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7-06-02 救出


 日本で誘拐された服部由布子を救出するために、俺たちは摩導コンテナでカノ島から名古屋の拠点へ戻ってきた。


 拠点に到着した俺たちは、早速待ち構えていた斎藤さんのワゴン車に乗り換えて移動を開始する。

 犯人達の車は、パンクした状態の車で、タイヤ交換ができる場所を探しすのにかなり時間を要していたが、今は再び高速に乗り日本海を目指しているようだ。


 迷ったが、これは日本国内で発生した外国大使館職員の誘拐と言う、国際テロ事件となる為に、事後処理についても日本国でお願いししたい。

 そこで、斎藤さんから宮内庁を経由して、公安警察への連絡をお願いしてある。

 ヘリにセットされた爆薬の時限発火装置の起爆装置は、すでに破壊したので、この座標についても証拠として通報してある。


 由布子を連れ去ろうとしている船舶を確認が必要であるが、船の連中に由布子が引き渡される前に保護するのが一番安全かと思われる。


 現在、成層圏に配したボールカメラの映像には、合流ポイントと予想される日本海海域には、まだ目ぼしき怪しい船舶は見受けられない。

 実行部隊には船と伝えてあるが、ひょっとすると実行犯に対してすらも情報はフェイクであり、さらに別の方法で連行するのかもしれない。



 本来であれば、故障させたヘリコプターでの移動であったはずだ。

 このトラブルで時間的に予定がかなり遅れたはずであり、実行犯を乗せたワゴン車は若狭湾の海岸に到着した。

 ここは海岸線が入り組んでおり、入り江に入った不審船が身を隠して行動するのには都合がよい。


 俺たちは実行犯が海岸に到着した、さらに5分後に同じ海岸に到着した。

 それは、沖合から上陸用の船外機付きのゴムボートがちょうど見え始めた時であった。

 俺達の到着は、かなりギリギリであったようだ。


 俺たちは犯人の5分後と、かなり離れた後ろを走ってきたわけなので、まさか追跡されているとは考えていなかったのだと思う。

 ヘリのパイロットが1人増えて、4人となった犯人達は、海岸でゴムボートに手を振って指示を出している。


 そこへ俺たちが車で乗り付けた。


 念のために、俺達の車の周りには斥力で壁を作ってある。

 もし、拳銃で攻撃されても、斥力幕を通過することは出来ない。


 俺たちはたまたま海岸にやって来た観光客を装い、背伸びをしながらゆっくり車を降りていく。


 アンナが、何気ないフリをしながら「わーい」と言いながら、犯人達とは少し離れた海岸に駆けていく。

 犯人達はちょっとひるんでいたが、こちらを気にしながらも近づくゴムボートを待っている。


 フェルは殺気を殺して、犯人達の反対にゆっくりと歩いていく。

 とにかく、油断させるために、手にはペットボトルを持たせてある。


 由布子はまだ車に乗せられていることを摩導カメラで確認している。

 睡眠薬で眠らされた由布子を残して、準備に為に犯人が全員海岸に降りたため、今車には誰もいなくなった。


 それを確認して、由布子の摩導バングルからは斥力フィールドを何重か発生させた。

 これはもし車にリモコンの爆薬が仕掛けられていることを考えて、由布子自体の保護と、車の周囲は電波も遮断した。


 アンナとフェルは見えない斥力のフィールドを周囲に展開しながら徐々に犯人に近づいていく。

 犯人はアンナとフェルに意識が向いているようであるが、そこに俺はフィールドを展開し、「ワー」と、大きな声を出して、由布子を乗せた車に向かって走っていく。


 注意を俺に引き付ける為の囮である。

 俺が車に近づいていることに気が付いた犯人は、胸のホルスターから拳銃を出して、俺に向けて撃とうとした。


 そこにあらかじめ魔力を充分に高めていたマリアは、犯人の拳銃が見えた時点でその魔力を行使し、犯人周辺に雷を落とす。

 マリアの雷の直撃は即死を意味するので、あくまで近くに落雷させる。 ここは戦場ではないからな。


 近くに強い雷が発生したことにより、その周囲空間にも誘雷が発生し、周辺に存在する金属は強い電気を帯びる。

 金属である拳銃も高い電圧を発生し、金属物を手に持った犯人は感電し、また誘雷から発生した無数の火花により拳銃は暴発を起こし、犯人達はその破片を浴びていた。


 アンナとフェルは、アンナが以前捕まった際のおもりが付いたロープを持っており、それを犯人達に投げて拘束していった。

 ただ、なにもない海岸でマリアのキツい一発で、既に全員勝負はついていた。

 雷によりオゾン臭が周囲に残るなか、アンナとフェルにより犯人は捕縛された。



 海岸の雷の光に驚き、そこで先ほどまで手を振っていた合流相手が倒され、捕縛されたことを見た上陸艇は、彼らを助けようともせずに、そのまま沖合に向かって逃げ出した。


 それまで近くに船舶はいないものと思っていたが、上陸艇を追尾している摩導ボールカメラによると、なんと沖合に黒い影、そう潜水艦が浮上していた。

 潜水艦は、上陸艇の出し入れ以外では、海中に潜航していたようで、上空のボールカメラ画像では発見できなかったようだ。


 しかし今回我々に認識されてしまったので、姿を見つけられた時点で、たとえそれが潜水艦であってもジ・エンドである。


 やはり、この引き取り失敗は、彼らにとっても緊急事態であったようで、上陸ボートはそこに廃棄し、ボートの乗員のみを甲板に引き上げている。


