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1-02-01 打ち上げ


 時間は割烹料理店より、時はさらに2週間ほど遡る。


 あらためて、俺は加納慎二(かのうしんじ)、26才。


 IT系の企業にエンジニアとして勤めて、はや4年。

 故郷を離れ、大学時代から始めた一人暮らしも、はや8年を越してしまった。

 理工系大学を卒業したが、地元には戻らず、そのまま東京で一人暮らししている。

 就職後はほとんど実家に顔を出していない。

 ちょっとした事情もあったので、忙しさを言い訳に、帰省は年末などの限られた時だけになってしまった。


 社会人として4年も過ぎると、仕事もわかってくる。

 もともと理系人間であるので、休日も頭の中では仕事でいっぱいで、決して女性が苦手ではないが、未だにお気軽な独り身だ。



 さて、本日は俺にとって、ちょっと特別な日だ。


 俺が担当してきたプロジェクトが先日無事終了し、今夜の打ち上げをもって、いよいよ完了・解散を迎える。

 プロジェクト開始のキックオフから丸1年。

 今回のプロジェクトは、5G(第五世代)のスマートフォンと全球測位衛星システムであるGNSS(全球測位衛星システム)マップやMEMSセンサーを組み合わせ、サーバーから自動車や街を制御する装置の実証実験である。

 MEMSとは、シリコンなどの表面上に、ICを加工する際に用いる微細加工技術を利用し、ミクロン単位の超小型精密な機械式センサーなどのデバイスを作る技術だ。

 加速度計やジャイロセンサなど、知らないところで近年大量に使われている。


 俺は1つの装置メーカーとして参加していたが、主体となる行政の他、車屋さんやインフラ屋さんなどの各社の技術者など、いくつもの会社からも人が派遣されており、集まったエンジニアや営業さんなど、多くの人々に世話になった。


 社外の知らない分野から参加する人たちがいると、いろいろと刺激を与えてくれる。

 仕事以外にも、趣味が合うやつや、合わないやつ、いろいろな資格を持った奴など、業界が異なると知らなかった知識を持った人に出会えるのが面白い。


 そして、プロジェクトの終了は、連日連夜顔を合わせてきた人々との別れ、無事に全員で仕事が終了したことの安堵感。

 そしてそれらが入り混じった余韻。


 ようやく仕事が終わったことはわかっているのだが、俺の頭の中にはまだ興奮が残っている。

 まずは頭をからっぽにして、クールダウンすることが必要だ。


 このプロジェクト中、たっぷり溜まった有給休暇を消化すべく、先日10日分の有給休暇の申請をした。

 明日からの2週間は、たっぷり休みをとらせてもらう。

 これまでは長い休みを取れることはなく、短い休みの時は特に何もせずに、ただぼんやりと部屋で過ごすことが多かった。


 しかし、俺の身内の事情ではあるのだが、実は気にしながらも、これまで目をつぶり蓋をしてきた事がある。

 今回はそのために、しばらく家を空けようかと考えている。


「俺は来週からしばらく有給休暇をとるから、よろしく頼むな」


「了解しやした。 お任せください」

「あんまり長く休むと、帰ってくる席が無くなっちゃいますよ」

「加納さんもしっかり体と心を休めてくださいね」

「ばいばーい」


 何か不穏な発言をする奴もいるが、皆とはその時気軽に別れた。

 金曜の夜、溜まったストレスを発散すべく2次会に繰り出す元メンバー達に別れを告げ、明日からの休暇のために、俺は早々と自宅マンションに戻った。



 俺の住む町は東京都と神奈川県の境界に近いが、一応東京都内だ。

 会社から乗り換えなしの1本で着くので、夜遅く疲れて帰るときは助かっている。


 駅から徒歩10分。

 駅前の商店街を抜けた大通り沿いにある、8階建の賃貸マンションが俺の住まいである。


 一応マンションと名乗っているだけあって、エントランスにはオートロックと宅配ボックスがある。

 大きな道路沿いであるためか、鉄筋造りで壁もそこそこ厚く、窓から車の騒音や隣の部屋の音も聞こえないので、遮音性は良いと思われる。

 夜遅くに帰宅したり、夜中の作業も、周囲の部屋には気兼ねがなくできる。


 部屋は広めの1LDKであり、寝室は6畳だが、リビングが寝室の倍くらいあり、間仕切り扉を全開すると、全体が1つの部屋になるタイプなので、住居部分として18畳くらいのフローリングである。

