9-02-02 監視網
『注意喚起をお知らせします』
久しぶりに、アーがポップアップしてきた。
『現在、カノ国に対して侵攻を行う為の会議が行われています。
服部由布子の誘拐を以前命令した国で、再び侵攻計画が協議されています。
会議では、前回の失敗を受けて、今回は外部発注ではなく、自国軍を差し向ける討議がなされています。
あ、今指令官から実施の決定の宣言がなされました。
この後、48時間以内に動きがあるものと考えられます。
これは演習ではありません』
「アー、例の国か? 懲りずにまたやってくるのか?
目的は何だ?」
『前回と同じです。
今回は司令官の体面が一番で、領土拡張の目的が二番目と考えられます。
また、これまでの監視では、いずれの参加メンバーにも新たなカノ国の内部情報は報告されていません。
従って、前回同様にカノ国の資源を狙ったものではないと考えられます』
「今監視用の摩導ボールカメラは、彼らにどれくらい付けているんだ?」
『命令系統に関与する人物には全てに付けています。
また、重要な人物については、その補佐者や家族、友人など、関連した周辺人物にも追尾を実行しています。
その結果により、新たな繋がりが見つかる毎に監視を増やしていますので、その会話や行動はほぼすべてが収集できています』
ターゲットとなる人物に対して、ステルス状態の摩導ボールカメラがその人物の上を浮遊しており、24時間、常にその人物に張り付いて移動している。
これは、以前の誘拐事件の際に、実行犯や指示を出した国が判明したので、そこを監視の開始点として、関連者すべてを監視カメラで次々に継ないでいったのだ。
会議が行われれば、その参加者全員に関しボールカメラを付与し、どこかで会話や接点が有れば、その相手にも監視を増やす。
まあ、軍関連者全員につけたところで、大した数ではない。
その為に、摩導サーバーは増設してあるので、カメラから上がってくる情報の処理能力はかなり大きくなっている。
彼らが使用する通信に関しても、一般電話回線やインターネットについてはもちろんの事、機密が高い軍事回線へも中継器を挿入したため、電話や無線通信した相手も監視に加えている。
こうして出来上がったカノ国情報収集網の前では、たとえ誰かが秘密を隠したところで、命令を発行したもの、それを聞いた物、そして伝えた者、すべてが監視されているので、秘密を隠すことはほぼ出来ない。
「アー、今回はどれくらいの規模で侵攻してくるのか?」
『今回は、戦艦級数隻および潜水艦部隊、あとミサイルの使用の指示も出ています。
推定される攻撃としては、前回戦艦や航空機での島エリアへの侵入に失敗しています。
その為、今回は最初に長距離の弾道弾による高高度からの攻撃を仕掛けた後、付近で待機した戦艦からと、上陸艇によりカノ島占拠を行おうと考えているようです。
同様に、潜水艦も我々の防衛に対して艦発射のミサイルによる攻撃が推測されます』
「こちらの防御は、摩導シールドだけで大丈夫か?」
『弾道弾による高高度からの攻撃でも、第1シールドは島から370キロメートルあります。
シールドエリアは成層圏で閉じていますので、シールド内に突入することは不可能と考えます。
また、シールド周辺でどのような爆発が起きたとしても、島周囲へ汚染を含めた影響はないと考えられます。
しかし、このような攻撃を放置した場合、テロや前回のような国民に対しての直接攻撃など、今後エスカレートしてくる可能性が有ります。
明確な攻撃に対しては、きちんと対抗対処の姿勢を見せる事を推奨します』
「うーん。 すると防衛を行うとともに、新たな攻撃意思の芽を摘む必要があると言う事か...
アー、取れるオプションには何が有るか?」
『慎二のポリシーでは、先方の国に対して直接攻撃は行わないのですね?
相手国自体の解体もしくは機能麻痺が一番簡単ですが、これは相手国の一般国民に大きな被害が出ますので、これをやってはだめですよね...
