9-02-01 黄金像
カノ島の中央部の小山の東側に、島の観光施設を作り始めた。
この観光施設には、国の創設にかかわった者達を、彫像として飾られることになった。
この彫像建設には、パラセルから調達する安価な黄金が用いられている。
青銅などを用いるよりも、単純にパラセルの金の方が安いからだ。
この黄金像は、台座も含めてすべて金のインゴットを溶かして作られる。
彫像自体は大した金の量ではないが、その台座となる部分が大きく、幅が200メートルあり、奥行きも25メートルだ。
これが高さ5メートルの台座である。
地中にどれだけ埋まっているか判らないが、台座だけでも25000㎥という大きなものである。
俺たちが摩導具を作り続けるためには、その材料となる純金が将来的にも大量に必要となる。
今は純金は建材としてパラセルからとても安く買えるが、もし仮にその調達手段が途絶えた場合、この世界の純金の値段では価格的に摩導具が作れなくなってしまう。
我々は将来に為に、自分たちの手元に純金を備蓄しておく意味もあり、多めに金を買っておいたのだ。
そして、どうせだったら金庫やタンスに仕舞いこむのではなく、彫像にして展示して皆に見てもらおうという事に成ったのだが、この世界から考えるとその量が少し多かったようだ。
これって、世間にばれると確実に金の価格が暴落するな...
本当は24金の純金製だけど、公式には金ピカ像としか言っていない。
これだけ大きいと中心素材は解らないと思う。
金と言えば金じゃないと言われそうだし、金じゃないと言えば金と言われそうだ。
金メッキかもしれないと勝手に思ってくれないかな?
なので、勝手にセーフということにしよう。
それでも、パラセルで購入すると、青銅どころか、鉄やコンクリートと同じレベルの建材費であり、凝った材料を使うよりは安上がりである。
盗難はできるかもしれないけど、つなぎ目が無い台座なので、一部を削っていくことぐらいじゃないかと考えている。
そして像に触れる特別公開日以外は、摩導シールドが台座周囲に施してあるので、像を触る事はできなくなっている。
台座や像の製作風景をカオルチャンネルで公開することになったので、なるべく違和感を与えない方法で作成を行った。
摩導具や魔法を使えば簡単なのだが、致し方ない。 見る人が見れば、わかると思うが... 見えないところで魔法や摩導力は多用した。
最初の配信では今回使用する金のインゴットを積み上げたところの撮影から始まった。
台座は掘った穴の中に摩導シートを敷き、その上にやはり摩導シートで型枠を作り、その中に1段ごとに金のインゴットをきっちり並べる。
並んだ金のインゴットを大型の酸素バーナーで溶かして1つの層にする。
溶けた金が冷えて固まるのを待ち、次の層を作ることを繰り返して、どんどん層を積み上げた。
実際には、インゴットは映していない間に、摩導力を用いて並べていった。
また、実際にはいちいち表面を酸素バーナーで溶かすのではなく、台座の底や周囲の型枠の摩導シートを使い、金全体を加熱して溶解していった。
料理番組の、机の下から突然出てくる、お約束の鍋のように。
像は、高さが10メートルあり、大きな金のブロックを作り、そこから魔法で金を切り出し、大まかな形をだいたい作った後、仕上げは叩いたり削ったりして、表面を作っていった。
撮影の彫像は、そのあらかじめ作っておいた金の像の周りを砂で固め、上の穴にから金を流し込む演技をした。
その砂の塊を崩せば、中から出来上がったきれいな黄金像が出てくるわけだ。
まあ、ちょっとした放送上の小さな嘘だね。 視聴者サービスの一環かな。
金は柔らかいため、自重を支えきれないパーツが出ないように考えてある。
地面に降ろした棒や剣を握っているなど、CADの強度やモーメントなどの計算やシミュレーションを利用して像のデザインを調整し、耐重力の設計を行った。
あと、念のために台座の下に敷いたシートと周囲の摩導シールドから像を固化する摩導を常に発生させてある。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「皆さんこんにちは! 今日もカオルチャンネルの時間です。
今日もネットキャスターの西野薫が、カノ島からリポートします。
これまで何回かお伝えしてきました、王宮の展示施設に建造中の彫像建設についてのリポートをお送りします。
ようやく今日で完成したので、ここのリポートは最終回なのですが、ここの施設自体は、まだこれから建設されるそうですので、まだ広い空き地にポツンと像ができた感じです。
せっかく像は完成するのですが、工事全体はまだ始まったばかりなので、彫像だけ完成の式典はないのが残念です。
なので、今日は私が一人でお祝いしておきます」
そういうと、カメラがぐるっと360度回って、その更地が映し出された。
この観光エリアは5キロメートル四方の土地が確保されており、彫像はそのエリアの山側の広場にある。
このエリアには、この後、王宮の展示館や摩導具の資料館、お土産ショッピングセンターと摩導遊園地などの建設が計画されている。
1つの観光施設としてはかなり大きいが、カノ島には観光施設らしいものはほとんどないので、一度にぐるっと見れる施設ができるようだ。
「さて、本日は近くにいらっしゃるゴリさん、あ、失礼しました。
まだお名前をうかがっていませんでした」
「いつもリポート感謝感謝。劉と申します」
いつもインタビューに答えてもらっている方なので、その見た目から私が心の中で勝手にゴリさんと呼んでいたの。
「リュウさんってことは、日本の方ではないのですか?」
「わたし、台湾から来たね。最初政府の紹介できたが、今はカノ国民になっているよ」
リュウさんはそう言うと手をあげて、指の金リングを見せてくれた。
「いよいよ像の完成ですね。 おめでとうございます。
この後は施設の建設ですか?」
「ありがとうございます。
私は、建設は専門でなく、像のデザインと製作担当ですので、この像が終わったら王宮の内装の建設に向かいます」
「じゃあここでお会いするのは最後ですね。
私は島のあちこちのリポートしていますので、多分またすぐにお会いすると思います。 またその節はよろしくお願いします」
彫像は大きく、それぞれ高さが10mある。
それが、5mの高さがある一枚の台座の上に、何体もの彫像がずらっと乗っているので、広場が混みあったとしても、遠くからでも皆よく見えると思う。
そういうと、また彫像の近くにより、周囲を歩きながらレポートするようだ。
しかし、台座は幅が200mあるので、歩きながらリポートをしていく。
「ここにあるきれいな金色の像は、この島の王様や国を最初に作られた方々をモデルに作られたそうです。
下から見上げると、大きいのでよくわからないのでちょっと離れてみます。
あ、このくらい離れたほうがよくわかるようです。
わかりますか? これ私の像ですよ! 島発見した時のレポートをお届けした時の私の像です。
島にいらしたら、ぜひ見て行ってくださいね!」
薫ちゃんは、かなり前に進み、画像的に一列に並んだ全体の像と一緒に並び、自分の像と同じポーズをして写っている。 サービスショットである。
「最後の、これまでにお送りした彫像建設リポートをダイジェストにしてありますので、そちらをご覧ください」
画面は切り替わり、過去の収録に替わった。
過去と言っても、建造に1週間ほどしか経過していないのだが...
