9-04-06 まがい物
カノ国は世界的に認知されて、大成功であったと思っている。
そして、やはりというか、ある程度予想はしていたが、俺たちを真似して、俺達と同じように公海上の浅瀬に島を作りあげ、独立国と称する輩が出てきた。
それも1つではなく複数だ。
当然、そのような人工的な陸地に対しては、各国が国としての否定を突き付けてくるので、皆そこを何とか回避しようとしている。
準備不足であった多くの島は、すぐに否定されて独立を諦めていったが、そんな中で1つだけ残った島があった。
その島は、年間を通じても沈まない島であり、いくつもの対策が考えられており、その1つだけは残っていた。
その島の成り立ちは、砂州が発達したようであり、もともと岩礁帯があった浅瀬で、それまでは海面下に沈んでいた場所だ。
長年の波の浸食でその周辺の岩が砕かれ、さらに残った岩礁を核として、波や風で流されてくる砂が岩の周りに堆積し、海面まで達して地図に載っていない島が出来たらしい。
その見た目は、俺が発見した島の最初の状態に近く、小さな砂浜だけがある島となっている。
しかし、そこは誰かがたまたま近くを通った船や航空機が見つけた訳ではない。
発見者はスーパーコンピューターのシミュレーションから、その海域の海流と海底地形図などから島が出来そうな場所を何か所も推測した。
そして、自らが打ち上げた複数の観測衛星からの数年にわたる画像を解析して、その島を探し出したようである。
そう、俺達の方が早く島の発見を発表したが、俺たちが独立宣言を行った際、同じような事を計画していた者が別にいたようだ。
それを見つけたのはIT業界のトップとなる企業のCEOであったが、その事は一般には公表されていない。
この島の発見は、Webで一般に公開している同社が打ち上げた衛星情報をもとに進められていた。
その調査が始められてからは、その周辺海域の衛星画像は同社により加工、改竄され、その島が出来る過程は一般の目からは隠されて来たようである。
一般のユーザーは、公開されている衛星画像は真実と思い込んでおり、まさか衛星画像に加工された部分があるなどとは疑いもしていない。
無料で公開している画像について、同社では正確な衛星画像などとは謳って公開しているわけではない。
99.99999999%の正確な衛星写真データが公開される事で、都合の悪い0.00000001%の改ざんは隠れてしまっている。
これは砂漠の砂粒の中に置かれた1粒のダイアモンドを、画像的に隠すようなものだ。
しかし、俺たちは摩導ボールカメラによる自前の衛星写真を持っており、その画像データは常に摩導サーバで分析し監視している。
同社のWebで公開している地図画像データと俺達の宇宙からの摩導ボールカメラの画像で矛盾が発生したため、同社のデータ改竄に気が付いていた。
そして、その隠された島の存在については正確に把握していた。
そのため、その島を隠ぺいしたものが誰であるか。 そして、その島の発見者が同社であることも判っていた。
まずは、公開した衛星画像の一部にフェイク画像を紛れ込ませる事で、真実を隠してしまうと言う、こういった使い方もあるのかと感心した。
そして、データを握っている者が、この世界の勝者になれるなと感じている。
問題はこの砂浜の島は、自然環境ではこれ以上の成長は望めない。
そのIT会社が、なぜ大きな投資をしてまで消えてしまいそうな島を作っているのか? そしてなぜ、隠れてまで独立国を作っているか?
彼らは、島の独立宣言後も、その潤沢な資金を使って、開発を続けている。
元の砂浜を島の核として残し、その周辺の浅瀬を大規模な土木工事を行い埋め立てて、人工的に島の拡張を行っている。
現在多くの大型タンカーが、島の埋め立て、建築資材や重機などを乗せて、同島周辺に集まっている。
また、島の周辺諸国となる弱小国の政府に対して、巨大な資本力を使い、その島を国として認めさせようとしている。
表向きはそれらの弱小国の開発資金名目として、そして裏では賄賂と買収と言った資金が各国官僚相手に流れている。
カノ島の情報網は、早い時期からその理由についても掴んでいた。
その会社は、全世界的には莫大な売り上げを上げているために、利益を得ている各国へ莫大な税金を納める必要がある。
どうやら、その会社は自分で国を造り、そこに自社の本社を置くことで、すべてその独立国へ売り上げを集中する事で、各国の税金対策を行うようだ。
何しろ、そこは自社で自由にコントロールできる国なので、どのような国際的に不都合な税法であっても、合法的に行うことが出来てしまう。
そこでは、合法的なマネーロンダリングが行える。
今のところ、その島の発見者が同社であることは伏せられているが、もしそこが国として世界に承認されてしまうとかなり面倒な事になりそうだ。
そのような個人的な利益目的の為に、独立国を作ってほしくはない。
放っておくと、周り廻って我々もそのような目で見られる日が来るであろう。
俺たちがどうする事でもないが、その真実の情報くらいはこっそりとネットにリークしておいた方がよさそうだ。
巨大IT企業としては、俺たちが時々勝手にデータベースを覗かせてもらっているGGI社もあるが、こちらはその独立国を作ろうとしている会社とはライバル関係に当る。
GGI社は、まだまっとうな会社なようなので、我々も同社とは今後も波風を立てずに行きたい。




