2-03-03 テントの中で
まだ少しですが、里の探索が始まりました。
まだ山に入って2日目なので、時間に余裕がある。
午後は雨が降ってきたので、雨の中の探索はやめて、テントの中で過ごすことにした。
今日は皆の世界の環境について、聞いてみようと思っている。
「えー、皆さんの世界の夜、明かりを灯すのはどのようにしてましたか?」
最初に、俺の世界の方法を説明する。
「すでに使っていると思うが、説明しておくと、この世界では電気という物を使って明かりを灯している。
電気を作るのにはいくつかの方法があり、電線という物を使って作った電気を配っており、俺たちはその電気を買って使っている。
明かりは、LEDという物が中で光っているが、少し前までは電球、蛍光灯という物が生産されており、それを使っていた。
もちろん、もっと昔は油を燃やすランプも使われていたが、今では実用的には使われていない」
次に聞いたサリーの世界では、蝋を燃やしたり油を燃やしたりするそうであるが、質の悪い油は煤が出るので、閉ざされた屋内では使わないそうだ。
煤が出ない油はとても高いとのこと。
イザベラの世界では、彼女がいた摩導工房が作る摩導具により明かりを使っていたとの事である。
これは、油を使わない、何かを燃やすと言うことをしないクリーンな明かりのようだ。
最後にマリアに聞くが、彼女の世界では主にランプなど、油が用いられていたようだ。
魔法は王族しか使えないので、光系の魔法であっても、常に使う明かりとしては利用していなかったとのこと。
彼女の国では、国外から質は低いが安い油を大量に仕入れ、不純物を集める魔法を大量の油に一括してかけることで、国民も安価に灯火が利用できたようだ。
また、精製された油は、国外にも輸出され、沢山の外貨を稼いでいた。
従って、精製油は王族の専売品であり、それは国家の財を成す品であり、この魔法などがあってマリアの国は豊かであったらしい。
多くの富を生み出す魔法使いは、周辺各国から羨望の眼差しで見られていた。
すべての魔法使いは王室や王宮に所属していたので、王に手を出すと戦争となるため、他国は取り込む事ができないとのことである。
姫であるマリアが国外に売られそうになっていたのも、この辺の裏事情が絡んでいたとのことである。
先ほどのマリアの話を聞いていたイザベラが、摩導具があれば同じことができそうだと言い出した。
特定の物質を設定して、引き寄せる摩導具があるそうなので、マリアが話した油の不純物を除く方法を使えば、ろ過ができると言う。
でも、その摩導具をろ過に使う発想はなかったそうで、目から鱗だそうだ。
マリアは、そこで体内にマナが貯まったことを思い出したようだ。
「皆さん、わたくし魔法が少し戻ってきましたので、今それをお見せしますわ」
そういうと、マリアは今度は座ったまま、両腕を並行してテーブルの上に出すと、すぐに両手の間がちらちらと光だした。
それが明るくなり、手をどけても、テーブルの上でしばらく光っていた。
「わー!きれい!」
「すごいですね。 初めて魔法というものを見ました。 本当に摩導具無しでこんな事できるのですね」
「これで、マナ溜りに貯めていたすべてのマナを出しました。
慎二、これでもう心配はありませんわ!」
「ん、わかった」
もっと魔法を見たそうな二人に、マリアの状況を伝え、これ以上の魔法の実験はしないことを話した。
「そっかー! そういやそんなことを話していたよね。 体に気を付けないとね?」
「残念です。 先ほどのはとても参考になりました。
もしよろしければ、実演は無理でしょうから、魔法技術についてもう少し教えていただけますと嬉しいです」
「イザベラ、魔法はマリアの国の秘密だと思うので、他の人には話せないよ」
「あ、すみませんでした。 軽率でした」
「イザベラ、いいのですよ。 わたくしはすでに国元を離れていますので、話せることはお教えします」
「マリア、いいのか?」
「えぇ、もしわたくしの命が尽きることになったら、それこそわたくしの魔法の事を伝えることは叶わなくなってしまいます。
たとえ魔法が使える方がいなくても、イザベラでしたらそれを役に立ててくれると思います」
「マリア、ごめんなさい。 私、そこまで考えなしでお願いしてしまって。 本当にごめんなさい」
「雨なので、ちょうどすることもありませんので、この時間はマリアの魔法教室のお時間とします」
テレビで見たのか? マリアが変なことを言い出した。
「先ほど、魔法をお見せしましたが、魔法というのは、体内に貯えたマナを使い、いろいろな魔法を行使します。
まず、エターナルと言う概念があります。
これは、イザベラさんもマナクリスタルという物の話をされたときにエターナルと言う言葉を使われていたのでご存じですよね。
慎二さんもご存じですよね?」
「えっ! おれ?
