9-01-03 移住研修
ここは、名古屋の拠点。
今この拠点では、移住許可が出た人が、移住の知識を得るため、ここで研修を行うために集団生活をしている。
移住試験に合格し、名古屋の大使館で移住手続きを行った者には、国民リングが配布される。
この国の国民であれば、全員が腕に金のバングルか、指に細い金色のリングをつける事になる。
国民リングは、カノ国の国民を認識するための摩導具であり、装着者が国民であることを示す大事なIDでもある。
これには、それぞれ人間の生体固有パターンを検出し、その情報からIDを作っており、摩導リング自体にシリアル番号のようなIDが刻み込まれているわけではない。
摩導バングルやリングは、登録された人間の固有パターンで作動するので、他人のリングを奪っても他人に成り代わる事はできない。
そもそも摩導力で装着されるために、本人の意思ではずさない限りは、他人が勝手に指から抜き取る事はできない。
摩導力での装着では、指に合わせてリングのサイズが自由に調整されるので、生まれたばかりの赤ちゃんの細い指から、大人の指まで同じ1つのリングを使い続けることができる。
この国民リングをつけていないと、国民として認識されずに入国や生活ができない。
どの指にリングをつけるかは個人の自由であるが、手の指である必要がある。
カノ国の唯一の通貨である電子通貨パラスは、この摩導リングのIDに紐づけして管理されており、買い物の際には摩導リングを使用して金額の支払いを行う。
なにしろ、カノ国の施設は、カノ島と名古屋の拠点にあり、ほとんどの物が摩導具により出来ている。
摩導リングは、それら摩導具を利用する時のコントローラでもある。
施設の入り口を入るときも、摩導リングを所持していないと、どの施設にも入る事すらできないし、自分の家にすら入れなくなってしまう。
とてもとても大事なリングである。
大使館でカノ国への移住手続きを行うと、1つの衣装ケース程度のサイズの、半透明なボックスが配布される。
この小さな箱が、入植の際に持ち込むことができる唯一の梱包箱となる。
そして、基本的な生活用品は、カノ島で新たに揃えてもらう事に成る。
このようにカノ国への持ち込み品については、かなり大きな制限が課せられることになる。
この梱包箱は検査を受けた後に島に運び込まれ、島において個人宅となる場所に配送される。
研究者などで、特別な理由があり、許可された場合は、別途コンテナが追加支給される。
「現在の島内の施設ですが、施設は既に食堂・売店設備が運営されています。
なお、売店規模は、ここの拠点売店よりも大きく、ちょっとしたスーパーマーケット並みです。
日用品や衣料品、医薬品も、この売店施設で販売させていただきます。
まず、一番重要な食事ですが、島ではカノ国が運営する食堂が運営されていますので、そちらで食事が出来ます。
この拠点と同じですが、ここの拠点の食事を作っているシェフがそちらにいます。
カノ島の食堂は、朝7時から夜9時まで営業しています。
もしくは、売店で食材や食品の販売もしております。
売店は無人販売店舗であり、24時間利用できます。
カノ国内でのお支払いは、皆さんのアカウントに入っているパラスで支払いが行われます。
指につけて頂いてます国民リングから、自動的に使った分のお金が引き落とされます。
お配りした国民リングには、お祝い金として十万パラスがあらかじめ入っていますので、必要な物資や食事はこれが使えます。
物価は異なりますが、現時点では1パラスは日本の通貨で言う十円くらいと考えて頂けると使いやすいかと思います。
当然パラス以外の通貨は使えないことと、外貨の持ち込みは違反となりますので、皆様には事前にパラスへの両替を行ってもらっています。
島内では現金やカードなどは一切使用できず、このリングが唯一の決済方法となります。
島での作業について、作業の都度、リングに一定の報酬がチャージされていきます。
島内で必要な食事や物品購入については、リングから支払われます。
皆様には、この拠点の売店や食堂でご使用いただいていますので、使い方に関しましては問題ないものと思います」
売店は夜でも、欲しい商品を陳列棚から持ちだし、店舗エリアから出れば、その時点で引き落としが行われる。
これは、店舗にある商品すべてに摩導チップのタグが付けられているため、商品が誰に持ち出されたのかの追跡が可能となっている。
あと、売店で購入する商品について、稼いだパラスに対して、商品はかなり安く感じられるが、これは実際に安いのだ。
カノ国で買える日本製品は、非課税であり、大量一括購入で安く仕入れた商品が、調達原価で販売されているからだ。
販売と言っても、棚に置かれてあるだけなので、販売にあまり多くのコストはかかっていない。
「現在はまだスーパーマーケット並みですが、将来的にはさらに拡大する予定です」
「あの、僕は調理人で、食べ物屋を開こうと思っていたのですが、安い価格で食堂が営業されているのだと、営業できるのでしょうか?」
