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7-06-01 拉致


 それは、突然のアーのポップアップで知らされた。


『緊急!

 服部由布子の生体維持レベルが、急速に低下しています。

 血液中に薬物成分を検出しました。 これは外的要因であり、呼吸として吸引されたものと判断します。

 吸入された麻酔成分により、意識レベルは昏睡状態です。


 服部由布子の位置情報が変更されました。

 現在名古屋市内を時速60キロメートルで移動しています』


「アー! 由布子に何が起きている!」


『摩導バングルによるバイタルのモニタリングに異常を検知しています。

 推定される身体状況として、心拍数、呼吸数がいずれも急速に低下し、それにより血圧、低酸素状態、酸素飽和度、体温が急激に低下中。


 現在麻酔薬による昏睡が発生しているものと推定されます。

 摩導バングルによる血液成分分析によると、強力な麻酔成分が投与されたものと思われます。

 現在、血液中に酸素量の追加補充を行いましたので、生命的な危機は脱していますが、昏睡状態は維持されています。

 現在、意識が無い状態での移動が確認されています』


「意識が無い状態で移動しているということは、救急車で病院へ向かっているのか?

 それとも... 誰かに拉致されて、連れ去られているのか?」


『摩導バングルの反応から、移動する車両からサイレン音は聞こえません。

 従って、現在の移動で用いられている車両は救急車ではないと思われます。


 また、服部由布子 本人の神経信号から得られる情報として、視覚聴覚のレベルが著しく低下しています。

 これは、おそらく頭部の視覚や聴覚が遮断されているものと考えられます。

 結論から、麻酔により意識がない状態で拉致された、移動速度から車両にて現在搬送されています』


 なんということだ!


 拠点に残してきた服部由布子が何者かに誘拐されてしまったようだ。

 摩導バングルをつけているので、物理的な攻撃に対しては自動防御が働くので、ちょっと油断していた。


 もし暴力的な行動の後に誘拐されたのであれば、恐らく本人の防衛行動などから摩導バングルの防御機能が働いたはずである。


 しかし、多分本人が全く気づかないうちに、麻酔などにより抵抗する事も無く意識が失われたようだ。

 このような薬物や毒物に対して、現在の摩導バングルでは対応できない為、いずれにしても至急対策も必要と考えられた。


 俺たちは摩導コンテナでカノ島に到着し、まだ数日しか経っていない。

 彼女は水谷さんとともに、名古屋の拠点に残って、大使館建設の内装などの指示を行っている。

 さらに彼女は調達も行っているので、今回は物資調達のために名古屋市内に一人で向かったようで、そこで拉致されたようだ。

 いや、まさかこれほど早い時期に俺達に注目が向いていると考えていなかったので、名古屋の拠点に残した人については完全に油断していた。


 カノ島で作業を始めたばかりなのだが、大至急名古屋の拠点へ戻る必要がある。

 直ぐに救出に向かいたいが、今のカノ島は遠くに感じる。

 こんな時のために、もっと高速に移動する手段の必要性を強く感じてしまった。


 しかし、カノ島での作業日程も有るので、全員で日本の拠点に戻ってしまうと大きな遅れとなってしまう。

 とりあえず、戻る人数を絞って、乗ってきた摩導コンテナですぐに戻る事にした。


 戻るメンバーとしては、俺の他、魔法が使えるマリアとアンナ、それと感が良いサリー、あとパワフルな真紀とフェルが拠点に引き返す事にした。

 特にアンナとフェルは、元居た世界では騎士的な職業についており、体も鍛えているので、今回は心強い。


 他の皆も心配だと思うが、全員で行ってもできる事は無いので、そのままカノ島での作業をお願いしたい。

 状況はスレイト通信と摩導通信で伝える事にした。



 俺たちが日本に到着すると車での移動となる。

 拠点に残っている斎藤さんに摩導バングルで通信を入れて、すぐに出発できるようにガソリン補充など車の準備をしてもらっておく。


 摩導通信だけではなく、もっとスレイトメンバーを増やしておいた方が良かったかなと、今切実に思っている。

 今回は、誘拐されたのがスレイトメンバーである由布子だったので、ここまで体の状態が詳細にこちらでわかるのだが、感覚共有はトイレに入ったなどの体の状態まで伝わってしまう。

