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2-01-01 出発の朝

 いよいよ新しい章となり、旅が始まります。

 楽しい旅は大好きです。


ここまでのあらすじ

 エンジニアである加納慎二の元に届けられた謎の黒い板スレイト。

 それは次元を超えたショッピングサイト パラセルを操作する端末であった。


 スレイトには、その使い方を説明するヘルパーがそれぞれ存在し、慎二のスレイトのヘルパーは、アーと呼ばれることになる。

 パラセルに奴隷として次元を超えてやってきたサリー。

 慎二の部屋にあった貴薬草に呼び寄せられて来たようだ。

 慎二の荷物を片付けているとき、遭難してしまった慎二の婆さんが残した貴薬草を偶然発見する。

 彼女は、それを家族の元に送り、万能薬エリクサーが生成されて、家族を無事に救うことが出来た。


 さらに、マリアとイザベラが、それぞれ異なる次元を超えて慎二の元にやってくる。

 マリアは自分の病気を治すため、イザベラは師匠の娘であり親友を救うための薬を求めにやってきた。

 しかし、マリアはこの世界に来て魔法が使えなくなり、イザベラは持ってきた大切な摩導具がすべて故障し動かない。

 異次元人である3人とも、新たなこの世界で生活していく手段をすべて失ってしまう。

 戸籍がないサリー、マリア、イザベラは慎二を頼り、この世界で生きていくことを決意する。

 マリアとイザベラにさらなる貴薬草を求め、婆さんの貴薬草が残されていた地を訪ねる旅に出ることにした。

 そして、話は続きます。


 婆さんが暮らしていた里まで、東京からは高速バスを使うことにした。


 電車で行く事もできるのだが、高速バスのほうが安い。

 人数が増え、軽くなってゆく俺の財布を考えると、削れる費用はなるべく抑えたい。

 どこか竹藪に、1億円くらい落ちていないかな?


