1-06-07 新たなる人生
皆さんの事情がようやく見えてきました。
「もし、薬草が見つかったら君たちは元の世界へ戻るのかな?」
俺はちょっと期待を込めて聞いてみた。
「わたくしは逃げ出してきたわけですので、帰ることは考えていません」
「私は帰る方法を知りませんし、それはすでに覚悟をしてきましたから、大きな問題ではありません。
それより摩導具が作れなくなってしまったことが問題です」
「えー! 私は慎二とずっと一緒にこの世界にいても良いのよね?」
こいつ、既に押しかけ女房になっている。
やはり、元いた世界には戻せそうにないのか……
そうすると、この世界で生きて行く事になる。
でも、この世界で生きていくにしても戸籍すらないので、本当にそれが可能か心配である。
そもそも、いつ捕まって解剖されるかもわからないのに……
「あの、わたくしはこの世界でも体が治せないかもしれません。
それは、それほど程先の事ではないと言われていますので、ご迷惑をおかけするつもりはありません。
でも、お告げのように治るものであれば、残された時間その方法を探りたいのです。
父たる王へのお告げにあったように、私はこの場所というよりも、慎二さんの元に送られたのだと考えています。
なので、もしよろしければ私もここでご一緒させていただきたいと思っています」
「すみません。
私も同じ事を考えていました。
私のお告げも、この場所の人を頼れと言われたと思います」
うっ、なんだそのお告げは。
なぜ、勝手に俺を指名してきたのかよ!
涙目でじっと見つめられる俺は、折れるしかなかった。
「事情はわかったが、この世界で君たちを安全に匿うことはかなり難しい。
これから何が起こるかはわからないが、どうかなるまでは少し様子を見てみよう。
もともと、俺はサリーにあげた薬草を見つけた場所を訪れる予定だった。
少し遠い場所だが、皆でその場所へ行ってみよう」
サリーは既に覚悟していたのだが、更に2人の若い娘を抱え込むことになった俺は、すでに半分自棄になっていた。
これにより、自分の運命も大きく変わり始めているのだが。
まあ、俺には変なお告げなんてないし、ケセラセラ、なるようになるさ、きっとなるさ...
イザベラも、摩導具を失いはしたが、皆と同じような事情であると分かり、すこし安心し、落ち着いたようだ。
「イザベラさん、あ、イザベラ、思い出させて申し訳ないのだが、君の世界のマナクリスタルっていうのは、この世界で作ることはできないのか?」
「マナクリスタルをこの世界で作る?
マナクリスタルは遺跡の中や地面の中を探すものであって...
あ、そういう意味では確かに古代にはマナクリスタルは人が作っていたのかもしれません。
先ほど申しましたように、伝説に最北の地に工場があり、そこでマナクリスタルが作られていたということです。
私は、その極寒の地に探索に行ったことがありますが見つかりませんでした」
「極寒の最北というと、この地球では北極だな。ということは海と氷の地だったのかい?」
「いえ、私は一番暖かい季節に訪れたのですが、その場所には氷で出来た、とても大きな山がありました」
「ふぅん、イザベラの世界の北限地には山があるのか」
「わたくしの国でも、寒さを防ぐ魔法を使いながら、北の地を調べさせた事はあります。
そこにはやはり氷に閉ざされた大きな山があったようです」
するとサリーが
「私の国にはいくつもの伝説が残っています。
私の国では、大昔北の地には大きな工場があり、何か作っていたようです。
ある時その工場が大爆発を起こし、北の地は地面が無くなってしまい、今は海となっており、極寒地なので冬の海は氷に閉ざされていると聞いています。
私はそこまでは行ったことはありませんが、商い旅で近くまで行きましたが、北の地はとても、とても寒い土地でした」
「ふーん、皆違うようだね。
あ、ところでこの世界は、この地球という丸い星の上にいて、北と南の地はものすごく寒く、北の地は海しかない。
南の地は氷の陸地がある。
この地球という星は明るく輝く太陽という大きな星の周りをまわっている。
