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9-02-04 植物実験農園


 カノ国が成立したので、慎二の祖母である貴子達もカノ島に初めてやってきた。

 貴子は、これまで貴薬草を求めて、日本各地を放浪していた。



 貴子は俺の婆さんなのだが、俺と同じくパラセルのスレイト持ちである。

 しかし、彼女は貴子の里と呼ばれる山中で、貴薬草を栽培してそれをパラセルで販売していたのだが、作業中に高齢の為に亡くなってしまった。

 山の中での孤独死であったが、貴子のスレイトヘルパーであるシーにより蘇生処置がなされ、見事に幼女として若返って蘇った。

 その後、シーは俺たちが山中に入るタイミングに合わせ彼女を発見させた。

 幼女であった貴子は急速に成長して、今では女子高校生くらいにまで育ち、急成長は終了して美人さんの容姿となって今に至っている。


 今回俺たちのカノ国を作れた原点には、貴子のヘルパーであるシーのおかげが強く働いている。


 これまでシーがヘルプして来た昔のスレイトマスター達は、彼の不思議な能力から将軍や皇族など時代に有力者と繋がりができた。

 そして今の日本国成立に至る重要な人を、何度も、何人も助けてきてきた。

 それは、今の天皇家や古い寺社などに、シーの長き歴史が白狼伝説として絵馬に記録され、語り継がれている。


 それぞれの時代でシーのマスター達が、権力者などに渡した品々は、その国の宝として、今の時代にまでもその一部が残されてきた。

 大きな偉業のきっかけとなるシーに対しては、それぞれの権力者から褒美として領地などが授けられた。

 しかし、マスターの死亡とともに消え去るが、言い伝えによりシーは再び時代を経て現れる事が知られている。

 そしてシーが不在となった際に、代々の権力を継承している皇族など一族などにより、そこは御陵地などの名目として、後世で本人にお返しすべく代々引き継がれて守られてきている。

 日本国の歴史や、その生い立ちにすら深くかかわってきたシーであった。



 現在のスレイトマスターである貴子が亡くなった際、それまでパラセルに貴薬草を売って貯まっていた莫大なパラスが初めて使われた。

 また、貴子の里に残されていた薬草や、その里の土地に含まれていた養分などは、貴子の肉体の蘇生材料として使われてしまった。


 シーの判断では、そのすべてを失った貴子の里は、再び貴薬草栽培ができるまでに回復するには100年近くかかるのではないかという。

 もっとも、貴薬草の栽培や生育の詳細は貴子やシーにすらわかっていなかった。

 貴子の里で失われた養分や発芽条件が何であるかわかっていないので、たとえ100年待ってもまた貴薬草が生えてくるという保証はないと言っている。


 その為、あらたに生まれ変わった貴子は、新たな貴薬草が栽培できる土地を求めて、日本を探し求めてきた。

 貴子は行方不明となった際に、彼女に対して死亡宣告が出された。

 若返って再生したなんて事を世間に公表できるわけはないので、今の彼女は日本の戸籍を喪失したままである。

 まあ、異次元人とかかわってしまった俺達も戸籍が無い状態となっているのだが...


 彼女や俺達は日本戸籍は無いが、陛下の書により日本国内では自由に活動できるようになった。

 国内での活動は、何か問題が発生しても宮内庁が身元引受人となっており、活動の心配は無い。

 しかし、それらの影響力が及ばない世界に飛び出して行くためには、やはり正規なパスポートが必要となるために、海外探索には貴子以外のメンバーに行ってもらっている。


 そして、今回貴子がカノ島にやってきたのは、死亡宣言時に失なわれた戸籍を、カノ国の国民として新たにカノ国で発行することにあった。

 彼女には正式に世界で通用するカノ国民として、彼女自身のパスポートが発行された。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 カノ島にやって来た貴子に、慎二は彼女の現状、すなわち彼女が探し求めている貴薬草についての状況を聞いていた。


