7-08-01 カノ国の噂
最近、何故か名古屋の夜の街が騒がしい。
特に今週は名古屋で大きなイベントはないはずであるが、しかし皆さん地元の方ではないようで、遠くから多くの人々が集まって来ているようである。
ちょっと聞き耳を立ててみると、彼らはどうやらカノ国と言う国の移民希望者らしい。
その面接が近く始まるらしく、何か少しでも情報が得られないかと、出席される人がこの夜の街に出てきたようだ。
老若男女さまざまな人たちが名古屋にまでわざわざやって来たようだが、書類選考は終わっているようで、今回は名古屋での試験となるようだ。
そして、明けた翌日、埋め立て地に有る大使館では試験が行われるようで、多くの人がやって来ている。
今回は、いつもの送迎バスとは別に、今回は大型のバスを手配してあり、大使館と名古屋駅の近くの笹島と呼ばれる場所の間を走っている。
ここ笹島の線路わきの道路には、長距離バスの発着バス停が沢山ある。
試験は朝から夕方まで、何回かの時間ごとに行われるために、指定された時間のバスに乗るか、近くの駅からの送迎バス、タクシーなどで来る必要がある。
セキュリティーの関係で、受験者に大使館の駐車場は開放していないために、公共交通機関での来館を呼び掛けているが、友達などの車で送ってもらっている人も多いようだ。
どれくらい応募してくるのか全く分からなかったが、蓋を開ければそれなりの応募者があった。
中には、例の摩導具研究のグループに属した人からも応募があり、彼らはどこかでカノ国と摩導具の繋がりを聞いたのかもしれない。
今回の募集は一般の人、特に制限はしていないが日本の人になると思っていたが、外国の人も結構いるようだ。
日本での試験のために、ある程度お金に余裕が有る人でないと、わざわざ海外から受験は難しいかと思っていたのだが、それでもやって来た人はいるようだ。
なお、今回の募集とは別に、異次元人の方からの問い合わせの場合は、別枠で受け入れ窓口が有る。
こちらは、多くの場合どこかの国に潜伏している場合が多いために、緊急に救助する必要があり、どこかで困窮している人たちを我々側から捜索を行っている。
ここの試験に合格した人は、この後移住準備となり、一ヶ月ほど拠点に住んで研修を行う事に成る。
今回は約100名の移住希望者が合格したが、彼らは拠点の3階に宿泊する事に成り、いきなり拠点がにぎやかになった。
合格者の研修は、試験や面接が行われたお隣の大使館の建物で行われ、カノ国での決まりや生活などが説明された。
そして本人の希望と、それぞれがどのような適性を持っているかを見極めて、移住後の仕事を決定していく事に成る。
研修では、最初にまだ何もないカノ国に関して、自分たちで立ち上げる苦労が有るなどのマイナス面などの厳しい話が1週間くらい続いた。
研修開始後1週間までは、リタイアは自由にできる事を話してあるので、それを聞いてついてこれそうにない人達は、ここでリタイアしてもらう。
まあ、最初から島には何もないことは伝えてあるので、ここでやめる人はいなかったが。
また、敵国の内偵や工作員がいないかも、この期間でチェックしている。
なので、この最初の1週間は、サリーは拠点にやって来て、不審な人物がいないかを見てもらっている。
こちらの場合、こっそりとリタイアしてもらう事に成る。
この研修の最初の関門を乗り越えた人達には、いよいよ正式なカノ国民として、摩導リングの登録IDが更新された。
正式に国民となったことにより、摩導具などカノ国の重要な機密が開示されることになり、これまであった拠点内での行動についても大幅に制限が緩和される事に成る。
この研修は日本語で行われることは最初に説明しており、海外の参加者もある程度日本語は使える人しかいないが、ここからは海外からの参加者に対しては日本語の言語パッケージがインストールされる。
今カノ島では、農園と畜産、漁業を行おうとしているが、まだそれぞれ何もないために、その立ち上げを行ってもらう事を考えている。
但し、これらはすべて摩導具を使って行われるため、従来の方法と異なり、どちらかと言うと実験的な作業を行ってもらう事に成る。