「皆さんこんにちは、カオルチャンネルの時間です。
今日もネットキャスターの西野薫が、カノ島からリポートします。
王宮の展示施設の建設が始まり、最初に彫像建設が始まります。
目玉となる王様の彫像ですので、何回かのシリーズでリポートをお送りします」
まだ更地にレンガのような材料だけが高く積まれている。
近くで作業していたちょっとごつい体つきのゴリさんに声をかける。
「カオルチャンネルの西野と申します。
インタビューよろしいですか?」
「まだ、作業は始まってないので、よいよ」
「これって像の材料ですか? ちょっと触ってもいいですか?」
「そう。これ全部材料、これ溶かして造る。
触ってよい。 でも、あなたとても重い。 あなたとても気を付ける」
「えー、私ってそんなに重くありませんよーって、あ、この塊のことか」
金色に輝くそのきれいな塊は、小さく見えたのだが、持ってみたら本当に重かった。
「あっ」 ゴン!
なんと、重かったので手を滑らせて、下に落としてしまった。
そして下にあった別の材料の上に落としてしまった。
「あー! 大丈夫ありますか? それ1個で10キログラムあります。 あなた、怪我ありますか?」
ゴリさんが落とした塊を拾い上げると、落とした塊も落とされた塊も大きく変形していた。
「ごめんなさい。 ごめんなさい」
「冇問題、モーマンタイ。 どうせ全部溶かしちゃうから、問題ないよ」
「すみませんでした!」
やだ、AIはこのシーンまでダイジェストに使っちゃったの?
あーあ、あの時はやっちゃいました。
大事な素材の角を思いっきりつぶしちゃいました。
とりあえず、あの日のレポートでは、そのまま現場をトンズラする事となりましたっけ。
思っていると次の収録に切り替わった。
でもこの映像から、その想定重量や硬度など、いろいろな情報が世界に伝わったようだ。
「皆さんこんにちは、カオルチャンネルの時間です。
今日もネットキャスターの西野薫が、カノ島からリポートします。
王宮の展示施設の建設が始まり、前回は材料ばかりでしたが、今日はどうなっているのでしょうか?
さて、今日は失敗しないようにレポートしましょう」
映像は薫ちゃんから後ろの現場に切り替わる。
中継現場には薫ちゃんしかいなくて、あとは摩導サーバーのAIでコントロールされた摩導ボールカメラが何個か浮かんでいる。
知らない人がレポート現場を見ると、ひとりでつぶやいている、かわいそうな女の子にしか見えない。
一応マイクはダミーではあるが、カオルチャンネルと書かれたインタビュアーマイクを持っているのが、せめてもの救いである。
「今日は、長い枠組みができてきたようです。
私の身長よりも高い枠なので、中が見えませんので、カメラを切り替えて中を見てみましょう」
そういうと、枠の上空からのカメラに切り替わる。
ぐるっとカメラを回すと、遠くにだれか作業している。
もう一台のカメラを近づけると、やはりというか、それはゴリさんだった。
なんか、この現場にはゴリさんしか見たことが無い。
ゴリさんは材料を一番奥まで床に並べ終わると、型枠から出た。
ここで、配信用のバーナーで金を炙って溶かしていく。
配信用の撮影が終了すると、型枠の中の材料がキラッて光ると、金の表面がぐずぐずと溶けている。
型枠の外にいる私ですら熱く感じる。
上空のカメラ映像を見ると、並べた面の材料が一斉に溶けたようである。
その後、型枠にはひんやりした空気が流れてきた。 強制的に冷却を行っているようだ。
常温まで冷えると、再度ゴリさんは型枠に入り、ゴリさんが摩導リングに指示をすると、金が摩導力で自分で移動してきて、並び始めた。
基本的に、手作業は無いようなので、この現場は彼がひとりで行っているのだ。
台座は、そのほとんどを自動で作ってくれるので、彼の大きな作業は、台座の上に置く彫像の仕上げだ。
デザインはすでにCADで済ませてあるので、ハンマーでたたいて仕上げを行っている。
像の建設がおわった現場からは、金を叩くハンマーの音が聞こえなくなったのは、少し寂しい感じがした。




