9-05-01 カノ島の日常
しばらくすると、カノ島での大きな開発も一段落して、人々は生活にゆとりも出てきた。
カノ島では摩導カートにより移動は大変簡単に移動が出来る。
しかし、あまりこれに頼りすぎると歩くことがおろそかになってしまう。
なので、島内での近距離移動の場合、健康のために徒歩による移動が推奨されている。
カノ国民は、歩くことも1つの労働とみなされ、歩いた歩数でパラスが支給される。
歩いた事がパラス通帳に記録されるので、それを楽しんでいる人がいる。
高速用ではない島内の道路脇は歩行用の通路帯が設けられている。
また、住居エリアには摩導カートの走行が禁止された歩行専用の摩導道路があり、そこでは基本的に歩くことになる。
住居エリアの各ローカル住居エリア間には広大な公園や池、酪農放牧地などが準備されており、国民は自由に入って遊ぶことができる。
また、アミューズメントエリアにはスポーツ施設もあり、国民は健康維持に努める必要がある。
まだリクレーション設備が少ないこの島では、海は人気である。
島の外周には、ぐるっと摩導カート道路がめぐらされており、その海辺側にはすべて砂浜が続いている。
砂浜のジョギングは人気が高い。
多くの人は好きな場所までカートを走らせ、ジョギングをした後、そこまで摩導カートを呼び寄せて帰ってくる。
また、海辺をジョギングしていると、気が付くのだが、摩導シートで出来た小舟を出して、島の周辺で釣りをする人もちらほら出てきている。
島の砂浜はどこでも泳ぐことが可能ではあるが、島の一部では波を発生させている場所があり、そこではサーフィン等も行えるように開放してある。
島の周囲には、何重かの摩導防護ガードにより、太平洋上にある島ではあるが、波は高くなく、海岸では穏やかな海を楽しむことができる。
島の周囲の防護ガードにより、魚は内側に入れるが、そこから外には出られないように設定されているので、島の近海は天然の養殖場のようになっている。
島の周囲には太平洋を回遊するような魚も時々紛れ込んできており、大物を釣り上げる人もいるようだ。
魚の餌となるプランクトンや海岸への稚貝の散布は国の事業として行われているが、残念ながら、貝はまださほど大きくは生育していない。
そのうち、焼きハマグリや牡蠣小屋が浜の名物になる日を楽しみにしている。
施設として養殖を行っているわけではないが、これにより島の周囲には多くの魚を釣ることが出来、食材としての魚も豊富に得ることが出来る。
カノ国では一部の人のみが利益を得られる漁業権のような権利は認めておらず、誰もが趣味で海で自由に魚を採捕することができる。
しかし漁業も職業として認められており、とれたて新鮮な魚を市場で販売している。
カノ島で買い物をする場合、大きな倉庫タイプのショッピングセンターがあり、必要な品を大きなショッピングカートに積み込んで買い物ができる。
ここではレジは無く、24時間好きな時に行って、棚から商品を取る事でパラスが減り、棚に戻すとパラスが戻る。
買い物が終わると、倉庫の外に出ると近くの摩導カートが自分の設定色となって近くに走ってくるので、商品を積み込んでそのまま帰ることが出来る。
このショッピングセンターでは、凍結食品が人気だ。
これは出来立ての料理が凍結されている。
凍結と言っても冷凍ではない。 分子運動が摩導力で一時的に固定されているのだ。
解凍するといっても温めるのではない。 解凍は凍結する直前の状態に再び戻すことなので、熱い料理や冷たい料理、それらが混ざった料理もそのまま作ったように再現される。
常温で保存されている固い物を、摩導レンジで解凍すると、それは熱いスープであったり、焼きたての焼肉であったり、冷たいかき氷などに戻る。
そう、本当に作った時の状態にまで戻るのだ。
これにより、家では調理をしなくとも、レストランで作られた時の状態のお料理がいつでも食べることが出来る。
ただし、島であればどこの家にでもある摩導レンジであるが、カノ国以外にはこのレンジが無いため、この便利な凍結食品を楽しめるのはカノ島でなければ食べることが出来ない。
ホテルの部屋で食べて美味しかったと言って、土産としても持って帰っても、それは単なる固い食品サンプルであり、食べることは出来ないし、味もしない。
空港の売店で販売されている土産用食品には、簡易版である摩導パッケージに入った食材もあるが、こちらは特別なパッケージを使用しているために品数が限られる。
これら食品は、松井姉と服部さん指導の下、カノ島の食品加工工場で製造されているので、美味しいのは間違いがない。
特に最近生産体制が整った、カノ島産の生鮮野菜は人気である。
カノ島で作られる野菜や果実は、パラセル調達の種や苗から育ったものが有り、これだけはカノ島でしか食べることが出来ない。
なので、こちらも国外で食べたいと言う要望が多く寄せられているので、加工した料理として摩導パッケージに入れて空港売店での販売も考えている。
パラセル調達では、可食カテゴリの植物であっても、この世界には一般流通させることが出来ないものも多い。
可食と言ってもキノコなど危険な物もあり、宮守珠江が所長を務める食品医薬品研究所で安全が確認されたものに限っている。
フグと同じで正しい調理方法があり、それを間違うと、食べると笑い出したりしてしまう。
危険と言っても、必ずしもそれに毒があると言うわけではなく、ちょっと言えない様な種類のも多く見つかっている。
