2-03-06 摩導具講義
今度はイザベラさんの摩導具講義のようです。
雨となった為、俺たちはテントの中でスナック菓子をつまみながら、皆で話をしている。
「イザベラの世界には、摩導士がいるって最初に聞いたけど、どんな世界なんだ?」
「いえ、摩導士という職業の方はいません。
私の世界では、摩導具というものが古い遺跡から発掘されています。
そのオリジナルの摩導具と同じものを、現代によみがえらせました。
摩導具を作る工房が摩導工房で、そこで働く職人が摩導職人であり、私もそこで職人をしていました」
「え、そうなのか。 どこで摩導士なんて思っちゃったのかな?」
「摩導職人を摩導士と勘違いされたのかもしれませんね。
私たちは技術を学んで、それを職業とする職人です。
摩導具の動作原理や摩導具を動かす為のマナクリスタルの謎は、残念ながらわかっておりません。
私たち工房では、過去に作られた摩導具をまねて、同じ働きをするものを作っています」
「摩導具って、簡単に作れるものなの?」
「それほど簡単ではありませんが、摩導具には必ずそれを動かすマナクリスタルと呼ばれる摩導具を動かす石と摩導回路というものが刻まれています。
発掘当時は摩導具に入っている石なので、摩導石と呼ばれていたようですが、現在はマナクリスタルと呼ばれています。
摩導具の動作は、道具の形で決まるのではなく、摩導具に刻まれた摩導回路の構造により、どのような摩導具になるかが決まります」
「では摩導回路を作ることができれば、摩導具ができるってこと?」
「そうです。
私たちは、オリジナルの摩導回路を参考にしながら、新たな摩導具となる素材に同じ摩導回路を刻み込みます。
摩導回路は、形が少しでも変わったり、太さが違っても、マナクリスタルを入れても発動しません。
私たちの工房は腕がよいといわれていますが、それでも1個作るのに10個近くはつかえない失敗作がでます」
「すべての摩導具は発掘品を元に造られているのか?」
「はい。
新たな摩導具が遺跡から発掘されると、それを摩導工房が買い取ります。
摩導工房で調査・解析して、それと似た動作が行える摩導具として、私たち摩導職人の手により複製をしています。
先ほども言いましたが、全ての摩導具には、その作用ごとに決められた摩導回路と呼ばれるものが刻みこまれています。
その摩導回路にマナクリスタルを取り付けることで、摩導具として利用できます」
「摩導具は高価なものだったのか?」
「いえ、私の世界では摩導具といったものは、大量に作られており、広く一般に使われています。
こちら世界を知るまでは、私の世界にはいろいろな物があり、最高に発達していると思っていました。
こちらの世界を知ってしまうと、残念ながら私たちの世界は、まだまだ発展途上だったのですね」
「でも、たくさんの次元があるようなので、なにもここの世界が一番ではないと思うよ。
いろいろな摩導具があったという事だが、どんなものがあったのかい?」
「まず、先程のお話にあった、生活の明かりは摩導ランプがあります。
摩導ランプは、火を使わずに光を作り出すものです。
その火については、摩導による着火具があり、木に火をつけることができます。
摩導自体で火を生み出す事も出来ますが、マナクリスタルは安くはないので、単に火を使用するには、普通は木材などを燃やして使います」
「摩導着火は、最初に蝋、油のように火がつきやすいものに着火させます。
そして、蝋、油は煙や煤が出て周りに匂いや煙が付くために、長時間火を使うえるように乾いた木に火を移して使います」
「暖かさが必要な時も、同様に木を燃やします。
狭い範囲を暖めるのには摩導具でも有効ですが、広い部屋を暖めるのには、大きなマナクリスタルが入った摩導具が必要となるのであまり用いません。
逆に、冷やしたいときは、氷を使います。
氷は高い山の池の氷を冬に切り出して、山の小屋で摩導布でくるんで保存することで、次の冬まで氷が使えます。
川を使って山から街まで、定期的に氷を運んでいます」
「強い光というと、雨が降るとき、時折 雷という強い光が空に発生します。
雷は自然のものであり、摩導具とは関係ありません」
「何回か話に登場しましたが、すべての摩導具と呼ばれる道具には、マナクリスタルという石が入っており、この力で摩導具は動作しています。
このマナクリスタルは、最初は摩導具と共に古代遺跡から発見されました。
古代遺跡が見つかると、そこに多くのマナクリスタルが見つかることがありました。
どうも、これは古代にマナクリスタルを保存していた施設ではないかと考えられています。
また、マナクリスタルが知られると、遺跡以外にも山や地面深くからも発見され、掘り出されることがありました。
そのため、昔はマナクリスタルは自然界で産出され、地中から集められた物が保存施設に収納されていたと考えられていました。
しかし、その後、マナクリスタルは人工的に作られたという説が出てきました。
