9-04-05 カノ島奇談
俺とサリー、そして自動車会社の佐藤さんは、3台のカートで建造中の島内を周遊しながら、そのカートの中で音声通話を行っている。
島にはそれほど多くの建造物はまだ出来ていないが、時折見えてくる施設などを紹介しながら、佐藤さんとは別の話が続いていた。
「宇宙人の話はSFやオカルト小説などに出てきますが、あれは主に地球外の宇宙から来た人たちの話です。
実は、一般には知らされていませんが、次元というものが無限にあり、そこにはいろいろな世界があります。
SFなどでパラレルワールドなどと呼ばれることがある世界です。
パラレルワールドは、今とそっくり同じ世界だったりするが、どこか、何か、少し違いがあるといったやつです。
まあ、それは近い次元でのことであり、次元が離れていくとそれは全くと言って異なる世界にもなるようです。
俺は実際に別の次元に行ったことはありませんので、詳しくは知りません。
現実的な事を言うと、世界的な時間の流れに大きな影響を与えるような爆発や噴火など大きな事象が発生すると、時間の流れというものは、そこで分岐を始めるようです。
分かれた瞬間はどちらの流れも同じ地球であっても、そのイベントで発生する変化により、2つの世界はどんどんと異なる物へと変わってゆきます。
その分岐は、さらに長い時間経過する間に、さらに異なる分岐が繰り返され発生し、何回も分岐を繰り返すことにより、異なる地球というものが出来上がっていきます。
お会い頂いた3人の女性は、それぞれ異なる次元に生まれていますが、確かに地球人だということです。
また、先ほど話しましたが、地球以外からもこの地球に来られている方もいると聞いています。
私はまだお会いしたことはありませんが、日本にもいらっしゃるようです。
異次元や異世界から来た方々は、現在の話だけではなく、古き時代から地球にやってきており、そして地球の文化や技術、宗教などに大きな影響を与えてきたようです。
それで、ある人の助言もあって、今の地球以外の人であっても、安心、安全に暮らせる国が必要となり、この島を作っているわけです」
「それが、このカノ国ということか」
「先ほども申しましたが、私の周りの3人の女性は、それぞれ訳あって異なる世界から来た人たちですが地球人です。
サリーは、我々と同じエターナルが無い世界からきました。 その世界は産業革命へのルートに遭遇していない世界です。
マリアは魔法による文明の世界、イザベラは摩導具による文明の世界から来ました。
彼女たちの世界には内燃機関も電気による文明もありませんが、エターナルが豊富にあり、それでもきちんとした文明社会を築いています。
いや、エターナルが無いサリーの世界も科学技術ではない文明を築いています」
「だったら、そのエターナルっていうのは、いったいなんだ?」
「エターナルは宇宙を流れているものですが、それが何でどうしてできたかはわかりません。
たとえば光や電波という電磁波がこの空間を自由に飛んでいるのは、人が作った理論はあっても、それがいつ、どうして発生したなどは誰も説明はできません」
「この世界にないものが、どうしてこの世界で、この島では使えるのだ?」
「この世界では非常に濃度が薄いのですが、我々もエターナルを得るための道が少しできました。
しかし、今はまだ世界に流通させるというほどの量を生産することはできません。
そのために、当面はこの島での流通を一番で考えています。
ただ、もう少し多くのエターナルをとらえるために研究は続けています。
何しろ地球の外側の宇宙空間には、たくさんのエターナルがあふれているのですから」
「エターナルが普及すると、この世の中から電気はなくなるのか?」
「いえ、我々の活動は電気をなくすことが目的ではありません。
しかし、エネルギーを得るために、化石燃料など有限な資源を燃やすことは、資源の枯渇と、環境破壊が同時に起きています。
ですので、それに代わる手段をなるべく早い時期に提供する事を考えています。
そう、電気を否定してはいませんが、今電気で動いている多くのものは、やがてエターナルで動くものに置換されていくものと考えています」
「いや、いくらなんでも、この世から電気が不要になる事は無いだろう」
この質問に俺はにやりとした。
実はこの回答に誘導したかったのだ。
