2-02-05 ワレワレハ チキュウジンダ
里に到着した俺たちは、婆さんの畑であった場所の近くにキャンプベースを設営した。
キャンプ場での晩ごはんといえば、飯盒炊爨のカレーが定番である。
皆さん(って、誰?)の期待を裏切って申し訳ないが、俺のストレージには東京で仕込んできた大量の食品や調理済みの料理が、早く食べてと待っている。
もちろん、ストレージ収納なので、熱々、作りたての状態である。
今日はアルコールも持ってきているので、食事の前に乾杯!である。
一応、皆さん未成年ではなく、自分の世界ではお酒が飲める年齢であるので、良いだろう。
今の世界って、成人となる年齢がかなり高いと思うが、どうしてだろう。
日本では、以前は元服と呼ばれた、成人とみなす年齢は変わっているようである。
近年までは、満年齢で15歳前後くらいには成人していたと考えられる。
これは、サリー達の世界の成人の話とも近い。
まあ、こんなことを考えているのは、酒を勧める自分への言い訳だけどね。
この子達は、未成年じゃない! 未成年じゃない!
よし!
お酒には、大きく分けて醸造酒と蒸留酒がある。
お酒は、もともと酵母菌が液体の中の糖などの養分を食べて増殖する際に、アルコールと炭酸ガスを排出する。
これが醸造だ。
酵母菌が糖を消化する際に、養分はいろいろなものに姿を変える。
お酒のほか、味噌や醤油など、発酵を利用して、うまみを引き出している。
蒸留は、その醸造で作り出された酒に熱を加え、低温で蒸発するアルコールの性質を利用し、アルコールのみ集める。
これにより、アルコール度数の高い、蒸留したお酒を造ることができる。
ワインは醸造酒で、それを蒸留したお酒がブランデーである。
娘さんたちが元の世界で多く飲んでいたのは、このワインらしい。
今日、せっかく初めてこの世界のお酒を飲むので、いろいろなお酒を、少しづつ試してもらおうと思っている。
LEDランタンの下、皆で屋外のテーブルを囲んで、折り畳みの椅子に座っている。
皆さんには試飲用の小さなグラスを渡し、順にお酒を取り出して飲んでもらう。
最初は俺の好みで、ビールから始める。
良く冷えた缶ビールを開け、皆のグラスに注ぐ。
最初なので、苦みが少なく、さっぱりとした飲み口の台湾ビールを選んだ。
一本の缶ビールを4人のグラスに分けて飲む。
「では、乾杯!」
「クゥー!」
「あ、苦ーい」
「あら、こちらは飲みやすく、美味しいですわ」
「発泡酒だけど、うまみが高いね。私は好きよ!」
皆さん、いろいろ言いながらも、一口でグラスが空いた。
つぎに缶チューハイ。
これは甘く、フルーティーなので、家で一人で飲む場合は、ビールよりもこちらを飲むことのほうが多い。 安いしね。
今回は、アルコール度数が低く、甘口から4種類を出して飲み比べ。
いつも俺が飲んでいる中から、ブドウ、オレンジ、パイナップル、乳酸菌サワーをチョイス。
いつも大好きオレンジと、飲み慣れたブドウが人気なのかと思ったら、パイナップル、乳酸菌サワーのほうが好評であった。
特にパイナップルは3人とも大好き! って言うのでしかたがない。
飲酒中ではあるが、せっかくなのでここでパイン缶を開けて試食会に加える。
「見てみて! 輪っかだよ! これ」
「これ、この味、甘くて酸っぱくって、とてもおいしいですわ!」
マリアは特にお気に入りのようだ。
三人とも缶詰パイナップルを食べながら、とろけている。
まあ、今回は初めての飲酒なので、明日にアルコールが残らないように、この辺から食事も始めよう。
甘いお酒に合いそうなのは…… 肉系かな?
