9-04-02 出張
開発当初は、国民以外の入国が禁止されてきたが、ある程度国内施設を整い、島での宿泊が可能となった時点で、自衛隊機によるビジネス客の入国を許可した。
しかし、現在の交通手段として、自衛隊の機長が操縦する小型のビジネスジェットを運用しており、ある程度制限された人数の人のみがカノ島へとやってくることになった。
最近のビジネスジェット機は小型であるが、航続距離も1万キロ以上も飛ぶ機体も多くある。
アメリカ本土からであると、帰りの燃料補給がカノ島で必要であるが、日本や中国からでは補給なしで往復できる。
この試験的な運用が無事に行けば、中型機以上のジェット機を飛ばす予定だ。
カノ島での燃料補給体制は出来つつあるが、日本政府との取り決めが有る為に、やはり入国は日本国経由の航空機のみを受け付ける予定だ。
現在、排他的経済水域の上空にシールドが有る為に、金色のピラミッド状の装置が搭載されていないとそのシールドを通過できない。
島に近づいてから、無理やりエマージェンシーを出して緊急着陸をされても困るので、あらかじめ予防線は貼ってある。
もっとも本当に機体故障でエマージェンシーの場合は、この限りではないが...
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
俺は、佐藤崇。
愛知県にある自動車のメーカーで、エンジニアをやっている。
どちらかというと仕事一筋であり、世間のニュースには疎く、太平洋上に新しく小さな国ができたというネットニュースくらいは先日見た覚えがある。
そして、こうして自分がそこに行くことになるとは考えてもいなかった。
今回は会社からの出張命令であり、カノ国の人とのミーティングが設定されている。
たまたま仕事が空いたタイミングの俺に白羽の矢が当たったようで、昨日午前中に急に一泊2日の海外出張が伝えられ、何の話かは分からないままあわただしく出発となった。
まあ、他社でのコンサルやプレゼンなどは、いつもやっており、その場で話を聞き、アイデアをまとめて、提案することは得意である。
今回は急な出張であったが、入国の手続きや出張で必要な費用の両替などは、総務部が昨日の午前中に済ませておいてくれた。
俺の準備としては、カノ国の入国証となる腕輪の登録と受け取りに、昨日の午後、名古屋港に近い場所にあるカノ国大使館へ行ってきた。
聞く話では、カノ国は出来たばかりの小さな国であり、施設のほとんどはまだ建設中であって、宿すらまだ簡易的なものしかない発展途上の島国のようだ。
しかしそこは独身者の気軽さで、1日分の着替えだけを持って、いつもの出張といった気分で簡単な準備をしてきた。
そして今朝、小牧基地からの便で飛んできたのだ。
出発の際、初めて自衛隊の基地の中にへ入ったが、カノ国への便はそこからしか飛んで無いらしい。
以前は迷彩柄の大型の輸送機がカノ島まで飛んでいたそうだが、一般旅客に入国許可が出るようになったことで、民間の小型ビジネスジェット機がレンタルされ、引き続き自衛隊にてその運用を行っていると聞く。
そのため、一般の空港ではなく、自衛隊の基地の滑走路からの離発着と聞いている。
機体が迷彩柄の軍用機では無く、20人程度が乗る、いたって普通にペイントされた機体だ。
しかも今回のフライトは、俺以外は緑の服を着た3人ほどしか乗っておらず、ちょっとしたリッチなプライベートジェット状態であった。
小牧からのフライトで約3時間、俺を乗せた旅客機は今カノ空港滑走路に到着した。
いつの間にか着陸態勢に入ったのかわからないが、カノ島上空のアナウンスの後、滑走路までふんわり降りると、そのまま滑るように空港建物の前にまで移動する。
飛行機の窓から見えた空港の建物は、平屋建ての小さな物で、管制塔やボーディングブリッジもなさそうだ。
空港そばの建屋の前には、自衛隊機が何機か駐機しているが、あそこが自衛隊の駐屯地と思われる。
航空機は静止しすると、前方の扉が1か所開き、そこから飛行機の扉に付いたタラップで地上に降りる。
俺が飛行機を降りると、空港施設の方から一人の女性が歩いてやってきた。
ちょっと小柄で栗色の髪の毛の、外国人かなと思われたが、流ちょうな日本語で俺に話しかけてくる。
「佐藤崇様ですね。 お待ちしておりました。
私はカノ国のサリーと申します。
本日は佐藤様のご案内をさせていただきます」
「あ、佐藤です。よろしくお願いします」
すると、やはり空港施設の方から四角い箱が動いてくる。
箱の1個は下半分が明るいピンクと白が交互に入った斜めストライプで、上半分が透明。
もう1個は中がすべて見える透明な箱だ。
それが地面すれすれをすべるように走ってきた。
