1-08-04 薬草
閑話です。
今日はいつもの世界と離れて特別な薬草こと、そう貴薬草についてのお話です。
これは、オブライアンさんとは異なるスレイトマスターのお話です。
その薬草がパラセルに登場するようになって数年たつ。
そこそこの年月の間、その薬草は販売されてきたので、買った人もいるはずである。
その薬草は、2つの方法で購入することができた。
1つは通常のパラセルの商品としての販売。
こちらは薬草としては、普通では考えられないくらいに安い価格で販売されていた。
しかし販売される数は、毎回5株と決まっていた。
ただ、購入できるのは、その5株のうち、なぜか一人一株に販売数が制限されていた。
また、不定期でしか販売されていないので、見つけて購入できた人は幸運だといえる。
不定期ではあるが、ある時期は良く販売されているようであり、その一時期を過ぎるとしばらくは販売がなくなる。
しかし、またしばらくすると販売が始まる。 それが繰り返されていた。
この地球で説明すると、その薬草は初夏から初秋にかけて収穫される。
収穫後処理が終わった物から出荷されるが、当期の収穫が終わると、次の季節まで出荷は止まる。
地球の1年間の季節のサイクルとは異なる世界から見ると、その1年のタイミングには気が付きにくいようである。
スレイト所持者である私が初めてその貴薬草を入手した際も、名称を薬草として出品されていた。
しかし、なぜだかわからないが、それはパラセル内の食用野菜コーナーで売られていた。
もし本物の薬草であれば、薬のジャンルの薬草コーナーに出すべきである。
その価格も、薬草の値段などではなく、野山に生えている野草のような最低ランクの物であった。
確かに草なので、食べられそうではあり、コーナーとしては葉野菜としても良いのかもしれないが、枯れたような草に見えるので葉野菜としては売れ残っているようだった。
薬草であれば、普通はそこそこ高価な商品なので、これが本物の薬草だと気がついていると思われる。
逆に薬草などと書かれているために、怪しがって誰も買ってみないようである。
もちろん安い分には構わないが、本当に薬草ならばこの10倍であっても即買い値段だな
それは大した金額ではないので、特に目的はないが私は買ってみることにした。
スレイトを持ったすべてのマスターが商売を行っているとは限らない。
私も、スレイト持ちではあるが、特に商売人というわけではないので、パラセルで仕入れる事には使っていない。
私の使い方は主に自分の趣味用であり、変わった商品を見つけ、私のコレクションに加えている。
パラセルでこの薬草の販売が、なぜか1人1株と購入制限がついていたこともあり、そこが私の興味を引いた。
普通、パラセルの購入について、数量が限定されたものを私は見たことがない。
もし在庫が少なければ売り切れるだけのことだ。
面白そうなので、今回の購入と、いつもは使っていない検索通知に設定して、気が付いたときに限定品を買うようにした。
スレイトの検索通知は、パラセルでのショッピングの時に、とても便利な機能であるのだが、残念なことに設定は1商品に限られている。
私は今のところ薬草以外には、さほどショッピングに興味はないので、検索通知はこの薬草設定のままでいた。
おかげで、1回に1株しか買えない薬草ではあるが、ここまでに何株かのコレクションができるようになっていた。
私と同じく、まさかこのような薬草としてはとても安い値段で売られていたためか、相手にされていなかったのだろう。
最初の頃は5株が売り切れるまで1~2週間かかかっていた。
逆に言うと、1人1株しか買えないから、薬草がパラセルの葉野菜コーナーで売られていることに気が付いた者が、5人は存在したということだ。
ところで、この薬草のもう一つの購入方法は、オークションにより販売され、販売は常に1株で出品されている。
わたしは、パラセルのオークションには興味がなく、そちらのチェックはほとんどしていなかった。
まさか、オークションでこの薬草を巡り大炎上が起こっているなどとは考えてもみなかった。
その薬草に気がついていたのは、当然私だけではなかった。
そして、薬草がオークションに出品されたことで注目されはじめ、そして一気に火がついた。
オークションでは怪しい商品も時折出品され、それが宝であることを見つけることが商人に眼力である。
当然、変わった薬草に注視していた者もいるのだろう。
最初に薬草を競り落とした人物は、あまり薬草には詳しくなく、同じ世界の裕福な薬師に売った。
その薬師も、それが初めて見る草であったため、思いのほか高い額で買ってくれた。
薬師も、それがどのような物なのかは知らなかったが、彼は古くからの薬の資料を多く持っており、昔の資料の中に登場している薬草であった事に驚く。
実はこの薬草は、いろいろな次元の世界において、太古の時代よりにエリクサーを作るために貴薬草としての記録が残っていた。
近年の世間では全く見ることができないため、すでに一般の記憶からも忘れ去られており、学者の間では存在すら疑われている幻の薬草と呼ばれていた。
話は戻るが、自動検索の知らせが届いてから、私はすぐに購入に行くのだが、ある頃から、すでに売り切れとなっていることが多くなってきた。
自動検索での通知が来て、それなりに早めに見ていたつもりであったが、いつも売り切れと表示されるため、スレイトの誤動作かとすら思った。