これらは、その効果から薬としての応用なども考えられている。
特にカノ国独自の製品開発もここの研究所で行われており、発酵に関するものも盛んに研究されている。
発酵は新たな食品や味噌、醤油、酢など新たな味の調味料など研究されている。
また、重要な物として、酒の醸造試験も行われている。
いろいろな材料から酒は造られるが、酒の元は糖である。 その糖を酵母が分解してアルコールになる。
この研究所では、カノ島独自の酒を造る為に、カノ島独自の植物、酵母を使い、これまでにない摩導を用いた製法の研究を行っている。
エリクサー製法のように、エターナルによって酵母を活性化したり、糖化を手助けしたりできるのではないかと考えている。
その食品医薬品研究所では、医薬関係の薬の研究も盛んにおこなわれている。
貴薬草栽培も順調に進んでいるので、その栽培環境を利用して他の生薬についての栽培も開始した。
特にエリクサーの生産方法と同じく、薬草にエターナルを流し込む抽出方法を用いる事により、これまでにない効能を得られることが発見され、新たな薬がいくつも見つかった。
エリクサーについては、そのほとんどはパラセル向けに生産されている。
無数にある次元世界を考えると、エリクサーを必要としている人が圧倒的に多い。
少しでも多くの人の命が救えるように、エリクサーに関してはなるべくパラセルへの出荷を優先している。
空港売店では、数量限定であるがエリクサー錠も販売されている。
一般の人はエリクサー錠の事などは知らないので、高価なエリクサー錠の前を素通りしていく。
しかし、エリクサー錠の存在を知っている人には驚きであり、たまたま帰国前にパラスが残っており、それを手に入れて帰国した人が舞い踊ったという伝説がある?
カノ国の入国が自由化されてからは、観光客も増えてきて、この空港売店は多くの人が買い物に来るようになった。
当初はお金を持った人の訪問が多く、特に高級品が多く売れたようであるが、最近は生活用品など安い品も幅広く売れるようになってきているようだ。
何か近くのスーパーマーケットで買い物するような雰囲気で大量に物を買っていく人もいる。
なぜ、わざわざカノ島でこんなものまで買うのとも思うのだが、余ったパラスはすべて消化する為に細かく買っているようだ。
カノ島の特産の一つに純金が有り、これは記念メダルや水谷理恵の工房で作られた純金製の製品がかなり売れている。
売店に並ぶとあっという間になくなっていく。
カノ島の中央の小山の隣には、黄金像の展示が有り、その各像のミニチュアなども作られて販売されている。
売店脇に置かれたガチャマシンでも、この像のミニチュアが入った物が有り、通常はプラスチック製のミニチュアなのだが、時々純金製が当る事が有り、人気となっている。
あとは、ちょっとした摩導具が人気である。
特に摩導具とは謳ってはいないが、それらは不思議な製品たちである。
その中で、人気商品はマグカップである。
これは、中に入れた液体を、入れた時の温度を一定に保つことが出来る摩導具である。
摩導瓶というか、永久版サーモマグカップと言うべきかもしれない。
これの応用で、冷めないスープ皿なども人気があるようだ。
これらの永久と言うのはあくまで使っている人が勝手に呼ぶものであって、摩導ベインが使えない国外では、内蔵されたマナクリスタルの寿命が来るとそこで使えなくなる。
まあ、電池と違って、摩導具の効率は高く、またマナクリスタルの寿命はとても長いので、さほど寿命を気にすることでもないが。
マリアの魔法とイザベラの摩導具は王宮の実験室で研究が続けられているが、島内には別に摩導具研究のための施設が作られている。
ここは、大学と研究所を合わせたような学問的に学ぶ施設であり、国外から多くの学生が集まって来ている。
摩導具は、摩導シートの他にカノ島の半導体工場で作られたチップ状態のものを使い、新たな摩導具の試作も行われている。
これはICのように、決まった機能の摩導チップをいくつかマナインクでつなぎ合わせていく事で、新たな摩導回路を作る事が出来るようになっている。
これらの研究の中で、ヒット商品も生まれた。
それは摩導シートを布として、立体裁断して作った服である。
これにより、買った人が摩導リングで色や柄ら質感を自在に設定させることができる。
カノ国としては、いくつかの外貨獲得の方法を確立しているが、こうして観光事業も計画通りに大きくなりつつあった。
カノ島に入植した人々が働くための産業も多く生まれ、ようやくカノ国として動き出している。
この島では異次元人が普通に暮らしていることを世界に公表している。
島に来る前には、異次元人?と言うような少し偏見を持ったような人であっても、一度島を訪れると、特にそこには何ら違和感はなく、普通の人間である事を理解する。
サリーが異次元人と聞いても、ああそうですか、と言う程度の感じで接することが出来るようになった。
これだけでもカノ国を立ち上げた目的が達せられ、西脇唯華も満足している。
桃李成蹊と言う言葉が有る。
おいしい桃や李の木の下には、黙っていてもそこには人が集まってきて、やがてそこへ続く道をもなすと言う事だ。
慎二たちが開いたカノ島には、多くの人が集まって来て、そして今カノ国で出来上がった。
お告げにより俺たちが起こした小さな波は、世界に、そしてたくさんの次元に対しても大きな波が届くようになった。