例えば、農業などでも、田畑を作って栽培するのではなく、自動化された人工栽培の大規模プランテーションを作る作業となる。
さらに摩導具工房については、例の半導体工場や摩導シートの加工場の移設を考えており、そちらのスタッフも必要である。
あとは、カノ国が運営する売店や食堂の他に、希望者によって店舗経営をやってもらおうと考えている。
国が準備し画一化した店舗だけでは味気が無いので、生活の潤いと言う意味で、やはりこういった店舗は必要である。
また、学校や保育に関する施設も必要だ。
とにかくカノ国ではすべてがゼロから始まる為に、この後も更なる移民の募集が必要になる。
今回は、新たな国の立ち上げとしての移民を募集をしているので、ほとんどの人は自分で何かを作り始めたいパイオニア精神を持った人達である。
慎二達も忙しい時間ではあるが、最近できた空飛ぶ摩導カートを使い、時々カノ島からやって来て、その研修には顔を出している。
当然国づくりなどは誰にとっても初めての事であるので、ここは研修と言うよりも、どうすれば国づくりが出来るかと言うための皆での討論の場に近い。
何しろ、カノ島に渡ると、誰もが見たことが無いような方法で、すぐにいろいろな物作りが始まる。
そして、それを行うのは自分たちであり、自分たちが手探りで立ち上げる事に成るので、皆真剣に話し合っている。
それぞれが島の別の場所での作業となるために、拠点にいるうちに、少しでも他人の意見も聞いて計画を練っておきたいと思っているようだ。
毎日顔を突き合わせての真剣な話し合いであり、誰もが新しい国づくりの暗中模索の時なので不安が大きいようだ。
中には意見が対立して喧嘩となる事もあった。
これらも後に成れば笑い話となるのだが、この研修期間は第一次入植者達にかなり強いきずなが作られたようであった。
また、喧嘩があれば恋愛もある。
やがてカップルも誕生していく事に成るのであろう。
こうして、第一次のカノ国入植者の研修が進んでいった。
今回の研修者の中に、他の移民希望者とは異なる目的の人達が3人いた。
彼らは、ジャーナリストの人であり、仕事をやめてフリーの立場で参加し、カノ国民となったうえでカノ国ができあがる過程を取材したいと申し出できた。
彼らは、初めて船でカノ島に上陸した際に、フランスから取材に来ていたテレビ局のスタッフの人達だった。
今、カノ国のオフィシャルな報道は、スポークスマンとしての西野薫のカオルチャンネルが有るが、その際は彼女は国側に立った報道を行っている。
薫ちゃんとも話し合ったが、彼女は今俺達とカノ島にいるので、拠点の取材は出来ていない。
彼らはカノ国に大きな興味を持っており、国民になるという決心をしてきているので、国民になる事を許可した。
そして、彼らには取材の許可とカノ国の放送局の設立を仕事にしてもらう事にした。
彼らが元居たフランスのテレビ局のテレビ配信ルートしか持っていないようなので、放送局だけでなく、新たに各国の報道への配信ルートを設ける作業もお願いした。
もっとも、カノ島に電気製品であるテレビと言う存在は無い。
その替わりに、何処の摩導シートにも、映像を選んでそこに投影できるようになっている。
彼らの作ったコンテンツは、摩導通信によるWeb配信になり、これでカオルチャンネルと合わせて2つの配信が行われることになった。
そして、彼らはさっそく拠点の研修風景や大使館の取材を開始している。
まあ、当然国防や国家機密については、ご遠慮いただくことになっているが、摩導具の存在に関しては、彼らの配信を通じて開示しようかと考えている。
いきなり多くの事実を一度に開示すると世界での衝撃が大きいので、彼らと相談しながら、なるべく世界での反響が小さくなるようにその見せ方を検討している。
これにより、大使館への問い合わせがさらに増えてしまう事に成りそうだ。 すみません。
今回で太平新島編はおしまいです。
次回からは出来上がったカノ島の成長をお伝えする最終編となります。
執筆開始以来毎日更新を続けてきたのですが、最終編を再度練る必要があるために、少し夏休みを頂く予定です。
すみませんが少しお待ちください。