何回か通知が来たが、全く購入ができないことが続いたので、偶にはと思い、オークションを見に行って、現状を知った。
なんと、オークションページのトップ画面に表示される、最近の高額取引ランキングのトップに、なんとあの薬草が載っていたのである。
最初、見間違いで、自分の購入履歴が表示されているのかと思った。
しかし、やはり何度見ても、最近のオークションの高額売買商品のトップであるようだ。
写真や説明では、私が何株も所有している、あの薬草にしか見えない。
パラセルのオークションでは、落札商品のランキングは表示されるが、その落札した金額自体は表示されていない。
しかし、そのオークションランキングを見ていくと、わが国が先日他国から購入したと発表されている商品が、かなり下のほうに載っていた。
他国のパラセル持ちがオークションで買って、それをわが国が買い取ったのであろう。
しかしその際、国が発表した金額は、すでに1商会の域を超えた、王室予算レベルの物であった。
それよりも、かなり高い位置にあるこの薬草は、いったいいくらの価格が付いたのだろう。
おれは、隣の棚に積んである、その薬草束をちらっと見ると、身の危険を感じ、背筋に冷たいものを感じることとなった。
その薬草を最初に競り落とした者は、高く売れたことを自慢げにパラセルの掲示板で話してしまっていた。
そう、まだその時はオークションで仕入れた商品が、ちょっと高くうれた程度であり、スレイトの掲示板仲間から、それは良かったねと言われ、ちょっと鼻高々になり、あちこちの掲示板でその話を書いていた。
そして、その薬草が薬師に高く売れることを知った他の者も、オークションに次々と参加していくことになる。
また、古い資料を持ち、それが貴薬草であることに気が付いた世界の薬師達によって、金を惜しまずパラセルマスターに応札を持ち掛け始めた。
そして、何回かオークションに出されることで、しばらくすると薬草の落札価格は、日本の価値で10万円近くにまで上がってしまっていた。
元の薬草がタダ同然の事を知っている人から見ると高騰と思われたが、それはまだまだ序章でしかなかったのだ。
あるとき、いくつかの国の王様が、たまたま同時に事故や病気で命が危なくなった。
そして、それはエリクサーさえ購入すれば、それを治すことができることが判った。
戦争などではなく、お金さえ出せれば、それを手に入れることができるのだ。
当然、その国は国家最大の予算をもって、いや他国から莫大な借金をしてまでも、それを入手しようとした。
しかし、エリクサーの情報を知ったお金を持った他国も、今すぐには必要がなくとも、将来の予防薬としてエリクサーを手に入れようとする。
ここにオークション市場において、エリクサー争奪戦が始まったのである。
最初、この薬草が通常の商品として販売されていたことは、オークションの参加者達は気が付いていなかった。
そして、この薬草が通常の商品として販売された後、オークションへ出品が行われていたことにも気が付いていなかった。
しかし、求めるものが増えることで、その出元についての調査も激しくなっていった。
何しろタダ同然で仕入れたものが、各世界の国が最大の国家予算をかけ、しのぎを削って値を釣り上げてくるのである。
ちょっと美味しいな! というレベルなどではなく、すでに常軌を逸したこととなっていた。
各国はヒートアップし、どうやってそれを手に入れることができるか、血眼になっていた。
何せ、天井知らずの国家予算級である。
一度でもオークションに貴薬草を出品ができた出品者は、落札された後には使いきれないパラスがやってくる。
国家予算級のパラスを手にした出品者は、そのパラスを湯水のごとく使い、次の貴薬草を手に入れる方法を探ろうとする。
通常の販売での薬草の販売を知っている人たちにとって、そこでの調達も激しいものになったる事は納得できる。
自動検索の通知を待って購入していたのでは、そのわずかな通知時間ですら、すでに遅すぎたのである。
その争奪戦以降、貴薬草にまつわるオークションは大変なこととなっていた
その出元がパラセルで普通に販売されていることは、彼らのトップシークレットであったが、隠していても少しづつ広まっていくことになる。
しかし、ここ数年の間、パラセルからエリクサーや貴薬草の出品が途絶えたことで、一見世界は沈静化はしたかのように見えた。
だが、こと人の命に係わるエリクサーの事である。
静かなところで、以前にもまして、エリクサーとその元となる貴薬草を探し求める動きは、着実に大きなものとなっていた。
なんか、貴薬草って、やばそうですね。
これで、始まり編は終了です。
書いていても、長いような、短いような、始まりって難しいですね。
最初にいろいろな説明は必要であるが、すべてを書いてしまうとネタバレになるし。
でも説明文が多いと、物語が単調になりやすく、話もつまらなくなってしまうし。
なので、はじまり編を始める前の最初の2話に、次の編と少し将来部分の編の話を差し込んでみました。
頑張って最初の編を読んでいただければ、将来こんな話も出てくるよって感じです。
しかし、時系列が飛ぶために、いきなり訳が分からない話になってしまったのではないかともちょっと心配しています。
最初だけ読まれて、何だこりゃで帰られるのはちょっと寂しいですが。
次回からは秘境編が始まります。 お楽しみに。