 バスは新宿駅にあるバスターミナルビルからの出発なので、そこまでは電車移動だ。

 電車デビューは済まさせてあるが、何しろ初めての都心行きなので、朝早くのバスを予約し、平日のラッシュが始まる前、かなり朝早い時間にマンションを出発した。


 いつもお世話になっている商店街を抜けて駅に向かう。

 途中で、買い物をした事がある店の前を通ると、少しにぎやかになる。


 駅に着くと、まずは自動発券機で切符を買ってもらう。

 俺は定期券があるのだが、あえて俺も切符を買う。

 これは、実際に自動発券機の画面を説明をしながら、使い方や改札などの見本となるためだ。


 昔のような切符の金額が書いてあるボタンスイッチ式の自動券売機であれば、数字のボタンを押すだけなどで簡単だった。

 今のタッチパネル式では、同じ鉄道会社でも、機種によって、表示が異なったりしていることがあり、表示された文字が理解できないと切符が正しく買えない場合がある。


 今は特別な機能は使わないが、今後のために、タッチパネルに表示されている内容についてを、簡単に説明しておく。

 大人と子供で料金が異なることや、購入人数をまとめるて買える事ができ、行き先が表示されるものと金額が表示されるものなどがある。

 お札を入れた場合、自動でお釣りが出るものと、つり銭ボタンで戻すことなど、沢山の機能がある。

 また、異なる会社の電車への乗継切符や、特急の座席指定など、特別な機能のボタンなどがあり、誤って触ってしまうと画面が切り替わるので、その際の戻り方などを説明する。


 最後に、実際にお札を入れて、目的地をタッチし、切符とお釣りの取り方を説明し、それを各自でやってもらう。


 大きな荷物はストレージにしまってあるが、ドリンクと身の回りの物は個人に渡してあるので、自由に使える。

 渡したポシェットの中には、俺の住所や連絡先、最寄り駅を書いた紙と、すこし多めのお金がはいった財布が入れてある。


 娘たちは、ポシェットの財布から1000円札を出して、それぞれ切符を購入した。

 背負ったデイパックにも、念のために予備の財布とメモが入れてある。


 迷子になった時点で、俺から離れる為に翻訳機能が使えなくなり、会話や渡した日本語メモすら読めなくなってしまう。

 その場合は相手にメモを見せて、身振り手振りで教えてもらうように教えてある。


 前回電車に乗った時は、俺がまとめて切符を買ってしまったので、今日が初めて自動発券機の利用だ。

 俺が子供の時代には、駅の自動発券機には行列ができるほど混み合っていた。

 その当時は、目的地に着くとすぐに、販売機が混雑する前に帰りの切符をあらかじめ買ったりしたものであった。

 それが今やICカードが普及したため、自動発券機で切符を買うお客さん自体が少なくなった。


 先日経験済みの自動改札を無事に通り抜ける。

 念のため、改札機から出てくる切符を取り忘れていない事だけは振り返り確認しておく。

 予想通り、通勤時間にはまだ早いので、人がまばらなホームに降り立ち、ドア位置の先頭に並ぶ。


 ホームで待っている間、めずらしくイザベラが質問をしてきた。


「私たちみたいに切符を差し込まなくても、手に何か持って自動改札機にかざすだけで中に入れるのは、みんな摩導具でも使っているのかしら?」


 そういえば、前回は俺も切符を買っていたし、他の人たちはICカードやスマホで入場しているを見ていたようだ。


「今日は切符を使ったが、俺も普段はこのICカードというものを使っている。

 この薄いカードの中に、小さな装置が入っていて、改札機にカードをタッチすると、電車代を払ってくれる。

 俺のは、定期券と言って、会社に行く時に使っている。

 定期券はあらかじめお金を払ってあるので、決まった期間内であれば、払ったお金の範囲の駅で、何回でも乗り降りができる。


 切符以外にも、ICカードに預けておいたお金を、お店や自動販売機で使える物がある。

 でも、ICカードは何種類かあるので、必ずどこでも使えるわけではない。

 カード表面のマークと同じマークが書かれている場所でのみ使える」


 みんなに俺の定期券であるICカードを見せてあげながら説明する。

 これは無線式のID(RFID)であるが、まだそれについて説明は難しいので、タッチで言葉を濁してしまった。

 多分今普通にICカードを使っている人でも、その仕組みはきっと知らないから、まあこれぐらいでよいだろう。


 そんな説明などをしていると、電車がホームに入ってきた。

 少し混み始めているが、まだ席はいくつか空いている。

 すこし離れてしまうが、どうせ終点まで乗るので、空いている席に分かれて座ってもらう。

 電車などに乗った場合、席が離れる事については、出発前に打ち合わせ済みだ。


 駅に停まるたびに、少しづつ車内は混んでくる。

 混んでくると言っても、この時間ではそれほどではない。

 しかし、あと1時間もすると、それこそ彼女たちが見たドラマのラッシュ時の電車風景になってしまう。

 変なおじさんが出没する前に、さっさと乗ることにしよう。

 俺が一番緊張していると思う。



 新宿に近づくにつれ、車窓の風景も変わってきて、前に立っている人の間からビル群が見えてくる。

 いよいよ迷宮のような新宿駅を通ってバスターミナルへ行く。


 終点に着き、他の人たちが降りた最後に、俺たちも降りた。

 人波が降り立った後は、ホームは空いていた。


 南口の自動改札を出るとき、サリーが、


「私が買った切符が出てこない」


 と、俺に文句を言う。

 初めて自分で買った切符であり、サリーのコレクションに加えるつもりであったらしい。

 コレクションを名付けるならば、『慎二の世界で、サリーが初めて買った電車の切符』であろうか?


 自動改札機をにらみつけるサリーを引っ張って、乗り換えフロアから、長いエスカレータに乗ると、バスターミナルに着く。


 みんなこの動く階段(エスカレータ)は初めて見るものであり、かなり驚いていた。

 そういえば、近所で入った商店街の店舗では、階段しか見なかったな。


 マリアは、エスカレータのステップが出てくるタイミングに足を合わせず、すこし戸惑っていたが、何とか乗れた。

 そして、俺は一番最後にエスカレータに乗り、いざという場合に殿(しんがり)で安全を確保する。

 乗ってしまえば、あとはスーと静かに登り、緊張のうちに到着した。

 そう、俺が一番緊張していたようだ。


 朝早くの出発だったので、今朝はマンションでご飯を食べている時間がなかった。

 ストレージには炊き立てのご飯が沢山入っているが、まさかバスターミナルで昨夜作った野菜炒めと一緒に食べるわけにもいかない。

 手軽に食べられる物も知ってほしかったので、本日の朝ご飯は、ターミナルに入っているコンビニのおにぎりにした。


 このメンバーだと、何個食べるかわからないが、20個ほど、種類を変えて買っておく。

 余ったらストレージ行きの手があるからね。


 自宅では全員で箸のトレーニングを始めているが、おにぎりであれば手で食べられるので、今後もお世話になると思う。


「わたくし、手で掴んで直接食べるなんて、こちらに来てから初めての経験で毎回驚いております。

 こちらの世界って、すごく発達されていて、すべてが洗練されていると思って緊張していました。

 でも、実際にはすごく砕けたところも多く、わたくしは今、とても、とても楽しいですわ」


 と、マリア姫からのお言葉をいただきました。

 手で食べられる物は、箸が使えない皆のためにあえて選んでいるのだけどな...

 まあ、王族の姫様から見れば、やはり野蛮な世界かな。



 コンビニでは、あと片手で持てるペットボトルのお茶やドリンクも20本ほど買っておく。

 大きな容量のペットボトルは既にストレージにも入っている。

 この先、山の中に入ってからではドリンクが買えないので、小さなタイプであれば山を歩きながらでも飲めるので、よく冷えたのを買っておく。


 彼女たちが、日本のお茶を飲めるかわからないので、煎茶以外にほうじ茶とウーロン茶、ジャスミン茶、紅茶、あとメインとなるジュース類。

 俺は無糖コーヒーと、だれか欲しがるかもしれないから、甘いミルクコーヒーとココアを買う。


 ところで、台湾でペットボトルの飲料を買うと、ほとんどのドリンクに砂糖が入っている。

 そう日本式の緑茶も売っているが、なんとそれも甘いのだ。

 それを知らずに、初めて飲むと、脳が混乱する。


 味覚というものは、普段の馴れが関係する。

 自分が美味しいと思うドリンクが、誰にでも美味しいと感じることはなく、とても飲めたものじゃない!! ということがあるので注意が必要である。

 近年では台湾でも健康志向で、無糖のドリンクが増えてきているが...