今回の件は一部の軍部の司令官の独断で動いていますので、政府や国民はその事実を知らないようです。
従って、そのターゲットはやはり軍部もしくは司令官でしょう。
軍部のみに打撃を与えるとすれば、先方の攻撃武器の無力化、指揮命令系統の排除、攻撃権を持った司令官の権限排除などが考えられます』
「了解した。
とりあえず防衛的には心配ないと言う事であれば、何等かの攻撃や行動が開始されそうであれば、再び連絡をくれ」
『はーい』
戦争になるかもしれない状況であるが、なんか呑気な慎二達であった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
こちらは第3加油丸。
このタンカー船は、自衛隊機が使用する航空機に燃料補給を行うために、ジェット燃料を日本からカノ国へ現在運搬している。
『第3加油丸、こちらはカノ島コントロール。 応答願います』
すでに何回か繰り返された航路であるが、島まであと60キロメートルというところで連絡が入った。
操舵室のフロントガラス面に置かれた通信道具であるが、この地点でカノ島側から呼びかけられたのは、今回が初めてのことである。
「船長どうしましょう? いつもの薫ちゃんでないようですが、この通信は本物でしょうか?
応答しますか?」
「当然だ!
その装置からの呼びかけであれば本物だ。 早く応答しろ!」
この船が預かっている通信道具は、無線ではない通信方法を使っているようで、他人が割り込むことはできないらしい。
また免許がいる通信方式でないため、操作は通信士である必要はなく、置かれている船内の場所の近くにいる航海士が対応をしている。
このような海域での通信であり、カノ島からの通信が初めて聞く男の声だったこともあり、航海士は迷ったらしい。
そして船長に早くと言われてしまったので、航海士はすこし慌てた様子で応答する。
「カノ島コントロール、こちらは第3加油丸。 感度良好です」
『今、貴船の船底、中央より前方付近に不審な外部付属物があることを確認した。
これが貴船の意図した付属物であるかの確認をいただきたい。
これから、貴船の船底を写した映像を送る』
そう聞こえると、環境に置かれた通信道具の一部が光り、プロジェクターのように操舵室の天井に映像が投影された。
このような機能が付いていたことは知らされていなかったので、操舵室はちょっと騒めいた。
その映像には、船底らしい位置に、確かに何か張り付いている。
映像は、いくつかの方向からか切り替わり、角度や距離を変え鮮明に映し出されている。
計測サイズも表示され、どうも10メートルくらいある流線型の物体が、コバンザメの様に船底にくっついているようだ。
「カノ島コントロール、こちらは第3加油丸。 この映像は当船のものなのでしょうか?」
『そうだ、貴船の現在の状態だ』
「船長、どうやって本船を撮影しているのでしょうか?
これ、映像からすると、海中にいくつもカメラが有る事に成りますよ」
「カノ島コントロール、こちらは第3加油丸 船長の川島です。 もし可能であれば、この映像が本船の物である事を何か示してもらえないか?」
『了解した』
そう回答があると、今船底を映していたカメラ映像がそのまま上に移動し、海面を出ると船首に書かれた船名が映し出され、そのまま船橋の外から船橋の中が映されている。
「船長! 映っているのは僕らですよね。 ちょっと手を振ってみます。
外にカメラスタッフなんか見えませんが、いったいどうなっているのでしょうか?」
ステルスモードのカメラであるので、その姿を見せることは無かった。
「カノ島コントロール、こちらは第3加油丸。 ありがとうございます。 確認できました。
先ほどの船底に付着している装置は本船の物ではないと思われます。
念のために、何か取り付けた事が有るか本社に確認するので、しばし待ってください。
これは何でしょうか?」
『こちらカノ島コントロール。 了解した。 貴船の航行速度から考えると、あと5分以内に回答を願いたい。
それ以上回答に時間がかかるようであれば、直ちに停船いただくか、一旦進路をわが島から遠ざけてほしい。
そして、貴船のこれからの航路について、指示に従ってください。
そのままカノ島の給油基地からみて、真北から南に進入するラインにまで乗り、貴船の船首を真南へ向けて回頭し、進入角度をきっちり180度となるように変針してください』
「こちら第3加油丸。 航路変更の件は了解した。
船底の物体について、本社確認中だ。 これは爆発物と思われるか?」
船長の声に、船内が一瞬ざわっとした。
『こちらカノ島コントロール。 それは爆発物ではないため、そのまま航行を続けられたし』
「船長、どうやってそんな事がわかるのでしょうか?」
「それについては、気にするんじゃない。
そもそも、我々では走行中の自分の船の船底を調べる事などできないぞ」
「船長、そういえば先日本社から、水中カメラが入ったケースを渡されていますよ。
何のために渡されたかわからなかったので、そのまま倉庫に仕舞ってありますが、使ってみますか?」
「わかった、甲板長に伝え船首から海中に入れさせろ!」
「了解しました!」
しばらくすると、ハンディトランシーバーに連絡が入る。
『船長、今船首であるオモテから流れに沿って海中カメラを下ろしました。
このカメラは面白いものですね。
カメラはしっかりとしたケーブルにつながっており、手元のコントローラからカメラ装置に着いた舵を切るようです。
船の後ろ方向の海中を写すことができますな。 あ、ライトも点くようで、ははは、こいつは良く見えますな」
「それで、船底はどうなんだ?」
「今船尾のトモに向かって、船底を映しながら歩いて移動していますわ」
「くれぐれもケーブルを伸ばしすぎて、ペラには絶対に当てるなよ」
「ケーブルはそんなにも長くありませんから、大丈夫ですぜ」
「まもなく船体中央付近、ん、何だこりゃ!
