1-05-07 外務省 特別外交9課
閑話です。
ちょっと外務省の様子をうかがってみましょう。
「昨日検出しました波動は、やはり次元配達員が現れたようです。
こちらのマップをご覧ください」
外務省が持つ次元波の観測システムに、次元配達員という者が引っかかったようだ。
ここは、外務省の特別外交9課。
日ごろから特別外交9課は、異次元から日本へ侵入、いや訪問される方をターゲットとして調査しており、その対応を行ってきた。
日本政府はこれまで公表してはいないが、この地球以外での生命体の存在を認めており、そのうちの知的生命体を異世界人と呼んでいる。
異世界人の多くは、地球以外の宇宙空間から、この地球を来訪する異星人である。
異星人は、一般的には宇宙人などと呼ばれることが多いが、政府内の秘密の呼称では異星人である。
また異世界人の中に、数こそ少ないが、宇宙からの来訪ではなく、次元空間を超えてやって来る、異次元人の存在もある。
各国政府は、それら異世界人の存在について、ことごとく沈黙を貫いている。
一般市民が異世界人の事を知ると大騒ぎになると思われているが、本当の事はちょっと違っている。
異世界人と交易はすでに行われており、新たな文化や資源などの重要な供給元となっている。
異世界人との取引は、国に大きな利益をもたらす。
他国には知らせず沈黙しているのは、自国だけで独占するために、それぞれの国家は機密事項として対応している為だ。
このように、各国は公表こそしていないが、すでに多くの国では独自の交易チャンネルを築いている。
以前は、地球以外からの訪問者=侵略者、インベーダなどと恐れられてきた。
しかし、実際これまで来訪した地球外生命体のほとんどは友好的であり、安全である場合が多いことが分かっている。
我々の世界では、まだ異世界へ行くだけの技術はなく、異世界からの来訪を受け入れるだけであり、地球へやって来る事が出来る異世界人は、我々よりもはるかに高い文化を持っている。
そう、地球を訪れるだけの技術を持った彼ら見ると、我々の方が未開の地の野蛮な住人なのだ。
さらに今の地球には、地球外から訪問する際の受け入れを行うべきの、空港のような施設を持っていない。
というか、そのような公的な施設を作ると、異星人との取引の事実が他国に漏れてしまうために、作るに作れない、といった方が正しい。
従って、各国は地球外からの来訪者を常に監視し、来訪を感知すると、密やかに政府の職員が出張し接触するようになっている。
現在の日本国での、異星人に対するファーストコンタクトは、宇宙空間の観測網を握っている文科省が担当している。
接触後、日本に入国や一定期間以上滞在を希望する場合は、厚労省による検疫を経て、最後に外務省の入国審査に引き継がれている。
先ほど、異星人ではなく、次元空間を超えて来る、異次元人についての話をしたが、彼らは宇宙から来るのではなく、次元を超えてやってくる。
彼らが現れると、僅かではあるが次元空間に揺らぎが発生するらしい。
これは、来訪した異星人から次元について教えてもらい、その話の中から、政府は異次元人が存在することに初めて気が付いたようだ。
今の地球の技術では、次元を超えた訪問を知る技術がない為、日本政府は異星人来訪時の次元空間のひずみを観測するシステムの構築を異星人依頼した。
現在、日本国内の複数カ所に観測装置が設置され運用している。
日本以外の国でも同様の観測を行っているかもしれないが、それについては各国とも口を閉ざしているために正確なことはわからない。
これまでの日本での観測結果から、異次元からの来報先は、何故かそのほとんどが、この日本を目指してやって来ていた事が分かった。
異次元人の足跡を追尾すると、最初他国に現れた異次元人は、その後日本を訪問し、最終的にこの日本から帰還していると観測結果は示していた。
これまで異世界人より少ない数の異次元人の来訪ではあるが、最近その来訪者数がすこし増えていた。
直接のコンタクトには失敗しているため、本来の理由はわからないが、日本に何らかの目的があるように考えられている。
その次元のひずみの観測を行い、異次元人との接触担当は、外務省外交9課という部署が行っており、ここは一般には公表されていない。
宇宙から来訪する未知の知的生命体とのファーストコンタクトという、華やかなる業務はこれまで他の省庁に持っていかれており、地味な入国審査実務のみを行ってきた外務省にとって、それはようやく手に入れた、美味しいポジションである。