 一度スレイトメンバーに加わると、個人のプライバシーが一切無くなるので、やはりお願いすべきかはよく検討する必要がある。



 今移動している由布子の空間座標は、彼女の摩導バングルにより補足されている。

 そこで名古屋の拠点にある何個かの摩導ボールカメラを、その座標に移動させて、由布子の周辺に画像を得られるようにした。


 彼女はまだ車での移動中のようで、すぐに追い付いた摩導ボールカメラの1個を犯人の車の中に入れて、車内の由布子の状態を観察する。


 そして、移動している犯人達の黒いワゴン車の中に、頭から黒い布がかぶせられている由布子を発見した。

 摩導バングルのモニターの通り、特に怪我はしていないようである。


 また、別のボールカメラは運転手やその他の犯人の撮影を行っている。

 これは犯人を特定するために、様々な角度から撮影が行われている。


 さらに上空から走る車周辺の映像も映し出されており、俺達の到着にはまだ時間がかかるが、とりあえず監視体制だけは確立できた。


 摩導バングルにより観察の雰囲気では、今すぐ危害を加えられることはないように見えるが、なんとしても早急に救助したい。


 いざとなればボールカメラを武器として相手に攻撃する事も考えているが、その場合高速走行中の車の安全が担保されないので、しばらくは様子見とする。


 犯人たちは、車内でもサングラスをかけているが、摩導ボールカメラの赤外線映像により、例えサングラス越しであっても、ある程度素顔が特定できた。


 この犯人達の素顔から、防犯カメラなどのビッグデータの保存画像を検索する事で、これまでの犯人達の行動追跡を行うようにアーに指示を行った。

 すべての街頭や店舗にある防犯カメラの情報をつなぎ合わせていくと、犯人全員のここまでの足取りと過去の情報が解ってくる。

 そして、その所属する組織や上部組織などとの繋がりを、記録を逆戻って探し出してもらっている。


 ここで、ちょっと申し訳ないが、GGI社のサーバーの地球データベースと、公開されていない保存されている生データを少し拝借することにした。

 この会社は、全世界の7割以上使用されているスマートホンのOSを配布しており、そのスマートホンからのデータを握っている。

 そう、通信記録やGPSによる位置情報はもとより、カメラやマイクなどから定時的にデータを収集しているのだ。

 また公開されているデータは、モザイク化されていたり解像度が落とされているが、生データには連続記録の高精細データが残されている。

 さらに、ここにはスマホの通信記録はおろか、移動情報など行動履歴、定期的な音声やカメラのサイレントデータなど、スマホの持ち主が知らないデータまで記録されている。


 GGI社の非公開サーバにはこれら各端末からの収集データのほか、その端末のバックドアのアクセスキーが収められている。

 バックドアのキーを得ると、スマホを外部から操作されてしまう事に成る。


 今回は犯人につながる関係者全員のデータを記録させてもらうことにした。

 全員とは、職場や家族など少しでも繋がりが認められた者の全員だ。

 どこで深いつながりになっているかを調べるために、膨大なデータ量を分析する予定だ。


 そして、読み取られたデータ精査するごとに、関連人物はどんどん増えてくるが、それらすべても収集し続ける。

 GGI社に残されていた生データは膨大な量であり、彼らは基本的に古いデータを消すことはないため、過去の繋がりについて、多くの情報を集めることができた。



 画像検索により、探し出した犯人達の画像や情報を重ねていく事で、完全なる人物像が浮き上がり始めた。

 やはり、こういった拉致を専門に引き受ける国際的な犯罪集団が存在するようだ。

 彼らは極東地区を専門に暗躍する部隊のようだ。


 従って、その連中に誘拐を発注した依頼主を特定する必要がある。


 彼らはプロなので、内容がばれない為にも、実行犯に必要以上の情報は渡されていないが、いずれかの方法で彼らに指令が伝達されているので、その上位となる人物を探し出す。

 アーはその過去も含めた繋がりを探す作業をお願いしている。




 市街地を抜けた犯人の自動車は、小高い山の中に入り、山道をしばらく走ると、そこは林業の作業場なのか? 木が無く山を少し削ったちょっとした空き地に停止した。

 追跡していた上空のボールカメラには、停止している車の隣に、一機のヘリコプターが停まっている事が確認された。

 ヘリの中で待機していた犯人が降りてきて、反対側の扉を開け、停車した車の中から由布子をヘリの中に運び込もうとしている犯人を呼び込んでいる。


「まずい!

 空を移動されると救助しにくくなる。

 アー、ヘリを故障させることが出来ないか?」


『今でしたら飛んでいませんので、エンジン部分に摩導カメラをぶつけてみましょうか?

