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9-03-02 貴薬草


 俺は、深夜からの作業で仮眠だけだったので、再び朝から寝ようとしていた。

 いや、すでに一瞬で寝ていたのだが、そこを起こされてしまい、頭が全く動いていない。


 よく見ると、目の前に貴子がいて、何か騒いでいる。

 ん? 起きなきゃダメ?

 そうか、貴子は王宮の俺の部屋にも入れる設定だったな...

 もう少し寝させてよ...

 うーん...

 あれ?



「何! 貴子か? どうした?」


 俺はようやく目が覚めた。


「慎二、お前のストレージの里の水、もう残っていないか?」


「水が必要って、どうんしたんだよ...

 あれから貴子は寝ていないのか?

 うん? 里の水?

 さっき、畑で渡したのが残っていた最後の物だよ」


 寝ていた脳みそが、少しずつ動き出した。


「だったら、私が里に水を汲みに行くので、摩導カートで里にまでのスキップ移動を許可してくれ」


「えっ? どうしたの?」


「急ぎなのじゃ。

 急がないと、貴薬草がダメになる」


「えっ? どうしたの?」


「夜明けの時に畑でいくつか採った草、その草を里の水で洗ったが、今その草が黄色い貴薬草に変化している。

 そしてこの島の水でも洗ってみたが、それは貴薬草にはならず、枯れてしまった。

 日が昇ってきてすでに時間が経つので、光っていた部分の草は枯れ始めているので、もし間に合えばすぐに里の水で洗ってみたい」


 それを聞くと、俺の思考は思いっきり目覚めさせられた。


「それって、今朝の草から貴薬草が出来たってことなのか?」


「里の水で洗った草は数株しかないが、それらは貴薬草になっていたのじゃ。

 パラセル鑑定をしたから、貴薬草であることは間違いない。

 なぜあそこだけ発芽したかは知らないが、とにかくあのプランターの中の草はすべて貴薬草の元になる草のようじゃ」


 興奮した貴子が、また婆さん喋りに戻っているのを聞いて、くすっと笑ってしまった。


「今朝採った草は光っていたうちのほんの一部だから、すでに枯れ始めたと言う事は、沢山無駄にしちゃったのか...

 ということは、今枯れ始めた草を採取して、里に持っていって洗えば何とか間に合わないかな?」


「ただ昼までには急速に枯れていってしまうので、今から採取していると、もう間に合わないかもしれないと思う。

 ただ、里では満月前後の満月の状態は何日か続くから、明日以降も残った草が明け方に光り出す可能性がある思うぞ。

 しかし、貴薬草を作れる時間は短い。

 里で行っていたように、事前に準備しておかないと枯れて行ってしまうので、今のように間に合わなくなってしまう。

 里でも一人でやっていたので、かなり枯らしてしまったなぁ」


「貴子の再生の時、里から重要な成分が無くなったのじゃなかったのか?」


「体を再生するのに何が必要かはわからないが、私の再生に必要な成分とは関係ない成分が貴薬草に必要だったのじゃないかな?

 そして、この島の水にはその成分が含まれていないようじゃ」


「それって、魚の処理で言う活けじめみたいなものなのか?

 生きている際に、急速にショック死させることで、身が痛むまでの時間が永くなると言う。

 ということは、ひょっとすると里の水は毒ではないが、生命を作る為の成分ではなく、貴薬草の生命活動を瞬間的に奪う物なのかもしれないな...」


「そうかもしれぬ。

 里の水は草が枯死するまえに、根を水で洗う事で、その状態で貴薬草として留める作用があるようじゃ。

 

 せっかく貴薬草となる草が生えても、その状態で封止できる水が無いと、急速に枯れてしまい単なる枯草になってしまう。


 あと、何時までこのプランターに草が残るかわからないので、里の水を含め、貴薬草を作る為の準備をしたい。

 なので、今すぐにカートを出してくれ!」


 前回里に湧いている水を汲んできたが、ほとんど畑にまいて使ってしまった。

 でも、発芽条件としてこれが良かったのだろうか?

 里に溜まっていた水は、その時にかなり採取してしまったが、多くを残してきたつもりなので、俺も貴子の里に直ぐに行く事にした。


 すでに昼を過ぎてしまっているが、朝飯食べたいなー...



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 幸い貴子の里に湧いていた水は、まだ十分に残っていた。


 少し多めに汲むと、ついでに里の他の場所で湧いている水も探して持っていく。

 以前探索した時に、そのような場所が有った事と、少し湿地になった場所があったことは確認している。


 それと貴子の里でなくとも、貴薬草の発芽が確認できたことと、ここの水が有れば貴薬草になる事がわかったので、さらにここの土壌をカノ島に持っていく事にした。

 今汲んだ水は、ストレージに入れておけば、成分の揮発や劣化はしないはずだ。

 現に以前汲んで、ストレージに残っていた水でも、今朝使用してうまくいった。


 しかし、短時間で萎れて枯れる貴薬草の生産において、鮮度や時間が問題となる。

 とにかく貴薬草に成ろうとしている草が今生えてきているので、俺達で試せることは、考え付くだけやってみる事にした。




 俺たちはカノ島に戻ると、明日の朝から貴薬草作成の作業が出来るように場所や道具を準備をして、朝が早いので夕方には寝れる準備を行った。


 これから行う作業は、カノ島でも最大の機密事項である。

 これの作業に係わる人は限られた最小限にしたい。 その範囲は、スレイトメンバーに限られると思われる。


 そして、ここからの数日は深夜作業が続くと思われるので、入っているスケジュールを全てキャンセルし、重要な仕事は緊急に他の人に代わってもらう事にした。


 当然国の仕事も大切ではあるが、こちらは夏の満月の時にしかできない作業であり、これからのカノ国の将来を決める作業でもあるので、なによりも優先して行う必要がある。


 ん? でも、生育環境を常に夏にして育てれば、ひょっとすると年間を通して育たないかな?