 ストレージ内に紙コップを入れてあるので、いろいろな味を知るためにも、ドリンクは分け合うのがいいだろう。

 しかし、山に入るとトイレが使えなくなる。

 山には明日の早朝から入る予定であるが、今日から水分は少し控えめにお願いしている。



 バスはネットで予約してきているので、出発まではまだ少し時間がある。

 ターミナルのベンチに座って、みんなで朝ご飯を食べることにする。


 初めて食べる、コンビニの海苔が入ったおにぎりの包みの開け方をレクチャーする。

 いつも思うのだが、袋の切取り部分の上に、商品ラベルがぺったりと張られているので、ベンチに座った膝の上では開けづらい。

 これについては、いつも不満である。 ラベルを改良してほしい。


 さっきのコンビニで、紅しゃけ、梅干し、コンブ、辛子明太子、しょうゆ漬けいくら、ツナマヨ、海老マヨ、チキンマヨ、牛カルビ、オムライスを2個ずつ買ってある。

 最初は、皆でせーのっ これ!で、一斉に自分が欲しいと思ったものを指さす。

 個数以上に希望があった場合、その人たちだけで残った中から再度選択をし直す。


 俺はあえておにぎりの中身を解説しない。

 ラベルの漢字は読めるはずなので、あと写真から判断させてみる。

 失敗も大事だからだ。


 俺は紅しゃけを食べる。

 サリーはオムライスか。 チャレンジャーではあるが、なかなか良い選択だな。

 マリアは俺と同じ紅しゃけを選んでいる。

 イザベラは海老マヨを選んだ。

 彼女の国ではシーフードはとても高級品とのことである。


 残念ながら、梅干しを選んだ娘はいなかったようだ。

 食べた時の、あの酸っぱい顔をちょっと見てみたかった。


 それより、海苔は食べられるのかな?

 おにぎりに巻く前に、海苔の端を少し切って食べて試すように伝える。


 以前、ヨーロッパの人間に海苔巻きせんべいを食べさせたところ、海苔は外して食べていた。

 どうしたのか聞いたら、日本で言う漢方薬のような臭いがすると言っていた。

 わざわざ、おいしい大きな海苔が付いた、お土産用の高級なおせんべいを買って持っていったので、ちょっと悲しかった。


 幸いなことに、全員海苔は問題なさそうだった。

 そこで、俺が巻き方をレクチャーする。


 ところが、最近包みが変わったようで、俺が知っている包み方と少し違っていた。

 焦って、あれ? あれ? ってやっていたら、イラストを見ていたイザベラが、


「こうではありませんか?」


 そう言って、上手にくるっと巻いている。

 ほかの人もイザベラを手本にして、綺麗に巻けた。

 結局、俺のだけは、海苔が半分ずれた状態で食べることになってしまった。

 さすがイザベラ。 上級工員様にはかないません!


 皆食べ終わり、ワイワイやっているうちに、バスの入線時刻が近づいてきた。

 まずは、皆をトイレに案内してから、乗り場に向かう。

 今回予約したバスは、車内にもトイレはあるのだが、狭いので俺はあまり使わない。



 朝早い便ということもあるせいか、今日のバスはほとんど俺たちの貸し切り状態であった。

 乗り込むときの席割表を見たが、途中からの乗車もなさそうだ。

 もともと安い高速バスだけど、こんな人数の売り上げで、経営は大丈夫かな? と、ちょっと心配してしまった。


 4列シートであるが前後のゆったりシートのバスであり、横に4人ではなく、予約の際に、全員同じ側で前後で2人+2人をとってあった。

 しかし、ほぼ貸し切りであるので、乗車の際に言って、全員が窓側になるように、内側シートの2人を反対のシートの窓側に移らせてもらった。


 このバスはハイデッキタイプで、トイレは後部ではなく、中央部の階段を下がった場所にあるので、俺たちが予約した後部の座敷はすっきりとしている。


 初めて食べたおにぎりがお腹で膨れてきたのか、朝早かった為なのか、まだバスは発車していないのに、前の席に座ったサリーとイザベラはすでにお眠のようだ。


 俺の反対の窓側シートにいたマリアだが、俺と話しがしたいそうで、発車前に俺の隣の席に移動してきた。

 そういえば、これまで4人での時間しかなく、マリアと二人こうして話す機会はなかったな。

 二人で座ると、狭いシートに、寄り添って密接して座る事になる。

 カジュアルな服装なのに、金髪の色香というか、姫様オーラを感じてしまい、ちょっとドキッとしてしまった。


 さあ、バスは出発しましたね。

 マリアが何を話したのか気になりますね。



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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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