1-06-03 新たなる客人たち
今度は石から登場したお嬢さんたち
良い人たちだといいですね。
「はじめまして
俺の名前は慎二 加納がファミリーネームで、慎二が名前です。
まず、あなた達お二人はお知り合いですか?」
「二人とは、この者の事か?
わらわは存ぜぬが……」
「私も知りません」
「貴方たちは、今一緒に二人でこの場所に現れたんだ。
では、先に君から話を聞くから、もう一人の君はそれでも飲んで少し待っていて」
俺は少し化粧の濃い、金髪ドレスの女性に話しかけた。
「はじめまして。
俺は慎二と言います。 君の名前を教えてください」
「わらわは、マリアクリスティナ ビビアナ カルダシア。
カルダシア王国の第三王女じゃ。
マリアと呼ぶがよい」
えっ、えっ! 姫様ドレスではあったが、この人、本物の姫さまだったの?
「アー、すごく話しづらいので、この姫さまの翻訳、現代の普通の会話体にしてくれない?」
『了解です!
ちっ、姫様っぽくて良かったのになー』
こいつ、今ちっと言いやがった。
「姫さまが、なぜこの世界の、それも俺の部屋にいらしたの?」
「わたくしは、第三王女ではありますが、我が国は、わたくしを必要としていません。
そして、この世界にわたくしが求める物があるという王へのお告げもあり、国を去ることにしました」
お、ようやく普通に会話ができる。
翻訳を変えると姫さんのわらわは、わたくしになるのか。
「どういうこと?
ちょっと大事なことだから、そこは後で聞かせてね」
俺はベッドの隣に腰かけている、もう一人の背の高い銀髪娘に次に話しかけた。
「はじめまして。
俺は慎二。 君の名は?」
「私は、イザベラ。
イザベラ・ラッセル。
摩導具工房アルメーニ(Armeni)の上級工員です」
「イザベラさんね。
君の話も聞くから、ちょっとそこで待っててね。
では、もう一度繰り返します。
皆さん、こんにちは!
俺は加納慎二。 この部屋の主です。
ここは、地球という星の、日本という国の首都である、東京という名前の場所です。
この国には、現在他国との戦争はない、平和な状態と思ってください。
君たちがどこから来たのかわかりませんが、この世界には、この地球以外から来る人はいません。
従って、貴方達はこの世界にとって、普通の存在ではありません。
こちらの女性は、君たちより少し前に、君たちと同じように突然この部屋にやって来たサリーさんです」
「サリーです。
ドリームフィールドという商会の娘 サリー ドリームフィールドです。
今慎二さんにお世話いただいています。
サリーと呼んでください」
お、自分で世話になってると言いきってしまってるよ。
既成事実か……
「サリーは、この世界へ薬草を探すためにやってきたんだよね?」
薬草を探していると言われたサリーに対して、二人は目を見張った。
「君たちも何か探してここに来たのかな?」
そういうと二人とも同時に話し出した。
「私も薬草を探しています」
「わたくしは自分の病気、不治の病を治す薬草を探しています」
どうやら皆の目的は薬草らしい。
「君たちが探している薬草かどうかはわからないが、サリーが探していた薬草は、たまたま俺の部屋にあった。
しかし、それは既にサリーの世界に送ってしまったので、既にここには残って無い」
それを聞くと二人とも絶句した。
「この世界には薬草があるのですね?」
銀髪のイザベラが言う。
「いや、それはわからない。
サリーに渡したものは、行方不明の俺の祖母が残した物がたまたま1つだけ残っていたもので、この世界に残っているのか、またどこにあるのかは俺はわからない」
「父や兄の命を助けるために、サリーは薬草がどうしても必要だったの。
その為にこの身を奴隷に落とし、奴隷を商品として売ることで、この世界へやってくることができたわ。
そのおかげで、昨日探し物が見つかりました」
「そ、そんな...
やはり私は来るのが少し遅かったようですね...」
イザベラが思わず つぶやく。
「まあ、昨日サリーの世界に送った薬草が、本当に貴方達が探していたものと同じものかはわからないが、まずは貴方達の問題を解決できる方法を考えるためにも、もっと詳しく話を聞きたいと思う。
サリーには一度聞いているが、皆にもわかるようにもう一度聞くが、君はどうして、どうやってこの俺の部屋に来たのかな?
まずは起きた順番通りにサリーから聞くことにした。
「私は、父を、幽閉されている兄を開放してもらうために、薬草の中でも、特別な薬草を求めてこの世界に来ました。
その特別な薬草こそは、エリクサーと呼ばれる超級ポーションを作り出すための唯一無二の材料となる薬草です。
私たちの国はおろか、他の国でもその特別な薬草は取れません。
この特別な薬草のことを、他の国では貴重で貴い薬草であることから、貴薬草と呼ばれているようです。
以前はその特別な薬草はパラセルから購入できており、父も時々依頼され薬師さんに納めていたようです。
しかし、その特異な効能が他に広まったのか、父が見つけた当初は普通に購入できていた薬草なのですが、やがて手に入りづらくなっていったようです。
時を経る毎に価格もどんどん高騰していったようで、父は手に入れるのに苦労していましたが、それでも以前は手に入る価格でした。
しかし、どれだけ高くても、買えた時は良かったのですが、やがて商品自体がパラセルから無くなってしまいました。
私の国では国王が変わり、新しい王様がそれを必要としているのに、父はすでにその特別な薬草を手に入れることができません。
新しい王様は短気な方のようで、兄が最初に人質に取られて幽閉され、父がそれを届けられないと、兄も父も私たち家族も全員処刑されてしまいます。
待っていても買うことができない以上、残された時間はありませんから、その特別な薬草を作っていた場所を探し、自分でそこに行って交渉するしかないと考えました」
「どうしてここにその貴薬草というものがあると思い、どうやってここに来たんだい?」
「それは、父がその特別な薬草の調達のために新たなスレイトが発行される噂をパラセルの掲示板から情報を得ました。
あ、パラセルとは次元を超えて商品を売買するシステムで、スレイトとはその売買を行う装置です。
その時にある仕掛けを行う事で、新たに発行されるスレイトの送り先に商品を届ける方法がある事を知ったようです。
しかし、パラセルでは生きた人間を売買することはできないので、父が以前パラセルの仲間に聞いた裏技を使い、サリーを人間としてではなく、単なる商品である奴隷としてパラセルに売却し、それを慎二へギフトとして送りました。
それは成功し、サリーは慎二の元に来ることができました。
奴隷が届く先がどんな場所かわかりませんでしたし、そもそも生きてそこへ行ける保証なども全くありませんでしたが、それ以外に私たち家族が助かる方法が見つからなかったので、父も私もそれを実行しました。
私たちは、この到着点が特別な薬草の生産地ではないかと考えていたのですが、それはちょっと違っていました。
でも、昨日慎二さんの古いゴミ、すみません、荷物ですよね、を片付けていた中から1株のその特別な薬草が見つかり、それを私の世界に送ることができました。
ここへ来た目的や方法は以上です」
「あの、すみませんが、そのパラセルとかスレイトって何ですか?
サリーさんの説明だと、よくわからなかったのですが」
「えっ、イザベラさんは転移にパラセルを使ったのではないのか?
マリアさんは知っているの?」
「いえ、わたくしもどちらも存じません」
え? どうやらまだほかにも転移する方法がありそうですね。




