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7-07-02 商談


 ここは名古屋港の近くに有る、伊勢湾に面した埋め立て地。

 住所的には名古屋市には属さないけど、便宜上名古屋と呼んでいる。


 伊勢湾を埋め立てて作られた埋め立て地であり、周辺には公園やコンテナ基地くらいしかない。

 交通機関も無く、まあ陸の孤島と呼ばれるような場所である。


 ところが、最近俄かにその土地がにぎやかになり始めた。

 それまで、コンテナトラックしかなかった場所に、普通の人達がちらほら見えるようになってきた。

 なぜならば、そこのカノ国唯一となる出先機関であるカノ国大使館が出来たからだ。


 近くの人であれば、自家用車でやってくる。

 最寄りの駅から、歩くと3時間くらいと、少し遠い。

 大使館が開館している日中の間、小さな送迎マイクロバスが1時間に1回程度を往復している。

 このバスは、電車で通う大使館の職員の送迎も兼ねているので、近くの会社に委託して、大使館が運行している。

 その会社は、タクシーや小型バスを専門に運行している会社だ。


 なので、カノ国の斎藤さんが運転しているわけではない。



 そのカノ国大使館の前に1組の男女が社用車でやって来た。


「ここか?

 この場所は初めて来るが、なんかすごい場所だな。

 途中にコンビニはおろか、店など一軒も無く、いきなりこの建物か」


「そうですね。

 先輩、私も初めて来ますが、大きなクレーンや高く積まれたコンテナを見ていると、港が近いって感じで、空気も潮風で、私はこういった場所は結構好きですよ」


「どうして、こんな辺鄙な場所に大使館を作ったのだろう? 業者へのいやがらせか?」


 彼らは、オリジナル雑貨を作って販売しているメーカーの営業の人であり、大使館から彼らの商品を調達したいと言う連絡が有り、初めてこの場所にやって来たのだ。

 大使館の下には警備の建物が有り、ここで訪問先を書いて大使館の敷地に入る事になる。


「えっと、訪問先は渉外部の服部さんで良かったかな?」


「はい、服部由布子さんです」


「記入できました。 あと、車ですの駐車場をお借りします」


「確かに、大久保様と安藤様ですね。 服部から訪問予約が入っております。

 では、お二人ともこちらの指輪をお付けください。

 この指輪が訪問客であるIDになります。

 サイズはフリーですので、どの指でも構いませんので、そのままはめれば装着できます。

 お帰りの際、ここで外せますので、そのまま指に嵌めておいてください。

 大使館敷地内で外して移動すると、不法侵入者として検知されますので、ご注意ください」


「はい?

 これが、セキュリティーパスですか。

 このような物は初めて見ました。

 ここで付けた方がいいですか?」


「はい、ここでお願いします。

 それが無いとそこのゲートからも入場ができません」


「わかりました。

 では君もこの指輪を付けてくれ」


「駐車場はゲートを入ってそのまま進みますと、大使館前がお客様の駐車場になっておりますので、空いている場所に停めてください。

 こちらから連絡を入れますので、大使館正面の左側の玄関に服部が参りますので、そのまま玄関を入ったエントランスでお待ちください」


「はい、ありがとうございます。 左側の玄関ですね」


 大使館の建物は、出来て間もないのか、真っ白の綺麗な建物だ。

 駐車場に車を停めて、大使館の中に入ると二人は思わず息を呑んだ。


 左側の玄関を入ると、熱帯のジャングルのように大きな葉っぱの植物などが室内を取り囲んでいるのだ。

 天井はどこまでも高い空のように青く、そこには雲すら浮かんで見える。

 そして、リアルのできた鳥のはく製などが木の枝に置いてある。

 どこか近くで泣いている鳥の声すらしている。

 建物の中は、ちょっとムッとする熱気すら感じる。


 ここはカノ国があるカノ島を模してあるのか?