当然、その部署は花形であり、省内からエリートが集められている。
しかし、優秀な彼らでも異次元人と直接コンタクトすることは難しく、いまだ失敗が続いており、立場的にかなり厳しいようである。
実のところ、日本という国が成り立つはるか古代の時代から、異次元人の訪問は確認されてきた。
その中には、この地球人の姿と異なり、いつも一人の地球人の従者を連れている異次元人の存在があった。
つれた従者は毎回異なるが、残された書や絵から、その異次元人は時代が異なるが同一の者であると考えれられて来た。
彼は不思議な力を持っているようであるが、その力でこの国を支配したり、何かを占有するようなことはしてこなかった。
権力を持つ者は、過去の彼の事蹟に気付き、さらなる富や力を得る事を欲し、次に彼が現れることを探すように尽力した。
その多くは徒労に終わり、その時間の流れとともに、その事蹟の記録すら失われていった。
しかし、何名かの者はその記録を、後世に引き継ぎ残すことに成功した。
それらは、後に豪族となったり、将軍となったりして、得られた力を使い、亡くなる前には大きな墳墓を作り上げ、その栄華を周囲に誇示した。
今でも日本各地に残され大きな古墳から、その時代に文化、技術、そして莫大な蓄財が存在した事の痕跡を知ることができる。
天皇一族においても、幸運なことに何度か異次元人からの助けを受ける事ができ、なんと現代にまで偉大な権力の継承が行われ続けてきた。
一族らが受け継いできた多くの宝は、その異次元人から賜った物も多く、その時代の世界では決して手に入れることができない貴重なものだったという。
過去からの継承もあり、天皇家もまた、代々に渡り、再び現れる異次元人との接触を待ち続けているのだ。
それは新たな力を求める事よりも、過去に与えられた事や物への返礼であり、預かりし物を返却する為であった。
その日、外務省の特別外交9課は、いつもの次元配達員とは異なる、何か別の動きを感知していた。
次元配達員と呼ばれる者たちの目的は、まだ良くわかっていないが、多くの場合、彼らは何かの『物』を持っていて、その持ってきた物をどこかに隠したり、人に渡したりすると、その後はすぐに戻ってしまう。
その動きから、あたかも何か荷物を配達しているのではないか? と考えられており、そこから次元配達人と呼ばれようになった。
日本に何か所ある観測施設では、観測された出現点の方向を求め、各施設から出される方向の交点を求め、最終的に出現位置を特定する。
しかし、現れている時間が短い場合、方向検出が難しく、結果として大雑把な座標しか求めることができない。
東京は比較的出現頻度が高いため、関東エリアを囲むように個別な観測施設が設けられている。
そのため、他の地区に比べると精度は高いそうだ。
それでも、その大まかな交点の範囲を、まるで刑事ドラマのように捜査員が聞き込みをして、最終的には足で痕跡を探すようだ。
また世界に公表を控えている関係から、この課の予算は裏の政府予算から出す必要があり、高額な観測基地の増設は難しいと聞いている。
そんな方法でファーストコンタクトを諮っているために、現れてすぐに消えてしまう異次元人との接触は、正直に言うとまだ一度も成功していない。
今回も、次元配達員の登場で課内はざわめいた。
いつもの事なので、特別外交9課は最初からあきらめムードもあった。
ところが今回は、少し様子が異なっていた。
なんと同じ地点に再度揺らぎが観測されたのだ。
それも、いつになく大きな揺らぎが観測された。
そこで、単独の捜査員だけではなく、複数の調査員が調査班として編成され、その周囲の調査に向かった。
幸運にも、直前の次元配達員の登場と同じ付近であったことで、最初の調査員がすでにその付近の調査を開始していた。
さらに、今回は揺らぎが大きく、はっきりした交点が求められたこととで、範囲はかなり狭めることができた。
しかし、狭くなったとはいえ、現れたのは23区内の人口密集地であったために、そこの範囲内にはとてつもなく多い人間が暮らしている。
従来からの聞き取り追跡方法では、当然ターゲットにまではたどり着くはずもない。
実際、今回も揺らぎは観測後にすぐに収束し、ターゲットは当然どこかに移動した後であると考えることが自然だ。
結局この貴重な観測情報も、それ以上の役には立てずに終わり、この時はいつものように後追いでの聞き取り追跡が行われていた。 この時は。
お役人さんも大変そうですね。