太陽は明るく高い熱を出している星で、この地球が温かいのはその太陽の熱があるからだ。
地球はその太陽の周りを楕円に回転しながら回っているので、夜や昼、夏や冬がある。
また地球の周りを月という小さな星がまわっており、夜になるとよく見える。
君たちのいた世界では、どんな感じなの?」
「私の世界も、昼は明るい太陽があり、夜は月があったわ」
たまたま、娘達3人がいた世界もこの地球と同じような天体のようだ。
「そうだ、慎二。
昨日の夜、この地球の夜空にある星はとても数が少ないようなのに、道しるべとなる目立った星は私の世界と同じ並びだったわよ。
サリーは旅をするときに、方角を知る担当だったので、夜になるといつも星の並びを調べていたわ。
また、季節を知るのにも見える星の並びはとても重要で、それを間違えることはないわ」
「あぁ、それはここ東京の夜は明るいから、普段から星がよく見えないんだ。
今度山へ出かけたら、もう少し見えると思うよ」
「わかった。
山へ行ったらもう一度よく見てみるね」
「山に行く準備も必要だが、まずは、皆さんがここで生活できるようにしよう。
その前に大事なことだ。 サリー、マリア、イザベラは誰かのお告げによってここへ来たことは間違いないね?」
「「「はい」」」
「俺はそのようなお告げは知らない。
しかし、異なる世界の人たちが、時を同じくしてここにやってきた。
それが、亡くなった俺の婆さんが作った薬草が関係しているとも思われる。
という事で、何かわからないけど運命的なものがあるようなことは確かだ。
そこで、俺は、俺ができる限りだが、君たちを守っていくことにした。
できる限りというのは、君たちはこの世界の国籍を持たない。
そのために、この国やこの世界から、今後どのような扱いを受けるかまだ分からない。
それは俺という小さな個人では抗えることは限られているかもしれない。
俺ができる限りとなってしまうが、俺ができる事であれば、君たちを守る事にした」
「「「はい」」」
「そこで、俺から君たちへの、たった1つのお願いだ。
君たちは異なる次元の世界で、異なる立場で、異なる生活をしてきた。
でもここに来た以上、俺も含めて全員平等だ。
姫様も、上級工員も、商会の娘も関係ない。
ここからは、皆同じ立場の、俺の家族であり、仲間だ。
家族であれば、お互いに助け合って生きていきたい。
それが俺が君たちを守っていく唯一の条件だ。
もし、自分の立場だけを主張していくつもりであれば、俺は君たちを守れない。
それを理解してほしい。
サリー、君は俺と約束できるかい?」
「はい。 サリーはすでに慎二の家族だよ。
これからもずっと一緒だからね。
家族は多いほうが楽しいから、みんなよろしくね!」
「ありがとう。
イザベラ、君はどうだい?」
「私も、お告げのように慎二さんを頼らせてほしいと思っています。
みな家族であれば、力を合わせていきたいと思います。
申し訳ないのは、私はそれに役立てそうな自分の技術が、この世界では役に立たないことを知りました。
こんな私でよろしければ、皆さんよろしくお願い申し上げます」
「うん、わかった。
摩導具の事はもともとこの世界には無い物だから、そんなに心配しなくともいいよ。
マリア、君が生活での落差が一番大きいと思う。
しかし、これからは姫様ではなく、この世界の普通の娘として、他の仲間と協力して生きていくことはできるかい?」
「はい。
わたくしはこちらへ向かうことになった時から、既に姫という立場は国に捨ててきました。
私も魔法が使えず、こちらでお役に立てないのが残念です。
でも、このように優しく拾っていただけた事には、大変感謝しており、また嬉しく思っております。
皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」
異なる次元から集まった4人であるが、こうして力を合わせてこの世界でひっそりと暮らしていくことにした。
遂に慎二は覚悟したようです。
サリーは、どこか知らない世界で夜空の星を見つめていたようです。
似たような星座ってあるものなのですね?