 まあ、冷暖房が気になる季節以外、寝室との間仕切りは開けているので、一人暮らしにはかなり広い。


 寝室にはセミダブルのベッドと、その脇に学生時代から使っているノートPC用の小さなラック。

 PCはちょっと古く、タッチパネルはついていないので、そろそろ買い替えも考えている。

 小さなラックの上にはインクジェットプリンタが乗っている。

 普段はノートPCを畳んで、このラックは物書き机として使っている。


 ちょっと残念な事としては、部屋の収納は、コートハンガーのついたちょっとした寝室のクローゼットが1か所しかないので、これでは俺の荷物に対して収納が少ない。

 そのため寝室のベッドの壁には、収納用の半透明プラスチック製のコンテナボックスが、天井まで何列か積上げられている。

 積み重なったコンテナボックスには、学生時代からの荷物がここに引っ越しした時から入れっぱなしになっている。


 広いリビングの中央には、少し大きめのラグマット。

 家具としては、そこでも寝れることができるように、3人がけのソファーと、ソファーの前には透明ガラストップのローテーブルが置いてある。

 これは俺の食卓でもある。

 ソファーと反対側の壁には、一人暮らしには少し大きめの液晶テレビ。

 広めのリビングには家具がこれしか置いてないので、部屋が余計に広く見える。

 まあ、本当にシンプルな部屋なのだが。


 改めて見ると、この部屋ってどこでもゴロゴロと寝られるな。


 学生時代は自炊をしていたので、炊事道具はキッチンに一通り持っている。

 いや、その当時は料理にもかなり凝っていたので、普段主婦が使わないような、専用の調理具までいっぱいある。

 しかし、会社勤めになってからは帰りが遅いため、平日はもっぱら会社周辺での外食が多く、家に帰っては眠るだけの生活だ。


 テレビもあまり見る時間がなく、もっぱらゲーム機用だ。

 と言っても、就職してからはゲームすらご無沙汰だ。

 テレビに録画機能はあるが、結局見ないうちにハードディスクがあふれて消されてしまうので、今はほとんど録画もしていない。


 考えてみると、ここ数年、家具や家電はほとんど買ってないな……

 会社から家賃補助がもらえると聞いて、部屋を決める際、学生時代に借りていた部屋が狭かった反動で、一人暮らしには広い部屋を借りてしまった。

 家具は学生時代からさほども増えていないので、結果として、シンプル、いやガランとした感じになってしまっている。


 でも、家は寝るだけ生活の俺にとって、そんな事は特に気にはならない。

 部屋を塞ぐコンテナボックスも、慣れ親しんだインテリアのひとつだと思っている。

 大きな地震が来たらやばいかもしれないが、上の方は軽いものが少ししか入っていないので、例え落ちてきても大丈夫だろう。


 このマンションは駅から少し歩く為、たとえ家賃の補助がなくとも手頃なので、特に気に入っている。



 今夜の打ち上げは、それほど飲んだつもりではなかったが、プロジェクトの終了の喜びからか? 久しぶりに飲んだからか? 部屋に入ってからしばらくボンヤリと転寝(うたたね)でもしていたようだ。


 気がつくと、帰りに寄ったコンビニの袋が見当たらない。

 室内を探すと、いつもは置かない、玄関脇の床においてあった。

 すぐにドリンクを冷蔵庫に仕舞い、残った袋の物はキッチン調理台に置く。


 眠い目をこすりつつ、シャワーを浴びたらベッドへ直行。

 今日はPCのメールのチェックも無しだ。


 俺は、電気をつけたまま、ベッドの上でそのまま眠りに落ちていった。



 よほどお疲れだったようですね。

 今夜ぐらいはゆっくりとお休みください。



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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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