「だったら、佐藤さんは電気が絶対的に必要な場所や物は何だと考えますか?」
「暗くなったら明かりは欲しいし、寒くなったら暖は欲しい。
家庭だったら、電灯、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジにテレビやパソコンなどみんな電気だろう」
「そうですね」
それを聞いた後、佐藤のカートの中に、明るい光が差し込み冷たい風と暖かい風が交互に噴出した。
「光や温度といったものはすでに摩導で解決しています。
電子回路は今代替えを考えている途中です、基本ロジックの動作の置き換えは確認しています。
この摩導具ではマナクリスタルという結晶があり、それはフォースを結晶化したものです。
マナクリスタルから取り出したエターナルの流れを利用して摩導具は動きます。
それは、光をはるかに超えた周波数で動作する素子を作る事が出来ます。
今話しているこの通信も、電波を使ったものではありません。
これも、マナクリスタルの発振を利用し、通信に応用したものです。
これらの根底を持つすべての技術を、俺たちは摩導技術と呼んでいます。
これらすべての基礎となっている物は、異次元人であるイザベラの世界に存在する摩導具を、この世界の技術と組み合わせて再現し、今ここまで発展させました。
また、マナクリスタルは、魔法があるマリアの世界で、魔法使いの生体が生み出すクリスタルの技術を用い、この世界で生み出しました」
ここで、しばらくの沈黙が続く。
佐藤が混乱していることが、その沈黙の中から伝わってくる。
カートはそのまましばらく島を少し走り、もとの共同食堂の場所へと戻ってきた。
まあ、どこを走ってもまだ砂地であるために、景色はさほど重要ではないが、このドライブは、佐藤と信二が語り合える重要な時間であった。
カートを降りると、佐藤が加納に向かって話し出す。
「俺は、ライバル企業のエンジニアである加納さんからの話でしたので、ひどく疑って聞いていました。
しかし、さきほど聞いた話は、俺が持つ知識をはるかにぶっ飛んだものであり、いまだ混乱はしています。
混乱こそしていますが、それを完全に嘘だというだけの反論できる理屈を持ち合わせてない...
そして、さっき俺自身で作ったカートが、島を一周して実証してしまった。
俺はこれまで、技術で理解できない事はない、『エンジニアに出来ないという言葉はない』という考えを持っていました。
でも、このカートのどれ一つをとっても、俺のエンジニアの力量で再現することができないな。
いや、その方法や原理すら何ひとつ思いつかない...」
すると、ここで初めてサリーが話しかける。
「ここまでは、摩導具はすべて慎二とイザベラが二人で作ったのよ。
ただ、イザベラの世界の技術と現代の技術があったから、ここまで来ているの。
でもそれは、単にあっただけでなく、二人による度重なる失敗や沢山の実験を繰り返してできたものであり、偶然やたまたま出来たってことは無いわ。
私の生まれ育った世界には、この世界にような文化や技術は何もなかったので、新たな文明をみんなで一緒に作っていると思うと毎日ワクワクしているの!」
「加納さん、少し考える時間をいただいてもよろしいですか?」
「えっ? 佐藤君にはまだまだ見せたいものがあるので来てもらったので、考えるのはあとでね。」
そういうと、食堂へ入るように促された。
「ところで、この建物も摩導具で出来ているのですか?」
「そう。
外部をプレハブっぽく見せているが、これも装飾」
いきなり、食堂の外観が赤や白、コンクリートや木造に次々と変化した。
そして最後にプレハブっぽい外観に戻った。
「もっと良いデザインにできるというのに、どうしてこの安っぽい外観なのですか?」
「いやー、工事現場っぽくていいでしょ。これが」
それを聞くと、佐藤は大きく笑い出した。
「ハハハハ はぁはぁ、俺の完敗ですね。
俺も人が驚いてくれる物を作るのは好きなのですが、自分がこれほど驚かされる物に囲まれるとは思ってもいませんでした。
はぁー、実に愉快で、楽しいですね。
では、先ほどの続きをお聞きします。
そして、まだ見ぬものを見せてもらいたいです」
佐藤は完全に吹っ切れたようで、楽しそうな表情を俺に返してきた。
食堂に戻ると、イザベラから個別の摩導具の紹介や魔法使いマリアからは大きなマナクリスタルを見せてもらい、話は進んでいった。