塩味で野菜と炒めたお肉料理、たれで焼いたお肉、中華系からチャーシュー。
それと細めのフランスパンであるパリジャンを出し、テーブルの上で斜めにスライスする。
テーブル中央の小皿にバージンオリーブオイルを注いで、パリジャンにつけて食べる。
屋外での食事って、やっぱり良いな。
ほとんど飲んでいないが、雰囲気で少し酔ってきたようで、とても楽しい。
楽しくなって、ふと思い出したことがありアーを呼び出してしまった。
『お楽しみ中のようですね!』
最近はアーもいろいろと話しかけてくる。
初期はツンデレ設定であったが、そこに学習が加わり、今では会話に違和感を全く感じない。
「以前、言語翻訳をインストールした際、イザベラは言葉が違うみたいなことを言っていたが、遠い場所からやってきたのかな?」
『いえ、場所が遠いのではなく、他の方よりも次元が離れていたのです。
空間座標的には、皆さんはそれほど離れてはいませんよ』
「それって、どういうことなの?」
サリーが聞いてくる。
俺は、はっとしてLEDランタンをOFFにする。
目が慣れてくると、すっかり暗くなった夜空に大量の星が見えてきた。
「わー!綺麗ですね」とイザベラ
「幻想的ですわ」
二人の世界の夜は、明るかったのであろう。
「夜って、こんな感じよね」
サリーは、ちょっと感動が薄い。
そんなサリーに質問があった。
「以前東京じゃ星がよく見えなかったけど、サリーの世界と星座が似ているって言っていたけど、ここだと星が見えるか?」
「そうね。 あ、あれがアカシアで、あのWはギザ、それとあれが北を示す目印星なの」
「わたくしの国では、われはギザではなく、結びの星と呼ばれていましたわ」
「私の国では、サマスと呼んでます。
あと、あの四角い部分は、えーとなんでしたっけ、私あまり星の名前には詳しくなくって」
「サリーの国では、四角いのはビレィって呼んでたわよ」
どうやら、同じ星座に違う名前がついていたようだ。
「あー、と言うことは、この子達のいた星って、次元が異なる地球か?」
『そうです。
ですから空間座標は離れてないって言いましたよね』
「あのね、そういう時は皆さん同じ星です、みたいに言ってほしかったんだけど。
と言うことは、全員間違い無く地球人なのか?」
『はい、間違いありません。
皆さん次元が違えど、この星の方たちです』
星座が同じ形に見える為には、見ている場所が同じ惑星でしかありえない。
アーは、パラセルから各次元、各世界の言語体型や辞書情報などについて、情報を得ることができるとのこと。
最初にいくつか言語を変えて質問して、言語を絞っていったようだ。
また、言葉は常に変化していくものなので、確認した情報と合わせ、おおよその次元や時代、地域も絞り込んだと言っている。
言語的に考えると、サリーとマリアは4000年ほど前にこの次元とは別れ、イザベラは5000年ほど前に別れたと推測できるとのことである。
4000年位前というとエジプト文明くらいのようだ。
あぁ、歩んできた歴史こそ違えど、全員が同じ地球人だという事だ。
全員が同郷だとわかり、心の緊張がすこし解けて、なんか嬉しくなってしまった。
これは以前彼女たちから聞いた世界の歴史からの推測であるが、大きな次元分岐は、やはり北の地の工場の爆発にあるのではないかと考えられる。
マリアとイザベラの世界では、それこそ4000年位前に大きな天災があり、地形も大きく変わり、それ以前の多くの文明が喪失されたらしい。
そして北の地には氷の山がある。
俺やサリーの世界では北の地には海がある。 そう北極海だ。
すべての世界で、かつてそこに工場があった。
その工場が、俺とサリーの世界では大爆発により、で陸地ごと消滅したと考えられないだろうか?
その爆発後、魔法や摩導具が残った世界と消滅した世界に分かれたのではないのか?
マリアとイザベラの世界はマナが使え、マリアの世界ではそれが魔法になり、イザベラの世界ではそれが摩導具による魔術として発達したようだ。
なぜかわからないが、マリアが言っていたようにこの世界にはエターナルが非常に薄いと言っている。
多分サリーの世界も薄いのではないだろうか?
それが、大きく関係しているのだろう。
それから、マナがない俺達とサリーの世界において、俺の世界では産業革命があり、そこから僅か200年ほどで今のような文明が発達したようだ。
その切っ掛けとなるあたりが、サリーの世界との分岐点かもしれない。
もし爆発時期と思われる4000年より古い歴史記録が残っていれば、そこには共通性があるはずである。
しかし4000年という時間は人間には古すぎるために、正確な記録は残っていない。
ところが、サリーの世界では地球規模の近代戦争はおきなかったので、古い記録は沢山残っていたらしい。
しかし、古いことを学問的に調べる考古学的な調査は行ってなかったと言うことで、宝の持ち腐れとなっているようだ。
もしそれが判っていれば、何かわかったかもしれないな。
また地上の正確な地図もなかったようで、商人として地理に詳しいサリーでも、現代地図との詳しい比較はできないとのことである。
そこまで推測できると、皆の言う大陸の地形が大きく異なることも納得できる。
陸地の形が異なると言う話があったので、皆は別の星の人間かと思っていた。
そう、俺たちの世界で北極海となっている海の部分には、他の次元と同じように陸続きの地であり、そこには大きな氷の山があったはずだ。
俺やサリーの世界では、その北極エリア全体が大爆発で吹っ飛び、解けた氷で地球の平均海面が何十メートル? か上がった。
もしかしたら、陸地はもっと深く海の底に沈んだのかもしれない。
地球上の多くの地表部分が水没したのだ。
例えば、今の海抜が10m上がっただけで、海岸線は全く異なるものとなる。
逆に言えば、沈下さえしなければ、場所によっては陸地がつながっていたり、大きな平地があったりする。
陸地は、この次元の地球よりも多かったと推測される。
酒を飲みながらの楽しい食事が、なんかとんでもない方向になってしまった。
でも、こんな場だったから聞けた話でもあるので、まあいいか。
それにしても、大変なことに気が付いてしまった。
さっきの話では、俺たち全員種族的に同じ人間なんだから、それって子孫を残せるって事なんじゃない?
ややこしくなるから、しばらく黙っておこう。
ずっと、異星人と思っていた彼女たちは、なんと皆さん地球人だったようです。
新たな情報は、一つ屋根の下で一緒に暮らす、慎二君の悩みは増えるのかなぁ?