 でも、訪問前に調べたところ、カノ島は小さな砂の島で、最近独立宣言を出したまだ何もない島だと認識してきた。

 玄関の中の密林から続く細い道を中に進むと、建物の中なのにちょっとした東屋のような、屋根が付いた柱だけの小屋が建っており、そこにテーブルとベンチがあった。

 そして、その小屋の下は涼しい乾いた風が吹いていた。


「何だ、ここは!?」


 ちょっと大きな声を上げると、木の上に飾られた置き物と思っていた鳥が、枝を飛び立った。


「ひっ、本物!」


そこへ由布子がやって来た。


「お待たせしました。 服部と申します」


「今回はお問い合わせありがとうございます。

 担当の大久保と申します。 よろしくお願いします」


 大久保と名乗った先輩は、由布子と名刺を取り交わす。


「安藤と申します。 ちょっと驚きました。

 どうぞよろしくお願いします」


「本日は、わざわざお越しいただきましてありがとうございます。

 Webで御社の商品を拝見いたしまして、一度お話を聞きたく本日は打ち合わせをお願いしました」


「それにしても、これは凄い玄関ですね。 天井も見えないようですが、どうなっているのですか?」


「ふふふ、秘密です。 今回は私の担当だったので、私の趣味でエントランスの装飾をしています」


「えっ!? このジャングルオフィスは服部さんの設計なのですか?」


「あ、そのジャングルオフィスと言うネーミング、いいですね。

 今後そう呼ばせてもらいます。 あ、スコールが来るようです」


 由布子がそう言うと、あたりに猛烈な雨が降ってきた。

 あまりもの雨音で、声が聞こえずらいが、それが15秒ほど続くとすぐに青空が戻ってきた。

 そして、来客二人は目が点になっていた。

 ここが屋内である事を既に忘れてしまっている。



 でも実はこれは、すべて摩導シートによる立体映像である。

 室内部分にも建築時に摩導シートのボックスが位置されているので、そこに樹木が投影されている。

 飛んでいる鳥やその鳴き声も、実は映像だ。

 そう、ここは服部が摩導バングルで設定した彼女のバングルに記録された室内模様である。

 バングルに保存した設定を変えれば、極低温で吹雪く雪山にでも、炎天下の砂漠でも、さわやかなリゾートにでもすぐに切り替えることが出来る。


 しかも、手近かに見える樹木を手で触れてみてもその感触がある。

 でもそれは摩導シートであるので、触ることは出来ても、切り取ることは出来ない。


 そう、そこに有る摩導シートのテクスチャを制御して、そこを触れた場合は映像とリンクした樹木の触感を再現しているのだ。

 ここの建物の空間は、摩導シートのボックスで満たされていた。



「あの? この建物の中は、カノ島を再現しているのでしょうか?」


「いえ、カノ島は砂の島で、まだこのようなジャングルはありません。

 先ほども言いましたように、今のここの環境はあくまでも私の好みです。

 一応、カノ国の建物や景観デザインは私が担当しています。


 あ、それで本題ですが、私も御社の商品ラインナップを拝見させていただき、とっても楽しい商品が多いなと感じました。

 そこで、御社の商品を私どもに卸していただくことが可能でしょうか?