 俺たちは潜水艦に対し、一個のボールカメラを潜水艦のスクリュー後方に潜航させた。

 戻った乗員を追いかけてくる船舶は見あたらないために、彼らはすぐに潜航せずに仲間の収容を行うようだ。

 海岸にいたのは雇った傭兵であり、ゴムボートは仲間だと言う事だろう。


 上陸ボートから引き上げている乗組員の横にある、開いた状態の乗降ハッチに対し、もう一つのボールカメラを強く押しあてる。

 摩導力で固化したボールは固い。

 それに比べると潜水艦の素材などは柔らかいので、強い斥力をかけてハッチにボールカメラを押し付けると、爆薬は用いなくとも、素材を貫通させることが出来る。

 ハッチを貫いたボールカメラは、そのまま潜水艦内に侵入し、内側のハッチにも衝突させて穴を開けておく。



 どうもこの潜水艦は某国海軍から払い下げられた旧型艦の様であるが、内部の駆動系は新しいものに改修されているらしい。


 潜水艦と言う乗り物には外が見える窓というものは一切無く、完全なる密閉された暗室である。

 海中での航行には、音響ソナーによる海底や周囲からの反響音を使用し、音により周囲を認識して潜航航行する。


 海中においては、ソナーによる探信や敵艦の僅かなスクリュー音を解析する事で攻撃を行う。

 潜水艦にとって、音は外部の状態を知る、最も重要な情報源なのである。


 騒音が敵である潜水艦の推進力は、音の静かな電気モーターと水流の乱れが小さなスクリューにより、海中を静かに進むのである。

 モーターの回転には電力が必要であり、作戦行動中の給電にはバッテリーから行われる。

 バッテリーは、通常動力型潜水艦ではディーゼルエンジンや、原子炉の熱による水蒸気でダイナモを回して発電を行うタイプがなどある。


 ディーゼルのような内燃機関エンジンを搭載する場合、燃焼には必ず酸素が必要となり、水上を浮航し酸素を取り込み発電し、船内バッテリーへの充電が行われる。

 この改修されたこの潜水艦では、液体酸素を用いたディーゼル内燃機関により、例え海中であっても動作が可能な新しいエンジンが搭載されている。

 しかし、発電機を海中で使用すると大きな騒音が発生するため、作戦行動中であると敵艦に音で発見されてしまうため、たとえ海中で利用できる液体酸素を用いた発電機であっても利用できない。

 そこで新たに搭載された効率の高いリチウムイオンバッテリーにより、一度充電されると長時間の無音潜航活動が可能となっている。

 一度潜航されてしまうと、発見する事が非常に難しい潜水艦である。


 ところで、潜水艦の推進力を生み出すものは、このモーターで回転するスクリューしかない。


 そして、潜水艦のスクリュー起動を後方で待っていたボールカメラは、スクリューが回転を始め、その回転速度が上がってくると、進み始めた潜水艦に向かってゆっくりと前進を始めた。

 固化した摩導ボールカメラをスクリューに巻き込んでしまった潜水艦は、一瞬にしてそのスクリューの羽をすべて失い、一気に推進力を失った。


 例え推進力を失っても、バラストタンクと言う浮袋が有り、タンク内に水を注水する事で、スクリューが破壊されても潜水艦は潜航や浮上を行う事が出来る。


 上陸ボートを収容のために開いていた潜水艦のハッチは、ボールカメラですでに破壊してあり、ハッチを開いた状態のまま潜航を開始すると、その区画は水没する事に成る。

 証拠隠滅のために、それを承知で潜水艦自体を水没させることが考えられる。

 そのために、ハッチを壊した摩導カメラは、そのまま潜水艦のバラストタンク内に入り込み、もし潜航を開始するようであれば、斥力を用いてタンク注水を排除する予定であったが、その必要まではなかった。



 この潜水艦の乗員は雇われの傭兵であり、本来戦闘が専門であるはずであったが、潜水艦からの反撃は一切行われなかった。

 実際は、何が起こったか傭兵達が知る前に、摩導ボールカメラの発する超重力により、全員が潜水艦内の床にがっちりと張り付けられており、操舵や戦闘、ハッチから脱出することはおろか、指さえ持ち上げる事が困難であった。 その為に、バラスト注水操作も行えなかったのだ。


 彼らは、そのまま海上保安庁の船舶により曳航されていく事となった。

 港まで曳航中、摩導ボールカメラの超重力にさらされ続けた傭兵達は、手足の関節の多くは脱臼し、筋肉が硬直化し、港に到着し超重力が消された後もしばらく動く事すら困難であったようだ。




「あれ? どうして加納さんがいるのですか?

 もう晩御飯ですか?

 こちらに帰ってくるなんて、何かあったのですか?」


 眠りから覚めた娘は、何が起きたかさっぱりわからないようで、呑気なようだ。

 でも、無事に救出できたことは幸いである。


 俺たちが現場を去った後、海岸で拘束された犯人達は全員公安警察に連行され、爆薬を搭載したヘリコプターは証拠として押収された。

 また、海上保安庁により領海侵犯として拿捕された潜水艦は、現在曳航されており、この後検分が行われることになるが、海上保安庁が潜水艦を拿捕した歴史はかつてなかった。


 俺たちはこの件に関しては特に声明は出す予定はないが、潜水艦やヘリコプターまで巻き込んで行われた誘拐テロに対して、日本国政府としてはかなり大きな騒ぎとなっていた。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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