船長、船底に何かあります! 何かが船底に張り付いていますぜ!」
「わかった、もう良いから、君も操舵室にまで来てくれ」
船長は、天井に映った映像から、その中から海中カメラが遠ざかるのを見て、青ざめていた。
その時、本社から緊急の連絡が入り、何とか5分以内での回答をする。
「カノ島コントロール、こちらは第3加油丸。
当方でも船底の現状を確認をした。
あと、本社からの回答では、そのような物体の設置は確認できなかった。
そろそろ本船は給油基地の真北に到達するため、回頭を行う。
進路変針! 面舵いっぱい、進路180度。 ヨーソロー!」
『こちらカノ島コントロール。
貴船の回頭を確認した。
そのまま南下し、本島50キロメートル地点で、貴船船底から未確認物体の排除を行う。
その際、貴船にも振動などの影響が若干出ることが予想されるので、安全体制を取っていただきたい』
「船長、カノ島まで50キロメートルですと、間もなくそのラインを通過します!」
「こちら船長、緊急通達を行う。 乗船員全員に伝える! ただちに作業をやめて、大至急安全な場所で、何かにつかまれ!」
『こちらカノ島コントロール。
カウントダウンを行う。
5,4,3,2,1,0』
その瞬間、『ゴン! ズゴゴゴゴ』 という、低い衝突のような音が船内に響いた。
操舵室では、船底を後ろに滑った後、船底から離れ、海底に沈んでいく未確認物体が映し出されていた。
しばらく沈下していく未確認物体でったが、その物体には推進装置により自走ができるようで、急に方向を変え、逃げるように海中を横に向けて進んでいく。
『こちらカノ島コントロール。
ご協力を感謝する。
では入港をお待ちする。オーバー』
「こちら第3加油丸。
了解した。オーバー」
「船長、何が起きたのか聞かないのですか?!」
「本当に聞けると思うか?
それを聞くと、俺たちは何かイケナイな箱を開けることになるぞ!」
「そうだぞ! 船長の言うとおりだ! あれは、きっとやばい奴だ...」
後ろから甲板長もつぶやいた。
船乗りの感 みたいなもののようだ。
カノ島コントロールと呼ばれる、空港にある管制室での会話。
今は飛行機が飛んでくる時間ではないが、自衛隊の人が管制室で待機している。
「加納さん、あんな感じでよかったですか?」
「ご苦労様です。
この島の周囲50キロメートルには許可なく入る事はできません。
上空についても島の周囲を円筒状で保護していますので、航空機の飛行高度程度であっても、侵入できません。
この保護ですが、摩導リングなしで通過できないのと同じ仕組みが作ってあります。
ですので、許可されたタンカーに張り付いたとしても、その防衛ラインを超えて保護領域に侵入できず、領域の外に残されます。
先ほどのカウントダウンは、船がそのラインを通過するカウントダウンだったのです」
「そうだったのですね」
「これまでも単体で侵入してくる飛行機や船、潜水艦などはありましたが、皆その保護領域ではじかれてしまっています。
今回は我が国へ入港許可を受けたタンカーに張り付いて、そこを通り抜けようとしたと思うのですが、それは無理ってものです」
「それは、知りませんでした。
ということはあの船底に張り付いていた物体は、人が乗った小型潜水艦みたいなものだったのですか...
我々自衛隊は、加納さんの国と友好国でよかったです。
もし、敵対していたら、こんな技術には対抗しようがありませんからですね」
「ははは、我々も日本と同じく平和主義国家ですから、自ら戦争を始める事は望みませんがね...
既にお伝えしてある通り、現在我が国へ侵攻する勢力が有りますので、わが国としても監視は強化しております。
我が国の防衛線を超えての戦闘にはならないと考えておりますが、一応そちらも警戒をお願いします」
「了解しました!
本国にもその旨は連絡しておきます!」