 ここの大使館もそうですが、私どもは日本国外扱いとなりますので、納品はすべて輸出扱いとなりますので、そちらの手続きが必要となります。

 まあ、実際の納品はこの大使館の倉庫への配送で結構ですので、通常の国内と同じ配送手順で構いません。

 ただし、輸出扱いですので、何点か国内取引と異なる事に成ります。

 日本国で必要な消費税は免税扱いとなり、そちらで輸出のインボイスの作成と、経理処理で国への消費税の還付請求を頂くようお願いします」


「あ、そうですね。

 私どもでも海外のお客様への輸出を行っておりますので、その辺の手続きは大丈夫です。

 あとお支払いですが、まだ取引実績が御座いませんので...」


「あぁ、それにつきましてはCODで結構です。

 キャッシュオンデリバリーで、納品いただくまでに振り込み決済が可能です。

 見積もりにつきましては、国内と同じトラック便でここの倉庫への納品ですので、トラックの車上渡しの配送で、保険無しの港渡しのFOBでの価格提示をお願いします。

 納品いただく倉庫は、この建物の奥に有り、40フィートコンテナ車でも受け取りは可能です。

 もっともこの周辺は、そんな大きなコンテナだらけですけどね」


「ああ、コンテナでの納品を考えられているので、大使館がこの場所なのですね」


「ふふふ、 そう言うわけでここが選ばれているわけでもありませんが、でも当面はコンテナが必要なほどの物量は無いでしょう。

 それとですね、御社では、こちらで依頼した製品を作って頂くことが出来ますか?」


「はい、もちろん私どもは社内に設計とデザイン部門が有り、国内以外にも海外工場も持っていますので、大量の商品でも対応可能です。

 何か、オリジナルの製品のご計画でもあるのですか?」


「ええ、カノ国オリジナルの製品を何点か考えているのですが、まだ自国での製造まで手が回っておりません。

 今後観光客等の入国も考えておりますので、それまでに国で販売する土産(みやげ)等のオリジナル商品を考えています。

 そこで、御社に作って頂けるようであれば、そこで販売したいと思っています。


 あ、それは土産用ですが、本来の商談の目的は、御社の普通の商品も国の売店で国民用に並べて販売したいのです。

 特にこのシリーズのキャラクタを入れた商品が気に入っています」


「あ、それ! それ、私が初めて企画した商品です。 ありがとうございます」


「そうだったのですか! それは素晴らしいですね。

 この大使館にも小さな売店があり、そこでこの大使館の職員用に日本製品が販売されています。

 あ、この後ご案内しますが、免税価格で、さらに仕入れ価格で販売されていますので、同じ日本の製品ですが日本国内で買われるよりのかなりお安いですよ。


 今お付けいただいている指のIDリングがあれば、業者の方でもご購入が可能です。

 ただし、大使館内やカノ国では日本円は使用できません。 ですのでパラスと言うこの国の通貨への両替が必要です。


 もしお気に入りの商品が御座いましたら、その金額を同じ階の両替コーナーで通貨交換頂きその指輪にチャージされましたら利用が可能です。

 ここの食堂も同じです。


 ただ、ご注意いただきたいのはパラスを日本円には交換はできません。

 さらに、今回は一回用の指輪ですので、大使館を出る際にチャージされた金額も廃棄されます。

 ですので、必要以上に両替はされない方が良いと思います。 お金の無駄です」


「カノ国って、製品が安く買えるのですか?」


「あの製品の企画された方と言う事なので、こっそりとお教えしますが、もしお金が有れば金のカノ島記念メダルの購入をお勧めします。

 純金製ですが、千パラスでここの売店で売っています。

 だいたい、日本円ですと1万円くらいですかね」


「記念メダルが一万円とは、ずいぶんと高いのですね?」 と安藤さん。


「すみませんが、ちなみにそれはどれくらいの大きさのメダルなのですか? それと本当に純金なのですか?」


「そうですね。 だいたい5センチくらいかな? 日本の五百円硬貨を2倍くらいにして、少し厚くした感じですね。 材質はすべて24金ですよ」


「それを買う場合、ここでパラスと言うのに両替すればよいのですか?」


「先輩? どうしたのですか? 記念メダルが欲しいのですか?」


「是非欲しいです。 すみませんがこのIDリングをしていれば買えるのですね?」


 大久保先輩は商品を企画する際に、金などの事も知っているようで、ちょっとその話に飛び付いて来た。


「そうですね。

 記念メダルは限定数量品ですので、何時でも売店にあるわけではありませんが、あれば買えますよ。

 本来はカノ島だけで売られる記念の土産なのですが、特別にこちらの売店でも見本的に取り扱っています。

 ですので、最初に売店で商品が有るかを確認してから、あれば取り置きしてもらって、すぐに両替してください。


 そちらの売店にはカノ国のIDを持たない訪問者では入ることが出来ませんが、職員達も買いたがっていますので、いつもすぐに売り切れることが多いようですよ。


 あと、売店で購入した土産品につきましては、大使館で購入されても、特にカノ国側での消費税はありませんのでご安心ください。

 ただ、ここの売店は免税ですが、あまり売店でたくさんの商品を買うと、日本側の免税点を超えますので、持ち込んだ日本側で問題が出る事が有りますから、そこはご注意くださいね。

 あくまで、これはIDリングを持つ職員と出入りの業者さんだけの特権になりますので、ご内密に」


「服部さんはリングを付けていないのですか?」


「わたしは、国民のIDとして、このバングルを付けています」


 そう言って、由布子は腕の金のバングルをチラッと見せた。



「安藤、もし君の財布にお金が1万円以上有れば、それを買ってみないか?

 ちなみに給料前の俺の財布は、残念ながら軽すぎる」


「お二人は仲がよろしいのですね?」


 そう言われて顔を赤くする二人であった。


 商談もうまく進み、2階の売店でメダルを1個購入した安藤さんであるが、帰りの車では先輩の大久保に対して、「私がこんな物かってどうするのですか」と、ぶつぶつ言っている。

 そこで会社への帰り道、いらない物を買い取っている大手の買取ショップへ寄ってみた。


 そして、メダルは紛れもない純金であり、総重量は75グラムであることが判った。


 1万円程度で買ったその記念メダルの買取金額を聞いた二人が、そこで目を見開いたのは言うまでもない。


 それは二人だけの美味しい豪華な夕食となった。

 もちろん、食事を御馳走した以上に、戻ってきた金額は、購入価格に比べてはるかに大きい。


 そして、彼らは積極的にカノ国への営業を誓うのであった。

 もちろん、金のメダルの事は二人だけの秘密である。


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

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こちらもご支援お願いします。 亜之丸

 

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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小説家になろう 勝手にランキング

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