「皆様の中にもお店を出される方もいらっしゃると思いますが、業務で用いる店舗費用はカノ国の提供であり、店の販売や調理と言う作業に対しても、仕事としての給料が出ますので、利益として付加価値分を素材の原価に乗せて販売されることで、売店や食堂に対抗できる価格での商売が可能です。
ですので、値段はさほど差がないと思いますので、後は味とか、作られる種類であるとかで、多くの人の舌を引き付けてください」
「住居につきましては、上陸後最初に行う作業として、皆様自身で組み立てていただきます。
作業は私でも30分ほどで簡単にできましたのでご心配なく。
この後いちど練習していただきます。
また、当然島の中に日本のインフラはありませんので、電気製品や通信機器は一切ご使用いただけません。
それに替わるものをものを島内で準備しますので、ご不便は無いものと思います。
今の生活とはかなり変わる覚悟が必要です」
国民となり、島に移住する人は必ず行う2つの作業がある。
まあ、これは入植の際の儀式のような物であり、この国の独自のシステムを理解する重要な作業でもある。
1つ目は自分で摩導カートを組み立てること。
摩導カートの仕組みや組み立て方は、この島のいろいろな設備の基本であり、これを学ぶことで、次に作る事になる自分の住宅の作業の勉強となる。
摩導カートは、初めての人でも30分くらいで作る事ができる。
慣れた人ならば1分で組めると言う強者もいる。 水谷さんの息子だ。
摩導カートで時間がかかるのは、自分好みに設定で仕上げることができ、そこに拘ってしまうと時間がかかってしまう。
組み立て自体は定型にカットされた摩導パネルを、摩導吸着でくっついていくので、本当に短時間で終わってしまう。
作った摩導カートは島全体の共用の乗り物であり、特に作ったからと言って、その人専用になるというわけではない。
島内に停止中のカートは透明化していて、その透明なカートは誰もが利用することができる。
最後に摩導カートを降りた場所のカートは、誰かがそのカートを使っても、新たにそこにカートが補充され、自分が乗るときに呼び出す必要はない。
他の場所でカートを使用すると、最後にキープされていたカートは開放される。
自分が住む住宅も、入国時に材料が支給されるので、宅地エリアから土地を選んで、自分でそこに組み立てることになる。
住める土地は、現在リリースされている住居ブロックの中から、気に入った場所の宅地から選ぶことになる。
基本的に国民には入国時に1軒分の住居材料が無料で支給される。
国民の仕事として、その最初の1軒は基本的に自分で組み立てる必要がある。
土地の場所、広さや形状などがいくつかあるために、初めての人が決めることはなかなか難しい。
土地は有償の借地であるが、標準地の場合1日10パラスと非常に安く、アカウントから引き落とされる。
カノ国では、基本的に何等かの利益を得るのに対して無償という考えは無い。
たとえわずかな金額であったとしても、それぞれにきちんとお金を支払うことにより、それぞれに価値がある事を常に認識し、無駄に使わないようにしている。
また、住まいの土地は標準地以外に追加で料金を支払うことで、立地条件など良い場所を選ぶこともできる。
ただし、引っ越し作業や建設作業は自分でするか、お金を払ってやってもらうことになる。
島内が良くわかるまでの間、最初は集合住宅に入居することもできる。
集合住宅は意外と人気があり、集合住宅に住んでいる間は自分の1軒分の建築資材の権利は留保できるので、いつでも建てることが出来る。
個人住宅は摩導カート同様に摩導シートにより作られている。
一軒家は、土地の範囲で自由形状が認められているので、カットされた定型のパネルではなく、元の長い摩導シートのロール状態で提供を受ける事もできる。
大きい家を作る事は材料が足りなくなるので、材料に合ったサイズの家にするか、追加でお金を支払って材料を買い足すことになる。
街の雰囲気は住居ブロックごとに異なる。
これは服部さんによって、ブロックごとに住居の外観は統一されデザインされている。
設置したブロックにより、住宅の外観はそのテンプレートにより決められることになる。
住居ブロックごとに、いくつか選べる住居外装が定められており、それが住居ブロックの1つの特徴ともなっている。
この住宅外観は季節などによってテンプレートが微妙に変化する。
これにより、街の雰囲気として季節感が生み出されている。
住宅室内はいくつかの標準テンプレートから選ぶか、自分でお金を払って好きなテンプレートから選ぶことができる。
これは、自分で設定した状態が常に保持され、後からでも自由に設定を変更できる。
拠点での研修は、こうしたカノ国でしかないことを実際に学ぶ事に成る。
新たなる移住者たちは拠点の3階に1か月ほど住み、こうしていろいろな研修を行ったり、移住者たちの親睦を深めていくのであった。