 摩導カメラは固化していますので、エンジン部分に押し込むことで確実にエンジンの破壊は可能ですが、それに伴い発火する可能性が高いです。

 それとも、制御系のみを破壊しますか? その場合、残念ながら派手な爆発は期待できません』


「ん? 由布子の安全を最大限に守り、すぐにやってくれ!」


 回転を始めかけたローターが、急速に低下していき、そして停止した。


「どうして止めるのだ?」


 そこで話されているのが何語であろうかよくわからないが、摩導カメラを通して聞こえる音声は翻訳されて理解できる。


「いや、俺は停めていないがなぜかエンジンの出力が停止した。

 今再起動を試しているが、どうやらエンジンの故障かもしれない。

 修理が必要と思われるので、ヘリはこのまま廃棄して、船までは再度車で移動し、上陸艇を岸まで寄越した方がよさそうだ」


「では、このヘリはここで焼却だな」


「あまり早く爆破すると、俺達の移動がバレるので、時限発火装置をセットしてくれ。

 どうせこの山まですぐに人が来ることは無いだろうがな」


「判った。 そちらは俺がセットするから、そのターゲットを車に戻してくれ。

 爆破タイマーは120分で良いか?」


「ターゲットが上陸艇から本船に移した後が良いだろうから、発火は180分後としてくれ」


「了解だ」


 摩導バングルから届いた今の犯人達の会話から、アーは誘拐犯の行動の推測を行った。


 分析結果として、犯人は海で待機している船にヘリで向かう予定であったが、車で海まで行き、そこで乗せ換えるように変更したようだ。

 3時間後には上陸艇で移動し、船に乗せると言う事なので、陸上にいる間に救助の必要がある。

 名古屋の拠点まで、俺たちを乗せた摩導コンテナは、まだ2時間ほど必要なので、このまま車であっても移動されてしまうと、少し間に合わない。



「アー、犯人の今使っている車も故障させることが出来るか?」


『バッテリーを破壊しますか? それともエンジンを大爆発させましょうか?』


「そうだな。 でも、なぜ今回攫われたのが由布子なのだろうか?」


『ご存じの通り、先日からカノ島へ侵入しようとしたいくつか(・・・・)の国が有りますが、カノ島の摩導防衛に阻まれて、それらはすべて失敗しています。


 そこでいずれかの国が、直接島への侵攻から、カノ国関係者の拉致に切り替えた可能性が有ります。

 日本政府が名古屋にカノ国大使館を設けると公式に発表しましたので、現在カノ島と関連した設備は世界の中でもそこしかなく、そこに出入りしている人物を適当に拉致した可能性が高いです。


 日本国内の実行であるために、素性を隠すために犯行を請け負っている国際犯罪集団に依頼したものと考えられます。


 誘拐の目的として、カノ国の秘密を探る事が有りますが、これに関しては現在のカノ国に有力な資源や秘密はないと知られていますので、その可能性は低いものと推測されます。

 そして、可能性が高いのは、カノ島の領土支配と考えられます。


 その為に、少ない人数のカノ国の関係者を拉致するなど、カノ国に対して精神的なプレッシャーをかける事が目的ではないかと推測されます。

 その際に考えられる要求内容としまして、例えば人質を解放してほしくば島を明け渡せなどですね』



 やはり、目的は俺達へプレッシャーをかける事が一番大きいか...

 目的が何かの交渉ではなく、俺達へのプレッシャーであれば、拉致された者の生死はかかわらず ってことも考えられるので、その場合由布子の命への保証は弱い。


「アーの推測を前提として考えると...

 もし山の中で逃走する足を失った場合、足手まといとなる由布子と言う証拠を消して、犯人達だけが逃走する可能性もあるな。

 由布子の安全を担保したいので、移動する車の速度を落とすことは出来ないか?」


『でしたら、車のタイヤをパンクさせるのはいかがでしょうか?

 スペアタイヤに交換できないように複数のタイヤを一度にパンクさせることが効果的と考えます。

 幸い舗装が無い山道を走行しますから、山道を少し走り出してからパンクさせることで、山道にパンクする要因がある事を偶然に装うのが効果的かと思われます。

 車が動くのであれば、パンクした状態で山道を低速で走行し、麓の町でタイヤの修理ないしはタイヤ交換をすると思います。

 またさらに別の仲間がいた場合でも、支援が来るのには多少時間がかかると思います。

 例え1時間程度であっても、引き延ばされる時間があれば、慎二の到着までの時間くらいは稼げるのではないでしょうか?』


「ではそれでやってくれ! くれぐれもエンジンを爆発させちゃだめだぞ!

 とにかく由布子の安全を一番にお願いする」


『はーい』


 なんかアーからは緊迫感が無い返事が返ってきた。 アクション映画みたいなシーンを期待していたのかな?

 アーは由布子の安全については絶対的な自信を持っているようで、まったく気にしていないようだ。 どこからその自信は来ているの?

 おかげで、俺も落ち着いて行動が出来るようになった。


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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