「貴子、貴薬草はどうなっている?」


「うん、国内はさっぱりね。

 今教授に海外を回ってもらっているのだけど、まだまだ先は長そうね」


 ちなみに、彼女に代わって主に世界を飛び歩いていたのは、元役場の姐さん 原田真希と、その山の師匠である教授 石崎礼一朗先生とその奥さんである。


「前の貴子の里はどうしてるんだ?」


「うん、あそこもあれ以降も何回か見に行ってるのだけど、やっぱりだめそうね。

 シーもしばらく無理だって言ってるのは、間違いなさそうね」


「今この島で、植物栽培の実験を始めていのだが、もしよかったら、里の土を少し分けてもらえないかな?」


「え、土なんかどうするのよ?」


「この島では、これから大規模に植物を生産しようと思っているんだよ。

 そこでは、いろいろな条件を変えて野菜の栽培実験をやっているんだが、同じようにして里の土に対して条件を変化させることで貴薬草が生えてこないかなって思ってね」


 カノ島には一般公開された植物プラントのほかに、王宮の中の秘密の場所に、一般の立ち入りが禁止された土地で、特別な植物実験農園が作られている。

 その実験農場では、パラセルから購入した異次元の植物の種や苗が育てられている。

 そこではこの地球上で見たことが無いような植物が、沢山茂る事に成る。

 その為に、ここで育てられる植物が、この世界の植物と交配したり、逆にこの世界の植物花粉や飛来する昆虫の影響を受けないように各々がシールドされて管理されている。


 そして、俺はその植物実験農園で、貴薬草が偶然であっても生えてこないかの実験をしてみようと思ったのだ。



「ふふっ、その発想は慎二らしいわね。

 確かにどこかにあるのを探すよりも、その可能性を自分で高くするのは面白いわね。

 いいわよ、どれくらい必要なの?」


「特に決まってはいないが、そうだな100メートル四方ぶんくらいの土などをもらえるか?」


「100㎡か。 ちょっと広いけど、どうせ里はまだしばらく使えそうにないので、いいわよ。

 でも掘った穴に落ちないように埋めておいてね」


「わかった、じゃあ思い立ったが幸いなので、今から行ってもいいか?」


「えっ? 今から行くの? 来たばかりの私を放っておいて?」


「じゃあ、一緒に行くか?」


 そういうと、慎二は摩導カートに向かう。


 そういえば、以前貴子は、慎二に対しては婆さん時代の口調が抜けなかったが、ようやく慎二に対しても女子高校生風の話し方もすっかり慣れたようだ。



 先日から摩導カートによるスキップ航法により、カノ島と日本の高速移動が可能となった。

 カートに乗り込む前に、王宮農園に持って帰る土を入れるプランターを王宮の実験農園に並べるように手配をしておく。

 そして、貴子を1台の摩導カートに押し込んだ。


「さっき、これに乗って来たばかりなのに、また悪いね。

 高いところは怖くなかったかい?」


「体が若くなったせいか、三半規管も以前より強くなったみたいね。

 ジェットコースターみたいで、とても楽しかったわ」


「あ、そう。

 じゃあ、ひとっ飛びといきますか!」


 摩導カートは名古屋の拠点の他では、なるべく人に見られないように使わないようにしているが、貴子の里は結界もあり、里の入口の広場を発着に使えば問題ないと思われる。


 摩導カートの発進は垂直方向に飛び上がるので、カノ島のどこからであっても飛び立つことが出来る。

 ただし、帰る時は、斜めになって降りてくるので、安全のために島の一番高い位置にある中央の小山のある着陸タワーを目指して地球上から飛んでくる。


 数分後、貴子の里の入り口の広場に到着した俺たちは、摩導カートに乗ったまま入り口となる空間ゲートを通過して里の中に入って行く。

 里に入った俺たちはカートで一度上空にまで昇り、貴子の里を上空から見下ろした。


「それほど昔の事ではないが、今となっては、何もかも懐かしい...

 上から見ると、この里もずいぶん狭く見えるな。


 あそこが、洞穴で、あの辺で貴子が見つかったのか。

 あそこは小屋があった場所かな?」


 地上に降りる前に、しばらく上空から里の状態を観察してから地上に降りた。

 せっかく来たので、貴子と摩導カートで少し上空から里の中をチェックしたのだが、やはり貴薬草は見つからなかった。


 そして、目的である里の土壌を分けてもらうことにした。

 何年先になるかわからないが、再度芽生えてくる事を信じて...