これが噂に聞いていた島内移動用のカートという物と思われるが、本当にタイヤもなく滑るように動いてやってきた。
よく見ると、ホバークラフトのように地面からは少し浮上しているようで、そのために音や抵抗もなく、滑るように動ける訳だ。
仕事柄、車についてはどうやって動いているのかを常に考えてしまうが、特に浮上ファンやコンプレッサーのエンジン音などは聞こえない。
「到着すぐで申し訳ありませんが、最初に食事会場へ移動しますので、カートにお乗りください。
一人乗りですので、私は前のカートの乗り先導しますので、佐藤様は後ろのカートにお乗りください。
カートの後ろがラゲッジスペースとなっていますので、お持ちされている、荷物はそちらへ入れてください」」
彼女は、カートの側面の壁から扉も開けずに、そのまま滑り込むようにカートに乗って行った。
透明な壁は、ホログラムのような立体映像なのか? 俺の手も、そのまま透明な壁の中に入っていった。
俺は、まず恐る恐る片手だけを入れて、中でグーチョキしてみるが無事なようだ。
カートの壁は透明なので、入った手も見えているが、特に何かに当たる事もなく普通に手はスポっと入っている。
俺は、カートの後ろの壁に荷物を押し付けようとすると、まるで透明な壁は存在しないように、何の抵抗もなくそのまま壁の内側に入ってゆく。
荷物を入れ手を抜くと、透明であったカートの下半分が白く変わっていた。
これでカートが動き出したようだ。
サリーさんがカートの前方に行き、カートの前を指し示して俺を呼ぶ。
「どうぞ、ここからお入りください」
中に入るように促されたが、やはり壁の中に入るのは抵抗がある。
自動車メーカーのエンジニアである俺が、まさかこんな簡単なカートにすら乗る事を恐れているなんて、自分でも思っても見なかった。
大使館でもらったパンフレットのカートの乗り方の説明書をあまり読んでこなかった事が悔やまれる。
一応パンフレットは、カバンには入れてきているので、後で読んでおこう。
しかし、中に入れるからって、どうやってこの透明な扉を開けて出れるのかわからない。
荷物のように、手を差し込んでそのまま突き進むのかな?
ドアノブはないし、扉にヒンジは無いから、どうやって扉が開くかすらわからない。
閉所恐怖症のように、知らない事が怖さとなって、俺を襲ってきた。
俺がカートの中でパニックしていると、サリーさんは笑いながら
「怖くありませんから、そのまま入っていてください」
どうしてもエンジニアという職業柄、自分が物理的に理解できないとを試すことには慎重である。
ひょっとすると、このカートの扉は細かい縦スリットになっていて、そのまま体を突っ込むと隙間が開くのか?
カートの内側には、椅子となる仕切りがあり、俺が中に入ると仕切りは後ろに倒れて、柔らかなベンチの様に体を包み込む。
その表面は柔らかく、手触りの良い素材で、高級なシート感があった。
カートに乗る前は、すべて透明な素材であり、さっき外を触った時のような硬い感触ではなく、中はソフトな別の素材のようだ。
座っているシートは、今はグレーの布地のように見える。
つい、自社の車の素材と比較してしまう。
乗客がいなくて、空いているカートは全体が透明のようだが、どうやら客が乗り込むとカートの色が変わるようだ。
しかし、中から見ても、このカートの透明な壁にはほとんど厚みが感じられないな。
どうやってこんなに薄い材料でカートができているのだろうか?
それに、今入った入り口はどうなっているのだろうか?
シートで落ち着くと、それを見たサリーさんはカートを発進させ、俺のカートはサリーさんのカートの後ろを追いかけるように動き出した。
音もなくスムースに動くカートは、不思議で謎物体であり、特にエンジニアにとっては興味深いものである。
透明な時にはエンジンなども見当たらなかったが、何が推進力となっているのか良く分からない。
カートは空港脇を抜けると、直線の道路に入った。
道幅は日本のようなものでなく、かなり狭い。
今走っている道路は、島の中央に見える小高い山の方向に向かっているようだ。
周囲に建物はほとんどなく、視界を遮るものがほとんどないために、道路がまっすぐに伸びていることが良くわかる。
標識やガードレールが無いために、近くを流れる去る物が無く、速度感はさほど感じられない。
かなりの速度が出ていると思われるが、いずれにしても静かに滑るように動いているので、加速感に乏しく、カートの中では、全天周スクリーンの映画を見ているような感覚だ。
走行原理はさっぱりわからない、エネルギーは何で走っているのだろう? 車体の素材すらわからない。
しかも、カートは誰も運転をしていなくとも自動で運転をしている
自分たちの会社で作る自動車とは、動作の原点から異なり、あまりの違いに感動すら覚えた。