 あと、プランター表面にはフィルターを掛けているが、それでも満月の時に草は光りだしたが、満月は草に対してどのように作用しているのかな?

 空気中に含まれる物質はカットしているが、重力やエターナルなど、電磁波はカットしていない。


 いかん! また自分で余計な実験を大量に増やしてしまいそうだ。

 貴薬草に関しては、まだまだ謎が多すぎる。


 次なることも大事であるが、せっかく生えてきてくれた貴薬草を、今はきちんと採取してあげる事を優先する事にした。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 明け方、新たに貴薬草になるべくプランターの中では草が光っていた。


 プランターの中一杯にこの草は生えているが、沢山生えている草がすべて光っているわけではないようだ。

 俺が子供の時、貴子の里で見た時も、多くの雑草の中に埋もれた状態で貴薬草が光っていた。

 しかし、このプランター環境だと、この草以外の雑草が一緒に生えることが出来ないようだ。

 これはプランターを密閉したことが他の草に何らかの影響をしているのではないかと考えている。


 すべての草が光っている訳ではないが、それでもプランター中では百を超える数の草が光っているようで、もしこれがすべて貴薬草に出来ればものすごい事に成ってしまう。

 富沢漢方薬店の、あ、今は富沢製薬か、の由彦さんの驚喜した顔が脳裏に浮かんでくる。



 プランター側に、作業をしやすい環境を昨日中に作っておいた。

 プランターから採取した草は、すぐに洗浄され、その後乾燥ができるような作業場とした。

 短時間で作業を行った結果、時間切れで枯れてしまう事が無く、無駄なくすべてを処理することが出来、この日は結果として百株を超える貴薬草を生産することができた。


 数日の満月期間で、プランターは1つしかないが、合計でなんと五百株を超える上質の貴薬草が製造された。

 これまで、1株単位でしか扱えなかった貴薬草が、これほど大量に手元に有るのは、何とも心強い。

 しかし、満月期間も終了し、それ以降はプランターで草が光ることは無くなってしまった。


 ここからの大きな問題は、このプランターの草が次の夏の満月まで、年を超えて残るかわからない。

 プランターなので、そこに冬と言う概念はない。

 あと、今残った草だけでも、更に増やすことが出来ないか、また、このプランターの土の一部を混ぜる事で、別のプランターでもこの草の生育が出来ないかなど考えている。



 これまで異次元に対してパラセルで販売された貴薬草からは、一株の貴薬草を使って、一本のエリクサー瓶しか作られてこなかったようである。

 貴薬草一株が国家予算を揺るがす高額で取引されている。

 そして、そこから生み出されるエリクサーが使える人は、どうしても限られた人となってしまう。


 これから多くの人の命を救うためには、数が潤沢に供給され、たとえそれが高価であったとしても、常識的な価格にまでさがる必要がある。


 その為には、貴薬草の状態で流通させるよりも、我々で薬として完成形としたエリクサー錠を販売した方がより多くの命を救うことが出来ると考える。

 貴薬草からエリクサーになった後は鮮度が重要であり、異次元世界では鮮度を保持する特別なポーション瓶を用いて保存されていたようである。

 しかし、この高価な特別な瓶も、そのエリクサーの価格を上げていたに違い無い。



 そこで、異次元では見たことが無いと思われる、近代的な製薬技術で生産した錠剤の状態で、パラセル販売で販売する事にした。

 まあ、カプセル錠剤の表面には薬品名と有効期限の記号が書かれているが、これは小さな問題で、異次元への配布であっても問題ないと思われる。


 それと、ライトタイプのエリクサー錠と合わせて、最初に造った濃度が高いエリクサー錠の生産を増やすことで、より重い病気にも対応できるようにした。


 由彦さん達との開発で、エリクサーを生み出す方法はすでに確定している。

 俺とマリア、今はアンナも手伝ってくれるので、今回は量が多く多少時間がかかりそうだがエリクサー化が出来る。


 由彦さん向けの金の丸薬原液は、エリクサーとは少し製法が異なるので、俺とマリアで貴薬草にエターナルを流し込んだ物を渡し、以前通り富山の工場で作ってもらう事にしている。


 しかし、せっかく島で産業が動き出したので、エリクサー錠の製造はすべてカノ島で作る事にした。

 エリクサー原液の製造には特に設備は必要としないが、空気を遮断し長期保存が出来る、錠剤としてのソフトカプセル化製造工場を島内に作ろうと考えている。


 あと、製造工場のほか、薬草研究所と貴薬草から派生した医薬品の製造工場も面白そうだ。

 とにかく、カノ国として長い年月にわたってお金を稼いで、国を支えていく産業の育成が急務と考えている。


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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