 100メートル四方。 すなわち1ヘクタールの土を、深さ3メートルほどストレージに取り込み、そこに島から持ってきた植物栽培用の土と入れ替える。

 但し、どこか一か所からでなく、それを里の何か所かに分けて交換を行った。


 あと、カノ島から持ってきた入れ替える土が栄養豊富だと、この里の植生が変わりそうなので、肥料などは入れる前の、どちらかと言うと土自体が持つ養分しかない無垢の土だ。

 このストレージを用いた地面の交換は一瞬であり、それまで表面に生えていた草がそこから一気に消え、茶色い土壌が見えた土に変わった。



 カートから降りて、元の畑の周囲を歩いてみる。

 雑草の生命力は大したもので、耕作地や小屋周辺などはすっかり草むらに飲み込まれて、草しか見えなくなっていた。

 あと、貴薬草を洗う際に使っていた水を、同様にストレージに取り込んで帰る事にした。

 この水も、昔の成分は既に失われているようであるが、まあ条件の一つとして土に混ぜ込むことにする。


 これらすべての作業が済むと、俺と貴子は、近くに止めておいた摩導カートを呼び寄せ、乗り込んだ。


「じゃあ戻りますか」


 貴子の里入り口広場を飛び立った俺たちは、再び5分少々の宇宙空間経由の旅を楽しみ、カノ島に戻ってきた。


 貴子は既にカノ島に家を作ってあるので、しばらくこちらで生活する予定と聞いている。

 その為に急ぐことはないので、俺たちはそのまま王宮エリアにある、実験農園に向かった。


 王宮エリアの農園では、王宮で食する野菜と、一般の農園では栽培できない、パラセルから購入した外来の野菜や果物を育てる予定だ。

 王室では、外からの訪問客を迎え入れた際の食事会用に特別な野菜を育てる予定である。

 そのため、まだ国として来賓をまだ迎えられる状態ではないため、育てる植物はまだ必要は無く、広い土地にはこれから植えるべく空のプランターが並んでいた。


 また一般農園ほど大きなプランターは必要ないので、実験農場には小型のプランターがびっしりと並んでおかれている。

 カノ島の農園は、摩導プランターにより、温湿度の変化や光、地質など、個々のプランターごとにさまざまな環境を再現することが出来るので、よりよい植物の生育条件で栽培が可能となっている。

 王宮では、その摩導プランターを小規模でたくさん種類を持つことで、いろいろな種類の植物を育てる事に成っている。


 そして、この王宮農園の奥には、特別な実験用として新たな実験を始める事に成った。

 そこでは、貴子の里の環境を人工的に作って、それらを少しずつ変化させることで、貴薬草が生えてこないかの実験を行う予定だ。



 里から持ってきた土を、王宮小型植物プランターに入れていく。

 小型と言っても一般農園との比較であり、それぞれのプランターは1つの家庭菜園くらいの面積はある。

 里で掘ってきた土を、それぞれのプランターに分けて入れていく。


 土を入れたプランターは、貴子の里の土地を切り出した広さと同じ 100メートル四方に隙間なく並べてある。


 このプランターの表面には、すぐに摩導フィルムをかけて、里で汲んだ水を散布し密閉しておく。

 これは、里の環境に近い状態で、貴薬草が生えてこないかを調べるためだ。


 このプランターには、いくつかの養分を変えた土が、工場であらかじめプランターの底に敷いてもらってある。


 養分の種類によっては、里よりもかなり栄養分が高い土壌となるので、プランターの中は雑草が生え放題になると思われる。

 いずれにしても密閉環境でプランターにより温度や湿度、日照などを変えて生育の試験を行う事に成る。


 また、いくつかのプランターでは、あえて密閉せずに島の空気に晒して実験をする。


 ただし、貴子の里の雑草が島に広がるのは困るので、プランターのあるフィールドを取り囲んだ状態で、大きな温室のように摩導シートで蓋をしておく。

 この摩導シートのシールドは、外側から内側に対しては透過とし、中から外へは遮断としている。




「貴子、ごめんなー。 待たせちゃったね」


「いやいや、私んの貴薬草を試してもらうのに、文句は言えないわよ」


「じゃご飯に行こう!」


「久しぶりの松井姉の料理を楽しみにしてきたのよ。 お腹空いたわね!」


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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