらい、急遽人里離れた山の奥にまできてしまった。

 話を断ってもよかったのだが、私も気になっていた事があり、また家でもいろいろあり、声をかけてもらった事は嬉しかった。


 私の家は分家であり、母はこの家に嫁いでから、それがいつもプレッシャーとなっているようで、本家に対していろいろな感情を持っている。

 私の家は、地方で古くから続く、いわゆる名家 それの分家なのね。


 今時、本家・分家などとは思われるかもしれないが、今でも母はその古き呪縛に縛られ続けているようなの。

 事あるごとに、本家には(へつら)ったり、家ではそれを悪く言ったりと、私は母が嫌いでした。


 課長の家は本家だがが、本家側の人間は、特に本家・分家などの変な感情は一切もっていないようで、私も普通に親戚の娘として良くしていただいています。

 私が高校生だった頃、それは出張所がまだ村役場であった時代、課長の働いている役場でアルバイトをさせてもらった時、ついそんな母の話をしてしまった事があります。


 その話を聞いた課長は、私に家から出ることを勧めていただき、役場に迎え入れてもらい、一人でこの村に住むことになりました。

 村役場だった当時は何事も緩く、課長の意向だけで私も就職できたようです。

 今は市町村合併で、役場のあったこの村も含め、いくつかの町や村は隣の市に統合されて合併されたため、いまこの役場は正確には市役所の出張所。

 しかし、地元の人は相変わらず役場と呼んでいますが。


 ここに就職する時には、課長が私の自宅にまでわざわざお願いに来ていただいたので、本家に頭が上がらない母は、しぶしぶ承諾してくれたのね。

 母はその後も、「若い娘が一人暮らしするなんてみっともない!」 「世間では絶対にふしだらな娘と思われている。 恥ずかしい!」 などと、自分で勝手に世間体を気にして、事あるごとに私は言いつづけられたの。


 課長は本家の人間なので、本家の意見には反対しづらく、役場に勤めさせる事で、そこにご奉公させ恩を売ったつもりだったのね。

 私は大学には行かせてもらえずに、意見も聞かれずに、高校を出るとそのまま役場に就職することになったわ。

 まずは娘の意思を尊重して欲しかったんだけどね。


 でも、課長が差し出してくれた手により、私は初めて自由という幸せを得ることができたの。

 そして、それから何年かは、家からの束縛もなくなり、いろいろな事ができたわ。


 村の住人が行方不明になり、役場で一番若かった私も捜索に参加し、その時課長の知り合いの方に山の歩き方を教えてもらった。

 それは、師匠との出会いであり、結果的に私の人生を変える物だった。

 一人で山が歩けるようにと、私は体を鍛え、知識を蓄え、必要な物を買った。 運転免許もとった。

 そう、そのおじさんは博識で、山の事にとどまらず、知識や生き方のアドバイスをいただき、私の人生の師匠ともなりました。


 あと、山に慣れる訓練にと始めたサバゲーも、今は何人か仲間ができて楽しい。

 そう、あのエアソフトガンでBB弾を打ち合うサバイバルゲームね。


 女性の私が自分で言う話ではないが、自分でも(たくま)しくなったなったと思ってる。

 あ、肉体ではないわよ、 心がよ!


 私の家がある田舎では、若い女性の適齢期がすごく早い。

 それでなくとも、我が家の母は世間体や親戚との付き合いをすごく気にしているので、かなりひどい。


 最近は、母が縁談話をいくつも持ってくるのですが、そんな母が持ってくる縁談話は、地元の名士だが2周りも年が離れた方とか、お金持ちだが反社会勢力?っぽい方とか

 普通の親であれば、とても自分の娘に勧めるような話ではありません。


 単に自分の家の格式が上がったり、単に金持ちそうな人であったり、あまりにも露骨な為、更に家とは距離を取るようになっていたわ。



 しかし、ある時、私の味方である本家の人間を遠ざける意味もあって、うちの母は私や課長に内緒で、勝手に役所に私の退職届けを出してしまったの。


 この時は、既に村は合併後で、出張所には人事権は無く、市役所の人事課窓口に出された、親からの退職届は正式に受理されてしまったの。

 出張所は市役所からは遠く、その場での確認はされなかった。

 入所するときの審査は厳しくとも、退職するときにはほとんど審査がされない。

 課長に連絡が来た時には、受理された書類により手続きがすべて終わった後だったので、この春に退職する事になってしまった。

 課長は人事課に強く抗議してくださったのですが、書類は親権者からの正式な物であり、取り消すことはできなかったのだ。



 私は出張所を退職させられてしまい、収入もなくなり、そして無理やり家に引き戻されでしまった。

 唯一の収入源をあまりにも急に絶たれ、貯金もほとんど持っていなかったので、何ら準備もできず母に捕まってしまった。


 家に戻って、アルバイトなどをしたくとも勝手に外には出してもらえずに、家でずっと腐っていた私に、今回届いた課長の手は、本当に嬉しいものだった。

 本家のご当主から、私しかできない重要な仕事だとお願いされてしまい、母は断れるはずがない。

 おかげで、こうして山にやってきている。


 そう、山にはやってきたのだが、なんか変なのね。


 まずは一緒に来ている、加納と言う人たち。

 彼には私が学生の時に会ったことはあるのだけど、山に行くのに若くきれいな外人の娘、それも3人も引き連れている。

 かなり親しげだが、どんな関係なのだろうか?

 しかも、彼らはこれから1週間近くも山に入ると言うのに、小さなディバッグ以外ほとんど手ぶらに近い。


 それと、彼は変な魔術?を見せてくれた。

 それは、私が知っているマジックと言うには、あまりにも現実離れしていた。


 さらに、ここは何度も登って捜索してきた山であるが、彼は私が気が付いていないルートをたどり、そのまま山の奥に進んで、ついには話にあった里へ到着した。

 私は信じていないが、途中には巫女の結界もあったと言うのにね。

 ここは、すでに知っている山の中などではなく、私が初めて訪れる場所であった。

 そう、ここは携帯電話の電波はおろか、宇宙からのGPS電波すら届かない場所なのね。



 しかし、私はそれらについて、一切何も彼らに聞かなかった。

 なぜならば、それとなく課長にそのような事があるかもしれないよと言う話を、出発前に聞いていたからなのよね。


 課長は、お告げみたいなものがあったんだと電話で笑って話していたわ。

 そのお告げ? では、彼がこの地にやって来ると言う話と、なぜかその時私も山に一緒に行くことが重要らしい。


 お告げからしばらくして、本当に彼が出張所にふらっと現れたので、課長もそのお告げ? を少し信じる気になり、お告げに出てきた私にも連絡をくれたのね。

 今回の山では、いろいろ変わったことが起きるかもしれないが、それらは気にするな。

 その加納という者と一緒に進めと、その時に言われたの。



 今回の母による私の急な退職の件は、課長もかなり困惑し、とても怒っていたみたい。

 私はこのまま実家にいるより、縁を遠ざけてでも家から出たほうが良いと考えてみてくれたのね。


 ただ、親戚関係である課長が、直接それを言い出す事は、あまりにも問題が大きく、何か自然な切っ掛けが欲しかったようなの。

 今回山に行ったら時間があるかと思うので、そこで自分の将来の事をよく考えておいで、と電話の最後に言ってくれた。


 そうして今、私は山の中を悶々としながら一人歩き続けている。


 それにしても、ひどいお母さんのようですね。

 親によっては、自分の子供は、大きくなっても、まだ自分のものだと錯覚している人もあるようですね。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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