いやマリアたちが話していたのを聞いただけだが... でも、どこかで聞いたっけ?
アーに聞いてみるかな? アー? そうか、スレイトだ。
そういえば、スレイトが俺の部屋に来た時、最初にエターナルをチャージとか言ってたな。
それのことか?」
「はい、多分それらはすべて同じものです。
本来、水や空気のようにどこにでもあるものですから、エターナルも一般的に知られているものと思っていましたが、この世界では知られていないのですね」
「サリーも、エターナルなんて言葉は、この世界に来て初めて聞くよ」
「やはり、次元の分岐で環境が分かれてしまったのでしょうね。
そのエターナルは、宇宙から地球に流れ込んできている、それこそ目に見えないが、どこにでもある空気みたいなものです。
見えない空気でも、音は伝わり、強く扇げば風となり、手を触れなくとも物を動かすことができます」
「あと、匂いや香りも伝わってるね」
特に匂いに敏感なサリーは言う。
「サリー? 匂いと香りって違うの?」
「匂いは臭くって、香りは良い香りよ!」
「はぁ?」
日本語はあいまいだけど、英語でも匂いはsmellで good smellや bad smellで、匂い自体に良し悪しはなさそうだ。
香りはfragranceとかaromaであり、香水の様に芳香や良い香りってことかな?
まあ、サリーは使い分けているらしいが、ここはあまり突っ込まないほうがよさそうだ。
話が、ちょっとずれた。
「わたくしの世界にはエターナルで満ち溢れていました。
わたくしは病気のためにエターナルがあまり感じにくい事もあるのですが、この世界ではエターナルが殆ど感じられません。
それが不思議なことに、この貴子の里では、わたくしの世界ほどではありませんが、エターナルを感じられますので、魔法が使えるのだと思います。
というよりも、今朝、慎二からエターナルを分けてもらったので、少しですがマナが貯まりました」
「えっ! マリアったら、そんなのいつもらったの?」
「こうやったのです!」
そういうとマリアはテーブルの上で俺の手をしっかりと握ってきた。
「おい! それやってはダメなのじゃないのか!?」
「あぁん!」
マリアは再び色っぽい声を上げ、顔が上気してきた。
今回はすぐに手を放し、
「少しマナがたまりました」
少し疲れた顔でマリアが言う。
「それに気が付いたのは、ここへ向かうバスの中です。
慎二と触れると、エターナルを感じるのです。
慎二からわたくしへエターナルが流れ込んでくるようでした。
そして、ここは他の場所よりエターナルが多いように感じました。
ですので、この地で慎二と手をつないで接触させてもらったところ、魔法が使えるくらいのエターナルが流れ込んできて、わたくしのマナ溜りにマナとして貯めることができました」
「それって、サリーが触ってもできるの?」
そういって、手を出すサリー。
俺は、マリアの体の負担を考えて止めようとしたが、先にマリアがそのサリーの手を握っていた。
「残念ながら、何も感じられませんわ。
イザベラさんもお願いします」
そういうと、イザベラの手を握るが、やはり何も感じないと言う。
「俺だけか。
ひょっとして、マリアが俺のところに現れたのも、それが原因なのかもしれないな。
しかし、マナを体内にたくさん貯めてしまうと、マリアの病気に良くないんだろ?
すると、よりによって、なぜ俺の元なんだろう?」
「それはわたくしにも分りませんが、やはり慎二さんである必要があったのだと思いますわ」
「そうね。 サリーもその辺は何か関係があると思うわよ。
それにイザベラの摩導具やマナクリスタルも、やっぱり慎二と関係していると思うな!」
「それから、魔法を使う人は体の中にマナ溜りという物を持ちます。
体を流れるエターナルを集め、そこに貯えますの。
魔法が使えるようになると、最初の頃に体の中ににマナを蓄える訓練、イメージをするのですが、その時体に集まったマナが、その後マナ溜りとして成長します。
このマナ溜りは人によって位置が異なり、頭だったり、胸だったり、お腹だったりします。
しかし王室の極秘の資料を見ると、男の方はおへそ下あたりが多く、女の人はもう少し下の子袋あたりが多いようです。
しかしマナ溜りは魔法使いの急所となりますから、それぞれのマナ溜りの場所は、王室以外には極秘となっていますの。
わたくしも、子袋がマナ溜りです」
最後は小声になって、教えてくれた。 重要なことを。
これを聞くと、魔法とエターナルについて、何か少しわかったような気がしますね。




