9-04-01 開国
しばし時は進む。
進めてきたカノ島の建設は、順調に進んできた。
カノ国は小さな島国であるが、独立宣言後に外国勢力の侵攻など、これまでいくつかの騒ぎにより、世界的に注目を浴びている。
また、既に日本の拠点を通じて簡単な摩導具やエリクサーについての出荷が始まっているので、興味を持った研究者、技術者や専門家などからカノ国へ訪問したいと言う要望がたくさん寄せられている。
その為、そろそろ国外からの訪問客を受け入れても良い時期になったのではないかと言う事になってきた。
そこで、ステップを踏んで開国を行う為に、拠点の大使館でも、その受け入れのための準備を開始した。
ステップと言うのは、最初は島建設やインフラ、教育、産業などを立ち上げるためのアシストが出来る人を優先して受け入れる就労査証の発行。
査証は、国によって、医療や技能、ビジネスなどいくつにもわかれている事が有るが、カノ国は仕事が目的であればすべてワーキングビザとなっている。
このビザを持っていれば、カノ島内で仕事ができ、パラスを稼ぐことが出来る。
施設などの中で、プライオリティが低い物は、まだ設計すら手が回っていないので、当然仕事としてはまだたくさんある。
施設が出来ると、そこで働く人が必要となる為やはり人が必要となる。
また、直接パラスを稼がなくとも、ビジネスを目的としてカノ島へ来島する場合は、このワーキングビザを取得していただく事が望ましい。
なぜならば、ワーキングビザを持っている場合、カノ島で稼いだパラスを国外に持ち出し、そしてパラスを持って再入国が可能となっている。
観光などの一般査証では、パラスの国外持ち出しは出来ないと言う事だ。
カノ国への入国を複数回考えている場合、ワーキングビザを取得するとパラスを有効に使用することが出来る。
また、当面はワーキングビザしか発給の予定が無く、一般ビザはその次のステップとなる。
カノ国のビザは渡航者のパスポートに記述されるのではなく、専用の摩導リングが配布される。
今回、新たにビジネスと一般に分れたため、国民IDと摩導リングの色の変更が行われた。
国民IDはバングル形式に統一された。
新しい区分として、一般の国民用のバングルはシルバーである。
そして、そのバングルに目的により色が付いた太い筋が何本か入れられる。
王室関連者には、バングルの色がゴールドになる。
シルバーとゴールドはどちらもメタリックであり、光が当たると、きらりとまばゆい。
一説によると、このゴールドの素材は24金でないかとも言われているが、生活する中で普通に腕に付けていても変形や表面に傷がつかないので、とても柔らかな純金とは思えない。
また、あまり見ることは出来ないが、一時的に使われるバングルとして白いバングルなども存在する。
カノ国への渡航者は、一般ビザは白色、ビジネスは黄色のリングとなっている
これにより、国民と訪問客、その区別が一目で分かるようになっている。
開国にあたり、カノ島に入ることが出来る空路としては、まだ愛知県の小牧基地に有る航空自衛隊の基地から飛び立つビジネスジェット機が唯一の手段である。
カノ国の大使館は日本の一か所にしかないが、今のところ特に大きな問題とはなっていない。
そして、開国をしても当面はいろいろと制限が付くことになる。
この、まだ一般的ではないカノ島への訪問を行う為には、最初に入国申請を出して事前審査が必要である。
これが最初の難関であり、きちんとした理由がないと審査に通らない。
査証発行申請書をカノ国大使館に提出し、審査に通り、申請が受け付けられた場合、大使館で最終面接を受ける必要がある。
ただ、この時点まで来ると、ほぼ通過した事に成り、やはり多くは事前審査でふるい落とされることになる。
多くの訪問者は摩導具の秘密を知りたい人が多いようであり、実際に研究をしたい人は少ないようだ。
我々が一番恐れているのは、やはりテロや暴動の扇動など、治安を乱す活動家を入国させてしまう事だ。
救出に成功したので誘拐事件としては失敗に終わったが、それ以降我々も慎重にならざるを得ない。 後から後悔はしたくないため、慎重に事を進めている。
その為、最終面接は主に犯罪者や第3勢力に属さないかの確認の為であり、この時はサリーが大使館に向かって行う事に成っている。
それらが無事に終了すると、摩導リングが発行されて、それに旅行者個人のIDが登録される。
これは、摩導リングの摩導チップに対して、個人が持つ遺伝子の塩基配列から生成されるバイオメトリック認証がIDとして記録される。
そのために、顔が似ていても、例え似た指紋を持つ人がいたとしても、本人へのなりすましは出来ない。
このバングルもしくはリングのIDが認識されないと、例えカノ島にまで到着しても、空港からカノ国の内側に入ることは出来ない。
カノ国への入国手続きに必要な費用は、査証発給に手数料が必要で、1回1万パラスが必要である。 だいたい日本円換算で十万円とかなり高額である。
さらに、その費用はカノ国通貨であるパラスで支払う必要があるため、IDリング受取時に大使館で円をパラスに両替して納付する必要がある。
しかし、一見すると高額であるが、受け取った摩導リングには1万パラスが初期所持金としてIDにチャージされる。
そう、実質費用はそこで完全に相殺されているが、一回きりの観光で訪れる場合、最低でも1万パラスをカノ国で使いきってもらうと言う事に成る。
カノ国に入国すると、外貨は一切使えない。 それどころか外貨の持ち込みは重罪となる。
その為、クレジットカードやデビットカードなど国際支払い可能なカードを利用できない。
カノ国へ入国する際、パラス以外の外貨の持ち込みは一切禁止されるために、カノ国大使館もしくは自衛隊の小牧基地であらかじめ両替してくる必要がある。
と言って、大量のパラスに交換してきても、パラスは持ち出し不可なので余すことは出来ないので注意が必要である。
一般の査証を持った人に渡される白い摩導リングでは、日本でチャージしてきたパラスは、帰国時の際に残ったパラスは摩導リングから消えてしまう。
電子通貨であるが、パラスを国外へ持ち出すことは出来ない仕組みになっている。
その為に、多くの人は空港脇にある無人販売を行う売店倉庫で残ったパラスを消費すべく、買い物をしてもらえるようになっている。
しかもここは、例え日本から輸入した商品であっても、日本で購入するよりもかなり安い値段付けになっている。
それは、日本のディスカウントストアと比べてもかなり安いのだ。
消費税はなく、大量一括で仕入れた商品に、ごくわずかの経費が乗っかているだけの価格である。
安いのは当然だ。
まあ、いまはまだ空港にやってくる日本の自衛隊の人達くらいしか来ていないが、やがて、ワーキングビザを持ったビジネス客が来ることになっている。
実際に多くの買い物客が来ると思われるのは、一般査証が発行されるようになった後だと思っているので、今しばらくは静かなカノ島を楽しみたい。