ある地方から、その説の元になる伝説が見つかったのです。
私たちの世界の北と南は、寒い土地があり、そこには雪に閉ざされた高い山々があり、人々が生活できない土地です。
その近くの村に一つの伝説があり、遠い昔、そこには山などはなく、大きな建物があったと伝わっているそうです。
その話の中で、北の国のその施設ではマナクリスタルを作っていたそうです。
今私たちが使っている全てのマナクリスタルは、その設備で造られた物だといわれています。
しかし、ある真冬に事故があり、その施設が爆発し、極寒の土地であったため工場はすぐに氷に閉ざされ、その氷が高い山になったという伝説です」
「以前にも話しましたが、私はその北の地の探索に加わったことがあります。
そして、私はマナクリスタルは自然のものではなく、その説の工場で作られたものではないかと思っています。
今はマナクリスタルは沢山ありますが、工場はすでにありませんので、新たな生産はできないはずです。
やがてマナクリスタルは枯渇して、摩導具はつかえなくなってしまうのではないかと心配しています」
「みんなの話を聞くと、サリーが住んでいた世界は、文明? というものは、一番遅れていたようね。
マリアには魔法があるし、イザベラには摩導具があるのに、私の世界には確かに何もなかったな……
でも、地球上の多くの国や民族が殺し合うような、大きな戦争というものは無かったのが救いかな?」
「そうだね。
この世界と、サリーの世界との次元の違いはひょっとすると、大きな戦争の有無なのかもしれないね。
ただ、戦争により多くのものを失ったが、戦争という目的があったので、そこでいくつもの技術が作られた事も事実だし。
今の平和な文明や技術も、そのような過去の出来事から生み出されたと言えるしな。
この世界では、戦争を利用してもうけてきた国や人もいるし。
その戦争を利用して、国の仕組みや借金をリセットし、スクラップアンドビルドで国が作り直されてきた。
俺の世界は、そうして出来上がったのかもしれないな」
「あとね、サリーは昔から物の記憶力はよかったの。
だから、父と行商にでるときは私が帳簿代わりだったの。
それと、運がいいかもしれないわ。
旅をしていても、私が道を決め導くことで、危ないところを何度も回避していたの。
私がこの世界に来ることで、もう絶対に助からないと思っていた私の家族が無事に助かったのは、私の運がとても良かったのだと思っているわ」
「そうだね。
これからもサリーはその運を俺たちに与えてほしいな」
「うん、わかった!」
「ところでサリーのお父さんは、商人なのにパラセルの取引を隠して、限定的に使っていたのだよね?
もっとつかえば、国一番の商会にでもなれたのじゃない?」
「慎二は、スレイトは隠れて使った方がいいと思う? それとも誰にでも公平にオープンにして、誰からの要求でも受けてパラセルで購入するのが良いと思う?」
俺とイザベラは公平かな?
サリーとマリアは、当然と言わんがばかりで独占ねという。
「こんな機能を独り占めは良くないんじゃないか?
皆が平等に、欲しい物が手に入るのであれば、満たされることで戦争も起きないのではないか?」
という俺に、
「それは違うわ。 スレイトを使うには大きな視点が必要ね。 アー、そうよね?」
と、マリア
すると、アーがポップアップしてきて応える。
『スレイトの使い方は、マスターの考え方でどちらの使い方でも対応できます。
しかし、結論から先に言います。
パラセルが開示している情報を纏めますと、オープンにして使用した場合、かなりの確率で世界は破綻しています』
「「えっ!」」
『公平と言う言葉は、小さな視点では良いことかもしれません。
では、範囲を少し広げて、この星全体で考えてください。
星にいる多くの人がパラセルを知ると、欲求は増えていきます。
一つ一つの要求は小さいかもしれませんが、星全体でみると、それはとても大きな量となります。
多くの人の購買欲を満たすためには、それに見合う大きなパラスが必要です。
一度覚えてしまった強い満足感は元に戻りません。
その星の資源の多くを売りつくしても、なお購入欲は消えません。
そして、すぐに世界が破綻します。
途中で気がつき、スレイト購入に制限を加えようとしても、制限は欲求を更に高いものに引き上げるだけで、やはり破綻します。
パラセルの商品量から考えると、1つの星が持つ資源量など微々たるものです。
物を買うためには、それ以上に価値がある何かを売る必要があります。
星ひとつくらいの資源は、簡単に使い果たしてしまいます。
実際多くの星がパラセルには売りに出されています。
これらの多くは、星が破産して、最後の手段として自分たちが住む星自体を売りに出した結果なのです』
なんと自分の星を失うとは…… パラセルのご利用は慎重に! だね。
摩導具は道具であって、マナクリスタルは切り離せないものなのですね。




